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パワハラ対策義務化 未然に防ぐチェックリスト

6月から改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行され、企業は相談窓口の設置や社内規定の整備などの対応に追われた。そこで今一度、パワハラを未然に防ぐために確認すべきことについて社会保険労務士の山口雄大氏に解説してもらった。

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山口 雄大 社会保険労務士(汐留社会保険労務士法人)

パワハラ防止法が6月から施行

パワーハラスメント(パワハラ)防止のため、相談窓口の設置や社内規定の整備などを義務付けた改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が2020年6月1日から施行されました(中小企業は2022年4月1日から義務化され、それまでは努力義務)。

今回の法制化の背景の一つとして、パワハラの相談件数が年々増加していることが挙げられます。都道府県労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2012年度に相談件数でトップとなり、引き続き増加傾向にあります。また、厚生労働省が行った2016年度実態調査によると、「過去3年間にパワハラを受けたことがある」という人は32.5%、そのうち7.8%については「何度も繰り返し経験した」と回答しています。今やパワハラは社会的に大きな問題になっているといえるでしょう。

職場におけるパワハラの定義とは

職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものを「パワハラ」と定義付け、明文化しています。

①「優越的な関係を背景とした言動」とは、職場での地位や知識、経験を利用して行われるものをいいます。上司から部下に対するものに限らず、知識や経験の豊富な部下が、その優位性を利用して上司へ行う行為や、専門職から管理職、集団から個人への言動も含まれます。

②「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、その言動が明らかに業務上必要ない、またはその態様が相当でないものをいいます。言い換えると、受け手が不満に感じる言動であっても、業務上必要かつ相当な範囲内であればパワハラには該当しません。

③「労働者の就業環境が害されるもの」とは、その言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。これについては「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、社会一般の労働者が同様の状況で同じ言動を受けた場合にどう感じるかで判断します。

つまり、パワハラの場合、受け手が「不快だった」としても、それだけでパワハラが行われたとは判断されません。セクシャルハラスメント(セクハラ)の場合は、受け手が「性的に不快だった」という本人の感じ方が判定のポイントになりますが、パワハラの場合はセクハラとは異なり「客観的にみて判断する」ことになります。

パワハラを未然に防ぐための措置は企業の義務

●職場におけるパワハラ防止のために講ずべき措置 チェックリスト

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パワハラが社員・会社双方に及ぼす悪影響

パワハラが実際に職場で起こると、どのような影響が出るのでしょうか。

パワハラを受けた社員は心身に不調が生じ、仕事へのモチベ―ションやパフォーマンスが低下することが多くなります。今まで通りの業務ができなくなり、次第に遅刻や欠勤が増え、休職や退職に至る可能性もあります。それにより、社内の雰囲気も悪化し、他の社員のモチベーションや労働生産性の低下、さらに人材の流出を招くかもしれません。

また、パワハラを受けた社員がパワハラの行為者である社員と会社を訴えた場合、金銭的、時間的にも大きな損失を招きます。パワハラが報道やSNSによって広まれば、会社の信用失墜に繋がり、企業イメージの悪化も避けられません。「パワハラのある会社」という情報は求人にも影響し、人材確保や人材定着という点でも大きなダメージを受けるでしょう。

このように、パワハラは会社に対して様々な悪影響を与えるため、未然に防ぐことが重要です。

パワハラは会社や社員に様々な悪影響を与える

●パワーハラスメントを受けたと感じた場合の心身への影響

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(出所)厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」

パワハラを防ぐための3つの対策

パワハラを未然に防ぐための予防措置として、3つの対策を解説します。

1つ目は「会社の方針等を明確化し、周知・啓発すること」です。例えば、会社が「パワハラ防止方針」といったポスターなどを作成して社員に周知・啓発することで、「パワハラを絶対に許さない」という会社の意思をしっかりと伝えることが重要です。

また、就業規則などに規定することも予防措置の一つです。どのようなケースがパワハラにあたるのか、具体的な行為を服務規律などに明確に記載することが望ましいでしょう。万が一パワハラが発生した場合に備え、行為者に懲戒処分を科すことも明記しておく必要があります。

2つ目は「相談窓口を設置し、周知すること」です。相談窓口は他のハラスメントと分けて設置するのではなく、一元的に設置することが望ましいとされています。ハラスメントには多くの種類があり、内容が重複する相談が寄せられる可能性がありますので、一元的に管理できる体制の方が、より適切な対応が可能となります。

また、周知の際には、担当者、連絡先も明記しておきましょう。記載がないと、窓口が機能しない可能性があります。効果的な周知方法は、社内報や掲示板などに目立つように掲載し、いつでも、誰でも見ることのできる案内を行うことです。「会社は真摯に対応する」という姿勢を社員が感じることで、相談しやすい環境作りへと繋がります。

窓口担当者を複数人とする場合には、最低男女一人ずつを選任することが望まれます。男女どちらに相談しやすいかは、相談者や内容によって異なるためです。また、担当者の聞き取りにバラつきが出ないように、「相談マニュアル」を作成することも効果的です。先入観で判断することなく、「事実確認」のできるヒアリングへ繋がります。

3つ目は「研修の実施」です。研修は主に2パターンあります。一つは座学によるもの、もう一つは参加型のワークショップ形式です。どちらにおいても、講師に自社の現状を把握してもらい、どのような内容で行うかを事前に打ち合わせておくと、より有意義なものになります。新入社員向けなど、基礎的な研修を目的とする場合には、座学が向いています。一方、ワークショップ形式では、あらゆる場面を想定し、事例を基に話し合うことで当事者意識が芽生えていくため、管理職や窓口担当者向けとするとよいでしょう。

テレワーク環境下に潜むパワハラ

新型コロナウイルス感染症予防対策の一環として、「テレワーク」を導入する企業も増えていますが、テレワーク環境下においてもパワハラが起こる可能性があります。

メールや電話、Web会議でのやり取りなどは、対面よりも意図が伝わりにくいため、いつも以上にコミュニケーションへの配慮が欠かせません。メールでの過度な監視や配慮を欠いた指示は、パワハラ行為にあたる可能性があります。電話では、オフィス勤務時には他者の目を気にして抑制されていた部分が、度を越えてしまう危険があります。また、Web会議中に、寝室やプライベートな部分を見せるよう要求する行為なども避けましょう。

これらの対策として、通常のオフィス勤務では起こりえない問題点を洗い出し、適切な業務遂行のための自社のルールを明確にし、全社員共通認識のもと運用していくことが重要です。

どのような行為がパワハラなのかの周知が必要

●実際に生じたパワーハラスメント又はそれが疑われたケースの6類型

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(出所)労働政策研究・研修機構「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」から一部抜粋

ハラスメントのない快適な職場環境を

パワハラを受けたことにより、自ら命を絶つ悲しい事件もあり、パワハラは決して許されるものではありません。しかし、部下からパワハラと言われると怖いので管理職は引き受けたくないという社員の話を耳にすることも増え、パワハラについて皆が正しく理解をする必要性を実感しています。

正しい理解と合わせて、未然に防ぐ予防措置、それでも起こってしまった時の適切な対応方法、再発防止策などを整備することは、働きやすい快適な職場環境を作り、すべての「人」と「会社」の労働生産性の向上と人材確保・人材定着に繋がると考えられます。今回の法制化をきっかけとして、自社に適した対策を講じてみては如何でしょうか。

今回解説したパワハラには、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つの類型があります。これらをわかりやすく説明した動画を当社で制作しました。パワハラへの理解を深めるためにも、是非ご活用ください。

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