【アデコ】多様化する人材ニーズに最適なソリューションを提供

60を超える国と地域で5500以上の拠点を展開するアデコは、日本でも全国190拠点にネットワークを持つ世界最大の人材サービス会社だ。震災の影響による企業の採用活動の変化や労働者派遣法改正の動きなどにより、同社を取り巻く経営環境は大きく変わりつつあるが、多様化する顧客の人材ニーズに、どのような戦略で応えようとしているのだろうか。会長兼社長兼アジア地域最高経営責任者のマーク・デュレイ氏に、人材ニーズの動向や多様化する人材サービスについて聞いた。

アデコ

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マーク・デュレイ 会長兼社長兼アジア地域最高経営責任者

1985年アデコの前身のアディアジャパン入社。1999年にアデコキャリアスタッフの取締役社長補佐、2003年にアデコ株式会社の取締役会長などを経て、2009年10月より現職。

労働市場の動向と顧客ニーズに応える体制づくりのための取り組みや強みについて教えてください。

当社は、総合人材サービス企業として、すでに数多くの優良なクライアントと関係を構築しています。私が多くのクライアントとお会いして感じたことは、企業の人材活用に関する課題は複雑化しているということです。クライアントが抱えるさまざまな人事課題を解決するために、人材派遣やアウトソーシングだけでなく、人材紹介などでも、これまでに以上に幅広く企業の人事課題に貢献したいと考えています。

当社の営業担当者には、サービスの提供に必要な法律や人事の知識の習得、営業スキル、コミュニケーション力を高めるトレーニングを行っています。さらに、独自に開発した「営業者資格認定試験」を設けて、営業担当者のレベルにばらつきがでないように組織的に能力開発することに力を注いでいます。

当社の営業担当者は、さまざまな人材サービスに精通していますので、適切なソリューションをワンストップで提案することができるのです。私はアデコの基本的価値観の一つである「顧客志向」を今年の経営の最重要課題ととらえ、お客様第一を念頭に、クライアントが抱える課題を解決できる営業担当者の育成を行っています。

一方、求職者に対し、雇用についてのさまざまな可能性を提示し、ニーズに応えていくことは、私たち人材サービス企業にとって大切な役割です。当社に登録される方々は、最初から直雇用を考えている人、働く時間帯に柔軟性を求める人、次の就職までの短期間の仕事を探している人など、働き方のニーズは多様です。

当社のモットー”better work, better life”(よりよい仕事を通じて、充実した人生の実現)をサポートするために、さまざまな雇用の機会を探し出し、最適な仕事を紹介することは使命だと考えています。

震災後、企業は求人を戻しつつあるようです。最近の採用ニーズはどのような状況ですか。

当社での傾向として、震災前は経済が低迷する中でも業績を伸ばしている企業が積極的に営業職の人材を採用していました。また、新卒採用においては、就職難である状況を優秀な人材が採用できるチャンスと捉える企業からの依頼が増加していました。震災直後は採用活動が一時低迷しましたが、現在は震災前と同様のニーズが回復の兆しを見せており、今後さらに増加すると見込んでいます。

国内でのサービス提供体制はどうなっていますか。

現在、全国190カ所に拠点を展開しています。地方企業に密着したサービスを行うとともに、大手企業の全国各地にある支社や支店、関係会社からも数多くの依頼をいただいています。業種や地域が異なることでニーズが多様化する中、全国に広げたネットワークを活かすことによって、クライアントのさまざまな人材ニーズに応えられることも強みです。同時に、地方で働くことを希望する人々の支援も積極的に行っています。

拠点ネットワークを充実させることは重要な戦略であり、アデコグループが60を超える国と地域に事業展開するメリットを活かしたサービスが提供できることも強みといえるでしょう。この強みを活かし、日本企業でニーズが高まっているグローバル人材の採用の依頼にも対応しています。

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企業から増えている相談や依頼はどのようなものがありますか。

不確実性が高い環境の中で、ビジネスに柔軟性を持っておきたいという理由からアウトソーシングを希望する企業が増えています。大規模なプロジェクト案件にも対応しています。ただし、アウトソーシングですべての依頼に対応できるわけではないので、仕事の内容をしっかりヒアリングした上で、クライアントのご要望に応じた適切なサービスを提案しています。顕在化している仕事の人材ニーズに対応するだけでなく、仕事のプロセスやアウトプットを把握して、最適なソリューションを提案できる能力がこれまで以上に問われています。

新卒採用のサービス、学生の就職支援にも力を入れて取り組んでいますね。

当社では、積極的に学生と若年層向けの就職支援を行っています。一方、企業の新卒採用支援では、採用事務代行のニーズが広がりつつあります。学生からの応募が多い大手企業を中心に、企業の採用担当者が対応できるキャパシティを越えている状態が発生しています。

企業は今後、採用プロセスごとに、人材サービス会社にアウトソースしてゆくことを進め、採用業務を効率化してゆく動きが多くなると予想されるので、当社にとってもビジネスチャンスだと考えています。さらに、新卒紹介のニーズが高くなっているので、今後の更なる拡大を見込んでいます。

当社は、長年にわたり若年層の就職支援を行ってきたノウハウと実績があります。インターネット媒体を活用した就職活動が主流になった現在、情報過多により優秀な人材を採用することが難しくなっています。そのような状況下、優秀な学生を効率良く採用したい企業のニーズに的確に応えることで、クライアントから高い評価をいただいています。

学生に対する就職支援としては、全国の大学と協力して、キャリアセミナーを定期的に開催しています。さらに、職業意識の醸成とキャリア開発の目的で、立命館アジア太平洋大学で、私が客員教授として講義を行っています。私は、学生にはやりたい仕事を決めて、それに役立つ勉強をしていくことをアドバイスしています。雇用情勢が大きく変わりつつあるなか、ブランド企業に就職することが安定を保証するものではありません。仕事を軸にキャリア形成ができる就職を考え、自らのキャリアに責任を持ってほしいと願っています。

依然として企業は採用に慎重な姿勢で、日本の失業率は高い水準にあります。

日本のGDPは金融危機によって悪化した2009年と比べ、2010年には4%増となっています。また、失業率は1月~3月で4.7%と前年の平均値よりは改善していますが、就職難の状態は依然として続いています。日本の企業では生産性が悪化しても可能な限り雇用を守りますが、スキル不足の人材を抱え続けるのは企業の成長にとってマイナスの側面があります。

日本では、事業の転換や必要なスキルに合わせた人材の入れ替えを行うことが容易ではないので、グローバル市場での競争では不利な状況に立たされているのです。その点から、いわゆる終身雇用的な働き方は今後変わっていかざるをえないと思います。ビジネスのグローバル化や展開のスピードが高まる中で、会社の進むべき方向性に合わない人材を雇用し続けることは、企業にとっても、個人にとっても良いことではありません。

人材の流動性が高まることのメリットは、企業や国全体の生産性が高まること、そして、個人が自分のキャリアに責任を持つ意識を高められることです。日本のビジネスパーソンは、会社がキャリアパスを考えてくれるという意識があり、自分の能力を高めたり、可能性を探す意欲が低下しているのではないでしょうか。

「自分にはどのようなスキルがあるか、その仕事に対して意欲はあるか、その会社や職場に自分は合っているのか」を考えながら、キャリアや仕事について考えるべきだと思います。

日本市場における今後の事業展開をどのように考えていますか。

景気の先行きや労働者派遣法改正の動きなどの懸念はあるものの、日本の派遣労働の浸透率は全労働人口の約2%しかないため、成長の余地は十分あると考えています。当社では人材派遣のほか、人材紹介とアウトソーシングにも注力することで、3つのサービスを経営の柱とする考えです。

アデコグループ全体の方針では、有機的成長とM&Aでビジネスを拡大していくことが基本的な考え方となっています。これまで当社がサービスを提供できていない地域や十分なシェアを取れていない分野を強化し、日本でもさらなる成長を目指します。

アデコグループの中で、日本が占める売上の割合は7%、営業利益の割合は9%となっています。日本の労働法制や雇用慣行により、解決すべき課題は多いですが、当社はより一層業務の質と効率を高めて、優位性のあるサービスをクライアントに提供していきます。

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