組織・人事

社員の育成に適した人事評価制度と運用する上で注意したいポイント【社員が活きる! 正しい人事評価制度の運用法】

前回は、「人事評価を人材育成に活かす1on1ミーティングの9つのポイント」をテーマに、人事評価制度と育成の連動について述べていきました。
今回は、社員の育成に適した人事評価制度のフレームに触れながら、最後にポイントとなる人事評価制度の運用について触れていきたいと思います。

社員の育成に適した人事評価制度とは

働き方改革などが進められる中で、改めて人事評価制度の刷新を検討しようという会社が増えていると思います。

近々で言えば、ジョブ型人事評価制度への移行などがトピックスに挙げられます。

その中で、社員の育成にフォーカスを当てた時に、私は、Lポジション人事評価制度に注目をしています。

私自身、企業の人事部門時代に成果実績主義の人事評価制度導入を経験しました。また、社会保険労務士になってからも様々なフレームの人事評価制度に触れてきましたが、今一つピンと来る制度がなかったのが実情です。

その理由は、どの制度も企業の成長の根幹である社員の育成にフォーカスが当たっていないからです。

社員の育成は、国際的に生産性が低いと言われている日本の会社にとって解決しなければならない課題の一つと言えます。その社員の育成にフォーカスを当てているのが、Lポジション人事評価制度なのです。

人事評価制度の見直しは避けては通れない課題

現在、日本企業の多くが職能資格制度を導入していますが、職能資格制度は人の能力や年功に応じて報酬を払う仕組みなので、どうしても社員の年齢や勤続年数に比例して総額人件費は増加していきます。

一方で、日本の経済成長率は高度成長期からバブル経済を経て、この30年は横ばいです。日本の企業の多くは業績が伸びないにも関わらず、年齢が考慮された職能資格制度の影響で、総額人件費が高くなるという状況に直面しています。

社員の立場からしても、事業が成長しないため頑張ってもポストが空いておらず、昇格や昇給が見込めないことに対する不安・不満が生じやすくなっています。

このような状況下、政府は、「人的資本」を現代の人材戦略の最重要課題とし、これに基づいた法改正を着々と始めています。岸田総理もNY証券取引所で日本への投資を呼びかける中、「個々の企業の実情に合わせて、職務給中心の日本にあったシステムに見直す」と宣言しています。

労働人口が減少していく中、日本が労働力を確保し、且つ、生産性を高めていくためには、女性、高齢者、外国人に労働力として活躍してもらう必要があります。そのためには、人事評価制度の見直しは避けて通れない課題となっています。

Lポジション人事評価制度とは

人事評価制度の見直しの動きが強まる中で、注目を浴びているのがLポジション人事評価制度(通称Lポジ)です。

縦軸に「技能・技術」、横軸に「マネジメント力」の2軸で、L字にマッピングするマトリクス型の人事評価制度です。

このLポジション人事制度で各社員をマッピングすると、技術力は高いがマネジメント力が低い社員、技術力は標準的だがマネジメント力が高い社員などの色分けができます。

その上で、会社の現況と将来の方向性を鑑みながら、会社全体としてマネジメントができる人材を増やしていくために、この人とこの人のマネジメント力を上げていく、この人のマネジメント力は諦め、技術特化で育成プログラムを組むなどの社員育成プログラムを考えやすいフレームとなっています。

また、大企業・中小企業問わず、企業の生産性の低さの要因の一つに、社員のマネジメントレベルの低さが挙げられ、上司が部下の指導・アドバイスを上手く行えないという声を様々な企業から聞きます。

Lポジの特徴は、評価軸2つの内の1つがマネジメントレベルであることです。各社のマネジメントのポイントをランク毎に丁寧に定義し、その定義づけと現状のレベルの差分を明らかにし、上司のマネジメントレベルを上司の上司が育てていくことで、結果として、上司とその部下も育つという好循環がこの評価制度では生まれていきます。

前回の記事で介護会社のケースを述べました。

その中でLポジのフレームを使い、「介護技能レベル」と「マネジメントレベル」の簡単な定義づけをした上で、強化すべき主任層について本来あるべきLポジ上の位置づけを考え、それに対する各社員のLポジ上のポジションを確認し、その差分を育成プランとして可視化しました。

そして、日常の1on1ミーティングに連動させながら、最終的に各社員の人事評価に繋がっていくといったことが可能となりました。

人事評価制度運用のポイント

過去数回の記事でも記述しましたが、人事評価制度はそれ単独では機能しません。

会社・部門・個人の目標設定、日常業務での管理、育成プランの設定、研修、ローテーションなどと密接に絡み合いながら動かしていくものであり、それで初めて有機的に機能します。

今回は、更に人事評価制度を機能させるために、もう一つ必要な要素を伝えたいと思います。

それは、人事評価制度の「運用」です。

人事評価制度を作るだけでは、単なる器を作ったに過ぎません。その器を適正に運用してこそ初めて、制度として実りあるものとなります。

人事評価制度の運用に力を入れないがために、結果として労力をかけて作った人事評価制度を無駄にした会社を私は沢山見てきました。

では、人事評価制度の運用について、注意すべき事項は多数ありますが、字数の制限もありますので敢えてポイントを2つにしぼります。

一つ目は「評価者のスキル」、二つ目は「力の入れ度合い」です。この二つのレベルが上がっていくと、運用が上手くいきます。

ポイント①評価者のスキル

人事評価に対しての知識もスキルも不足している人が、人事評価制度の評価者になっても上手くはいきません。評価者には、適切に評価できるスキルが必要です。

評価者が身に付けるべきスキルとして、
・やってはいけない評価エラーの認識(ハロー効果、中心化傾向、寛大化傾向など)
・見るべきポイントの習得
・目標設定方法の習得
・期間中のマネジメント実施
・フィードバック面談の実施
・評価基準の目線合わせ実施(評価会議)
等が挙げられます。

また、人事評価においては、被評価者の納得性も重要なポイントです。

納得性は、評価者が適切に面談とフィードバックできるかにかかっています。主観ではなく客観、抽象的ではなく具体的に事実を伝えることも重要になってきます。

従って、評価者研修や評価ミーティングなどにより、評価する人のスキルを高めることが、上手く運用するための最大のポイントとなります。

ポイント②力の入れ度合い

人事評価制度の運用は、大きく3つの期間に分けられます。

  • 期初の目標設定:今期の目標設定や、評価する項目などを面談により確認します。
  • 期間中の観察・マネジメント:設定された目標や評価される項目が、期間中にどれだけ取り組めているか、行動として現れているかを確認・チェック・フィードバックなどをしながらマネジメントしていきます。
  • 評価:期末に、その期の目標の達成度や、評価項目に対しての状況を評価します。

この3つの期間に取り組むべきことをきちんと行うことが重要なのですが、これが上手くいかないケースが多数見受けられます。

上手くいかないケースの力の入れ度合いは、下記の通りです。

設定への力の入れ度合い:20%
期間中の力の入れ度合い:0%
評価の力の入れ度合い:80%

このように、期初の話し合いはあまりせず、期間中に至ってはほったらかし、評価の時期になって慌てて取り組んでも上手くはいきません。

これを下記のように力の入れ度合いを変えます。

設定への力の入れ度合い:40%
期間中の力の入れ度合い:40%
評価の力の入れ度合い:20%

・期初の話し合いや項目の設定をしっかり行う
・目標についてのコミットや、組織目標につながる能力ややってほしいことを可視化する
・上記を期間中に1on1ミーティングで確認し、修正していく

このようにしていけば、期末の評価時にそれ程労力をかけなくても評価はスムーズに行えます。 結果として社員の納得度も高まり、社員の育成にも繋がっていきます。

まとめとして

この3回の連載を振り返ると、
1)人事評価制度導入と運用の失敗事例
2)人事評価制度と育成を連動させる
3)育成に適した人事評価制度と、人事評価制度を運用する上でのポイント
という流れで解説をしました。

社員の育成があればこそ企業は発展する。

ならば、人事評価制度を単なる社員の賃金決めに使うのみではなく、積極的に社員の育成に活用し、会社の業績アップに繋げていこうではありませんか。

以上で3回の連載を終わりたいと思います。

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  • 執筆者
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山口将司(社労士)

社会保険労務士、社会保険労務士法人山口人事労務オフィス代表/1994年富士電機に入社し、一貫して人事労務部門の業務に従事。「4年間で約300名のリストラ」「サービス残業に関する是正勧告」「年間約50名のメンタルヘルス対応」などディフェンシブな労務管理の経験を数多く積む。06年アクシスコンサルティングにてシニアコンサルタントとして人事紹介業で実績を上げた後、11年社会保険労務士法人山口人事労務オフィス開業し、人事労務に関する様々な経験を現場力を活かして人事労務コンサルタントとして事業運営を行う。

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