給与のデジタル払いとは?対応にむけた3つのチェックポイント

かねてより政府内で議論が重ねられてきた「給与のデジタル払い」について、ついに2023年春にも解禁の方向で最終調整に入りました。新制度に対する企業の反応は様々ですが、近年のキャッシュレス決済の普及状況に鑑みれば、いずれの現場においても現実的に検討を進める必要がありそうです。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

労働条件分科会で示された「給与のデジタル払い」の基本ルール

給与支払に関しては、現状「現金による手渡し」を原則として、労働者の同意など所定の要件を満たす場合に限り「銀行口座等への振込」による方法が認められています。

この点、2023年4月1日以降は新たな選択肢として「資金移動業者の口座への振込」を加えるべく、政府の労働条件分科会において仕組み作りが進められています。

「資金移動業者」とは、銀行等の金融機関以外で業として為替取引を行う事業者を指しており、要するにスマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用した送金サービスを提供している登録事業者のことです。

つまり給与のデジタル払いとは、企業が銀行等の金融機関を介さず、いわゆる「〇〇ペイ」を利用して給与を振り込むことができる制度のことを言います。 厚生労働省によると、2021年5月実施の民間調査では、普段からキャッシュレス決済を利用している者のうち4分の1超(26.9%)が「給与のデジタル払いを利用したい」と回答したとのことで、一定のニーズが想定されます。

導入に向けた議論の中心は「業者の指定要件」と「企業における体制整備」

「給与のデジタル払い」を巡っては様々な課題がありますが、議論の中心はデジタル払いに係る「労働者保護(保全や補償)」、企業における「実務対応」に集約されます。

前者については貸金移動業者に対する規制強化を主軸に、後者については具体的なシミュレーションに基づくシステム対応や社内ルールの検討によって、今後、来春の制度導入に向けた制度設計が目指されることになります。

賃金支払が認められる貸金移動業者の要件は「2階建て」

資金移動業者は、国内では85業者が登録されていますが(2022年9月時点)、これらすべてが給与振込先の貸金移動業者として認められるわけではありません。

指定資金移動業者となるためには、図の通り、資金決済法関係法令等及び労基法関係法令における要件をそれぞれ満たす必要があります。

出典:資金移動業者の口座への賃金支払について 第178回労働条件分科会(令和4年9月13日) 資料NO.1(一部加筆・修正) 18ページ目

労基法上求められる、「賃金の確実な支払」を担保するために資金移動業者が満たすべき要件として、第178回労働条件分科会では以下の7項目が示されました。

出典:資金移動業者の口座への賃金支払について 第178回労働条件分科会(令和4年9月13日) 資料NO.1(一部加筆・修正) 2ページ目

実務対応上、最重要となる「労働者の同意」

企業における実務対応として、重視すべきは「労働者の同意」です。資金移動業者の口座への給与支払いについて、労働者は使用者から必要な情報提供を受けた上で、自由意思に基づいて選択できることが大前提となります。

労働者が受けるべき「必要な情報提供」の内容としては、滞留規制、破綻時の保証、不正引出の補償、換金性、アカウントの有効期限などが挙げられます。

また、労働者が「自由意思」に基づいて給与の支払方法を選択するためには、「現金払い」や「銀行口座又は証券総合口座への振込」も併せて選択肢として提示すると共に、労働者の便宜に配慮するため、資金移動業者は1社に限定せず複数選定する等の配慮が求められます。

想定される企業の実務対応をさらに深掘り

ここまでは、「給与のデジタル払い」について、労働条件分科会の資料から確認できる課題及び留意点を解説しました。

実際に制度を導入する上では、制度設計の段階で、実務上想定される懸念事項をより具体的に検討し、対策を講じる必要があります。

企業実務のチェックポイント① 「給与システム」

まずは、今活用している「給与システムとの連携」が可能かを確認します。

「給与のデジタル払い」が解禁されることを踏まえ、クラウド型の給与システムについてはバージョンアップによる法改正対応が予想されますが、自社で管理・運用を行うオンプレミス型ではシステム改修への対応が必要となります。

企業実務のチェックポイント② 「情報収集・管理」

「従業員情報の収集・管理」についても、準備を進めます。

企業側には個人情報を適正に収集・管理する作業が生じますので、その取扱いについて適切な方法を検討しなければなりません。

使用者が確認すべき項目としては、希望する賃金の範囲(及び金額)、資金移動業者名、アカウントID、振込開始時期などがあります。

なお、「給与のデジタル払い」導入以降も、大半の企業において、給与の全額をデジタルマネーで振り込むのではなく、「銀行口座等への振込」との併用での運用となることが見込まれます。

これに伴い、企業側には、これまでよりも多くの個人情報を保持することを前提とした管理が求められることは言うまでもありません。

企業実務のチェックポイント③ 「就業規則の見直し」

「給与の支払方法」に関する定めは、就業規則の絶対的記載事項のひとつであるため、給与のデジタル払いを導入する場合には必ず規定しなければなりません。

給与の支払方法の定めに「給与のデジタル払い」を追記した上で、対象労働者、対象となる賃金の範囲を明記します。

併せて、運用上の具体的な項目に関しては、労使協定を締結する必要があります。

労使協定の内容としては、対象となる労働者、賃金の範囲とその金額、取扱資金移動業者の範囲、実施開始時期等が想定されます。

2023年4月1日の施行に先立ち、施行通達等で制度導入に必要な手続き等が示される予定です。

導入企業においては、労働者への適正な給与支払の実現に向け、漏れのない様に準備を進めましょう。


丸山博美(社会保険労務士)

社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。

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