人材採用

外国人留学生の採用積極化 グローバル化でニーズ拡大

経済のグローバル化が急速に進んだことを背景に、企業が外国人留学生に熱い視線を送っている。団塊世代の大量退職と少子化にともなう慢性的な人材不足も後を押し、企業の採用意欲を高めている。 一方、現在、日本にいる外国人留学生は約12万人で、日本流のビジネススキルを身につけた「日本ファン」も多く、数年後の海外進出に備えグローバル化を支えるコア人材として、採用を積極化する企業が急増している。外国人留学生採用の実態を取材した。

外国人留学生の採用積極化 グローバル化でニーズ拡大

処遇は日本人新卒社員と同じ、海外拠点の幹部候補生として期待

大和証券SMBC では、今年4月、中国・韓国・リトアニアから11人の外国人留学生の新入社員を迎え入れた。同社では、2002年から年間数人の外国人留学生を採用してきたが、昨年から外国人留学生の新卒採用枠を拡大、09年4月の採用予定は20人を計画している。

同社は、これまで国内企業を中心とした有価証券等の売買、引受等の投資業務を中心とした事業を展開してきたが、顧客企業の海外進出やグローバル化が進み、国外でのエクイティファイナンス等による資金調達の拡大などから、将来の事業戦略上、グローバル人材の採用に迫られていた。

外国人留学生は入社後、トレーダーなどの業務以外に、コーポレートファイナンス業務を想定して採用するケースが増えている。 同社に採用された留学生は基本的に日本での勤務になるが、日本のビジネスや慣行を習得した後、将来的に海外拠点を立ち上げる際の幹部候補生として活用していきたい考えだ。

日本での採用ということで賃金や処遇も、日本人の新卒社員と同等だ。日本滞在が長いため語学的にも、文化・習慣的にもスキル上ほぼ問題はないという。留学生だからといって特別な待遇や研修はなく、4月に入社した日本人の新入社員130人とともに、新入社員研修を一緒に受けている。

縮む国内市場、グローバル化への対応に否応なく迫られる

同社の小林武彦経営企画部人事課上席次長兼人事課長は、「日本企業はバブル期以上に力をつけていますが、少子高齢化が進み、今後、日本の市場は否が応でも収縮してきます」

「一方、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、ベトナム、タイなどの経済成長は、日本の戦後高度成長を上回る勢いで進んでいます。これまで国内中心のビジネスを展開してきた企業も、グローバル化に否応なく対応を迫られてきます」と日本市場の変質を敏感に意識する。

労働政策研究・研修機構が4月発表した調査でも、外国人留学生を採用した企業の採用理由は、「国籍に関係なく優秀な人材を確保するため(専門知識・技術)」が52.2%も最も多く、「職務上、外国語の使用が必要なため」(38.8%)、「事業の国際化に資するため」(32.4%)と、事業と雇用のグローバル化が同時に進行する企業の実態が浮かび上がる。

海外の投資資金によるM&Aの活発化や資源の奪い合いによる原油・原材料・穀物相場の高騰はコスト高は、日本経済に大きな影響を与えるようになり、国内企業は常にグローバル化の波にさらされるようになっているのだ。

グローバル採用が本格化へ、トリリンガルの採用も可能

企業のグローバル化にいち早く注目し、留学生の就職支援サービスを開始したのが人材紹介ビジネスのソルバーネットワーク社だ。同社は昨年10月、日本国内の就職情報を日本での就職希望者に伝える留学生向けの無料情報誌「JapanCareer」を発行し、日本と世界37カ国の主要大学532校に配布を開始。同時に国内企業への就職希望者と求人企業のマッチングを図るウェブサイトを開設した。登録企業は約70社、就職希望者1400人が登録する。

同社が採用担当者を対象に2月に開催したグローバル採用戦略セミナーには、予定を上回る100人を超える人事採用担当者が詰め掛けた。

グローバル人材の採用に積極的な松田豊弘三菱商事HRDセンターグローバル人材開発チームリーダー、田籠喜三富士通人材採用センター長、宮脇彰秀ジョンソン・エンド・ジョンソン人事総務本部シニアバイスプレジデントらが「グローバル人材採用についての現状と課題」をテーマに、参加者とともに議論を深め、会場は熱気に包まれた。

同社の油屋康代表取締役社長は「日本で就職を希望する留学生で、就職できるのはわずか2割です。海外の学生に至っては、日本の就職に関する有効な情報はまったくありません。留学生の情報不足から、企業が求める人材ニーズとの間にミスマッチが生じることもあります」

「留学生の就職活動の多くはブランド型で、目的型ではありません。有名ブランドを持つ企業に入りたがるために人気も集中します。情報が少ない留学生だからこそ、就職活動についての正しい知識とキャリア・カウンセリングが求められているのです」と就職活動の問題点を指摘する。

留学生の間でも人気企業の前出の大和証券SMBCが求める人材は、ビジネスレベルの日本語能力と母国語プラス英語ができるトリリンガルか、金融工学の知識を持った高度なグローバル人材だ。ソルバーネットワーク社では、こうした高度人材の紹介に注力する考えだ。

就職合同説明会に留学生が殺到、日本流身につけ意欲も高く

今年3月初旬、留学生の就職合同説明会を初めて開催した人材サービス会社のベインキャリージャパン。大学のキャリアセンターへの案内などのほか、特別なプロモーションをしたわけではなかったが、1日で3343人の留学生が集まり、留学生側のニーズの高さを裏付けた。

インターネットでの事前登録は約2000人だったが、当日参加者が予想以上に集まり、入場制限しなければならないほどだった。参加企業は国内外の金融、製薬、ITなどのリーディングカンパニー約50社で、説明会や面談の事前登録者は、200~300人、延べ5040人に上った。

同社の桜井英哉取締役は外国人留学生について、「日本の大学に入り、4年~5年を日本で過ごしているので、日本流の流儀を身につけています。また、日本人が無くしてしまった様なハングリー精神を持っている人材が多く、意欲的です」と評する。

海外へ拡がるビジネス、優秀な留学生確保へ

外国人留学生の合同説明会を1990年から開催しているディスコも、企業ニーズの増加にともない例年1回の開催を、今年から3月、5月の2回開催することにした。

2002年の出展企業数は25社で、2003年以後は28社だったが、昨年から企業の関心が急速に高まり、出展企業数は35社と急増、外国人留学生も2297人が参加した。3月の「外国人留学生のための就職フェア」には25社が出展、第2回目にも20社以上が参加する予定だ。

昨年来の企業ニーズの高まりについて、同社の内藤均HCビジネス本部国際部課長は「日本経済のグローバル化で中国以外にもベトナム、マレーシア、ロシア、タイなどへの日本企業の進出やビジネスが拡大しています。将来、そうした国々で活躍できるように母国語プラス日本語が話せるバイリンガル人材が求められるようになっています」と話す。

同社では4月18日、日本経済新聞の朝刊に全面広告をうち、留学生の就職支援の方針を明確にした「採用開国宣言。」を行った。外国人留学生について内藤氏は、「日本で学ぶ外国人留学生には専門性が高い方、就業意識の高い方、高い語学力を持った方など優秀な方が多くいます。日本企業も自社への優秀な人材の確保を考えるのであれば、視野を広く持ちこうした優秀な人材に目を向けていく必要があるのではないか」と強調した。

今後、同社では合同説明会以外にも、大学での就職ガイダンスやビジネスマナー講座など、留学生向けに日本のビジネスを理解するための支援を実施していく計画だ。

日本企業を希望する留学生7割、グローバル化へ欠かせない存在に

採用される側の外国人留学生は、どのような就職観をもっているのだろうか。 ディスコの合同説明会参加者のアンケートによれば、「働きたい国」では参加者の73.3%が日本で働くことを希望しており、「働く国にこだわらない」(20%)とする回答と合わせると90%以上が日本国内で勤務が可能。一方、母国で勤務したいとする留学生は6.0%と少数派だ。

「希望する国でどのくらい働きたいか」については、「できるだけ長く」が51.0%、次に「3年以上6年未満」(23.0%)、「1年以上3年未満」(14.0%)、「6年以上」(11.0%)と続いている。 日本での就職を希望する理由について、田口香織同社HCビジネス本部教育広報事業部キャリア教育部課長代理は、「留学生が最も多い中国の都市部では大学生の就職難が続いています」

「また、中国で就職すると大卒初任給は2~3千元、日本円で5万円程度。スキルに応じて待遇は違うものの、かかった日本への留学費用を考えると、やはり母国より日本で就職したいと考える学生が多いはずです。また、新入社員への人材育成に力をいれる日本企業は、魅力的にうつるのかもしれません」と解説する。

政府は2025年までに留学生を100万人に増やすことを計画している他、様々な高度人材の育成が各省で議論されている。少子高齢化で人材不足が慢性化するばかりの日本にあって、「日本ファン」でもある外国人留学生の活用は、グローバル化にさらされる日本企業の今後の成長には欠かせない存在となるのかもしれない。

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