生産性向上を目指す「従業員」に投資する福利厚生【ベネフィット・ワン】

企業経営や働く人々を取り巻く環境が大きく変化していく中で、企業の福利厚生の目的や施策はどのように変わってきたのか。千葉商科大学会計大学院教授で、福利厚生アウトソーシングサービス大手ベネフィット・ワンのヒューマン・キャピタル研究所長を務める可児俊信氏に、企業の福利厚生の動向や今後の見通しについて聞いた。

可児 俊信
千葉商科大学会計大学院教授
ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所 所長

東京大学卒業。明治生命保険相互会社および明治生命フィナンシュアランス研究所に勤務。1996年から福利厚生・企業年金の啓蒙・普及・調査および企業・官公庁の福利厚生見直しのコンサルティングに関わる。年間延べ300団体の福利厚生部門を訪問、現状把握と事例収集に当たる。著書に「福利厚生アウトソーシングの理論と活用」(労務研究所)、「実学としてのパーソナルファイナンス」(共著、中央経済社)他。講演・寄稿多数。

企業における福利厚生の変化や最近の動向について教えてください。

経済・社会・法令の変化の観点から福利厚生を取り巻く環境を見ると、1990年代のバブル崩壊、97年以降の一段の景気悪化で企業がリストラを行ったことが、従来型の福利厚生が変わるきっかけになりました。社宅・寮、保養所などの「施設モノ」を充実させることによって、従業員の満足度を高めて長期勤続につなげるという福利厚生の目的が労使ともに大きな題目でなくなったためです。

2003年頃から景気が上向き始めると少子化や団塊世代の退職などで労働力人口が減少した影響もあり今度は人材の採用が難しくなってきました。 そして、従業員が働きやすくするために国も次世代育成支援対策推進法、労働安全衛生法、労働契約法などの法律を整えてきました。そうした中で従業員の生産性を高めよう、労働力として女性をもっと活用しようという動きになってきたのです。

こうした背景があって、福利厚生の目的は「従業員満足の向上」から「生産性の向上」にシフトし、「施設モノ」への投資から「従業員」への投資へと大きく変わりました。そして現在もその流れは続いていると思います。

健康増進や両立支援のための福利厚生を重視

●企業が重点を置こうと考えている福利厚生制度の分野(3つまで回答)

(出所)ベネフィット・ワン 人口減少時代の福利厚生のあり方研究会「人口減少時代の福利厚生のあり方調査」(2012年)

企業が重点を置いている福利厚生の分野は?

当社の研究会が2012年に実施した企業調査によると、重点分野の1位が「メンタル面での健康予防」、2位が「身体面での健康予防」、3位が「ワーク・ライフ・バランス支援」、4位が「育児支援」で、健康支援と両立支援が上位を占めています。

企業が最も力を入れている健康支援の新しい動きとしては、今年度から健康保険組合が策定するデータヘルス計画という従業員の健康支援のための取り組みが始まります。国がレセプト(診療報酬明細)の電子化を進めていますが、健診結果と組み合わせることでより効果的な保健指導を目指そうというものです。

データヘルス計画には企業も事業主として関わっていく必要があり、従業員の健康管理に積極的にコミットする「健康経営」はこれからの重要なキーワードです。

従業員の健康改善によって健保組合の財政が改善して法定福利費の企業負担が減少するというメリットはもちろんですが、従業員が健康であることが企業の生産性向上につながるという考え方で、当社は福利厚生の面から企業への支援を強化しています。

また、従業員の生涯を会社が丸抱えできない状況で国の社会保障改革も進みますので、従業員自身にライフプランを考えてもらうための支援も必要になります。

福利厚生のアウトソーシングにはどのようなニーズがありますか。

アウトソーシングは、「施設モノ」を処分して外部の施設を利用するところから始まったのですが、福利厚生が「従業員」への投資に変化していく中で、健康、育児、介護、自己啓発などのニーズが高まってきました。宿泊施設の利用などが減っているわけではありませんが、フィットネスクラブや託児所などの平日に使えるようなコンテンツを充実させる企業が増え、利用が大きく伸びています。

利用できるコンテンツが増えて多様化してきているのですね。

多様化ということでは、カフェテリアプランの活用があります。2000年前後から普及し始め、当初は厳しい業績の中で福利厚生の効率化を目的に導入されましたが、現在は単なるコストダウンではなく従業員の健康維持や両立支援、自己啓発などのために活用されるようになっています。

特に人材採用と定着の観点で強く意識されているのは育児支援でしょう。この会社なら結婚・出産しても仕事を続けていけると思ってもらえることが、女性を採用するための不可欠な条件になっています。これまでの福利厚生は世帯主が主な対象だったわけですが、カフェテリアプランは若い従業員のニーズを取り入れて使いやすくなっています。

さらに、費用対効果や導入の意義が分かりやすいということで、従業員の自助努力を支援するための人材育成ツールとして利用している企業もあります。

提供するサービスで強化する分野や取り組みを教えてください。

大企業では健康保険組合の運営をアウトソーシングして効率化を図るようになっていますので、グループ会社のベネフットワン・ヘルスケアが専門的なサービスを提供しています。また、福利厚生事務の代行では、社宅管理、財形・慶弔、共済会や持株会などの運営をワンストップで受託できる体制を整えています。

福利厚生と退職給付との連携も注目されています。給与天引きされる確定拠出年金の掛け金と同額を従業員にカフェテリアプランのポイントで補助する方法で、税や社会保険料のメリットも大きく、今後、利用が拡大すると考えています。

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