スポットワークは「応募完了時点で契約成立」、企業側のキャンセルを制限

短時間かつ単発を雇用契約とする「スポットワーク」関連の労務管理については厚生労働省が主体となって、適切な労務管理の留意点をまとめたリーフレットを策定。また、一般社団法人スポットワーク協会も考え方を取りまとめている。労務トラブルで特に多い「企業側の一方的なキャンセル」に関する制限について、丸山博美社会保険労務士に解説してもらう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

「応募完了時点で契約成立」の前提に則り、企業に求められる「契約後の解約ルール遵守」

2025年9月に統一的に示されたのは、「スポットワークの労働契約成立時期」です。

スポットワークを巡る労務トラブルで特に多い「企業側の一方的なキャンセル」への防止策として、面接等を経ることなくアプリ上で応募が完了するという性質を踏まえ、応募完了時点でスポットワークの労働契約が成立することを前提に、企業による契約成立後の解約を制限する運用が業界ルールとして徹底されます。

スポットワークにおける、ケース別「労働契約の解約可能条件」

一般社団法人スポットワーク協会が使用者及び仲介事業者向けに周知した、スポットワークにおける労働契約成立時期及び契約成立後の解約ルールについて、具体的に確認しましょう。

大前提:働き手が求人への応募を完了した時点で「解約権留保付労働契約」が成立

解約権留保付労働契約とは、労使双方が所定の解約権を有する内容の労働契約を指します。解約権は無制限に行使できるわけではなく、特定の条件下で企業側が契約を解除できる権利を保持している状態です。

契約成立後の労働契約解約の取扱い

契約成立後の解約の取扱いに関しては、就労開始時刻の24時間前以前か以降かで異なります。

●労働者都合の解約
・原則:理由を問わず解約可能。ペナルティの付与はなし。
・就労開始時刻24時間前以降の解約:スポットワーク仲介事業者からペナルティを付与されることがあります。ペナルティの基準や内容は、各仲介事業者の利用規約に従ったものとなり、具体的にはペナルティポイント付与やアカウント利用停止等があります。ただし、「仲介事業者から付与されたペナルティの累積」を理由とした使用者からの労働契約の解約はできません。つまり、ペナルティとしてアカウントの利用停止となった場合にも、利用停止以前に決定していた仕事に関しては就労可能。

●使用者からの解約
・原則:不可。ただし、以下の解約可能事由のいずれかに該当する場合には解約可能。

解約可能事由:8項目
1. 不可抗力その他の事由(地震や台風等の天災事変等)があるとき
2. 長期療養や逮捕・勾留等のために、就労日に就労できないことが明らかなとき
3. 就労に必要な資格の証明がないとき、法令上就労させることができないときその他就労において必要となる法令の趣旨に照らして条件を満たさないとき
4. 契約上の義務違反又は不法行為、犯罪行為等の反社会的行為を行なったとき
5. 募集条件として明示している勤務態度にかかる条件を満たさないことを使用者が確認したとき
6. 募集条件として明示している同種業務の経験や使用者における勤務経験にかかる条件等使用者が求める条件を満たさないとき
7. 募集条件として明示している持ち物に不備があるとき
8. 募集条件として明示している髪色・長髪・服装などの身だしなみについて、使用者が求める条件を満たさないとき

・就労開始時刻24時間前以前:上記8項目に加えて以下の理由による解約が可能。

解約可能事由:3項目
9. 天災等の不可抗力によらない営業中止のとき
10. 大幅な仕事量の変化による募集人数の変更が必要となったとき
11. 掲載ミス(業務内容、日時の誤り)があったとき

つまり、就労開始時刻24時間前までの解約可能事由は11項目、24時間前以降の解約可能事由は8項目となります。ただし、使用者が必要な確認を怠った結果、直前の解約となった場合には、解約の合理性・相当性が認められず解約が無効となる場合があります。

また、解約可能事由については、個別の契約において合理的に設定され、労働条件通知書等に記載されるとともに、解約にあたってはその理由が示される必要があります。

休業手当は「予定給与額満額支給」とする運用が主流に

使用者側による労働契約の解約に伴い、休業手当の支払いが必要となる場合があります。休業手当の支払いの要否は、上記の解約可能事由への該当の有無により異なります。

・上記の解約可能事由に該当する場合 → 休業手当の支払いは不要
・上記の解約可能事由に該当しない場合 → 休業手当の支払が必要

なお、休業手当の額は、従来、労働基準法第26条に基づき「平均賃金の60%以上」を基準に仲介業者が独自に定めるケースが見受けられました。ところが2025年9月以降は、厚生労働省及び一般社団法人スポットワーク協会が示す方針に則り、「交通費を除く予定給与額満額」を基本とする運用へと変わってきています。

スポットワークの労務管理、企業対応のポイントは?

今回は、2025年9月1日以降、業界内で統一的にルール化された「スポットワークにおける労働契約成立時期の考え方」及びこれに伴う「労働契約解約ルール」について確認しました。

スポットワーカーを活用する企業においては、労働契約が応募完了時点で成立することを前提に、必要な人員の募集、労働者各人へ交付する労働条件通知書等への合理的な解約可能事由の記載、やむを得ず解約する場合の理由明示や休業手当の支払い等への対応を徹底する必要があります。

なお、厚生労働省リーフレット『「知らない」では済まされない 「スポットワーク」の労務管理』では、労働者に早上がりをさせる際の考え方や賃金・労働時間に関する注意点、通勤途中・仕事中のケガ、労災防止対策やハラスメント防止対策の必要性についても言及しています。スポットワーカー活用企業においては、内容を十分に読み込み、適正な労務管理に努めましょう。

<参考>
一般社団法人スポットワーク協会「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方」
https://www.jaswa.or.jp/news/spotwork_250704/

厚生労働省「いわゆる「スポットワーク」における留意事項等をとりまとめたリーフレットを作成し、関係団体にその周知等を要請しました_(別添2)使用者向けリーフレット」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59197.html


丸山博美(社会保険労務士)

社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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