専門家に聞く「2020年人事の重要テーマ」 戦略人事/ダイバーシティ/タレントマネジメント/HRテック

ビジネスのグローバル化やデジタル化の進展、少子高齢化による労働力人口の減少など、経営環境の変化に対して従来型の人事では対応が難しくなっている。「2020年 人事の重要テーマ」や取り組みを進めるためのポイントなどを、企業経営・人事を支援する専門家に聞いた。

日本人材ニュース

ピースマインド 荻原 英人 代表取締役社長

ピースマインド

多様性を受け入れ、マネジメントができる人材を増やす

ストレスチェックやEAP等の支援を行う中で、目立つのはハラスメント関連の相談です。
ハラスメントは社員のメンタル不調や自殺につながるリスクがあり、企業人事にとって非常に重い課題です。これまで通用していたマネジメントがハラスメントと受け取られ、社員の相談ホットラインにもハラスメントの内容が増えています。パワハラ法制化の対応や研修は行っていても、現場のマネジメントが適切に機能していない企業が多いのではないでしょうか。
先進企業では、マネジャーの行動を変えるためのコーチング導入やストレスチェックの経年データを問題の早期発見に活かすなど、問題を起こさないための職場づくりが進んでいます。多様性の受け入れを自分事として考え、マネジメントができる人材を増やすことが必要です。

ライフワークス 梅本 郁子 代表取締役社長

ライフワークス

シニア社員への期待を明確に伝え、自らの価値を考えてもらう

65歳までの雇用延長義務化から数年が経過し、職場内にシニア社員の割合が増えてきたことによって、シニア社員の活躍をどう引き出すかが人事の重要なテーマとなっています。
シニア社員のモチベーションを高めるには、企業が期待する役割を明確に伝え、シニア社員自らにどのような価値を発揮し続けられるのかを考えてもらうことが欠かせません。制度・仕組みのハード面を整えると同時に、キャリア研修やその後の面談、または上司や周囲との日頃のコミュニケーションなどのソフト面の施策を連動させることで、従業員の主体的なキャリア形成を支援する総合的な取り組みが必要です。
例えばキャリア研修では雇用延長の意義と研修内容のつながりがストーリーとして理解できる内容を用意するといった工夫も必要です。

マイナビ 土屋 裕介 教育研修事業部 開発部 部長

マイナビ

人事のプロフェッショナルが増え、戦略人事の考え方が浸透

大手企業を中心に、自社に必要な人材像をしっかり定義して、人材育成の施策を一気通貫で体系的に構築・運用しようという取り組みが目立ちます。この背景には、以前に比べると企業内に人事のプロフェッショナルが増えてきたことで、戦略人事の考え方が浸透しつつあることが挙げられます。
そして、人材育成が上手な企業は経営課題の中で人事課題が高く位置づけられており、経営トップから社員に向けて教育研修の意義などのメッセージが常に発信されています。
先進企業の中には、人事にテクノロジーの活用を推進できる専門人材を外部から獲得する動きも見られ、教育研修の領域ではテクノロジー活用によるトレーニングの個別化への取り組みも今後の欠かせないテーマです。

KAKEAI 本田 英貴 代表取締役社長 兼 CEO

KAKEAI

現場のマネジメントを個人の力に依存しない仕組みを構築

当社は脳科学とテクノロジーでマネジメントを支援するツールを提供していますが、離職の増加や1on1ミーティングの質が良くないなどの課題を持つ企業からの相談が増えています。
業績責任に加え、働き方改革やハラスメント対応などでマネジャーの負担が増大している中
で、現場のマネジメントを個人の力に依存しない仕組みを構築することが、より重要になっているのではないでしょうか。
例えば、アセスメントで一人一人の特性を把握したり、マネジャー同士が良い取り組みを共有する仕組みがあれば、マネジャーの力を補い、メンバーへの関わり方の質を高めることに役立ちます。人に関わるデータを蓄積・分析するだけでなく、現場のマネジメントに実際に活かすためのツールやサポートが求められています。

人財ラボ 下山 博志 代表取締役社長

人財ラボ

「データドリブン人事」で人材の競争力を高める

今後の人事戦略は、テクノロジーの進化をいかに活用できるかが重要なテーマです。AI、5G、ブロックチェーン、VR・ARなどの技術は、人事の実務と関連しないと感じている人は多いかもしれません。一方で、人事課題を解決するためにテクノロジーを活用している企業は急速に増えています。
今後、さらに人事を取り巻くデータを活用する「データドリブン人事」が必要です。①データ活用の理解促進、②ITリテラシー教育、③変えるスキル(リスキル)と極めるスキル(アップスキル)の棚卸しなどが、人材の競争力を高める施策になります。
さらに、激変する事業環境で、新たな人事施策に説得力を高めるためには、経営トップの持つ課題感や方向性に結びつくメッセージを共有し、戦略的に施策と結びつけることが必要です。

パソナ顧問ネットワーク 渡辺 尚 代表取締役社長

パソナ

シニア、フリーランス・副業などの外部人材の力を活用

今後の経営において重要なテーマの一つは、外部人材の力をどう上手く活用できるかです。
少子高齢化や働き方改革が進む中で、豊富な経験を活かせる場を求めるシニアはますます増え、若手・中堅はフリーランスや副業といった多様な働き方を選択する動きもあり、企業はこれまで以上にプロフェッショナルな人材と出会えるチャンスが広がっています。
新規事業の立ち上げ、海外進出、営業力向上、業務改善、管理部門強化などの様々な課題をスピーディーに解決するためには、即戦力である外部人材が活躍できる経営・人事のあり方を考えていくことが急務です。パソナ顧問ネットワークは、ビジネスモデルの変革に取り組む企業に対するコンサルティングを通じて、こうしたニーズに応えます。

スコラ・コンサルト 辰巳 和正 代表取締役

スコラ・コンサルト

経営環境を想定し、人事の役割を早めに再定義

5年先も分からないVUCA時代。事業の変化に対して組織をどう変えていくのか、どう人材をそろえていくのか、人事部門は考えておかねばなりません。特に2020年からは景気が下降局面に入ると予想されています。そんな時こそ流行に流されず本質に立ち戻ること、その時の経営環境を想定し、人事の役割を早めに再定義しておくことは大切です。
人事が経営から求められている役割が定まっていないと、優先的に取り組むべき施策も定まらないからです。組織の変化をリードする人事が変化に能動的であることは重要です。それらを進めていくために、役職や立場に関わらず誰もが「上手くいっていない」と気軽に発言できる風土を醸成しておくこと。そうすることで常に制度や施策が問い直され、変化に対応できる組織が作られます。

パーソル総合研究所 渋谷 和久 代表取締役社長

パーソル総合研究所

客観的な情報に基づく「より確かな人事」

経営・人事にとって社員一人一人の活躍がより重要となります。その背景の一つが人手不足です。パーソル総合研究所と中央大学の推計では2030年に644万人の人手不足が生じます。適所適材が実現されないことによる生産性の低下や、離職などは許容できなくなっています。
また、M&Aや中途入社が当たり前となり、「〇年入社の〇〇さんはこんなヒト」といった人事部の記憶にも頼れません。記憶に基づき勘と経験での「なんとなく人事」では対応しきれず、客観的な情報に基づく「より確かな人事」が求められます。
当社ではタレントマネジメントシステム「HITO-Talent」を提供していますが、一部の選抜層だけでなく、全社員の人事情報を長期的に一元管理し、戦略人事に活かしていくべきでしょう。

シャイニング 下田 令雄成 代表取締役

シャイニング

幹部から若手まで参加する「階層間連携研修」で職場課題を共有

働き方改革関連の相談が増え、例えば昨年は全国150店舗を運営する企業で、店長・副店長対象の長時間労働やハラスメント防止の研修を実施しました。
こうしたニーズの背景には、働く人たちの価値観が多様化する中で、従来のマネジメントスタイルが通用しなくなり、特に体育会的な体質が強い企業ではパワハラや離職増加の懸念が高まっていることがあります。
そのため、最近は職場課題の共有を図る取り組みとして、経営幹部から若手までが同じテーマを扱ったり、一緒に研修に参加する「階層間連携研修」が重要になっています。研修講師に対しても、知識や経験を一方的に伝えるのではなく、研修担当者と一緒に良い研修を作り上げる意識と研修参加者の議論を上手く整理するファシリテーション能力が問われています。

ラクラス 北原 佳郎 代表取締役社長

ラクラス

知識労働者の生産性向上へタレントマネジメントを推進

人口減が進む中で急務なのは、知識労働者の生産性向上です。そのためには、知識労働者を反復業務から解放しなければなりません。例えば、当社が受託している給与計算の反復業務は完全自動化されており、顧客企業の人事担当者は戦略人事の仕事に集中することができます。
また、知識労働者のパフォーマンスはモチベーションが大きな影響を与えるため、一人一人の傾向データを収集・蓄積・分析できるシステムを導入し、タレントマネジメントを推進する必要があります。
ただし、海外で開発されたシステムの多くは日本企業が求める就業情報や履歴管理、労働法対応の視点が欠けているため、統合人事データベースやワークフローが実現できません。自社が目指す人事を支援できるシステムやサービスの見極めが重要です。

FiNC Technologies 長田 直記 ウェルネス経営事業部 部長

FiNC Technologies

人に関わるビッグデータを分析し、施策の有効性を判断

今後はこれまで以上に、健康に働き続けられる職場であることが働く人たちの企業選びの軸になってくると思われます。
働き方改革や健康経営に取り組まなければならないと考える人事担当者が増え、「具体的に何をしたらいいのか」「投資対効果はどうなのか」などの相談が多くなっていますが、具体的な施策を進めていくためには、経営戦略からブレークダウンして何を優先すべきなのかを明確にしておくことが欠かせません。
また、当社はテクノロジーによって人々の「ライフログ」を取得し、日常の行動変容を起こしていくサービスを提供していますが、人に関わるデータを適切につなぎ合わせてビッグデータとして分析すれば、施策の有効性を判断する材料になります。

ブルームノーツ 鈴木 智則 代表取締役社長

ブルームノーツ

「現場ですぐに使える業務スキル」の研修で若手を早期育成

即戦力の採用が難しい中、成長企業は若手・未経験の採用・育成を強化しています。人材を短期間で育成するための環境整備が欠かせませんが、以前のような現場のOJTに頼った育成では現場社員の負担が大きく生産性が下がってしまいますので、人事部門が責任を持つ研修の重要性が増しています。
また、若手社員にヒアリングすると、どの企業でも行っているような画一的な内容ではなく、「配属後の現場ですぐに使える業務スキル」を習得したいという声が多く、研修内容をより実践的なものに見直すことが必要です。
研修内容が業務に直結していれば成果を出しやすく、顧客や上司から評価されて若手社員のモチベーションが高まるため、入社後の定着率の改善にもつながります。

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