新入社員が入社して2カ月が経過し、今はOJT(職場内教育)の最中である。しかし、近年は早期離職による転職など若手人材の定着が大きな課題になっているが、 OJTのやり方を少しでも間違うと、離職の引き金になってしまう可能性もある。本稿では、2024年度の新入社員の特徴と適切な育成方法や接し方について解説する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部)
2024年度新入社員は「セレクト上手な新NISAタイプ」
最近の新入社員の働くことや仕事に対する価値観は以前と大きく変わっている。
産労総合研究所が発表した2024年度の新入社員のタイプは「セレクト上手な新NISAタイプ」と命名している。その特徴として「デジタルに慣れ親しんでいる一方で、対面コミュニケーションの経験に乏しく、『仲間』以外の世代との距離感に戸惑う面もある。また、タイパを重視し、唯一の正解を求める傾向が年々増している」と分析している。
タイムパフォーマンス(時間対効果)に敏感な一方で、正解がないと不安でたまらないというのは、小難しい印象を受ける。「目標とする未来が定まれば、彼らは自分なりに情報を集め、『セレクト』して歩き始める」とも分析するが、今の会社に簡単に見切りをつけられては会社も困る。
新人研修は様変わり。経験から学ばせるのではなくまずはルールを教える
そこで大事になるのが新入社員研修や、配属先でのOJTにおける周囲の対応だ。最近の新入社員研修も以前とは大きく様変わりしている。
リクルートマネジメントソリューションズサービス統括部HRDサービス推進部トレーニングプログラム開発グループの武石美有紀研究員は「以前はとりあえずやらせて、何か失敗したら、どうして失敗したのかを考えさせてできるようにするという順番だった。しかし今の新人は『だったら先に言ってくれよ、どうして急にそうなるんだ』という思いが強い」
「今の新入社員研修では、まず一定のルールや基準をしっかり示したうえで、その基準に従ってやってくださいと言っている。できなかったとしたら、基準と照らし合わせてどこにギャップがあるのか、フィードバックも基準に則って伝える。そこが以前と大きく変わった点だ」と語る。
OJTも同様だ。リクルートマネジメントソリューションズサービス統括部HRDサービス推進部トレーニングプログラム開発グループの桑原正義主任研究員はOJTのポイントについてこう指摘する。
「なぜこの仕事をやることが大事なのかという意味を伝え、納得感をしっかりと本人に持たせる。OJT担当にぜひやっていただきたいのは目的を共有することと、もう1つは本人の個性を知ることだ。本人の持ち味を知らずして成長にはつなげられない」
「本人が大事にしていることと、仕事に関して『あなたはこういうことを大事にしているよね、将来はこうありたいと言っているよね、今の仕事は大変だけど、この仕事を通じてスキルアップにつながるかもしれないよ』と、本人にとってなるほどと思えるようなつなぎ方をすれば、決してやりたいことだけをやるのではなく、組織としてやってほしいこともやってもらえるようになると思う」
上司と部下でキャリア感に差
新入社員研修をはじめ企業研修を手がけるALLDIFFERENTの根本博之CLM(最高育成責任者)はマイクロOJTを推奨する。
「それこそ箸の上げ下げのレベルからしっかりと指導してあげるのがマイクロOJT。例えば議事録の書き方であれば、この項目はこの順番で書きなさいと細かく教えてあげる。上司の側は自分たちはそういうふうに教わっていなかっので、どうしてそこまでやらないといけないのかという声が管理職の研修では必ず出てくる。しかし、そうしなければ今の新人は何がわかっていて、何がわからないのかがわからず、育つ人は育ち、育たない人は育たないという状況になってしまう」
その背景には上司と新人とのキャリア感の違いもある。「昔と違い変化のスピードも異なり、10年かけて一人前という世界から場合によっては1年、あるいは3カ月で一人前になってもらわないといけない状況もある。もう1つは上司が考えるキャリアのスピード感が新入社員とでは違う。特に最近は早期にキャリア形成をしていきたいというマインドが非常に強い。それこそ1年経ったら一人前という意識を持っている。上司と新入社員の認識の違いからうまくいかないケースも発生している」(根本氏)
上司に求められるのは対話力と言語化力
問われるのは上司や先輩社員の対話力とマイクロOJT能力だ。とりわけ新人の本当の思いを引き出す対話力が重要になる。
仕事の指示をする前に、まず話をしてくれる関係を築くことだ。新人がちゃんと話をしてくれる状態にまで持っていくことでOJTもスタートする。そのためには質問力や対話力がないと難しい。
質問力や対話のコツはあるのか。
根本氏は「リーダーに求められるのは対話力と言語化力の2つであるが、管理職の言語化力、言葉にする力を高めていく必要がある。新入社員は何が不安なのかわからない漠然とした不安を抱えている。例えば何が不安なのかを管理職自身が考え、言葉にしてあげることだ」と語る。
しかし言葉にすることを難しく感じている管理職も多いという。そのため言語化力を高めるために管理職に「書く」ことを推奨している。
「ある企業では管理職と部下との1対1の面談に際して、どのような狙いで1on1を進めるのか、実際にやってみて部下の様子はどうだったのか、うまくいったこと、いかなかったことを文字にしてもらう。1カ月に1回必ず更新し、提出してもらっているが、最初はやはり言語化することは難しかった。これはどういうことかと管理職に繰り返し質問していくと、こんなふうに表現すればよいのかという引き出しが徐々に増えてくる」
対話力、言語化力はフィードバックの胆ともいえるが、実際に完璧にこなせる管理職は2割程度だと根本氏は言う。つまり8割の管理職は学び直しが必要ということだ。
感情を出すことはご法度、相互理解を深めることが大切
日本企業の管理職は対話力などのマネジメント力よりもパフォーマンスの善し悪しで昇進した人も多い。対話力が苦手な管理職だと、つい感情を表出し、やってはいけない言動を露呈する場合もある。
前出の桑原主任研究員は「その人の個性や人格を否定する発現は絶対にやっていけない。以前は新人や部下がミスを繰り返すと『親の顔が見たいわ』といった発言を普通していたが、今では完全にアウト。以前、新人に対し、言われて嫌だった言葉を調査したが、1位は『そんなことも知らないの』だった。特にビジネスマナー系では『そんなこともできないの』と『学校で習わなかったの』という言葉が出がちだが、注意したい」と語る。
新人の指導にイライラし、つい感情を表に出すと、パワハラと騒がれる前に転職してしまいかねない。働き方や価値観が異なる20代が企業内でも増えつつある。彼ら・彼女らと接するには自分たちと同質の人間だと思わないほうがやりやすいかもしれない。それこそD&Iではないが、互いに“異文化”の存在であることを前提とし、お互いの考え方など価値観に耳を傾け、相互の理解を深めることが重要だろう。