大多数が雇用増加を予想、採用過熱で人材不足に【「人材採用の動向と人材業界の展望」本誌調査】

早くも採用過熱による人材不足を指摘する声が上がっている。日本人材ニュース編集部では2014年の日本の人材採用の動向と人材業界の展望について、企業の人材採用をサポートしている主要人材会社100社に取材とアンケート調査を行った。

昨年は安倍政権が掲げた経済政策によって年初から景気回復への期待が膨らみ、その後、進行した円安・株高によって日本経済はようやく息を吹き返した。

東日本大震災からの復興も本格化したことで、東北地方における建設関連の人材需要も急速に高まった。また、昨年9月に決定した2020年の東京オリンピック開催は、中期的にも日本経済を回復させるための大きな足掛かりとなっている。

このような経済の情勢を反映してアンケート調査の結果は、日本の雇用情勢が「良くなる」(39%)、「やや良くなる」(55%)を合わせて94%と雇用の増加を予想する回答が大多数となった。また、同時に早くも採用の過熱による人材不足を指摘するコメントも目立つ。一方、4月からの消費税導入を懸念する意見も挙がっている。

「円安などから企業の設備投資意欲が喚起されるかどうかが14年の企業の人材需要にも反映される。4月の増税のタイミングを注視しなければならない」(阪部哲也KANAEアソシエイツ社長)、「消費税の導入は時期尚早と思われ、景気の先行きは不透明」(岩槻知秀レバレジーズ社長)。

設備投資が進み景気が拡大していくのか、あるいは景気回復の影響は限定的なものになるのかで企業の人材需要が大きく変わることも予想される。

アベノミクスによる人材業界への影響もすでに出始めている。特に昨年は経験者採用の求人件数は増加したが、リーマン・ショックによる業界の急激な縮小によって人材コンサルタントが減っているため、企業からのすべての求人に対応できる状況ではなかった。

また、求人が増えたとはいえ企業の高い採用基準は依然として続いていることもあり、結果的に求人数の増加に対し採用決定数はあまり伸びなかった。

人材会社もコンサルタントの採用を強化しているものの、コンサルタントの適性を持つ人材は多くないのでコンサルタント数はそれほど増えていない。今年、求人がさらに増加することになれば、人材会社がこなせる求人件数は限られているため企業は経験者採用に苦戦しそうだ。

人材会社も求人数が多くなる一方で採用決定者数が伸び悩めば、コンサルタントの生産性が下がるため効率的な運営が求められる。

その点について人材紹介会社のプロフェッショナルバンク兒玉彰社長は、「求人ニーズは増えるものの人材提供が追いつかず、全体的に微増か横ばいのマーケットではないか」と中途採用市場を分析する。

また、中途採用支援会社のプロッソ牛久保潔社長も次のように話す。「転職サイトや人材紹介会社への依頼はますます増えるものと思うが、企業の人材需要を満たすには質の面でも数の面でも難しい」

さらに、このような中途採用市場の状況が新卒採用に及ぼす影響について、新卒採用支援会社ヒューマネージの齋藤亮三社長は次のように指摘する。

「スケジュールが大きく変わる16年4月入社予定の新卒採用の不透明感に加えて、中途採用で人材を充足できない分を補填する動きもあり企業側の動きは積極的」と大手企業を中心に例年にまして採用数を増加させてきそうだ。だが、大手企業が採用数を増加させることで、中小・ベンチャー企業の新卒採用は厳しさを増す。

インターンシップ情報提供会社のアイタンクジャパン丹羽健二社長は、「中小・ベンチャー企業は採用力の底上げが急務だ。企業の魅力を伝えるためにインターンシップの活用や採用サイトを含めたブランディングに力を入れると採用力も上がってくる」とダイレクトリクルーティングの重要性を強調する。

採用が難しくなる中で求人メディアや人材紹介以外にも独自の採用施策を考えなければ、採用計画数を確保することはできないだろう。人材不足は新卒・中途の正社員ばかりではない。非正規社員の確保も苦戦が予想される。

テンプホールディングスの水田正道社長は、「オリンピック需要も相まって人手不足が続くだろう。引き続き旺盛な人材需要が続くと思われる。派遣法の改正によりこれまで派遣離れをしていた顧客が派遣に回帰することも予想され、さらにオーダーの増加が見込まれる。特に派遣に関しては人材の供給がまったく追いついていない」と状況を話す。

また、アルバイトもサービス産業を中心に不足が続いている。 正規・非正規社員ともに人材不足が深刻化する中で、シニア人材の活用に注目するのは再就職支援会社リクルートキャリアコンサルティングの前野一郎社長だ。

「製造業では雇用調整が行われてきたが、一方でサービス産業では人材不足が続いている。製造業から非製造業へのシフトで失業なき構造改革を実現しなければならない」「大企業では、バブル世代の大量採用という問題が引き続き課題になっているため、大企業から中小企業や異なる業界への流動化が進む。人材業界は流動化で生じてくるミスマッチの解消に努める必要がある」としてミドル・シニアの労働力活用を訴える。

ヒューマンリソシアの御旅屋貢社長も次のように指摘する。「バブル期の採用失敗などの経験から正社員の大量採用とはならず、必要な労働力を確保するために正社員、派遣社員、契約社員、アルバイト、アウトソーシング、そして限定正社員と労働力の最適化を図る必要が出てくる。そのためにもシニアや女性労働力の活用を考えなければならない」

シニアや女性にはフルタイムの正社員以外の雇用形態に対するニーズもある。雇用ポートフォリオを考えた採用が進めば、今年はシニアや女性の労働力を多様な雇用形態により本格的に活用する転換点になるかもしれない。

人材会社はリーマン・ショック以降、企業の厳しい採用基準にキャッチアップするためサービス品質を向上させてきた。しかし、今年からの求人数の増加と新規事業者の参入による競争激化で、人材サービスの質の低下も予想される。企業の採用担当者は質の高いサービスを提供する人材会社を見極め、人材採用のパートナーとして活用してもらいたい。

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