複数事業所を有する企業にとって、36協定届や就業規則届の手続きは大きな負担となっていたが、2025年3月31日から「本社一括届出」の要件が緩和されたことで、労働条件ポータルサイト経由の電子申請により、これまで以上に柔軟な一括届出が可能となった。
本社と各事業場の内容が異なっていても、内容が同一である複数事業場を組み合わせた一括届出が認められるなど、大幅な業務効率化が期待できる制度変更について、丸山博美社会保険労務士に解説してもらう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)

「本社一括届出」で、36協定届や就業規則(変更)届等の業務効率を向上
時間外・休日労働に関する協定(以下「36協定届」)や就業規則届の届出は原則として事業場ごとに行う必要がありますが、複数事業場を有する企業においては「本社一括届出」で対応するケースも多いのではないでしょうか?
もっとも、本社一括届出ができるのは一定の要件を満たす場合に限られていますが、2025年3月31日以降、その要件が緩和され、これまで以上に使い勝手が良くなっています。今回は、主に36協定届に係る本社一括届出の要件緩和について解説します。
本社一括届出とは、本社と各支店・営業所等に共通して適用する届出について、本社で一括して行う制度です。対象となる届出には、36協定届、就業規則(変更)届、一年単位の変形労働時間制に関する協定等があります。
これらの届出は原則として各事業場で行う必要がありますが、現場における行政手続負担を軽減する目的で、特例的に一括での届出が認められています。
36協定届の本社一括届出において「内容同一」が求められる項目
もっとも、一括届出においては、特定の項目について「内容が同一であること」が求められます。36協定届の場合は、以下の通りです。
・協定の有効期間 ・時間外労働をさせる必要のある具体的事由 ・業務の種類 ・延長することができる時間数 ・休日労働をさせる必要のある具体的事由 ・労働させることができる法定休日の日数 ・始業及び終業の時刻、 ・協定の成立年月日、使用者職名・氏名 |
「内容同一」でなくても差し支えない項目
一方で、以下の項目に関しては届出対象の事業場において内容が異なっていても差し支えないとされています。
・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地 ・労働者数 ・労働組合の名称又は過半数代表者職名・氏名(電子申請のみ) ・過半数代表者の選出方法(電子申請のみ) |
ここで注意すべきは、「労働組合の名称又は過半数代表者職名・氏名」「過半数代表者の選出方法」の項目です。これらは2021年3月31日に要件緩和が図られた項目であり、以前は「各事業場の過半数代表者が同一」でなければ本社一括届出ができないことになっていました。
そのため、本社一括届出は実態として「労働組合のある企業(主に大企業)」のみに認められる制度として認識されていました。
要件緩和により、事業場ごとに労働者代表が異なる場合であっても本社一括届出が可能となったことで、労働組合を持たない中小企業における本社一括届出の利用がぐんと進みました。

出典:静岡労働局リーフレット
https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/000781683.pdf
ただし、事業場ごとに労働者代表が異なる本社一括届出が認められるのは、電子申請に限定されます。つまり、紙で届出を行う場合については、この労働者代表の要件緩和は適用されません。
2025年3月31日に本社一括届出の要件が一層拡充!本社以外の、内容同一要件を満たす複数事業場で一括届出が可能に
ところで、この「内容同一」は、従来「本社と各事業場との届出内容が同一である」ことを要件としていました。
この点、2025年3月31日以降は、労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」(https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/)の電子申請様式作成支援ツールにより届出を行う場合に限り、届出の内容が本社と異なる場合でも、内容が同一である複数の事業場を組み合わせて一括して届出を行うことができるようになりました。
例えば、「本社と甲事業場の届出内容が同じ」「乙事業場と丙事業場の届出内容は同一だが本社とは異なる」といったケースで、「本社と甲事業場」「乙事業場と丙事業場」の一括届出が認められます。要件緩和以前は、乙事業場と丙事業場の一括届出は認められませんでした。
なお、書面やe-Govによる本社一括届出では、従来通り、本社と各事業場の届出内容について内容同一である必要があり、ここで解説した内容同一である複数事業場の一括届出ができませんのでご注意ください。
新しく追加された「労働条件ポータルサイト経由での電子申請」 その他の利用メリット
ちなみに、労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」(https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/)を利用した電子申請は、2025年3月31日より新たに追加された届出方法です。
労働条件ポータルサイト経由での電子申請を利用するメリットとしては、今回のテーマである「内容の異なる協定等の一括届出機能」の他、「本社一括届出のCSVファイル自動作成機能」「届出先の労働基準監督署の自動選択機能」「次回届出時のリマインド・複写機能」があります。
- (参考)厚生労働省「労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」から電子申請ができるようになりました!!」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184033.html
労働条件ポータルサイト経由での電子申請 対象となる届出は3種類
このたび労働条件ポータルサイト経由での電子申請が可能となったのは、36協定届の他、就業規則(変更)届、1年単位の変形労働時間制に関する協定届の3種類です。
各届出に係る本社一括届出の要件緩和について、詳細は以下の通達よりご確認いただけます。
- (参考1)厚生労働省通達「就業規則の本社一括届出について」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T250424K0010.pdf - (参考2)厚生労働省通達「時間外労働・休日労働に関する協定の本社一括届出について」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T250424K0020.pdf - (参考3)厚生労働省通達「一年単位の変形労働時間制に関する協定の本社一括届出について」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T250424K0030.pdf
急速に進むデジタル化!上手く波に乗ることが業務改革の第一歩です
行政主導の労働保険関係手続きの電子化は、今後も引き続き進められていくものと予想されます。従来のやり方に固執していては、いつの間にか時代の波に取り残されてしまうかもしれません。行政手続きにおけるデジタル化が進む今日、各種制度・実務上の変更を積極的に把握し、対応方法を定期に見直すことで業務効率化を図っていく姿勢が肝心です。

丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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