企業はどうやって人事職を探すのか、転職のためのキャリアの転換点は?【人事の転職最新事情】

人事職の求人と転職が増え始めている。リーマン・ショック後の企業の即戦力人材の採用と経営戦略の変化が大きく影響しているようだ。

日本人材ニュース

人事の転職市場の動向

人事の仕事を「企画」「採用」「教育」「労務」と大きく4つに分類すると、採用のポジションの求人が増加傾向にある。リーマン・ショック後、国内市場の成長をあきらめた企業が海外事業の強化や進出を本格化した2年前は、グローバル人事にかかわる人事職の採用が活発だった。

その後、徐々に企業業績が改善し事業に必要な人材を募集する会社が増えてきたことで(図表・中途採用実施事業所割合の推移を参照)、人事の中でもリクルーター(採用担当者)が不足してきたのである。同様に採用数の増加による会社組織の拡大にともなって、給与などを担当する労務のポジションも人員が不足気味だ。

また、採用数の増加だけでなく、採用の厳選化の影響も大きい。リクルーターを採用しようとする企業のニーズについて、ディスコキャリアエージェントカンパニーの久永祐喜カンパニー長(現、ディスコグローバルサーチ代表取締役社長)は次のように話す。

「人材の採用基準が厳しくなり採用が高度化したために、採用戦略を立案し、人材紹介会社や求人メディアなど様々な手段を使って経営戦略に必要な人材を、必要な時に必要な人数を調達することができるプロフェッショナルなリクルーターを求めているのです。また、海外展開に積極的な企業では国内だけでなく現地での採用も始めており、海外でのリクルーティングに精通した経験者も求められています」

リーマン・ショック後、日本の企業は新事業の構築やグローバル事業の強化や進出に必要な即戦力人材の採用を行ってきた。優秀な人材の確保が企業の命運を左右するようになり、優秀な人材が奪い合いの様相となったことで人材採用はこれまでになく高度化している。

即戦力採用が一般化して、人材は待っていれば来るという採用側優位の時代は終わった。採用の難易度が高まったことから、採用に精通したリクルーターを人事におき人材採用を強化する会社が目立ち始めている。人材紹介会社やフェイスブック、リンクトインなどのSNSを駆使して採用戦略を主導できる人材が求められているのだ。

企業はどんな人事職を求めているのか

リーマン・ショックの前後で、企業を取り巻く経営環境は大きく変わった。新しい事業への転換や成長する中国・アジアの新興国への進出が進み、企業の製品やサービスのサイクルがこれまで以上に短くなっている。

こうした企業の経営戦略の変化もまた採用に影響しており、人事職もこれまでのような欠員補充による採用だけではなくなっている。

プロフェッショナルバンクの兒玉彰社長は、人事に求められている能力を次のように話す。「特に人事の部長や本部長クラスは、新事業構築や事業強化に必要な人・モノ・カネを考慮して経営戦略に必要な人材を見極め、人材分野から経営に対して適切なアドバイスができる能力が重要になりました。例えば、増加しているM&Aでも、経営企画部任せではなく、人材のデューデリジェンスやヒアリングに立ち会い、その後の事業拡大や業務提携に活かすことができる経営的な視点を持った人事が、経営者から心強く思われています」

これまでの人事には、有能な新卒を採用して、企業で活躍できる人材になるように育成する役割が求められていた。しかし、激変する経営環境の中では、人材育成だけでは事業に必要な人材の調達が経営スピードに追いつかなくなっている。

定着も含め人材の確保が企業業績に直結する状況となり、人事の仕事すべてに経営的視点で取り組むことが求められるようになっているのである。

企業はどうやって人事職の候補者を探すのか

企業が人事職の候補者を探す場合は、職務の秘匿性が高いために公募することはめったになく人材紹介会社が利用されることが一般的だ。

アシスタント・マネージャーや若手の採用であれば登録型の人材紹介会社が利用され、人事部長や人事本部長クラスであればエグゼクティブ・サーチが利用されることが多い。また、人事在籍者が転職を考える際にも、それまでの業務で付き合いのあった信頼できるコンサルタントに次の職場探しを依頼することが多いようだ。

求人企業は人事職を次のような流れで採用する。まず求人についての諸条件を人材紹介会社のコンサルタントと打ち合わせる。この時の内容は、会社概要や事業の確認、責任・目的の確認、重要なスキルの確認、求める人物像、会社の文化や価値などを確認していく。

その上で、適切な採用方法と採用スケジュールを決定する。次に人材データベースから適切な人材を検索して、適任と思われる候補者を抽出する。この候補者に対して、まずコンサルタントがインタビューを行い、スクリーニングして最適と思われる候補者を採用担当者に紹介する。

企業側の面接は、ポジションによって面接回数や選考基準が異なってくるが、基本的に他の職種の面接プロセスと変わらない。しかし、日系企業と外資系企業では、面接に違いがあるようだ。

外資系人材会社のヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンのクリスティーン・ライト社長は次のように話す。

「日系企業の場合は経験が重視されているため、業務経験があるかないかといったテクニカルな面が重視されています。業務経験がないと、まず面接に至ることはありません。一方、外資系企業では、会社に合っているか、業務に向いているかといったコンピテンシーを重視し、入社後活躍できるかどうかをインタビューで確認していくことになります」

日系企業の場合は、担当者、部門管理職、役員と面接を進めるのが一般的だ。一方、外資系の場合はコンピテンシー重視で適材適所を見極めるため、仕事でかかわることになる上司、同僚、部下、関係部署とさまざまな人物と面談するケースが多い。

面接を経て内定者がでなかったときは、その理由を担当コンサルタントに伝え、再度条件を明らかにして適切な候補者をスクリーニングすることになる。

より適切なマッチングでは、人材紹介会社の人材データベースとサーチ手法が重要になる。そのためヘイズ社ではDM等を活用して、登録者に仕事に役立つ情報や転職市場の情報などを提供して、データベースを維持するなどの工夫をしているという。

さらにデータベースだけでなく、グーグル検索などでその人物の活躍ぶりや実績などを調べることもある。最も重要なことはコンサルタントの能力だ。ルイーザ・ベネディクト同社オフィス・プロフェッショナルエキスパート部門シニアマネージャーは次のように話す。

「コンサルタントは求人条件にあった人材をスクリーニングするために、インタビューで候補者から適切な情報を聞き出さなければなりません。当社では最適なマッチングができるようにインタビュースキルを研修で訓練し、コンサルティング能力を向上させています」

人事職が転職するためのキャリアの転換点

人事のキャリアの中で転職が最も有利となる時期は、どの時点なのだろうか。 大手外資系企業数社の採用を請け負い、自らも人材コンサルタントであるキャリアエピソードの備海宏則社長は、最近の人事の転職要件について次のように話す。

「外資系企業では当然のことですがグローバル展開に熱心なIT系企業やサービス業でも、英語力が必須となってきました。また、人事の転職では同じ業界への転職が有利になります。同業他社の動向に明るく、さらに商品やサービス業務についての知識もあることから現場とのコミュニケーションが容易です。そのため他業界よりも同じ業界への転職の方が、より現実的でしょう」

人事の求人をみると転職できる経験や期間はほぼ決まってくる。 30歳前後のアシスタントマネジャークラスであれば採用でも労務でも企画でも求人はあり、比較的転職しやすい。しかし、40歳を過ぎてくると部下を何人統率していたのかといったマネジャー経験を問われ、かつマネジャーの空きポジションや求人が少ないために転職は一層困難さを増している。

また、日系、外資系にかかわらず転職回数も重要な要素だという。退職の理由がMBAの取得やスキルアップのためなど前向きで明確ならばよいのだが、上手く説明できない退職だとマイナスになる。人事の職務には従業員の定着を促進する役割もあるため、転職回数の多さが敬遠されることもある。

いずれにしても転職回数は少ないにこしたことはない。特に日系企業では転職回数を気にする傾向が強い。

それでは人事はどのようにキャリアを積んでどのような転職をすればよいのだろうか。備海氏は次のようにアドバイスする。

「30歳前半が重要なターニングポイントといえます。それまでに、5~6年間の十分な人事業務の経験を積んでいれば、次の5~6年間の経験で実力がつきマネジャーになることができるでしょう。ただし、大手日系企業では40歳でも係長クラスであることが多く、マネジャーになれないこともあります。マネジャーになっていないとよほどの専門性がないと転職は難しくなってしまいます」

人事マンとして今後の仕事人生の中で、前向きにキャリアをどう積んでいくのか、慎重に考える必要があるだろう。

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