2025年問題とは?企業への影響と人事部門が取り組むべき対策

2025年問題とは超高齢化社会によって生じるさまざまな問題の総称であり、「2025年の崖」とも呼ばれる。この社会課題は企業経営に大きな影響を与え、人事部門にとっても取り組むべき重要な対策が求められている。

この記事では、2025年問題が企業に与える具体的な影響を整理し、特に人事部門が今から準備すべき実践的な対策について解説する。(文:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

2025年問題とは

2025年問題とは、1947年から1949年生まれの「団塊の世代」が全て75歳以上となることで生じる社会的課題の総称である。

厚生労働省の推計によると、2025年には75歳以上人口が全人口の18.1%を占める2,180万人に達する見込みだ。これにより、医療・介護需要の急増、社会保障費の膨張、労働力人口の減少など、日本社会全体に大きな影響を及ぼすことが予測されている。

(出所)総務省統計局「1.高齢者の人口

「2025年の崖」とは

2025年の崖とは、経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート」内で提起された言葉で、「DX推進による経営改革が行われないと、2025年以降、最大12兆円/年(2018年度比:約3倍)の経済損失が生じる可能性がある」と指摘されている。

DXレポートの公表から7年が経過した2025年現在、特にIT人材の不足は深刻な問題となっている。

人材サービス大手パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」が発表した2025年1月の「転職求人倍率」を見てみると、「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率は12.77倍と人手不足であることが分かる。

また、同社がまとめた「転職市場予測2025上半期」によると、IT・通信業界では、DX推進に加え、「2025年の崖」問題への対応が急務となっており、システムの老朽化が進む一方で、基幹システムのIT技術者が定年退職を迎えることから、エンジニア職の需要が一層高まると予測されている。

2030年問題・2040年問題との違い

2025年問題に加えて、日本社会は「2030年問題」や「2040年問題」といった中長期的な課題にも直面している。これらの問題の特徴と違いを理解することは、企業の人事戦略を立案する上で重要な視点となる。

2030年問題とは、1971年から1974年に生まれた「団塊ジュニア世代」が65歳以上の高齢者となることで生じる社会的課題を指す。約800万人といわれる団塊ジュニア世代が一斉に定年退職年齢を迎えることで、年金制度への圧力が増大する。また、経験豊富な中核人材の大量退職による企業の技術・ノウハウ継承の課題や、大量の空き家発生といった不動産市場への影響も懸念されている。

2040年問題とは、日本の高齢者人口がピークを迎え、人口減少と超高齢化が最も深刻化する時期に直面する社会課題を指す。2040年には65歳以上の高齢者人口が約3,900万人でピークを迎え、総人口の約35%を占めると予測されている。生産年齢人口は約5,978万人まで減少し、総人口の約53%にまで低下する見込みだ。社会保障制度の持続可能性が危機に瀕し、多くの自治体が存続の危機に直面するとされている。

2025年問題・2030年問題・2040年問題の違い

2025年問題2030年問題2040年問題
主な要因団塊世代が75歳以上に団塊ジュニア世代が65歳以上に高齢者人口がピークに到達
中心課題医療・介護需要の急増年金制度の持続可能性社会保障制度全体の崩壊リスク
労働市場への影響人材不足の深刻化と介護離職の増加経験豊富な中核人材の大量退職生産年齢人口が総人口の約53%まで減少
企業経営への課題人件費高騰とDX推進(2025年の崖)技術・ノウハウ継承の断絶高度自動化・AI活用の必須化
対応の時間軸1-2年以内5年程度15年以上

2025年問題が企業に与える主な影響

2025年問題は企業経営に多面的な影響を及ぼし、特に人事部門に大きな課題をもたらす。ここでは、企業が直面する4つの主要な影響について解説する。

深刻な人材不足の加速

パーソル総合研究所の推計によると、2025年には約580万人の労働力が不足すると予測されている。この深刻な人材不足の背景には、生産年齢人口の継続的な減少がある。

さらに、団塊世代の介護ニーズの高まりに伴い、現役世代の介護離職も増加すると予測されている。

政府はこの対策の1つとして、2025年4月に「改正育児・介護休業法」の施行を予定している。改正法では、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化を目的に、介護休業の制度や仕事と介護の両立支援制度に関わる周知浸透や利用促進、雇用環境の整備を事業主に義務付けている。

採用コストの高騰

労働市場の需給逼迫により、企業の採用コストは急上昇している。若手人材の確保では、求人倍率上昇に伴い採用単価が前年比15〜20%増加、経験者採用市場でも競争激化により、紹介手数料は年収の35%を超えるケースも増加している。

さらに、早期離職リスク対策としてのオンボーディングや研修強化も必須となり、人材獲得から定着までの総コストは従来の1.5倍以上に拡大している。特にデジタル人材やグローバル人材の確保では、長期化する採用活動による機会損失も企業経営に大きな影響を与えている。

社会保険料負担の増大

高齢者医療費や介護費の増加により、企業の社会保障費用は今後も継続的に上昇する見込みである。 これは企業の人件費コスト全体を押し上げる要因となり、特に労働集約型の企業では大きな経営圧力となる。

さらに、社会保険料の負担増加は、実質的な手取り給与の減少につながり、従業員の満足度やモチベーションにも影響を与える可能性がある。人事部門には、こうした状況下でも従業員のエンゲージメントを維持・向上させる施策の立案が求められる。

ビジネスモデルの転換

高齢化の進展は、企業のビジネスモデルにも大きな変革を迫ることになる。シニア市場の拡大により、製品やサービスの見直しが必要となる一方で、労働集約型のビジネスモデルは維持が困難になっていく。

多くの企業では、人手不足を補うためのRPAの導入やDXの必要性が一層高まることが予想される。この変革に対応できない企業は、市場での競争力を急速に失っていく可能性が高い。

2025年問題に対して人事が取り組むべき対策

ここからは、2025年問題に対して人事が取り組むべき対策について解説していく。

社内IT人材の現状把握と分析

まずは全社的な人材の現状把握から始めることが重要で、

特にIT人材については、年齢構成やスキルレベルの詳細な分析を通じて、自社の強みと課題を明確にする必要がある。この際、単なるスキルの棚卸しだけでなく、デジタル活用度や新技術への適応能力なども評価項目に含めることが望ましい。

具体的なアクションとしては以下が挙げられる:

・IT人材マップの作成(スキル・経験・年齢構成の可視化)
・デジタルリテラシーアセスメントの実施
・退職リスクの高い重要人材の特定
・中長期的な人材需給ギャップの予測

この分析により、次のステップであるデジタル人材の採用・育成計画の基礎データとなる。また、経営層に対して人材リスクを可視化し、必要な投資の根拠を示す材料にもなる。

デジタル人材の戦略的採用・育成計画

人材の需給ギャップを埋めるための具体的な行動計画の策定が求められる。外部からの採用と内部人材の育成のバランスを考慮しながら、中期的な人材ポートフォリオを設計する。

特に、デジタル人材の育成においては、座学だけでなく実践的なプロジェクト経験を組み込んだ育成プログラムの設計が効果的だ。近年では、短期集中型のデジタルブートキャンプやリスキリングプログラムの導入も増えている。

世代間技術継承の仕組み構築

技術やノウハウの継承は、組織的に取り組むべき重要課題である。ベテラン社員が持つ暗黙知を若手に確実に引き継ぐため、体系的な技術継承プログラムの構築が必要だ。

具体的な施策としては、以下が有効である:

・メンタリング・逆メンタリングプログラムの導入
・クロストレーニングや部門間ローテーションの促進
・技術・業務マニュアルのデジタル化と整備
・ナレッジ共有プラットフォームの構築

処遇制度とジョブ型雇用の再設計

特にデジタル人材については、市場価値に見合った報酬体系の整備が急務だ。

ジョブ型雇用の導入も重要な検討課題である。職務内容と必要スキルを明確にすることで、中途採用の促進や適材適所の人材配置が実現できる。ただし、ジョブ型雇用の導入は、単なる制度変更ではなく、評価制度や組織文化の変革を伴う大きな取り組みである点に注意が必要だ。

具体的には以下の施策が考えられる:

・市場価値に基づくジョブ型報酬制度の設計
・スキル・成果に連動した評価制度の整備
・柔軟な働き方を支援する制度の拡充
・多様なキャリアパスの設計と可視化

投資対効果を可視化する

人材投資の効果を適切に測定・分析することは、継続的な投資を確保する上で極めて重要で、定量的なKPIを設定し、投資効果を可視化する仕組みを構築する必要がある。

具体的には以下の施策が考えられる:

・生産性の向上(一人当たり売上高、利益貢献度など)
・業務効率の改善(工数削減率、自動化率など)
・人材定着率の変化(退職率、エンゲージメントスコアなど)
・デジタルスキルの向上度(スキルアセスメントの変化など)

まとめ:2025年に向けた人事戦略

2025年問題は、日本企業に大きな影響を与える構造的な課題であり、特に人材面での対応は企業の持続可能性を左右する重要な要素となる。

人事部門には、単なる対応策の実行だけでなく、企業の経営戦略と連動した人材戦略の立案・推進が求められている。具体的には、以下のアクションが重要である:

現状把握と課題の可視化
自社の人材状況と直面するリスクを定量的に把握し、経営層と共有する
優先順位を明確にした行動計画
限られたリソースの中で最大の効果を生む施策を優先的に実施する
組織全体を巻き込んだ取り組み
人事部門だけでなく、各事業部や現場を含めた全社的な取り組みとして推進する
外部リソースの効果的活用
政府の支援策や外部専門家の知見を積極的に取り入れる

2025年問題は避けられない構造的な課題だが、適切な対策を早期に講じることで、ピンチをチャンスに変えることも可能である。人事部門がリーダーシップを発揮し、企業の持続的成長を支える戦略的パートナーとしての役割を果たすことが、今まさに求められている。

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