人材採用

【ヘイズ】グローバル人材の獲得へ採用プロセスの見直しを

英ロンドン市場に上場し、日本をはじめ世界30カ国の主要都市に拠点を展開する人材サービス会社のヘイズCEOのアリスター・コックス氏が、このほど来日した。そこで、同氏に企業の人材マネジメントの課題と経済危機後の世界の人材市場の状況、同社の日本における今後の事業展開を聞いた。

ヘイズ

ヘイズ
アリスター・コックス CEO

ブリティッシュ・エアロスペース軍用機部門でキャリアをスタートした後、マッキンゼーのコンサルタントとしてエネルギー、消費財、製造分野で手腕を発揮。英セメント会社ブルーサークル社リージョナルディレクターとしてアジア事業を統括。英IT通信・バックオフィス処理サービスプロバイダXansa社CEO。ヘイズ・ブループでアジア地域の経営を手掛け、2007年9月より現職。英サルフォード大学航空工学学士号、米スタンフォード大学経営学修士号(MBA)取得。

日本の人材マーケットの動きをどのように見ていますか。

今回の不況は、その深刻さや世界の全ての地域が打撃を受けたという意味で、私たちが経験した中で最も厳しいものであったと思います。1年ほど前から景気回復のサイクルに入っていますが、興味深いのはアジアが先導役となっている点です。これまでは米国が世界経済の先導役であったわけですが、これは初めてのケースで、当社もアジアへの投資を最初に再開しました。

日本では、業種による違いはありますが、金融は急速に回復し、情報通信やテクノロジー領域も伸びています。製薬は不況時も堅調でしたが引き続き底堅い動きです。スキルのある人材が不足している状況で、候補者には複数の企業からオファーが出ることもあり、同時に勤めている会社からのカウンターオファーも見られます。1年前に比べると、劇的な状況の変化で、日本でのビジネスは明るい兆しが見え始めてきたように感じます。

日本企業ではグローバル人材の採用が課題となっています。

日本企業に限ったことではなく、グローバルに活躍できる人材の採用は難しく、世界中の企業が懸命に取り組んでいます。 日本ではここ数年、若い世代が大きく変わってきているようです。数年前であれば留学したり、多国籍企業で仕事をして経験を積むことを良しとする意欲があったわけですが、そのような人材が少なくなっています。海外のトップ大学に入る日本人留学生の人数も低下しています。

その一方で、日本企業は海外進出に当たって、語学力や海外での経験を必要としているわけですが、そのような日本人がなかなか見つけられないという状況にあるのだと思います。

日本では失業率が過去最悪の水準で、雇用情勢は深刻です。

日本は非常に興味深いチャレンジに直面していると言えます。これから日本は世界で最も急速な労働力人口の減少を経験するわけです。「能力のある人材の不足、特に国際的な経験を持つ人材の不足」「若者の内向き志向」「労働人口の減少」という状況を、日本企業ひいては日本の社会全体がどのように解決していくのか、世界が注目しています。

日本では一般的な傾向として、人々が大企業で仕事をしたがるという傾向が見られますが、中小企業が日本経済にとって大きな部分を占めていますので、中小企業が自社のポジショニングを考えて、魅力的な人材を獲得できるようになることが非常に重要です。

英国の例を紹介しますと、今回の不況に入る前の10年間は英国にとって過去にない経済成長を遂げた時期でした。その期間に拡大した雇用の3分の2が、従業員50人未満の企業で創出され、中小企業の成長こそが経済全体の成長を導いたのです。

成長を目指す企業がいかに優れた人材を引き付けることができるかが、国全体の成長にとって大きな意味を持ちます。ヘイズでは専門サービスを通じて、優秀な人材を獲得するための戦略を企業とともに考え、実現することを付加価値として提供しているのです。

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日本企業の人材採用に対して感じていることはありますか。

採用プロセスが必要以上に長いのではないかと思うことがあります。世界中で貴重な人材をめぐっての競争が激しくなっていますので、迅速な意思決定ができないことが日本企業にとってチャンスを逃す原因になっていることがあります。事業がグローバルの厳しい競争にさらされる時代において、採用プロセスが本当に相応しいものかを検討される時期ではないかと思います。

グローバル人材を採用するためには、まずは優秀な人材を引き付けられるような魅力的な企業になることが欠かせませんが、採用プロセスが長く、なかなか決まらないというようなスピード感のなさでは、候補者がやる気を失ってしまいます。世界中の企業と競争する上では、意思決定の遅さがネックになっていると思います。

ご自身が世界で活躍されてきた経験から、日本企業の人材マネジメントにアドバイスはありますか。

意思決定に時間が掛かるという問題は、採用以外の事業上の意思決定の方法でも、同様の問題が見られます。世界の国々で企業文化は異なるということを理解して、グローバル市場で競争するのであれば、それを受け入れざるを得ません。

日本企業も優秀な人材を海外拠点に送り込んで国際的な経験を積ませたいと考える中で、日本本社の意思決定が遅くて現地で競争にならないということでは、今後の活躍を期待している人材に挫折感を味合わせてしまいます。英語によるコミュニケーションは、技術的なスキルは優れているのに活躍できないという人材を数多く見てきましたので、国際的に活躍していくには必須でしょう。

今後、日本企業はグローバルという事業展開の必要性から、二つの可能性を開拓していくのではないでしょうか。 一つは外国人社員の受け入れです。日本人だけでなく、外国人にとっても魅力的な企業になれるか。もう一つは、海外で仕事をしている日本人です。海外で働いている日本人が日本企業の求人に対して応募する数が増えています。彼らは日本企業で働く意欲を持っていますので、国際的なビジネスの経験があり、多様性の高い中で仕事をしてきたという点で魅力的な存在となっています。

採用に当たっては、彼らがどのようなことを求めているのかを十分に考えていく必要があります。もちろん報酬も重要ですが、その組織において、どのようなキャリアを歩むことができるかが非常に重要です。この会社で仕事をすればどのような可能性があるのかを明確に示していくことが、グローバル人材の採用では一層求められていくことになるでしょう。

日本のビジネスパーソンにもアドバイスをお願いします。

いかに自分を差別化するかを考えなければなりません。自分はどのような貢献ができるのか、キャリアを考えているのかを効果的に提示することが必要です。

当社のコンサルタントが候補者と面談する際には、ただ経歴や経験を見るだけではなく、どのようなパーソナリティーなのか、そして、どのような職場であれば、生き生きと仕事ができるのか、逆に合わないのかを見極めるようにしています。技術的な資格がもちろん意味を持つことはありますが、企業は社風に相応しく、業績に貢献できる人材を探しているのです。

世界の人材マーケットの動向と貴社の業績について教えてください。

5年前までは、当社においては紹介手数料収入の75%がグローバル本社のある英国で、残り25%が海外となっていましたが、現在は逆転しています。利益の80%を海外で上げており、ビジネスが急速にグローバル化しました。

最近3年間で、米国、メキシコ、ロシア、インドに新しい拠点を設け、現在30カ国で業務を展開していますが、創設後初めて、アジア・パシフィック地域での利益が最大となりました。国別では、オーストラリア、ドイツ、英国と続き、今年は日本が4番目の規模になると見込んでいます。地域による違いはあるものの今年は全世界で30~40%の成長を期待しています。

クライアント企業は、全世界的に不況後のチームの再構築や新事業の展開を進めており、採用意欲が高まっています。求職者も、また転職することに対する自信を急速に回復させています。

日本で事業を拡大するに際して買収を考えることはありますか。

我々が行う専門性の高いサービスにおいては、まさに“人材”が最も重要で、買収はきわめて慎重に考えなければなりません。買収先の従業員をしっかり統合できなければ企業価値が破壊されてしまいます。ヘイズ・グループは、これまであまり買収を行ってこなかったのですが、2007年の日本での買収は大いなる成功をもたらしました。

ビジネスが拡大し、チームの統合もスムーズで買収先のコンサルタントがほぼ全員残っています。すでに一定の事業規模を確保できていますので、日本でさらに買収を行う必要があるとは考えていません。自社で新たな人材を採用し、専門家を育成していくことで成長を図ります。

日本での今後の展開を教えてください。

昨年1年間で、コンサルタント数、手数料収入、利益は、不況以前の状態に戻ることができました。東京と大阪のオフィスには、100人の従業員が在籍しています。また多くのコンサルタントがクライアントサイドにオンサイトで在籍しています。従業員の6割以上は日本人です。外国人コンサルタントの国籍は16カ国に渡り、国際色が豊かです。 「会計・財務」「金融」「不動産」「金融IT」「人事」「IT」「製薬」「セールス&マーケティング」「サプライチェーン」「オフィス・プロフェッショナル」「法務」「ヘイズ・リソース・マネージメント」の専門ユニットに分かれて人材紹介を行っています。

最近の日本における変化で興味深いことは、不況で企業は採用部門をスリム化した後、今後の採用強化に当たっては自社の採用部門を拡充するのではなく、当社のような外部の人材会社を積極的に活用している点です。専門的なサービスを上手に活用して、迅速かつ的確に人材を見つけたいと考える傾向にあります。日本人、外国人を問わずにグローバル人材を求める企業からは、日本と海外の両方に人材プールを持っている当社への期待が高まっていると感じます。

例えば、当社が日本で手掛ける財務・経理職の求人は、候補者の20%が海外で働く日本人となっています。自動車、電機、小売、金融など海外展開を考える日本企業が増えている中、グローバルに業務を行っている当社のような人材会社が、日本企業のグローバル人材の採用に役立つことができると考えています。

今年で日本への進出から10周年を迎えます。ヘイズ・グループでは、日本市場を重要拠点と位置づけており、今後2年を掛けて、さらにコンサルタントを倍増したいと考えています。また、オフィスネットワークの拡大や現在も増え続けている5万人が登録するデータベースに対しても、積極的に投資していく計画です。

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