景気の回復によって有効求人倍率と完全失業率はともにリーマン・ショック以前の水準に戻り、あらゆる業界で人材不足が鮮明になってきた。同時に採用難易度が高まり、採用計画数を確保できない企業も多い。以前のような人材不足の時代に再び突入したことで、多様な労働力の活用が課題になっている。
- 人事担当者に衝撃を与えた牛丼チェーン「すき家」の店舗閉店
- 求人倍率の改善で人材不足はより深刻に
- 政府の成長戦略で注目される女性労働力の活用
- フリーランス活用という新しい労働力の考え方
- 高いスペックを求めて大きく変わる新卒採用
- 再び人材不足の時代に突入したIT業界の課題
- 専門家に聞く「多様な人材の活用と人材確保の課題」
- コンコードエグゼクティブグループ 渡辺 秀和 代表取締役社長 CEO
- マンパワーグループ 池田 匡弥 取締役・代表執行役 副社長
- パソナテック 吉永 隆一 代表取締役社長
- アクサス 小島 一仁 取締役
- ブレーンネット 今井 智康 代表取締役社長
- ディップ 岩田 和久 取締役COO
- ランサーズ 山口 豪志 ビジネス開発部マネージャー
- キャリアアセットマネジ 武田 朝美 シニアアドバイザー
- 日本オラクル 黒川 竜司 アプリケーション事業統括本部 事業開発部担当ディレクター
- ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパン 安田 結子 代表
- キャリアデザインセンター 三ツ橋 りさ 女の転職@type編集長
- LiB 松本 洋介 代表取締役
- アイデム 吉川 英孝 東日本事業本部Aidem Smart Agent ディヴィジョングループリーダー
- ソファー 小池 弘志 代表取締役社長
- ハウテレビジョン 音成 洋介 代表取締役社長
- フォースバレー・コンシェルジュ 柴崎 洋平 代表取締役
人事担当者に衝撃を与えた牛丼チェーン「すき家」の店舗閉店
上場企業のゼンショーホールディングスの100%子会社ゼンショーが運営する牛丼チェーン「すき家」が労働力不足によって、店舗の一時的な閉店や時間帯休業に追い込まれた一件は人事担当者に大きな衝撃を与えた。
労働需要の急激な高まりによる人材の採用難が売上や利益を圧迫しただけでなく、これまで成長を支えてきたビジネスモデルそのものに影響を与えたからだ。
「すき家」では人手不足と従業員の負担軽減のための改装などで、今年2月から4月にかけて最大123店舗で一時休業や時間帯休業(1日のうちで1時間でも休業した店舗は計上)の措置を取った。
また、それ以外に124店舗でこれまで24時間だった営業時間を、夜22時から朝9時までの深夜・早朝営業を休止した。
その後、「2月から3月にかけて流通産業全体に及ぶ折からの人手不足と、仕込みにこれまで以上の手間を要する新商品の導入に伴い、『すき家』従業員の負担増が深刻化した」として、店舗の労働環境改善による従業員の負担軽減を経営の最重要課題に設定した。
6月1日、全国7地域で運営会社を分社化。「地域正社員制度」を導入して同一地域内での転勤が可能なマネジャー(地域正社員)の採用を始め、解決を図ろうとしている。
デフレ時代の価格競争で人件費にまで及んだコスト削減が、景気が回復する局面になって人材への負荷が一気に不満となって噴出した格好だ。
こうしたことは、価格競争の激しかった牛丼チェーン業界でまず始めに起きたことであり、ゼンショーに限ったことではない。人材不足と採用難という問題によって経営戦略の変更を迫られる企業が続出しそうだ。そして、人材戦略もまた見直す時期にきている。
景気は回復しているが人口減少で国内マーケットが縮小する上、人件費は上昇傾向にあるため採用基準を下げてまで正社員を採用するのは経営リスクが大きい。
必要な人材を確保するためには、もう一度正社員の業務を見直した最適な配置によって、正規・非正規社員を含めた多様な人材を活用する必要がある。
求人倍率の改善で人材不足はより深刻に
労働市場の状況は、昨年後半から人材不足が顕在化しており深刻化する一方だ。有効求人倍率はリーマン・ショック以前の高水準となっている。
すでに、採用の現場では「東京五輪を控え、依頼される仕事は多いが人手不足で受注することができない」(建設会社人事担当)、「景気が回復しているのに期間工が採用できない」(大手自動車メーカー採用担当)など、深刻な人手不足に悲鳴が上がっている。
採用が難しくなっている業界では、採用アウトソーシングを活用して確実に採用数を確保しようとする企業もでてきている。「昨年から人材需要が急拡大して採用が困難になりつつある。そうした企業が積極的に採用アウトソーシングを活用している」と池田匡弥マンパワーグループ社長は話す。
マンパワーグループでは採用アウトソーシングの受託件数が昨年比で約2倍になった。採用活動の立案から関わり、人材紹介、紹介予定派遣、求人メディアと人材に応じて最適な採用手法で募集し、さまざまなデータを分析して採用に導く手法が好評だという。
アルバイトの採用も難易度が増している。アルバイトの求人メディアを運営するディップでは、採用が難しくなっていることから営業マンを採用コンサルタントとして養成して企業の採用活動を支援するようになった。
岩田和久取締役COOは、「採用難の時代に人材を確保していくには、人材市場の動向を見据えて他社よりも早く時給を上げたり、動画で職場の様子を伝えるなどミスマッチを極力なくす工夫が必要だ」と強調する。
景気の回復を受け、求人が増え続けている
●求人広告掲載件数(対前年同月比)
●地域別有効求人倍率(季節調整値)
政府の成長戦略で注目される女性労働力の活用
政府の成長戦略にも盛り込まれている女性労働力の活用も注目される。正社員の採用基準を下げたくない企業では女性採用にも積極的だ。
日本は他の先進国と比べると女性就業率が20代後半から40代前半まで下がる傾向にあり、M字カーブと呼ばれている。
この世代は、結婚、出産、子育てとライフイベントが集中しているため、できる女性であってもフルタイム勤務が難しいなどの理由で会社を退職する場合が多い。人材が不足している企業では女性が働き易い人事制度を導入して、こうした人材の活用に取り組む。
一方で、女性の採用には難しさもある。「ワークライフバランスの意味が正確に伝わっていない。ベターワーク、ベターライフなのに、ライフばかり考えている女性が多い」(IT会社人事担当)という悩みも聞こえてくるように、仕事に対する意識の差が大きいためだ。
それだけに採用では、十分なスクリーニングを実施しなければならない。そうした理由から、女性の採用に慣れた人材会社を利用する企業も多い。
ヘッドハンティング会社ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパンの安田結子代表は次のように指摘する。 「キャリアを積んできた女性には専門職が多く、コミュニケーション能力に欠けていたり、チームで働くことが苦手な場合があるため、採用はかなり難しい。また中途採用で人材が辞めてしまうことになれば、外部からの女性の採用はその後一層難しくなる。定着させるための施策も重要だ」
社員が定着すれば採用数が減少して採用担当者の業務量が減少するだけでなく、採用コストを減らすことにもつながる。
管理職に占める女性割合の目標を公表する企業も出てきている
●役職別管理職に占める女性割合の推移
フリーランス活用という新しい労働力の考え方
専門性のあるフリーランスも比較的容易に活用することができるようになった。フリーランスとのマッチングサービスを提供するクラウドソーシングのランサーズでは、2008年のサービス開始から約5年間で企業約8万社、登録者約32万人、契約金額約265億円の利用実績があった。
登録者の多くは、個人事業主や主婦・学生などで、中にはサラリーマンの副業というケースもある。フリーランスには地方在住者や介護で家を離れることができない在宅者もおり、多様な人材を活用できる可能性がある。
これまでもシステム開発などでフリーランスを活用するケースはあるが、最近ではさまざまな分野で利用されるようになっているという。
例えば、大手企業の正社員が忙しい部署では、定型化された業務を切り出してアウトソーシングすることによって社員の業務量を減らし、より重要なコア事業に振り向けることができた。
正社員の評価基準が「労働時間」から「成果」へと変わる中で、このように時間で管理できる業務はアウトソーシングやアルバイト・パート社員へと仕事を移していくことが求められてくる。
人材確保が一層難しくなることは明らか
●日本の将来推計人口
高いスペックを求めて大きく変わる新卒採用
新卒採用も大きく変化し始めている。2016年新卒採用から採用スケジュールが後ろ倒しになるためだ。経団連の採用選考に関する指針では、卒業年に入る直前の3月1日から広報活動がスタートし、8月1日から選考活動、内定日は10月1日となる。
経団連加盟の大手企業は大方このスケジュールに従うことが予想されるが、BtoB企業や大手企業の採用活動を待ってスタートしていた中堅・中小ベンチャー企業では10月1日までに内定を出せないことが予想される。
そこで、活用され始めているのが新卒紹介だ。学生に対する知名度が低いBtoB企業や中堅・ベンチャー企業では、求人サイトに採用情報を出しているだけでは学生が集まらず、母集団形成すらできない状況だ。
新卒紹介は母集団形成の必要がなく、採用担当者の業務量を軽減することができるため利用企業が増えていた。 さらに、ここに来て大手企業にも利用が広がっているという。新卒紹介を手がけるアイデムの吉川英孝グループリーダーは、大手企業が利用する理由を次のように明かす。「通常の採用選考活動では採れないような優秀な人材をピンポイントで採用しようとしており、中途採用におけるサーチに近づいている」
15年卒の求人数が300人未満企業は45%、建設業は38%も増加
●従業員規模別、業種別の大卒求人倍率の推移
再び人材不足の時代に突入したIT業界の課題
IT業界の人材不足も深刻だ。リーマン・ショック直後は金融や製造などあらゆる業界のシステム投資がストップしていたが、景気の回復とともに業務システムなどのIT投資が始まり、リーマン・ショック以前と同様の人材不足が再来している。 IT・エンジニアの人材派遣会社パソナテックの吉永隆一社長はIT業界の現状から危機感をあらわにする。
「国内から海外へと販路が拡大して事業構造が変わる中、BtoBのクラウドやSNSの活用が必須になった。プログラミングに関わる人材だけでなく、さまざまな人材需要がでてきておりIT人材が大幅に不足している。人口が減少する中でも人材を育成して、日本に技術を残していかなければならない」
こうした状況を受けて同社では、「積極的に社員研修を実施して成長産業で必要とされる人材を育成して人材需要に応える」という。
人材育成とともに人材の定着も重要な課題となっている。IT人材サービス会社アクサスの小島一仁取締役は、「ITエンジニアのキャリアを意図した人事制度などを運用することで、長期的な人材育成と帰属意識を醸成してキャリア形成と人材の定着を図っていきたい」と強調する。
この1~2年で起きている人材不足は景気回復によって急激に求人が増えていることが原因だが、背景には少子化による若年者労働人口の減少がある。
出生率が改善しない限り今後の労働力不足は確実で、今すぐに出生率が回復したとしても労働力となるには約20年はかかるため、その間の人材不足はほぼ確定的だ。人口減少によって、これからあらゆる業界で人材不足が起きてくる。
人事担当者は人材を確保するためにさまざまな工夫を凝らして採用し、同時に人材を育成して定着させることによって従業員の労働生産性を向上させていく必要があるだろう。
専門家に聞く「多様な人材の活用と人材確保の課題」
優秀な女性を引き付ける魅力的な制度の構築・運用が望まれる
コンコードエグゼクティブグループ
渡辺 秀和 代表取締役社長 CEO
女性の経営幹部や管理職への登用が課題となる中で、プロフェッショナルとしての経験とスキルを持つ女性であれば、育児や介護などで就業形態に制約があっても積極的に採用する企業が出てきている。
女性採用で注目されているのがコンサルティング会社出身者であるポストコンサルだ。結婚や出産後も働き続けて組織に貢献したいという強い意欲を持っているため、社内でロールモデルを育てるという観点での採用も増えている。
企業では育児や介護に配慮した制度が導入されているが、利用すると昇進に影響すると考えている女性社員が多いのが実態だろう。業績評価や昇進が業務時間ではなく成果で決まるという意識改革を含め、優秀な女性を引き付ける魅力的な人事制度の構築と運用が望まれる。
人材採用が難しくなり、採用アウトソーシング利用企業が増加
マンパワーグループ
池田 匡弥 取締役・代表執行役 副社長
昨年後半から急速に人材需要が拡大し、あらゆる業界で人材の確保が難しくなっている。同時に採用コストも増加しており、人材派遣、紹介予定派遣、人材紹介など最適な採用手法を駆使して人材を獲得していく必要がある。このような企業ニーズが増えていることから、当社の採用アウトソーシングの利用企業は前年比約2倍と急増している。
コンサルティングを実施して中途や新卒社員の人材ニーズを把握し、採用計画の立案からかかわり、人材像の明確化、媒体のマネジメント、データの分析、地域特性などを踏まえて採用をサポートすることで、確実に必要な人材を確保している。
人材派遣の企業ニーズも拡大しており、クライアントの人材ポートフォリオに応じて人材派遣や紹介予定派遣など、最適な人材を提案している。
不足するIT人材は育成して人材需要に応える
パソナテック
吉永 隆一 代表取締役社長
IT業界では、これまでBtoCのウェブ系やソーシャル系のサービスが拡大し、オフショアの活用などでコストを削減することで利益を上げてきたが、経済が回復に向かいようやく抑制されていたIT投資が復活し始めた。
さらに国内から海外へと販路が拡大して事業構造が変わる中、BtoBのクラウドやソーシャルネットワークの活用が必須になりプログラミングにかかわる人材だけではなく、事業を企画して実行するためにさまざまな人材需要がでてきている。
IT人材の不足に拍車がかかっているため、当社では成長産業で必要とされる人材を育成していくというスキームで需要に応えている。JOBHUBというフリーランスのプラットフォームも運営し、在宅、育児・介護、地方などで仕事をしなければならない人の活用を提案している。
長期的なITエンジニアのキャリア形成で人材の質を高める
アクサス
小島 一仁 取締役
リーマンショック以降、WebやSNSなどがIT業界を牽引してきたが、ここにきて業務システムやBtoB企業のIT投資が回復し、慢性的な人材不足の状況になっている。
このようなIT人材の不足に対し、当社では人材派遣、業務請負、業務受託によってクライアントの事業をサポートしている。また、クライアントの依頼に応じて人材を確保し、プロジェクトチームを編成することも多い。
クライアントに質の高い人材サービスを提供していくためには、社員の能力を高めていく必要がある。そのため、エンジニアのための人事制度を策定してキャリア形成を意図した資格制度などを運用することで、長期的な人材育成と帰属意識を醸成し、エンジニアのキャリア形成と人材の定着を図っている。
オリンピックに向けた環境整備で深刻な人材不足に
ブレーンネット
今井 智康 代表取締役社長
4月以降、金融、製造、流通、公共、通信など、すべての業界で人材需要が急激に増加しており、IT人材は一気に不足状態になっている。企業が人材を採用しようとしても募集段階から人が集まらないことも多くなった。そのようなこともあり、人材派遣会社の役割や意義が見直されて存在価値が高まっていると感じている。
特に通信・ネットワーク分野では、2020年のオリンピックに向けて環境整備が進むため人材が必要になっているのだが、人口減少のため年々若手人材が不足しており採用難になっている。人材不足で日本のものづくりは深刻な状況だ。
当社では、人材を採用し教育してクライアント先に派遣したり、クライアントの社内人材を研修を実施して育成することで人材の確保を目指している。
求人数の増加で、アルバイトの確保は採用手法に工夫が必要
ディップ
岩田 和久 取締役COO
景気が回復してアルバイトの求人件数はこの2年間で1.7倍に拡大している。当社が運営するアルバイト求人メディア「バイトル」掲載件数も2年間で2.5倍と急増している。
若年層の労働人口が減少している状況を考えると、これまでと同じような採用方法では、必要数のほぼ半分しか人材を確保することができない状況になっている。
採用難の時代に人材を確保していくには、人材市場の動向を見据えて他社よりも早く時給をアップしたり、採用ページに動画を付けて職場の様子を伝えミスマッチを極力なくすなど工夫が必要だ。このような採用方法を伝えるために、当社では営業マンを採用コンサルタントとして養成して、クライアントの採用活動を支援している。また、応募者の一元管理システムを提供して採用の効率化を図っている。
定型化・単純化された業務はクラウドソーシングで効率化
ランサーズ
山口 豪志 ビジネス開発部マネージャー
当社はクラウドソーシングによって、企業とフリーランスの人材の最適なマッチングを図る事業を展開している。 2008年からサービスをスタートして6年目になるが、これまでに企業約8万社、登録者32万人、契約金額265億円の利用があった。契約の形態には、「時給式」と「成果式」二つがあり、仕事の内容に応じて委託することができる。
利用企業では、定型化・単純化された業務を切り出して外部化することによって、社内の人材のリソースをより重要なコア事業に振り向けるなど、効率的な活用が進んでいる。
新規事業を展開するような場合に、社外からアイデアを得るために活用されることもある。これまで中心だったシステム開発やデザインなどの分野から、さまざまな分野に利用が広がっている。
数年後を見越した人材構成の見直しに取り組む企業が増加
キャリアアセットマネジ
武田 朝美 シニアアドバイザー
労働関連法令の改正に伴い、雇用形態の組み合わせの再検討に着手する企業が増えている。非正規社員を正社員化する動きが一部であるものの、国内消費は長期的に見て減少が予測されるため、単一業務における人件費の固定費化に踏み切れる企業は限られている。
むしろ数年後を見越した人材構成の見直しや、それに伴うキャリアパス充実に対し協力するケースが増加しており、特に職場における定量的スキル以外(ヒューマンスキル)の「見える化」などが注目されている。
一方、現在のひっ迫する求人に対しては、広告を出せば求職者が集まる状況ではないため、求人メディアの選定や広告の見せ方の工夫による採用力強化、データ分析等を活用した採用効率や定着率向上に力を入れる企業も出てきている。
ソーシャル、モバイル、ビッグデータの活用が重要になる
日本オラクル
黒川 竜司 アプリケーション事業統括本部 事業開発部担当ディレクター
昨今の急激な事業変化に対応するための人材ニーズに応えるため「タレントマネジメント」が注目されるようになってきた。多くの企業において海外事業の拡大やM&Aの増加という背景の中、グローバルビジネスを成功させるための最適な人材採用や配置などが大きな課題となっている。
具体的には世界中の拠点の人材情報を一元的に管理して「見える化」することに着手する企業が増えているが、今後はソーシャル、モバイル、ビックデータを活用した人材の採用、キャリア開発、定着化を行うことが重要になると考えている。
事業運営に必要なあらゆる人材がタレントであり、業務範囲や評価基準を明確にして、性別や国籍に関係なく成果に基づいて評価することが今後の人材活用ではより重要になる。
ダイバーシティで女性や外国人の幹部候補の採用ニーズ高まる
ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパン
安田 結子 代表
ダイバーシティの観点から女性や外国人の幹部候補の採用ニーズが高まってきている。役員クラスでは、社外取締役などで女性を採用することが多い。取締役や執行役員などの場合には、外部から採用してすぐに登用するのではなく、まずは手前のポジションで採用して成果を上げてから登用する場合が一般的だ。
人事やCSRなどでの採用が多いが、今後は営業やマーケティング、CS、品質保証、法務、財務でも増えていくだろう。女性幹部候補を採用する場合は、働きやすい環境を整えることも重要だ。
孤立しないように複数名を採用する、経営の上層部が育てるという意識を持ち支援する、女性幹部がコミットして業務ができることなどだ。そして、何よりも組織自体が多様化していく目的を明確にしていることが求められる。
女性の求人が急伸、男性以上にスピーディーな選考が必要
キャリアデザインセンター
三ツ橋 りさ 女の転職@type編集長
女性の正社員採用の求人は年々増加しているが、アベノミクスの影響でここ1年の伸びは顕著だ。これまでは事務、営業、販売の求人が大半だったが、最近はIT分野の増加が目立つ。男性しかいなかった職場に女性を採用していきたいという企業が出てきているからだ。
SEやプログラマーだけでなく、サポートデスクなどの求人もあり、未経験者を採用する企業も増えている。事務職を希望する女性が圧倒的に多いので、サポートデスクのような仕事であれば応募の選択肢に入りやすい。
女性は男性に比べて、より多くの求人情報を収集するが、応募数を絞り込む傾向がある。そして、最も早く内定が出た企業に転職を決めることが多いため、企業はスピーディーな選考を行う必要がある。
女性のライフイベントに合わせた働き方を提案
LiB
松本 洋介 代表取締役
人材の採用が難しくなっていることから、これまで以上に女性の活躍の場が増えている。消費財や販売・小売の業界では、女性のアイデアや能力を商品開発等に取り入れて利益を上げるなど、女性の活躍推進を事業に紐付ける企業も多い。
1999年の男女雇用機会均等法改正以降に採用され、社会に出て10年前後になる女性の活躍も目立っている。女性には結婚、出産、子育てなどさまざまなライフイベントがあり、働き方も男性のように変化のすくないキャリアではなく、労働時間を抑制することを考えるような時期もある。
一方、そのような時期以外ではキャリアアップして自分の仕事を極めたいという向上心のある女性も多数いる。当社では女性のキャリアの変わり目に合わせた働き方を提案している。
多様な人材を採用するために新卒紹介の依頼企業が急増
アイデム
吉川 英孝 東日本事業本部Aidem Smart Agent ディヴィジョングループリーダー
2016年からの新卒採用のスケジュール変更や景気の回復などで求人が増加し、BtoB企業や中堅・ベンチャー企業は求人サイトに採用情報を出しているだけでは学生が集まらず母集団形成すらできない状況になっている。
一方で、大手企業は学生が集まりすぎて採用の工数がかかりすぎる傾向にある。そうした中で、多様な学生を採用するために人材紹介を活用する企業が増加している。例えば、研究開発職、バイリンガルやトリリンガル、女性営業職などのニーズが拡大している。
研究開発職は、特別な研究分野を学んできた学生をサーチで探す場合もある。また、女性営業職はこれまで男性ばかりの業界で、他社が女性営業職を採用して実績を上げているのを目の当たりにして、採用に踏み切るケースが多いようだ。
若手、トップクラス社員によるリクルーター制度を勧める
ソファー
小池 弘志 代表取締役社長
新卒採用は優秀な人材の奪い合いで、学生に対する知名度で劣る企業は、将来のビジョン、仕事の楽しさやワクワク感を学生に上手く伝えられるかが決め手になる。そうした点から、若手や活躍しているトップクラスの社員にリクルーターを担ってもらうことを勧めている。
ミスマッチを防ぐには、採用基準のキーワードを決め、人物像を見極められる質問を面接担当者が共有しておくことが重要だ。新入社員の早期戦力化を目指して、3月から研修を開始する企業が多くなっている。
研修に期待されているのは「甘えをなくし、現場でサバイバルできる社員にする」ということだ。研修効果を持続させるには配属先の管理職のフォローが欠かせないが、管理職の能力不足が課題の企業も多いように感じる。
学生に職業人としてのロールモデルが見えにくい点が課題
ハウテレビジョン
音成 洋介 代表取締役社長
最大の課題は、学生に職業人としてのロールモデルが見えにくい点ではないか。学生と社会人の接点が、就職活動開始以降にどうしても集中してしまい、倫理憲章改定後、就職活動期間が短くなる中、学生の多くが社会との十分な接点が無いまま選考過程に放り出されている印象を持つ。
当社は「外資就活ドットコム」というメディアを展開し、学年問わず記事を通して「働く」をイメージできるようなコンテンツを提供しており、実際に大学1、2年生からの登録も多い。
今後、世の中にどんな職種・職業があるかを百科事典のような形で提供しつつ、公平にキャリアを選択できるプラットフォームとして、進路の道標となるロールモデルが提示できるよう、サイトコンテンツを充実させていきたいと考えている。
グローバル化の推進に向け、海外採用の動きが顕著に
フォースバレー・コンシェルジュ
柴崎 洋平 代表取締役
企業はグローバル化の推進に向け、日本にいる外国人留学生の採用だけでなく、直接海外に採用しに行くという動きが顕著になってきた。
当社の中核事業は、世界中から国籍問わず優秀な人材を日本企業「本社」に紹介することであり、昨年からはASEAN各国の厳選した人材をシンガポールに集結させ、企業説明会と選考を同時に行う就職イベントTOP CAREER ASEANを開催。今年度からは米国に留学中の日本人学生と現地TOP大学の日本語人材を対象としたTOP CAREER USも米国西海岸で開催予定だ。
また、外国人のみならず、グローバル思考を持つ日本人の最優秀人材の発掘・育成を目的とした「10人の侍」プロジェクトも始動する。今後も企業の多様なニーズに対応できるよう、新たな試みを積極的に行っていく。