組織・人事

法改正でメンタルヘルス対策が急務に 早期発見・事前予防のため問診に追加【メンタルヘルス特集(1)】

自殺者の増加とメンタルヘルス不調者の増加を受けて、厚生労働省の労働政策審議会で制度改正が検討されることになった。自殺・うつ病の予防対策として、企業の定期健康診断で、従業員のメンタルヘルスの状況をチェックすることになるという。法改正の影響と企業の対応を取材した。

定期健診で検査項目追加、労働安全衛生法改正へ

2009年の自殺者数は3万2845人(警察庁調べ)と、12年連続で3万人を超える深刻な状況だ。このうち、約2500人が職場における「勤務問題」が自殺の原因とされており、従業員のメンタルヘルス対策は企業経営の重要な課題として認識されるようになっている。

厚生労働省が2010年1月に設置した“自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム”では、こうした状況を背景に「今後の対策5本柱」を5月に発表。「職場におけるメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実~一人一人を大切にする職場づくり」を盛り込んだ。その中で人事担当者が特に注目すべきなのが、労働安全衛生法の改正が検討されている点だ。

厚労省が7月14日に発表した「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」報告書案では、企業の定期健診においてメンタルヘルス不調を早期に発見するための新たな枠組みを導入することが基本的な方針として確認されている。同省の案では、メンタルヘルス不調の自覚症状の有無を確認するために、検査項目を追加することなどが有力となっており、早ければ来年4月の法改正も見込まれている。

従業員のストレスチェックはセルフケアが重要に

「法改正直前 職場のメンタルヘルスマネジメント」をテーマに、7月5日、都内で開催されたセミナーに、従業員のメンタル問題に悩む約60社の人事担当者らが詰め掛け、労働安全衛生法の改正への対応やメンタルヘルス対策の課題に関する専門家の解説に真剣に聞き入った。

セミナーを主催した情報資産管理プラットフォームサービスのパイプドビッツ(東京都港区、佐谷宣昭 代表取締役社長 CEO)の廣澤孝之人事ソリューションユニットマネージャーは、「出席者の募集開始から早々に定員となったため、急きょ増席しました。これほどメンタルヘルス対策と今回の法改正に関心が高いとは」と、予想を超える反響の多さに驚く。

パイプドビッツでは、法改正に対応して、同社の情報管理システムを導入している企業から「従業員自らがストレスの状況を確認できるサービスはないか」という要望を受け、セルフチェックツール「こころの健康診断」を3月にリリースし、あわせて今回のセミナーを開催したのだ。

セミナー当日、出席者にアンケート調査を行ったところ、「法改正の提言がされたことを知っていた」と回答した出席者は約7割、「法改正が実施された場合に対策が必要だと思う」は8割を超えており、人事担当者の関心の高さを改めて裏づけた。

職場のメンタルヘルス対策の実情に詳しいピースマインド総合研究所の渋谷英雄所長は、メンタルヘルス不調者の休職・復職支援が大切としながらも「復職後も不調者の対応に悩む企業が多く、職場や人事担当者の負担も非常に大きいのが現状です。そのため、早期発見・事前予防に取り組みメンタルヘルス不調者を出さないことがますます重要になっています。法改正はその流れの一環で、従業員自身がストレスを“知る・気づく・対処する”ことで、メンタルヘルス不調を予防するようなセルフケアの仕組みを整えることが必要になります」と強調する。

健診結果で従業員から企業の対応が問われる可能性も

労働安全衛生法の改正で、定期健診における検査項目の追加が行われた場合、企業には新たなメンタルヘルス対策が迫られることになる。

厚労省のメンタルヘルス対策検討会では、定期健診の結果を受けて、「メンタルヘルス不調者を適切に専門家につなぐことができること」「健康診断実施後の対応が適切に行われるよう、専門的な知識を有する人材の確保や活用等の基盤整備が図られること」を企業に求めていくとしている。

「メンタルヘルス不調の原因は、業務負荷や職場環境に求められやすいという点に注意すべきです。定期健診の結果は、労働組合にとって労働環境の改善を求めていくための格好の材料になります。また、従業員本人からは『会社や上司はどのように対応してくれるのか』と直接問われる可能性が高まることも考えられます」(渋谷英雄所長)。

人事担当者は、定期健診結果が明らかになった後の対応も見据え、法改正に備えた早期発見・事前予防のための具体的な施策の検討を急ぐ必要がありそうだ。

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