経営幹部の採用・選抜・育成の課題

伝統的な日本企業で、生え抜きではなく外部から企業トップを招くケースが出てきている。一方、社内で選抜した人材を次の経営幹部として育てるための取り組みを強化する企業も増えている。変革の時代にふさわしい経営幹部の採用・選抜・育成の課題は何か。企業の人材戦略を支援する専門家に聞いた。(文:日本人材ニュース編集部

経営幹部の採用・選抜・育成の課題
目次

プロフェッショナルな外部経営者の登用が進む背景

欧米企業と同様に日本の大手企業においても、生え抜きではなく外部から企業トップを招へいする人事が増えてきた。

武田薬品工業がグラクソ・スミスクライン社のクリストフ・ウェバー氏を社長兼COOに、サントリーがローソン会長の新浪剛史氏を社長に、資生堂が日本コカ・コーラ社の魚谷雅彦氏を社長にそれぞれ迎えた。それに先立つ2011年には日本GE会長の藤森義明氏がLIXIL社長に、09年にはジョンソン&ジョンソン日本法人社長の松本晃氏がカルビー会長兼CEOに就任して、プロの経営者として新しいイノベーションを牽引している。

外国籍の社長を初めて迎え話題になった武田薬品工業の場合、03年には取締役9人のうち社外・外国籍取締役はゼロだったが、14年9月現在は取締役10人のうち社外取締役3人、外国籍2人、生え抜きは長谷川閑史代表取締役会長兼CEOを含め4人と急速に多様化が進んでいる。

この背景には、事業のグローバル化やM&Aの活発化がある。日本市場での売上はいまだに大きいが、12年度の医療用医薬品の売上収益のうち日本市場は5913億円、欧州・新興国・北米の売上収益は6823億円と海外売上が上回っている。さらに、13年度は日本の売上収益は5823億円で前年比マイナス1.5%だったのに対し、海外売上収益は7606億円で10.3%の増加となり、売上と成長率で海外事業が国内マーケットを上回る状況になっている。

日本市場の縮小と海外市場の拡大という経営環境にあって武田薬品工業は、14年6月に同業のグラクソ・スミスクライン社などで新興国を含む3大陸7カ国でのマネジメント経験を持つウェバー氏を経営者として迎え入れた。また、同社では外部のプロフェッショナルをアドバイザーにした「タケダ・グローバル・アドバイザリー・ボード」という仕組みも導入している。

ファイザー、イーライリリー、アストラゼネカ、ハーバード大学などで要職を歴任した4人を招へいして、激しい医薬品業界の競争を勝ち抜くための課題や革新的な医療技術の動向などについて経営幹部と意見交換し、その知見を経営戦略に反映させている。

事業のグローバル化によって必然的に多様化が進んできているのである。外部から経営幹部を求める動きは大手グローバル企業だけに限った話ではない。

人材紹介会社クライス&カンパニーの丸山貴宏社長は、「事業承継のための次世代経営者として、外部からグローバル人材を経営幹部として採用する企業が増えている。企業規模は大手企業からベンチャー企業、地方の中堅企業も含め多種多様だ」と話す。

そうした企業が採用したい経営幹部の条件について、人材紹介会社アンテロープキャリアコンサルティング小倉基弘代表は次のように説明する。

「戦略の立案だけではなく実行能力が伴っていること、人心掌握に優れていることが挙げられる。こうした人材に共通しているのは、若い時期から業績責任のあるマネジメントの機会を得て、事業の立て直しや雇用調整などの厳しい局面を経験していることだ」

日本企業の海外事業への投資が増加している

●現地法人売上高推移(地域別)

日本人材ニュース
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」

●最近発表された日本企業の主な海外関連M&A

日本人材ニュース

経営幹部の育成には経営陣の関与と直接対話が必要

リーマン・ショック後、国内市場の縮小に直面した多くの企業がグローバル成長戦略に活路を求めるようになったことで、「グローバルな成長戦略を支える経営幹部がいない」「新しい事業を切り開ける経営幹部が見当たらない」という声が、経営者や人事担当者から聞こえるようになってきた。

経営幹部の採用と育成は喫緊の課題になっている。企業の経営幹部育成の実態に詳しいヘイ コンサルティング グループの高野研一社長は先進的に取り組む企業をこう評価する。

「経営幹部としてどのような人材を育てるかという問題意識はリーマン・ショック以降年々強まっており、経営者が十分にコミットして取り組んできた企業では幹部候補者の意欲も高く、能力を持つ人材が上がってくるようになっている」

外部からの経営幹部登用が多い企業は、同時に社内人材の経営幹部養成にも力を入れている。

LIXILでは、社内取締役6人中2人、執行役15人中10人が社外の様々な業種から登用されたプロフェショナルな経営幹部だ。それでも、人事総務担当役員の八木洋介取締役副社長は、「いまはグローバルに対応する組織作りが必要だが、いずれは生え抜きから経営者を生み出していく」として、経営幹部の養成に力を入れる。

同社にはエグゼクティブ、シニア、ジュニア、フレッシュリーダーと5歳刻みで行うトレーニングプログラムがあり、最後は年齢や性別に関係なく各世代のトップを選抜して徹底的にトレーニングを行う仕組みだ。また、各国からハイポテンシャル人材を集めたトレーニングも実施している。

計測器メーカーのオムロンもリーダー養成に熱心な企業の一つだ。チャレンジの見える化、相互サポート、賞賛により、理念の実践を強化するチャレンジ表彰制度を08年から実施。12年には、10カ月間かけてグローバルで取り組むイベント型表彰制度「TOGA(The OmronGlobal Award)」として内容を進化させ、自らチャレンジする内容を宣言し擬似的な修羅場をつくって人材を鍛える。

TOGAでは、生産・販売・開発、地域・国といった組織の枠組みを取り払ってチーム編成を行い、理念実践へのチャレンジ度合いで評価する。リーダー育成推進の原動力となっている山田義仁社長は、「企業理念を末端まで浸透させる求心力と現場で判断して意思決定を行う遠心力のバランスをとることが重要だ」と強調する。

山田社長自身もヘルスケア分野という同社の中では傍流のセクションを歩んだ。しかしグローバルな経験を積んだことや経営理念への深い理解が経営幹部養成プログラムの場で前経営陣の目に留まり、11年6月に49歳で社長に就任している。

企業の人材開発を支援するセルムの加島禎二社長は、「トップが社内のタレントの状況を認識し、全権を持って候補者を選抜して取り組まなければ経営幹部の養成は難しい。複数社の経営に携わった経験を持つ人材をメンターにつけて課題解決の能力を高めていくことも考えなくてはならない」と指摘する。

社内での経営幹部養成を成功させるには、社長を始めとする経営陣の積極的な関与と経営理念や戦略を社員に理解させるための直接対話が欠かせない。これは多くのプロ経営者が実践してきている共通項である。

プロ経営者の起用に賛成する社員が7割

●「社内から起用される社長」と「社外から起用されるプロ経営者」のどちらが望ましいか。

日本人材ニュース

●今、自分の勤務先がプロ経営者を起用する場合に賛成するか。

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(出所)セルム「“プロ経営者”に関する意識調査」(2014年9月)

採用基準と選抜基準の明確化は採用を失敗しないためには不可欠

人材採用・育成において常に人事の悩みとなるのが、採用基準であり選抜基準だ。勘に頼った採用で失敗しないためにもディスクリプションの明確化が求められる。

エグゼクティブ・サーチ会社の日本コーン・フェリー・インターナショナル妹尾輝男社長は、「日本の企業は外部から経営幹部や海外の経営人材を採用した経験が乏しいため、採用がうまくいかないことが多い。人材のアセスメントや要件定義がなされていないことが原因の一つだ」「経営幹部の責任感、スキルセット、リーダーシップ、パーソナリティなどの能力評価基準を確立することが重要だ」と指摘する。

職務内容や目的、目標、責任、権限などのジョブ・ディスクリプションをある程度明確にし、コンピテンシーなどを用いたアセスメントによって保有する能力の客観的評価ができる。これに成長ポテンシャルを加味することで若手人材の登用を議論することが可能になる。

早期選抜に取り組む企業の動向について、企業向け研修プログラムを提供するプレセナ・ストラテジック・パートナーズの岡安建司代表は次の通り説明する。

「経営幹部をどのような段階を踏んで育てていくのかを意識して人材戦略を考える企業が増えている。若手の時期から目的意識を持たせてベースとなる知識をしっかりとインプットさせ、意欲と能力が高い人材をより早く引き上げようとしている」と説明する。

また、経営幹部の養成プログラムを持っていても機能していないケースもある。

経営幹部育成の課題について、人事コンサルティング会社アクティブ アンド カンパニー大野順也社長は、「最大の課題は社員の中にトップマネジメントを目指そうという意識がほとんど醸成されていないことだ。元気のない企業ほど、社員に対してキャリアの可能性が示されておらず、チャレンジの機会も与えられていない傾向が見られる」と指摘する。

社内人材を統一的なアセスメントで保有する能力を可視化して適材適所の配置が実現しているか、育成すべき経営幹部候補は本当に社内にないのか、人材採用の前に検討しなければならないだろう。

世界目線で人材育成、評価・登用に取り組んでいる

●各社の取り組み状況

日本人材ニュース
(出所)経済同友会「企業のグローバル競争力強化のためのダイバーシティ&インクルージョン」から一部抜粋

海外事業の拡大とともに、現地経営陣の報酬が新たな課題に

海外事業の拡大とともに、新たな問題として海外拠点での経営幹部の「報酬」が持ち上がることが多くなっている。グローバル企業の報酬制度に詳しいマーサー ジャパンの白井正人プリンシパルは、次のように話す。

「全世界で次世代リーダーを探し出す取り組みが始まっている。内部昇進の場合は社内のコミュニティや序列が大事にされるため内部の公平性が優先されるが、経営幹部の人材市場が確立している海外で人材を確保しようとすると報酬は高くなり、対応できない日本企業の不人気につながっている」

社長よりも外国人役員の方が報酬が高いというケースが、リージョンの外国人採用でも一般的に起こりつつある。ここでもまた、日本企業は変革に迫られている。

エグゼクティブ・サーチ会社の島本パートナーズ安永雄彦社長は、「経営幹部に期待するアウトプットを明確にし、結果が出れば報い、結果が出なければ退出させるという人材マネジメントを徹底していかないと、グローバル企業との厳しい競争を勝ち抜くことが難しくなるだろう」との見方を示す。

人口減少による労働力不足は、近い将来必ず訪れる。そして、グローバル成長戦略によってダイバーシティは否応なく進む。

このような経営環境で業績を向上させていくためには、プロフェッショナルな経営幹部の登用で組織力を強化し、人材の能力を向上させて労働生産性を高めていかなくてはならない。そのためにも、これまであいまいだった人材の評価基準を捨て去るべき時が来ている。

世界中のCEOが、成長を目指して人材マネジメントを見直している

●CEO、人事部門、政府の優先課題(世界68カ国、1344人のCEOへの調査、インタビューを分析)

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(出所)プライスウォーターハウスクーパース「第17回世界CEO意識調査:人材をめぐる課題(2014年9月)

専門家に聞く「経営幹部の採用・選抜・育成の課題」

経営幹部に期待するアウトプットを明確にする

クライス&カンパニー

クライス&カンパニー
丸山 貴宏 代表取締役社長

業績向上のためにはグローバルとITが欠かせない

事業承継のための次世代経営者として、外部からグローバル人材を経営幹部で採用する企業が増えている。企業規模は大手企業からベンチャー企業まで。地方の中堅企業も含め、業種に関わらず、多種多様だ。

候補者はコンサルティング会社出身の35〜50歳の世代で、将来のプロ経営者や役員を意識したキャリアを積み重ねてファンドが関わる事業再生などで経営の重要なポジションを任されて取り組んできたような人材が多い。さらに近年は、業績向上のためにはグローバルとITが欠かせない。

経理財務などの基幹業務ではシステムの知識、マーケティングではウェブの知識などは必須だ。それにプラスしてグローバル人材であることが求められる。こうした人材が社内に育っていないため、外部に経営幹部を求めるようになっている。

アンテロープキャリアコンサルティング

アンテロープキャリアコンサルティング
小倉 基弘 代表取締役

実行能力と人心掌握に優れていることが採用の条件

事業成長を加速させるために企画や投資部門のトップを必要としている企業から人材紹介の依頼がある。特にオーナー系企業は企業規模を問わず、外部人材の獲得に積極的で意思決定も早い。

投資ファンドが投資先企業に送り込むために、他社で成功している経営幹部を探す動きも景気回復に伴って活発になってきている。採用したい経営幹部の条件は、戦略の立案だけではなく実行能力が伴っていること、人心掌握に優れていることが挙げられる。

こうした人材に共通しているのは、若い時期から業績責任のあるマネジメントの機会を得て、事業の立て直しや雇用調整などの厳しい局面を経験していることだ。プロの経営人材として転職先で成功するケースは確実に増えており、獲得を考える企業は多くなっていくだろう。

サイコム・ブレインズ

サイコム・ブレインズ
西田 忠康 代表取締役社長

経営幹部を適材適所で育成していくことに関心が高まっている

多くの企業が経営幹部候補としている40代前半の社員は、以前の世代に比べて経験領域が狭い傾向があり、能力開発を急がないと経営幹部を任せられる人材は不足する。これからの経営幹部に必要な要素は「変革」と「多様性」だろう。

変革とはビジョンを描き、戦略・プロセスを構築すること、多様性とは従来より広い枠で人材リソースを獲得し、人材を活かす組織カルチャーを形成することだ。経営幹部を適材適所で育成していくことに関心が高まっており、効率的で適性に応じた能力開発が必要になる。

知識のインプットは個別に行い集合研修では実践的なプロジェクトに取り組んだり、事前のアセスメントで能力や特性を理解した上でトレーニングを行うなど、教育研修には一人一人の能力開発に対する有効性が求められている。

島本パートナーズ

島本パートナーズ
安永 雄彦 代表取締役社長

グローバル化がさらに加速し、特に海外での売り上げが増えてきた企業は日本、現地を問わず経営幹部を求めている。また、グループ経営を推進して企業の構造を大きく変えていこうとする動きも目立ち、ホールディングスと事業会社でそれぞれ必要とする人材要件の設定や取締役会メンバーのアセスメントなど、ヘッドハンティングだけではなく人材戦略全体を支援するケースが増えている。

これからの経営幹部には多様な考え方を取り入れて新しい課題に前向きに挑戦する姿勢がより一層求められる。一方、企業は経営幹部に期待するアウトプットを明確にし、結果が出れば報い、結果が出なければ退出させるという人材マネジメントを徹底していかないと、グローバル企業との厳しい競争を勝ち抜くことが難しくなるだろう。

絆コーポレーション

絆コーポレーション 小川 潤也 代表取締役

地方企業では経営幹部が大幅に不足している

当社は新潟の人材紹介会社だが、地方企業では経営幹部が大幅に不足している。就職氷河期入社の現在35~40歳前後が少ないことと、グローバル化に伴うビジネスの急速な変化が背景だ。

また、地方では地場企業からの引き抜きはほとんど行われず、候補者が希望しても競合からは採用しない企業が多いことも経営幹部の確保に苦労する理由となっている。地元で活躍している人材でも転職方法に関する理解度は高くないので、当社を通じて有力企業の求人を知るケースもある。

当社の登録者の4割は首都圏から新潟への転職を希望する人材であるため、企業からは即戦力の紹介が期待されるが、候補者の人柄が求人企業にマッチするかを見極めて紹介している。地方企業の採用では地域の実情を熟知した紹介会社の活用が必要だろう。

日本コーン・フェリー・インターナショナル

日本コーン・フェリー・インターナショナル
妹尾 輝男 代表取締役社長

人材のアセスメントや要件定義がなされていない

グローバル事業の拡大が著しい企業では外部から経営者を招くケースが増えている。サクセッションプランによって社内の人材を経営幹部として養成していくのが理想的だが、社内に適切な人材がいない場合は社外からプロ経営者を招くことになる。

しかし、日本の企業は外部から経営幹部や海外の経営人材を採用した経験が乏しいため、採用がうまくいかないことが多い。これには二つの構造的な問題がある。まず、人材のアセスメントや要件定義がなされていない。経営幹部の責任感、スキルセット、リーダーシップ、パーソナリティなどの能力評価基準を確立することが重要だ。

もう一つは、経営人材や外国人の扱い方に慣れていないことで、短期間で高度な信頼関係を構築することが必要とされている。

ヘイ コンサルティング グループ

ヘイ コンサルティング グループ
高野 研一 代表取締役社長

チャンスを捉えてビジネスプランを描ける人材が不足

企業からは「突き抜けた人材を育てたい」という声が良く聞かれる。従来型のマネジメントができる人材はたくさんいるが、新しい市場の変化やチャンスを捉えてビジネスプランを描けるような人材の不足が各社に共通する課題だ。

経営幹部としてどのような人材を育てるかという問題意識はリーマン・ショック以降年々強まっており、経営者が十分にコミットして取り組んできた企業では幹部候補者の意欲も高く、能力を持つ人材が上がってくるようになっている。

当社が支援している例では、事業の立ち上げを目指す新興国に候補者が行ってユーザーの声を直接聞いてみるなど、実際の事業をベースに仮説検証を繰り返し行う。やはり現地に行かなければ得られないものは多く、ビジネスプランが確実にブラッシュアップされる。

マーサー ジャパン

マーサー ジャパン
白井 正人 組織・人事変革コンサルティング 日本代表 プリンシパル

海外事業の成長には拠点ごとのローカルな視点が必要

海外事業の売上が50%を超える企業では海外事業の成長のために海外拠点ごとのローカルな視点が必要になってくる。そこで拠点トップに非日本人を配置するようになっている。また、サクセッションプランを実施しつつ、一方で社内育成には時間がかかることから外部から人材を採用することが多い。

サクセッションプランでは、ナショナルスタッフやローカルスタッフを含め全世界で次世代リーダーを探し出す取り組みが始まっている。外部から経営幹部を採用する際に課題になるのは「報酬」だ。

内部昇進の場合は社内のコミュニティや序列が大事にされるため内部の公平性が優先されるが、経営幹部の人材市場が確立している海外で人材を確保しようとすると報酬は高くなり、日本企業の不人気につながっている。

アクティブ アンド カンパニー

アクティブ アンド カンパニー
大野 順也 代表取締役社長兼CEO

トップマネジメントを目指そうという意識が醸成されていない

社員の特性を早い段階で見極めて育成したいという企業が増えている。いわゆるタレントマネジメントの考え方だが、ITシステム導入だけが先行している企業もあるように思う。

経営幹部育成の最大の課題は、社員の中にトップマネジメントを目指そうという意識がほとんど醸成されていないことだ。元気のない企業ほど、社員に対してキャリアの可能性が示されておらず、チャレンジの機会も与えられていない傾向が見られる。

アクションラーニングが研修にとどまっていては意味がなく、同じ金額を使うなら、意欲のある社員やチームにまとめて投資して事業のすべてを任せるというやり方もある。業績に貢献できる“戦略人事”に変わるため、人材をどのように育てるかについて、既存の枠組みを超えて見直す時期に来ている。

コーチ・エィ

コーチ・エィ
塚本 弦 エイドリアン 執行役員

数値化目標や成果を生み出す環境を作れるリーダーが少ない

日本には企業風土や人材価値の数値化目標や成果を生み出す環境を作れるリーダーが少ないと感じる。しかし最近は、経営幹部全員にコーチをつける企業や、幹部が新しいポジションに就く際に自ら相談にくることも増えている。 当社のコーチングは、次の4つを原則としている。

①システミック・コーチング=コーチをつけたリーダーが周りの全員に影響し、組織全体にインパクトを与える、②プロセス・オリエンテッド=コーチングのプロセスを通じてリーダーがより早く学ぶ能力を開発して成長を促す、③エビデンス・ベースト=コーチング研究所の豊富なデータを元に指標を数値化し、組織に起きる変化を分析する、④リザルト・フォーカスト=業績指標など組織全体に起こる変化に注目する。

セルム

セルム
加島 禎二 代表取締役社長

トップが全権を持って候補者を選抜して取り組まなければ難しい

企業がグローバルに事業を展開する中で、シェアよりも利益を重視した成長戦略へと変化し始めている。ところが、そのために必要な能力を持つ経営幹部が見当たらない、さらに将来を担う部課長の中にも光る人材がいないという悩みが増えている。

トップが社内のタレントの状況を認識し、全権を持って候補者を選抜して取り組まなければ経営幹部の養成は難しい。HR部門の役割も主要ポジションのキーマンを育成して事業計画の実現を図る経営の戦略的パートナーへ変わるべきだ。

グローバル市場で事業を展開するならば、透明でタフなプロセスを経てきた人材をプロ経営者として選び、さらに複数社の経営に携わった経験を持つ人材をメンターにつけて課題解決の能力を高めていくことも考えなくてはならない。

プレセナ・ストラテジック・パートナーズ

プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
岡安 建司 代表取締役 CMO

活用できることをイメージした研修内容を求める傾向が強まる

経営幹部をどのような段階を踏んで育てていくのかを意識して人材戦略を考える企業が増えている。若手の時期から目的意識を持たせてベースとなる知識をしっかりとインプットさせ、意欲と能力が高い人材をより早く引き上げようとしている。

研修では一段高いレベルを示し、インプットした知識を活かして事業課題に対するアウトプットを求めるようなアクションラーニングが積極的に活用されている。

リーマン・ショック以降、人材への投資は年々増加してきているが、研修の費用対効果に対する要求は厳しい。実際に活用できることをイメージした研修内容を求める傾向が強まっており、当社に与えられるテーマも難しくなっている。また、グローバル人材育成の体系化やアセスメントなどのニーズも高まっている。

カタナ・パフォーマンス・コンサルティング

カタナ・パフォーマンス・コンサルティング
宮川 雅明 代表取締役

ビジネスモデルを構築し実践できる“成長戦略人材”が必要

企業が必要としているのは、ビジネスモデルを構築し実践できる“成長戦略人材”だが、失われた20年によって今の経営幹部候補の多くが成長戦略を経験していない。そのため、先進的な企業の育成プログラムでは、成長市場の新興国に行って事業化を体験させるといった取り組みが見られる。

成長戦略人材が育つような環境を持つことが企業の競争力につながるが、根本的な問題として、多くの企業の社員は自社の戦略にあまり興味を持っていないように見える。企業は現場の社員が何を考えているのかを良く理解してコミュニケーションを高める必要があるだろう。

研修は人材を知るという貴重な機会でもあるが、人事がほとんど顔を出さない企業もある。社内にどのような人材がいるのかをよく知らない人事が増えていないだろうか。

オジャーズベルンソン

オジャーズベルンソン
ヨハン・アウテンボーハールド マネージングディレクター

価値観の違いを埋められるコミュニケーション力が欠かせない

当社は日本で1991年からリテインド・サーチで経営幹部の獲得を支援しているが、アベノミクスによって日本に期待する外資系企業からの依頼が増加した。IT、消費財、金融分野などで新たに日本に進出してくる企業も多くなっている。中国経済が不振で日本のヘッドカウントを増やしている企業もある。

外資系企業の日本法人の経営幹部には、日本市場に対する深い理解に加えて、事業を成長させるために必要な投資を本社から引き出す能力が必要になるため、語学力はもちろんのこと、価値観の違いを埋めることができるコミュニケーション力や交渉力が欠かせない。

さらに最近見られる傾向として、本社から日本法人のガバナンスが弱いという見方がされており、業績報告や組織マネジメントのスキルに優れた人材が求められている。

KANAEアソシエイツ

KANAEアソシエイツ
阪部 哲也 代表取締役

会社規模が大きいほど慎重な人選が必要

外資系企業の経営幹部求人が急増している。アジア市場を建設的に見ているため、日本の人員を増やして組織強化を図っている。

国内企業では海外販路を拡大するためのM&Aや資金調達のスキルを持つ人材がいない場合、まずはスペシャリストとして採用し実績を見極めた後に幹部に登用するケースもある。経営幹部の中途入社は、社員にインパクトを与え、時には現場と馴染めず退職することも少なくないため、会社規模が大きいほど慎重な人選が必要だ。

年収水準の高さを理由に採用を諦めている企業も見られるが、経営幹部の素養を持つ人材の多くは年収よりも仕事のやりがいを優先する。当社はスピードとリファレンスチェックを徹底し、求人企業が経営幹部に求める結果を明確にした上での紹介を心がけている。

コア

コア
秋元 利浩 代表取締役社長

中長期的なビジョンで取り組まないと解決できない課題が多い

外資系企業の経営幹部の採用課題は、経営幹部が2 〜3年という短期の契約で事業実績を求められることが多いため、部下に対する達成目標にも無理が生じ、結果として実績を上げることが困難になる場合が見受けられることだ。

そのような企業では、数年ごとに経営者や責任者が総入れ替えするなど採用の悪循環が続いてしまう。日本のマーケットでは地道な活動が必要なため、中長期的なビジョンを持って取り組まないと解決できない課題が多い。

また、経営幹部候補となるマネジャークラスの採用・育成・評価では、経営トップとの十分なすり合わせを行い、さらに役員を巻き込んで対応することが必要だ。その上でマネジャークラスの採用ではテクニカルスキルだけではなく、ヒューマンスキルという人間力をみる必要がある。

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