組織・人事

2022年人事関連法改正、押さえておくべき9つのポイント解説

丸山 博美 社会保険労務士
東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング 代表
小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。

中小企業におけるパワハラ防止措置義務化や短時間労働者の社会保険適用拡大等、人事・労務関連で重要な法改正が多数行われた2022年。新制度の導入や社内体制の整備に、もれなく対応できているでしょうか。

本稿では、2022年に行われた法改正のうち、人事担当者が今一度確認しておくべきポイントをまとめてご紹介します。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

労働関係

「雇用保険マルチジョブホルダー制度」開始(2022年1月1日)

雇用保険の被保険者となるためには、「主たる(ひとつの)事業場において週所定労働時間20時間以上」の要件を満たす必要があります。

この点、昨今の副業・兼業容認傾向を踏まえて原則的な被保険者要件が見直され始め、先行して65歳以上の労働者を対象に、2つの事業場での労働時間数が合計週20時間以上となる場合に特例的に雇用保険被保険者となることができるようになりました。

本制度では、原則として労働者自身が手続きを行いますが、労働者から届出書への記載や離職証明の交付等の依頼があった場合、企業は対応しなければなりません。

参考:厚生労働省「雇用保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット」https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000838543.pdf

中小企業に「パワハラ防止措置」を義務化(2022年4月1日)

改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)が全面施行となり、中小企業においてもパワハラ防止措置が義務化されました。

企業においては、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」「事後の迅速かつ適切な対応」に取り組むこととされました。

具体的には、パワハラの定義や適切な対応について理解を深めるための従業員向け・管理職向け「研修」の実施、問題が生じた際の「対策マニュアル」の策定、「相談窓口」の設置等を通じ、ハラスメントを許容しない職場風土の醸造が急務となります。

参考:厚生労働省「あかるい職場応援団」https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

従業員数101人以上300人以下の企業を対象に「一般事業主行動計画策定義務」を拡大(2022年4月1日)

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・届出、及び自社の女性活躍に関する情報公開について、義務化の対象となる企業規模が「常時雇用する労働者数301人以上」から「101人以上」に変更となりました。

新たに対象となる企業においては、適切な対応が求められます。

参考:厚生労働省「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000614010.pdf

社会保険関連

「健康保険傷病手当金」の支給期間通算化(2022年1月1日)

健康保険の傷病手当金の支給期間について、従来は「支給開始日から起算して1年6ヶ月」でしたが、「支給開始日から通算して1年6ヶ月」に改正されました。

実務上、傷病手当の申請を行う場合には留意する必要があります。

参考:日本年金機構「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22308.html

従業員数101人以上の企業を対象に「短時間労働者に対する社会保険適用拡大」(2022年10月1日)

2016年10月より、特定適用事業所に勤務するパート・アルバイト等については、原則の適用要件を満たさない者でも、一定の要件を満たす場合には社会保険の被保険者となります。

この「特定適用事業所」の要件について、「被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時100人を超える事業所」に変更され、社会保険の更なる適用拡大が進められました。

新たに対象となった企業では、社会保険加入を踏まえた雇用管理、該当従業員の加入手続きに対応できているでしょうか。

参考:厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

育児・介護休業関連

育休取得促進を目的とする「雇用環境整備」「労働者への周知、意向確認」の義務づけ(2022年4月1日)

2022年に進められた育休改革の第一歩として、「雇用環境整備」及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する「個別の周知・意向確認」の措置を講じることが、企業に義務づけられました。

雇用環境整備としては、以下のいずれかに取り組むこととされました。

・ 育休・産後パパ育休に関する研修の実施

・ 育休・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)

・ 自社の労働者の育休・産後パパ育休取得事例の収集・提供

・ 自社の労働者へ育休・産後パパ育休制度と育休取得促進に関する方針の周知

労働者に対する個別の周知・意向確認の措置としては、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、育休(産後パパ育休)制度や給付、社会保険料の取扱い等を周知し、面談・書面交付・FAX・電子メール等の方法で個別に意向確認を行うこととされました。

有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月1日)

有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件について、「引き続き雇用された期間が1年以上」が削除され、「1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない」のみとなりました。

ただし、労使協定の締結により、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者を除外することが可能です。

「出生時育児休業(産後パパ育休)」創設(2022年10月1日)

配偶者が出産を迎えるパートナーが、子の出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる「出生時育児休業(産後パパ育休)」が開始しました。

「原則として2週間前までの申し出で取得可能」「4週間のうちに2分割取得が認められる」「労使の合意によって休業中に就労できる」等の点で、既存の育休よりも柔軟性のある制度となっています。

企業においては、出生時育児休業制度の導入、及び休業中の就労の可否に関わる検討に対応する必要があります。

育休制度の柔軟化(2022年10月1日)

既存の育休制度について、以下の通り柔軟な取得が可能となりました。

・子が1歳までの間に分割して2回取得できるようになること

・子が1歳以降の延長時、休業開始日が柔軟化されること

・子が1歳以降、特別な事情がある場合であれば再取得が可能となること

従業員が育休を取得する際には、法改正を踏まえた対応が必須となります。

参考:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf

今一度、2022年中に行われた人事労務関連法改正の内容を確認し、対応漏れが無いようにしましょう。

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丸山博美(社労士)

社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。

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