人材採用

インターンシップを採用にどう活かす? インターンシップの4タイプを詳しく解説【インターンシップ活用の多様化と留意点】

企業の人手不足が加速する中、人材の獲得競争を勝ち抜くためには様々な採用チャネルを駆使して採用活動を行う必要があります。今回はその中でも重要性が増すインターンシップについて、KKM法律事務所代表の倉重公太朗弁護士にインターンシップに関する文部科学省・厚生労働省・経済産業省による三省合意の改正を契機とした、政府の考え方や企業としての向き合い方について全3回に分けて解説してもらいます。

今回はインターンシップに関する三省合意の改正について解説します。(文:倉重公太朗弁護士、編集:日本人材ニュース編集部

現代の採用事情

人手不足の深刻さは年々増しており、「今年は予定応募数にすら達しない」との声も聞かれるようになりました。労働力人口減少社会の中、企業としては、これまで通りの採用手法だけではなく、採用チャネルの多様化、オンライン化、AI化、などが求められています。

また、働き方改革の浸透、テレワーク導入の拡大、ハラスメントを含めた社風の改善を行う企業と全く昭和の姿のまま変わらない企業との差は開く一方であり、SNSの発達により、そのような企業実体が採用力に直結する時代となっています。

さらに、何とか採用できたとしても、ミスマッチや入社後ギャップによる早期離職、メンタル疾患事案の増加など、採用効果が必ずしも上げられているとは言えないケースも多くあります。

このように、なんとなく募集して企業が「選抜する」という一方的な関係ではなく、企業自身も「企業も選ばれている」という意識を持つことが現代において極めて重要です。

採用チャネルの多様化とインターンシップの位置づけ

採用チャネルも横並びの新卒一括採用だけではなく多岐にわたります。通常の一括採用に加え、通年採用、ハローワーク、求人広告、コミュニティ採用、SNS採用、リファラル採用、ダイレクトリクルーティング、人材紹介、インターンシップなどが挙げられます。

企業としては、「これが正解!」なのではなく、自社のニーズや能力・社風に合わせて、自社にあった採用ポートフォリオを構築する必要がありますが、その中で重要なパーツとなるのが以下に述べるインターンシップです。

インターンシップという概念はこれまで多様な意味合いで用いられていましたが、政府も(法的根拠や拘束力は別として)これを整理する試みをしているようです。学生等に企業のことをより良く知ってもらい、好きになってもらう体験という意味でも、企業から採用選考に用いるという意味でも、インターンシップの重要性は今後増していくと解されます。

そこで、以下では、政府によるインターンシップ概念の整理や基本的考え方を解説した上で、法的にこれらがどこまで遵守すべきことなのか、企業実務としては何に留意すべきかについて解説します。

インターンシップに関する三省合意の改正経緯

大前提として、インターンシップに関する法律上の定義やこれを規制する法律は存在しません。もっとも、従前「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(文部科学省・厚生労働省・経済産業省。平成27年最終改正、以下、「三省合意」)において、インターンシップは「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義され、そこで取得した学生情報を広報活動や採用選考活動に使用してはならないとされていました。

その後、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」(以下、「産学協議会」)が、令和4年4月に公表した採用と大学教育の未来に関する産学協議会 2021年度報告書「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」(以下、「21年報告書」)において、インターンシップについて新たな定義を定めるとともに、一定の基準に準拠するインターンシップで得られた学生情報については、その情報を採用活動開始後に活用可能とすることで産学が合意に至ったとし、三省合意の早急な見直し要望が上がることとなりました。

そこで、令和4年6月に、経済産業省、文部科学省及び厚生労働省の三省は、「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」(以下、「三省合意」)を改正するに至ったというのがインターンシップを巡る最近の動向だ。

つまり、何ら法律的根拠に基づくわけではないものの、一応、政府としてインターンシップ概念やその内容を整理しようと試みているため、まずはその内容を解説した上で、企業対応を探るのが本稿の趣旨です。

三省合意によるインターンシップ概念の整理

三省合意は、学生のキャリア支援に係る産学協働の取組を4類型に整理(以下、4類型をまとめて「インターンシップ等」)した上で、タイプ3・4のみが「インターンシップ」であるとしているようです(ただし、後述のように、企業によって、体験会や職場見学などを「インターンシップ」と表記することが法的に妨げられる訳ではないと筆者は考えています)。

【学生のキャリア形成支援に係る産学協働の取組の四つの類型】

タイプ1 オープン・カンパニー
タイプ2 キャリア教育
タイプ3 汎用型能力・専門活用型インターンシップ
タイプ4 高度専門型インターンシップ(試行)

三者合意による、新たなインターンシップの定義は「学生がその仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に、自らの専攻を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(企業の実務を経験すること)を行う活動(但し、学生の学修段階に応じて具体的内容は異なる)」とされました。
そして、タイプ1及びタイプ2(教育・体験型)のうち、従来「インターンシップ」と称されていたものが、今回の産学協議会の定義では、インターンシップとは称されないこととなります。
また、タイプ4のうち博士課程におけるジョブ型研究インターンシップは、令和3年度より先行的・試行的取組として大学院生を対象に長期かつ有給の研究インターンシップが実施されています。
(参考)ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)実施方針(ガイドライン)

【「インターンシップ等」4類型】※狭義の「インターンシップ」はタイプ3・4との整理

経団連「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」

【各タイプにおける特徴】

経団連「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」

タイプ1:オープンカンパニー

タイプ1のオープンカンパニーは個社・業界の情報提供・PRを目的としたキャリア形成支援プログラムであり、主に、企業・就職情報会社や大学キャリアセンターが主催するイベント・説明会が想定されています。タイプ1は、情報提供が目的であり、基本的に就業体験を伴わないことから、大人数の学生を対象に、超短期(単日)で実施されるのが基本となります。
この点、21年報告書では、「本プログラムの目的は、学生が自らのキャリアを考えるための『個社・業界の情報提供・PR』であり、採用に関する情報提供や採用エントリーを促す活動ではない。従って、企業は本プログラムで取得した学生情報を採用活動に活用することは認められない」との立場でしたが、各社がどのような目的で「オープンカンパニー」を開くかは法律上特に制限されておらず、例えば、オープンカンパニー中にずっと寝ていた者が特定できた場合、採用選考における査定に影響することは差し支えないと筆者は考えます(ただし、参加要領などで、本プログラムは採用選考に用いられる場合がある、等の記載は必要でしょう)。

タイプ2:キャリア教育

タイプ2「キャリア教育」は、「教育」を目的としたキャリア形成支援プログラムです。タイプ2には、大学が単独あるいは企業と協働して、正課(授業)あるいは正課外(産学協働プログラム等)として行う場合や、企業がCSRの一環として行う場合が想定されています。タイプ2はキャリア教育が目的であり、学士・修士・博士課程の全期間(年次不問)で設定可能ですが、企業が主催する場合は、学業との両立への配慮が必要であり、長期休暇期間中や平日の夕方・夜間、週末に実施することや、オンデマンドによる動画配信などオンラインを活用するなどの工夫が不可欠とされています(就業体験を行うか否かは任意です)。
この点、21年報告書では、「本プログラムの目的はあくまで『教育』であり、学生・企業ともに、本プログラムで就職・採用を決めるものではなく、企業は、本プログラムで取得した学生情報を採用活動に活用することは認められない」とされており、確かに、タイプ2はあくまで「教育」が主目的であるため、結論には首肯できます。

タイプ3「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」

タイプ3「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」は、しっかりとした就業体験を行うことを通じて、学生にとっては自らの能力を見極めること、企業にとっては採用選考を視野に入れた評価材料を取得することを目的として行うものです。企業が単独で行う場合に加えて、大学が個別企業と協働、あるいは地域コンソーシアムを活用して行う場合も想定されており、学生の適性や汎用的能力を重視するインターンシップ(汎用的能力活用型)と、専門性を重視するインターンシップ(専門活用型)の2種類があります。
この点、21年報告書では、タイプ3のインターンシップ(汎用的能力活用型・専門活用型の双方を含む)に関して、5つの要件からなる基準を定めることとされ、これを満たしたインターンシップは学生情報を採用活動に活用可能(主な活用例として、①学生の連絡先を活用し、採用活動へのエントリーに関する案内を送付することや、②学生の総合評価を活用して採用選考プロセスの一部を省略することなどが挙げられる。)とされています(繰り返しですが、これは21年報告書及び三者合意の立場であって、個別企業が下記5要件を満たさないインターンシップで得られた学生情報について採用活動に用いたとしても、法的なサンクションは発生しないことは確認しておきましょう)。

【(タイプ3)インターンシップの5要件からなる基準】

①就業体験要件
学生・企業が互いへの理解を深められるよう、しっかりと就業体験を行う必要があるため、学生の参加期間の半分を超える日数を職場で就業体験を行う必要がある。
②実施期間要件
学生の参加期間(所要日数)は、汎用的能力活用型では短期(5日間以上)、専門活用型では長期(2週間以上)
③指導要件
さらに、就業体験を実施するにあたり、職場の社員が学生を指導し、インターンシップ終了後にフィードバックすることが必要となる。
(なお、就業体験は無給が基本であり、社員と同じ業務・働き方を求められるものではないが、実態として社員と同じ業務・働き方となる場合は、労働関係法令の適用を受けることになるため、雇用契約を締結した上で、有給とすることが求められます)
④実施時期要件
プログラムの実施にあたり、学業との両立に配慮しなければならず、学部3年・4年ないし修士1年・2年の長期休暇期間に実施する必要がある(ただし、大学正課および博士課程で行う場合は除く)
⑤情報開示要件
学生に対して、インターンシップの意図・狙い等を的確に伝えるため、インターンシップの募集要項等において、以下の情報開示をホームページ等(大学が主導する場合は(ⅰ)~(ⅷ)を公開)で行うこと

【情報開示すべき事項】

(ⅰ)プログラムの趣旨(目的)
(ⅱ)実施時期・期間、場所、募集人数、選抜方法、無給/有給等
(ⅲ)就業体験の内容(受入れ職場に関する情報や事前学習・事後学習を合わせたプログラム全体の概要を含む)
(ⅳ)就業体験を行う際に必要な(求められる)能力
(ⅴ)インターンシップにおけるフィードバック
(ⅵ)採用活動開始以降に限り、インターンシップを通じて取得した学生情報を活用する旨(具体的な活用の内容も記載することが望ましい)
(ⅶ)当該年度のインターンシップ実施計画(時期・回数・規模等)
(ⅷ)インターンシップ実施に係る実績概要(過去2~3年程度)
(ⅸ)採用選考活動等の実績概要

兵庫労働局「令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります」

タイプ4(試行)「高度専門型インターンシップ」

タイプ4「高度専門型インターンシップ」は、しっかりとした就業体験を行うことを通じて、学生にとっては自らの専門性に関する実践力の向上を図ること、企業にとっては採用にあたっての評価材料を取得することを目的として行うものです。
現在、このタイプに該当するプログラムとしては、
〔A〕ジョブ型研究インターンシップ(理系・博士対象)
〔B〕高度な専門性を重視した修士課程学生向けインターンシップ(主に文系対象)(仮称)
の2種類が想定されています。
〔A〕は、2021 年度から文部科学省を中心に先行的・試行的に実施されており、〔B〕は、2021 年1月の私立大学団体連合会(以下、私大団連)からの提案を受け、2021年度に産学協議会のワーキング・グループで検討を行い、2022 年度にさらに検討を深めて、パイロット実施を目指す予定とされています。
タイプ4はいずれも、職場でよりしっかりとした就業体験を行うことが必須であり、企業はインターンシップを通じて取得した学生情報について、採用活動開始以降に限って使用可能です(繰り返しだが、あくまで政府としてそのように考えているだけであり、法的拘束力はない)。(ただし、〔A〕については文部科学省が提示する実施要領を参照)。
(参考)ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)当面の対応について
(参考)ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)実施方針(ガイドライン)

続きはこちら▼
第2回「インターンシップを人材育成につなげる インターンシップの意義について詳しく解説」
第3回「インターンシップを実施する際の留意点とは 労働者性有無による2分類について詳しく解説」


倉重公太朗(弁護士)

KKM法律事務所 代表弁護士/KKM法律事務所 代表弁護士。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、人事労務担当者・社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超え、近著は『HRテクノロジーで人事が変わる』(労務行政 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料が上がらないのか』(労働調査会 著者代表)等。
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KKM法律事務所 代表弁護士/KKM法律事務所 代表弁護士。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、人事労務担当者・社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超え、近著は『HRテクノロジーで人事が変わる』(労務行政 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料が上がらないのか』(労働調査会 著者代表)等。

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