多様な社員が活躍できる職場環境の整備を図る「ダイバーシティ&エクイティ推進活動」とインクルーシブな組織風土を醸成する「インクルージョン推進活動」に取り組む花王は、重点テーマの一つに「女性活躍推進」を位置付けている。女性社員のスキルやマインドを高め、より上位のポストに上がっていくためのパイプラインの拡大を目指す施策などについて、同社の人財戦略部門DE&I推進部の楠見菜都子氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

花王
楠見 菜都子 人財戦略部門 DE&I 推進部
事業概要を教えてください
当社は「ハイジーンリビングケア」「ヘルスビューティケア」「化粧品」「ビジネスコネクティッド」の4つの分野で、生活者向けグローバルコンシューマーケア事業を展開しています。また、ケミカル事業においては、産業界のニーズにきめ細かく対応した製品を幅広く展開しています。
人材戦略について教えてください
当社は経営戦略に連動して人財戦略を位置付けています。2023年8月に発表した中期経営計画「K27」のビジョン「未来のいのちを守る Sustainability as the only path」の実現に向けた基本方針のひとつとして、「社員活力の最大化」を掲げています。
人財・組織を活性化することによって、「よきモノづくり」を推進し、事業への変革につなげる。それによって得られた財務インパクトを人財開発に循環していく。このサイクルを回すことで、企業価値向上をめざしています。
「社員活力の最大化」に向けてベースとなるのが、すべての社員に対する公平な機会の提供です。その上で、意欲ある人財に機会を提供したり、権限の委譲を行い、意思決定をスピーディーにし、組織を変えていくなどを行いながら、挑戦成果をしっかりと承認して報いるサイクルを回していきます。
すべての社員が意欲を持って手を挙げられるような環境を作り上げていくための一つに位置付けられるのがDE&I推進活動です。花王グループでは、社員一人一人が互いを受け止め、共生する多様性を強みとすることを目指しています。
具体的には、組織の認知的多様性を高めるために、多様な社員が活躍できる職場環境の整備を図る「ダイバーシティ&エクイティ推進活動」とインクルーシブな組織風土を醸成する「インクルージョン推進活動」の二つに大別しています。その中の重点テーマの一つに位置付けられるのが、「女性活躍推進」です。

「女性活躍推進」に取り組む理由を教えてください
ダイバーシティが、イノベーションには不可欠となると考えているからです。新たな発想でイノベーションを起こすためには、均質化した組織ではなく多様性に溢れる組織であることが大切です。
そうした中、最も多くの人財に関わるダイバーシティ要素として、世の中の約半数を占める女性を活かすことは、花王の成長に不可欠であると考えています。そうした背景があり、改めて女性活躍推進に力を入れて取り組んでいます。
「女性活躍推進」の方針と重点アクションを教えてください
女性の活躍は花王の成長に不可欠という考えのもと、「すべての社員が思い込み(性別役割分業意識や、リーダー像に関する意識)を超えて、個人の意欲と能力が十分に発揮され、自分らしく活躍できる職場環境の整備と風土醸成」という方針を掲げています。
重点アクションとしては、三つを掲げています。一つ目がエクイティ視点での育成強化を目指す「リーダーをめざす、担える人財の育成」。二つ目が育児期のブランクを最小化する「意欲高く働くための育児両立支援」。三つ目が性別役割分業意識を払拭する「バイアスのない育成や登用を実現する環境創り」です。
「リーダーをめざす、担える人財の育成」について、具体的な内容を教えてください
この取り組みで目指しているのは、女性社員のスキルやマインドを高め、より上位のポストに上がっていくためのパイプラインの拡大です。
具体的には、女性リーダー研修とキャリア意識形成の取り組みの二軸で展開しています。まず、女性リーダー研修ではリーダーとしてのスキルの向上や、視野を広げたり、視座を高める機会を階層別に設定しています。
キャリア意識形成に向けては、主に二つの取り組みを行っています。一つが、元女性役員とリーダー候補者との少人数座談会「キャリCafé」です。
もう一つが、「女性リーダーキャリアパネルディスカッション」です。女性社員全体のキャリア意識を底上げするために、複数の女性リーダーを招いて、女性のもつアンコンシャスバイアスや、多様なリーダー像への気づきにつなげる機会を提供しています。

元女性役員とリーダー候補者との少人数座談会「キャリCaféアルムナイ」の様子
取り組みを通じて、人材育成において具体的にどのような成果を目指していますか
組織の中の認知的多様性が高まっていることの指標として、2030年までに女性社員比率に対する女性管理職比率を100%とすることを掲げています。
海外はそれに近い状況ですが、日本は差があるだけに、引き続き女性活躍を重点課題として取り組む必要があると捉えています。
認知的多様性を組織の強みにすることに対しては、社員エンゲージメント調査のインクルーシブな組織風土スコアを指標として設定しています。
取り組みに対して経営層から求められていることや、事業部門、社員の声などを教えてください
経営層からは、「グループ全体では、グローバルと比較して日本における女性活躍が遅れており、その解消に向けた取り組みが必要」と指摘されています。
また、事業部門からは、「ライフイベントがあったとしても社員のマインドが低下しないよう支援してもらいたい」という要望が届いています。
その一方、取り組みの成果として、女性社員からの「仕事と育児のどちらも諦めなくていいのだと気づき前向きにリーダーを目指してみようと思えるようになりました」という嬉しい声が増えてきています。
取り組みにおいて、今後拡充したい内容や展望などを教えてください
まず、「リーダーをめざす、担える人財の育成」に関しては、ライフイベントを迎える前の層に向けたアプローチを拡充していきたいと考えています。現状は、ライフイベントを迎えている社員や課長層一歩手前のミドルクラスの社員へのサポートに注力しています。
今後は、若手の段階からキャリア意識を醸成したり、性別役割分業意識を払しょくしていく必要があります。「意欲高く働くための育児両立支援」に関しては、性別によらず、自分の思い描くキャリアの実現に向けて、意欲高く働くことの実現を目指して取り組んでいきます。
さらに、「バイアスのない育成や登用を実現する環境創り」に関し、ダイバーシティマネジメントにおいて大切なのは対話だと捉えています。そのためのベースとなるのが心理的安全性の確保であり、アンコンシャスバイアスへの対処です。そこに向けては、全社員に対して必要な教育を継続し、職場での実践につなげていきたいと考えています。
(2025年3月26日インタビュー)
花王株式会社
代表者:代表取締役 社長執行役員 長谷部佳宏
設立:1940年5月
資本金:854億円
従業員数:7,861人(連結対象会社合計 32,566人)(2024年12月31日現在)
本社:東京都中央区日本橋茅場町1-14-10
売上高(連結):1兆6284億円(2024年12月期)
【企業インタビュー記事はこちら】
- “両利き”のビジネスリーダーを育成し、挑戦する風土を醸成【積水化学工業】
- 「能力の越境」を促す新制度でDXビジネス人材育成を強化【三井不動産】
- 2019年から働き方改革を継続し、平均勤続年数が約4年増加【オンワードホールディングス】