企業に求められるハラスメント対策~パワハラ・カスハラの実態

従業員が活躍しやすい環境をつくるために、様々なシーンで生じるハラスメント問題への対策を講じることも大切だ。では、具体的にどのような対策が必要なのだろうか。 今回は最初にハラスメントの基礎知識として、人事に関連するハラスメントの種類と調査結果を紹介する。そのうえで、実際企業で行われているハラスメントの対策事例とトラブル事例を日本人材ニュース編集部が解説する。(文:日本人材ニュース編集部

ハラスメント

ハラスメントの種類

人事に関連するハラスメントには、以下の種類がある。

【パワーハラスメント(パワハラ)】
優越的な関係を背景としており、なおかつ業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、労働者の就業環境が害されるもの。

【セクシャルハラスメント(セクハラ)】
性的な言動によって、労働者が労働条件で不利益を受けたり、就労環境が害されたりすること。

【マタニティ・ハラスメント(マタハラ)】
労働者の妊娠・出産・育児やそれに関する言動により、労働者の就労環境が害されること。それを理由に解雇・雇止めに遭うことも含まれる。(※労働者が男性の場合は、「パタニティハラスメント(パタハラ)」)

【ケアハラスメント(ケアハラ)】
介護休業の取得や、それに関連する言動により、労働者の就労環境が害されること。

【就活ハラスメント(就活ハラ)】
インターンシップや就職活動中の学生等に対するパワーハラスメントやセクシャルハラスメント。

【モラルハラスメント(モラハラ)】
言葉や態度で相手の人格・尊厳を傷つけるもの。仕事におけるポジション・立場は関係ない。先述のパワハラもモラハラの一種。

【カスタマーハラスメント(カスハラ)】
お客様などからの言動・クレームのうち、その内容や要求の妥当性や、その要求を実現するための態様・手段が社会通念上不相当であり、その要求や対応によって労働者の就業環境が害されるもの。

調査結果から見る近年のハラスメント実態

続いて、近年の企業で起きているハラスメントの実態を見ていこう。

PwC コンサルティング合同会社がまとめた「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、過去3年間でハラスメント相談が最も多かったハラスメントの種類は「パワハラ」であることが分かっている。

「パワハラに関する相談がある」と答えた企業は64.2%であり、そこからセクハラ(39.6%)、顧客等からの著しい迷惑行為(27.9%)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(10.2%)、介護休業等ハラスメント(3.9%)の順となっている。

また、昨今特に被害が目立っているのは「カスハラ」だ。帝国データバンクの調査によると、直近1年以内に自社もしくは自社の従業員がカスハラや不当な要求などを受けたことが「ある」と答えた企業の割合は、15.7%にのぼった。

業種別にみるとトップが「小売(34.1%)」、「金融(30.1%)」、「不動産(23.8%)」、「サービス(20.2%)」となっており、主に個人との取引が多い業種が比較的高い割合であることが判明した。一方で、企業間での取引が多い「製造」「運輸・倉庫」「卸売」などは全体平均を下回った形だ。

なお、労務行政研究所が「人材育成・教育研修に関するアンケート」によると、2020年以降におけるテーマ別研修の実施状況において、ハラスメント研修を実施する企業が81.8%と最多であることがわかっている。

(出所)令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(PwC コンサルティング合同会社)

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大手企業のハラスメント対策事例

各企業では、自社の従業員をハラスメント被害から守るために、さまざまな対策を実施している。ここでは、大手企業5社の対策事例を紹介しよう。

企業名取り組み概要
SUBARUグループハラスメント相談を国内孫会社まで拡充・グループ会社を含めた全社員が相談できる「ハラスメント相談窓口」「コンプライアンス・ホットライン」を社内外に常設
・英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語の4言語に対応
・2022年10月より、個人秘匿性の高いWeb相談も開始
積水ハウスヒューマンリレーション向上に向けた取り組み・従業員一人一人の人権を守り、社内のより良い人間関係について考える目的で、「法務部ヒューマンリレーション室」を設置
・全従業員向けに「ヒューマンリレーション研修」を実施
トヨタ自動車パワハラ行為の撲滅を目指す取り組み・パワハラに対する厳格な姿勢を就業規則に反映
・すべての基幹職・幹部職を対象に、パワハラ防止教育を実施
・マネジメント層では、人間力のある人材や周囲に好影響を与える人材を今まで以上に高評価
・職場相談員の設置 など
みずほ銀行社員向け相談窓口の設置・社員向けに、みずほ人権ヘルプライン、コンプライアンス・ホットライン、社員相談室などを設置
・みずほ人権ヘルプラインでは、障がいのある社員の合理的配慮やハラスメントの社内相談を受け付けている
・グループ会社等に出向する社員や派遣スタッフなども対象
東京ガス人権尊重に向けた取り組み・「元気の出る職場づくり」を目標とし、従業員の人権感覚のブラッシュアップにつながる各種研修の実施
・コンプライアンス意識調査を通じた、潜在リスクの洗い出し
・コンプライアンス相談窓口を通じた課題対応
・コンプライアンス推進担当者向けの研修実施 など

パワハラによる企業トラブル事例

パワハラを受けた従業員が労働基準監督署に相談をした場合、企業にとって大きなダメージになることがある。一つの事例を見ていこう。

生花販売・フラワーアレンジメント業を営むある企業で、花のモニュメントなどに使用する木工細工が得意なAさんを採用した。このAさんには業界経験がなかった。

当初のAさんは、自分の得意分野を活かし社内での評判も上々だった。ところが、業務範囲をひろげて次のステップに上がってもらおうとしたあたりから、雲行きが怪しくなっていく。

たとえば、その業界で週6日労働が常態化するなかで、週休2日を主張してきた。ただ、この週休2日は法律的に問題ない。それから自分で勝手に週休1日を設定し上司の許可なく休むようになったり、自分が得意な木工細工づくりに固執することで上司の指示を拒んだりも多くなっていった

ある日、上司が仕事の姿勢を諭すべく話をしていたところ、日頃のAさんに不満や違和感を覚えていた複数の同僚が「自分勝手な主張をするお前とは一緒に働けない」「会社をいますぐ辞めろ」などの罵声を浴びせかけた。Aさんは顔色を変えて会社を立ち去り、その後もう出社することはなかった。

それからしばらく経ったある日、その会社に労働基準監督署の臨検が入った。結果、Aさんへの労災認定(パワハラ)と過去2年分の未払残業代の精算をすることをもって、Aさんは会社都合扱いの退職となった。

このように、不満が蓄積した同僚による1度の罵声でも、パワーハラスメント6類型の「精神的な攻撃」に該当すると判断され、企業にとって大きなダメージに発展することもある。

こうしたパワハラやそれに伴うトラブルを防ぐためには、企業内でパワハラ防止に向けた社内研修を行なうなどの対策が必要だ。

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今の時代、ハラスメント対策は必須

ハラスメント防止に向けた対策は、従業員の人権を守り活躍しやすい環境をつくるとともに、会社の信頼を失墜させるようなトラブルを防ぐうえでも非常に大切なものとなる。現時点で対策が行われていない場合、社内研修の実施や相談窓口の設置などから対策の導入を検討してみたほうがよいだろう。

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