2018年は無期転換ルールの本格化、同一労働同一賃金で初の最高裁判断、働き方改革関連法の成立と、対応に追われた人事担当者も多いのではないか。本稿では今年1年間の人事動向を振り返る。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部)
2018年は日本の雇用のあり方を見直す転機の年
人手不足を反映し、2018年は過去最高の有効求人倍率となった。有効求人倍率は今年5月以降、1.6倍台が続き、9月は1.64倍となり、1974年以来の高水準となった。正社員も1.14倍で過去最高となった。
生産年齢人口が減少し続ける中で、従来の日本の雇用のあり方を見直す転機の年でもあった。その一つは4月1日から本格化した無期転換ルールだ。改正労働契約法18条は有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えると労働者に無期転換権が発生する。今年4月はその5年目にあたる。
無期転換ルールの対象者は893万人
4月に無期転換ルールの対象となる5年超の有期契約労働者は893万人という調査もある(リクルートワークス研究所)。だが、無期転換ルールを知らないパート社員や契約社員も少なくない。それに便乗し、周知しないでスルーしようという企業もある。
中堅飲食業の人事部長は「事前に想定問答を用意するなどしっかりと準備し、有期のパート・アルバイトを対象に説明会を開催したが、なんとほとんどが無期転換ルールを知らなかった。飲食・物販業界には“寝た子を起こすな理論”というのがある。有給休暇が取得できることも知らないアルバイトも多く、黙っていれば全然申請してこない。実際に業界内には無期転換でも同じように周知しない企業もある」と語る。
連合や産業別労働組合は今春闘で無期契約転換だけではなく、正社員化や処遇向上を目標に掲げた。だが、組合員約35万人を擁する機械・金属労組のJAMの幹部は「処遇向上を訴えても大手労組の役員ですらも正社員化は無理だし、処遇改善も難しいと反発しているのが実状だ。中小企業の現場は女性事務員が多いが、無期転換の周知すらされていない可能性もある」と実態を明かす。
同一労働同一賃金で最高裁が初判断
その一方で国会では「時間外労働の罰則付き上限規制」「同一労働同一賃金」「高度プロフェッショナル制度」などを盛り込んだ「働き方改革関連法」が6月29日に可決・成立した。今年の秋から時間外労働の上限規制などの改正労基法、同一労働同一賃金に関わるパートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法の施行に向けて政省令や指針が整備された。
また、同一労働同一賃金に関しては6月1日、正規社員と非正規社員の待遇差を巡って争われていた長澤運輸・ハマキョウレックス訴訟の最高裁判決が下された。とくに定年後再雇用者の賃金を引き下げることの是非が争われた長澤運輸訴訟は、賃金減額は不合理と認定した一審判決が出た後、2審判決は再雇用者の賃金減額は社会的に容認されており、不合理ではないとの逆転判決が出され、最高裁の判決が注目されていた。
最高裁は定年後再雇用の嘱託社員と正社員の賃金格差の大半については不合理とはいえないとした。だが、最高裁は判断の基準として、定年後再雇用者について労働条件の違いが「不合理な格差」にあたるかどうかを判断する際は、労働契約法20条の「その他の事情」として考慮されることとした。これは同一労働同一賃金の均等・均衡待遇の考慮要素である職務内容、転勤などの配置の変更範囲、その他の事情の3つのうち「その他の事情」に定年後再雇用が含まれるとした。
もう一つは、正規と非正規の労働条件の違いが「不合理な格差」にあたるかどうかを判断する際は、両者の賃金の総額を比較するだけではなく、個々の賃金項目の趣旨を個別に考慮して判断すべきとしたことだ。つまり、有期と無期の賃金の総額を比較するだけではなく、個々の賃金項目の性質・目的に照らして判断しなければいけないと言っている。
実際にハマキョウレックス事件では争点となった手当を趣旨・目的に照らして個別に審査し、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当を非正規に支給しないのは違法と判断した。
就活ルールも大きく見直された
新卒採用の「就活ルール」でも大きな見直しがあった。経団連は10月9日、会長・副会長会議で新卒学生の採用活動の日程を定めた「採用選考に関する指針」を2021年春入社の新卒学生から廃止すると発表した。その後、就活解禁の目安の維持を求める大学側の意向を受けて10月29日に関係省庁連絡会議を開催。政府主導で会社説明会は3年生の3月、採用面接などの選考は4年生の6月解禁が維持されることになった。
だが、単なる政府の要請だけでは拘束力が弱く、今まで以上にルールなき採用活動が展開されるのではないかという不安も残る。また、指針の廃止をリードした経団連の中西宏明会長には、新卒一括採用そのものやそれをベースに成り立つ終身雇用などの日本の雇用慣行が時代に合わないとの認識がある。
政府の「未来投資会議」では現行の新卒一括採用方式の見直しを含めて議論する予定であり、今後は採用を含む人事制度のあり方にも影響を与える可能性がある。
高齢者雇用にも大きな動きが
高齢者雇用でも大きな動きがあった。安倍晋三首相が10月24日の所信表明演説で「生涯現役社会を目指し、65歳以上への継続雇用の引き上げや中途採用・キャリア採用の拡大など雇用制度改革に向けた検討を進めます」と発言した。
政府が高齢者の雇用を促進するのは、人手不足の緩和による経済の活性化と公的年金などの社会保障財政の安定化を狙ったものだ。安倍首相が議長を務める「未来投資会議」では、65歳までの雇用確保措置を義務づけた高年齢者雇用安定法の継続雇用年齢を70歳に引き上げる法改正の検討も始まっている。来年の夏までに実行計画を策定し、2020年の法改正を目指しているとされる。
また高齢者の雇用と密接な関係にある公的年金については2018年4月に財務省の財政制度審議会で公的年金の支給開始年齢を現行の65歳以上に引き上げる案が浮上し、話題になった。あわてた厚生労働省は65歳の支給開始年齢は引き上げない方針を示しているが、今後どうなるかはわからない。
政府は「人生100年時代」を提唱し、少なくとも誰もが70歳まで働く「70歳現役社会」を目指している。おそらく次のステップは70歳までの雇用を見据えた法定定年年齢の65歳への延長も視野に入ってくるだろう。