OKRとは?KPIやMBOとの違いやメリット・デメリット、効果的な運用方法を解説

様々な組織で採用されている目標管理フレームワーク・OKRは、Objective(目標)とKey Results(主要な成果)を組み合わせることで、組織の方向性を明確にし、測定可能な成果を追求できる。本記事では、従来の目標管理手法であるKPIやMBOとの違い、OKR導入によるメリットやデメリット、そして効果的な運用方法を解説する。(文:日本人材ニュース編集部

OKRとは?

OKRは「Objective and Key Results」の略称であり、定性的な目標を定め、それに紐づく具体的な成果指標を設定するマネジメント手法である。組織やチーム・個人が挑戦的でありながら実現可能な未来に向けたゴールを策定することに重点を置いている。

OKRの導入により、組織内のアライメントとコラボレーションが強化され、社員一人ひとりが組織の成功への貢献を実感できる環境が構築される。

このフレームワークの浸透には一定の時間と労力を要するものの、社員のエンゲージメント向上、主体性の醸成、部門間連携の活性化といった大きな組織的メリットをもたらす。

OKRが開発された経緯

OKRは、インテル元CEOのアンドリュー・グローブ氏が提唱したIMBO(Intel Management by Objectives)にある。IMBOは、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーが体系化したMBO(目標管理制度)をインテル社の企業文化に適合させた変形版である。

インテルは当時、半導体市場での圧倒的なポジションを確立していたが、競合他社の台頭により経営危機に直面した。この危機を打開するために、同社は戦略転換を図り、その実行ツールとして活用されたのがIMBOであった。

IMBOの特徴は、従来のMBOに見られた管理主義的側面を緩和し、目標設定と進捗確認により重点を置いた点にある。これにより、急速に変化する競争環境下でも組織が目標に向かって機敏に対応できる仕組みを構築したのである。

このIMBOは約30年間、インテル社内で活用され続けた後、1999年に創業したGoogleによって「OKR」と名称を変え、同社の急成長を支える経営ツールとして採用された。Googleの成功事例をきっかけに、OKRは世界中の企業に広く認知されるマネジメント手法へと発展したのである。

OKRと他の目標管理手法との違い

OKRと頻繁に比較される目標管理手法として「KPI」と「MBO」が挙げられる。これらは広く普及しているマネジメント手法だが、それぞれ設計思想や運用方法に特徴がある。以下、OKRとの主要な相違点について解説する。

KPI

KPI(Key Performance Indicator)は業績評価指標を意味し、事業活動の成果を定量的に測定するための指標である。KPIの活用により、事業や業務の進捗状況を客観的に把握し、業績改善に向けた施策の効果測定が可能となる。

代表的なKPI指標としては、営業部門であれば受注率や商談成約数、生産部門では稼働率や不良品率などが挙げられる。KPIは業績管理において不可欠な要素であり、目標設定の基盤を形成する重要な指標といえる。

OKRがKPIと比較して優位性を持つ点は、未来志向の目的・目標設定にある。OKRは比較的短期的な目標(通常は四半期単位)を設定し、その実現に向けて重要な成果指標を明確化する。

さらに、OKRでは週次の進捗確認ミーティングを通じて、目標への貢献度を共有・評価する仕組みを持つ。この定期的なコミュニケーションが、メンバーの組織貢献の実感につながる点は、OKRの大きな強みである。

MBO

MBO(Management by Objectives)は「目標による管理」と訳され、業績管理と人事評価・報酬を連動させる目標設定手法である。業績と評価・報酬の連携により、社員は自らの業務に意義を見出し、主体的に職務に取り組むモチベーションが生まれる。

大手銀行、セブン-イレブン・ジャパン、楽天グループで人事部長などを歴任してきた渡部昭彦氏によれば、MBOは極力定量化することにより評価者の恣意性や主観を排除して客観性を実現することに主眼があり、人事制度の技術面からみると、MBO評価はボーナスに反映するのが一般的だという。

対して、OKRは基本的に評価制度とは切り離されており、挑戦的な目標設定と率直なフィードバックを促進する環境づくりに重点を置いている。OKRがMBOに対して優位性を持つのは、定性的かつ挑戦的なゴール設定にある。OKRでは、社員の意欲を高める刺激的なゴールを設定することで、組織への貢献意欲や帰属意識の向上、チーム内の協働関係の強化を図る。このような「ストレッチゴール」の設定は、イノベーションを促進し、組織の成長を加速させる効果を持つのである。

OKR・KPI・MBOのそれぞれの違い

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OKRの構成要素と具体例

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OKRは「Objective(目標)」と「Key Results(主要な成果)」の2つの要素から構成されている。1つの目標に対して複数の主要な成果を設定することで、組織が目指すべき方向性とその達成度を明確に可視化する仕組みである。

Objective(目標)

Objectiveは組織が目指すべき定性的かつ野心的な目標を表す。この目標設定は、単なる数値目標ではなく、社員がワクワクするような意欲的な方向性を示すことが重要である。また、全社目標からチーム目標、個人目標まで一貫性を持って連携していることが求められる。

Objectiveを設定する際には、以下の3つの要素を満たすことが望ましい:

・意欲的で挑戦的であること
・定性的な表現であること(定量的な内容はKey Resultsで表現)
・期限が明確であること(四半期単位が一般的)

Objectiveは達成確率60~70%程度の高い目標設定が理想的である。容易に達成できる目標では組織の成長が促されず、逆に達成不可能な目標では社員のモチベーション低下を招く恐れがある。

Key Results(主要な成果)

Key Resultsは、Objectiveの達成度を測定するための具体的な指標である。定量的かつ客観的に測定可能な形で設定し、目標達成のための進捗状況を明確に把握できるようにする。

効果的なKey Resultsの設定ポイント

・1つのObjectiveに対して2~5個程度設定する
・「いつまでに」「どのくらい」という時間軸と数値を明確にする
・客観的に測定可能な指標とする
・自分の努力で達成できる範囲内に設定する

Key Resultsを通じて目標への進捗状況を定期的に確認することで、必要に応じて軌道修正を行うことが可能となる。また、具体的な数値指標を設定することで、チームメンバー全員が同じ方向を向いて取り組むための共通言語となる。

OKRのメリット・デメリット

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OKRを導入する際には、その効果と課題を十分に理解し、自社の状況に適した運用方法を検討することが重要である。ここでは、OKRを実践する上での主要なメリットとデメリットを詳細に解説する。

OKRを導入する3つのメリット

目標が明確でコミットメントが高まる

OKRの最大のメリットは、組織・チーム・個人レベルでの目標が明確になり、社員のコミットメントが高まる点である。特に大規模組織においては、全社的な方向性と個人の業務との関連性が見えづらくなりがちだが、OKRによってその連携が可視化される。

経営層の意思決定や組織の方向性が全社員に共有されることで、日々の業務がどのように組織目標に貢献しているかを実感できるようになる。これにより、社員の主体性や当事者意識が向上し、チーム全体の一体感が醸成される。

アクセンチュアの人材・組織コンサルティング部門責任者などを歴任したアジャイルHRの松丘啓司代表取締役社長の著書『エンゲージメントを高める会社 人的資本経営におけるパフォーマンスマネジメント』では、OKRをはじめとしたマネジメント方法や、実際の企業での実践経験に基づいた解説などを紹介している。

短期サイクルでの検証と修正が可能

OKRは通常、四半期ごとなど比較的短期間で設定・評価されるため、環境変化に柔軟に対応できる。年次評価を基本とするMBOと異なり、OKRでは進捗状況をリアルタイムに把握し、必要に応じて目標や戦略を修正することが可能である。

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)が高まる現代のビジネス環境において、この柔軟性は極めて重要な要素となっている。四半期ごとに目標を見直すことで、市場環境の変化や顧客ニーズの変化に迅速に対応できる組織体制を構築できる。

組織の一体感と帰属意識が向上する

OKRの運用では週次ミーティングなどを通じて定期的な進捗確認と成果の共有が行われる。このコミュニケーションの頻度向上により、部門間の壁が低くなり、組織全体の一体感が醸成される。

具体的には、週初めのミーティングで目標の確認と課題の共有を行い、週末には進捗状況と成果を賞賛し合うといったサイクルを確立することで、チームの士気向上と組織への帰属意識強化につながる。こうした取り組みは特に、テレワークが増加し物理的なつながりが希薄化している現代の職場環境において重要性を増している。

OKRを導入する2つのデメリット

不適切な目標設定によるモチベーション低下リスク

OKRの効果は目標設定の質に大きく左右される。達成不可能な高すぎる目標や、逆に簡単すぎる目標を設定した場合、社員のモチベーションが低下する危険性がある。

理想的なOKRは「ストレッチゴール」と呼ばれる、通常の努力では達成が難しいが不可能ではない目標を設定することである。しかし、この適切なバランスを見極めるためには、経験と組織文化への深い理解が必要となる。特に日本企業においては、達成率70%程度の「ストレッチゴール」が評価に直結しないという点を理解してもらうための丁寧なコミュニケーションが欠かせない。

導入・定着までの時間と労力が必要

OKRの導入には相応の時間と労力が必要である。特に従来のMBOなど他の目標管理手法に慣れた組織では、概念の理解から運用方法の習得まで、十分な準備期間を設ける必要がある。

また、OKRの効果を最大化するためには、定期的な振り返りミーティングの実施や、目標の透明性確保など、従来の業務フローに加えて新たな取り組みが求められる。これらの活動を定着させるためには、経営層のコミットメントと継続的なフォローアップが不可欠である。

OKRの運用手順

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OKRを効果的に運用するためには、明確なプロセスと継続的な取り組みが不可欠である。ここでは、大企業における実践的なOKR運用の手順を解説する。

全社OKRの策定

OKR導入の第一歩は、経営層による全社的なOKRの策定である。この段階では、経営ビジョンや中期経営計画と連動した形で、組織全体が目指すべき方向性を明確に定義する。

全社OKRは以下の要件を満たすことが重要である。

・経営戦略と直結した内容であること
・達成率60~70%程度の挑戦的な目標(ムーンショット)であること
・全社員が理解できる明確な言葉で表現されていること
・測定可能なKey Resultsを伴っていること

    策定の際には、各部門の責任者を交えたワークショップを開催し、多角的な視点から検討することが望ましい。また、外部環境分析や競合分析に基づく戦略的な視点も重要である。

    部門OKRの設定

    全社OKRが確定したら、各部門はそれに連動する形で部門OKRを設定する。この際、トップダウンの一方的な押し付けではなく、部門メンバーとの対話を通じて策定することが重要である。

    部門OKRの設定ポイント

    ・全社OKRへの貢献が明確であること
    ・部門の特性や強みを活かした内容であること
    ・他部門との連携ポイントを意識すること
    ・部門長だけでなく、メンバーの意見も取り入れること

      部門間の連携が必要なObjectiveについては、関連部門との事前調整を行い、協力体制を構築することが成功の鍵となる。

      個人OKRの設定

      部門OKRに基づき、各社員は自身の個人OKRを設定する。個人OKRは、部門目標への貢献を明確にしつつ、個人の強みや成長目標も反映させるべきである。

      個人OKRの効果的な設定方法

      ・上司との1on1ミーティングを通じて擦り合わせを行う
      ・自身の担当業務と部門目標の接点を明確にする
      ・自己成長目標も1つは含める
      ・業務の優先順位付けにも活用する

      個人OKRの設定プロセスでは、社員のオーナーシップを尊重しつつ、上司がコーチングの姿勢でサポートすることが理想的である。

      定期的な進捗確認

      OKRの効果を最大化するためには、定期的な進捗確認が不可欠である。週次または隔週でのミーティングを通じて、目標に対する進捗状況を共有し、課題解決のための議論を行う。

      効果的な進捗確認ミーティングの運営方法

      ・15-30分程度の簡潔な時間設定
      ・各自の進捗状況を数値で可視化(達成率など)
      ・課題や障壁となっている要素の共有
      ・相互支援の機会創出

      進捗確認の場では、単なる報告に終わらせず、チーム全体で問題解決に取り組む文化を醸成することが重要である。また、成功事例や効果的なアプローチの共有も積極的に行うべきである。

      中間評価と軌道修正

      OKR期間(通常は四半期)の中間地点で、より詳細な評価と必要に応じた軌道修正を行う。目標設定時の想定と実態にギャップがある場合は、柔軟に対応することが大切である。

      中間評価における検討ポイント

      ・目標の達成可能性
      ・環境変化による優先順位の変更
      ・リソース配分の適切性
      ・連携体制の有効性

        特に重要なのは、目標そのものを下方修正するのではなく、目標達成のためのアプローチや戦術を見直すという視点である。ただし、明らかに達成不可能な状況や、戦略的優先順位が大きく変わった場合には、OKR自体の修正も検討する。

        期末評価とスコアリング

        OKR期間の終了時には、達成状況の最終評価とスコアリングを行う。評価は通常0〜1.0のスケールで行い、0.7〜0.8が理想的な達成度とされる。

        スコアリングのガイドライン

        ・0.3未満:大幅な未達成
        ・0.3〜0.7:部分的な達成
        ・0.7〜1.0:目標達成または超過達成

        評価結果は次期OKRの設定に活かし、継続的な改善サイクルを構築することが重要である。また、評価結果を人事評価と直接リンクさせないことで、チャレンジングな目標設定を促進する文化を醸成できる。

        プロッソの代表取締役社長で、採用戦略コンサルタントの牛久保潔氏による連載「初任者でも分かる!ワインバーで学ぶ目標管理と人事評価」では、OKRの具体的な運用方法についてストーリー形式で解説している。

        OKRは現代のビジネスに欠かせないマネジメント手法

        OKRは目標管理の枠を超えた組織変革ツールである。VUCA時代において、短期サイクルでの目標設定と進捗確認により、環境変化に迅速に対応できる。GoogleやIntelだけでなく国内大手企業への導入も拡大している。OKRは組織の方向性を明確にし、部門間の壁を越えた協働を促進することで、組織全体のアジリティと社員エンゲージメントを高める効果をもたらす。

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