経営幹部候補のリーダー人材から選ばれる企業になる【「人材の二極化時代」の採用戦略】

経営幹部候補であるリーダー人材の採用や育成への関心が高まっている。しかし、リーダー人材を確保するための人事戦略が実現できている企業はまだ少ないようだ。企業の人材採用の実情に詳しい人材紹介会社コンコードエグゼクティブグループ社長の渡辺秀和氏に、リーダー人材から選ばれる企業になるための採用戦略などを聞いた。

コンコードエグゼクティブグループ

コンコードエグゼクティブグループ
渡辺 秀和 代表取締役社長 CEO

一橋大学商学部卒。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任。戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家などへ1000人を超えるビジネスリーダーの転身を支援。第1回「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVPを受賞。東京大学×コンコード「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)、『未来をつくるキャリアの授業』(日経新聞出版社)。

経営幹部候補のリーダー人材を採用できている企業にはどのような特徴がありますか。

優れた採用を行っている企業は、人材が生み出す付加価値に応じた処遇を行っています。言い方をかえると、年齢や社歴ではなく、その人材の市場価値に応じた処遇をしているということです。

最近、グーグル社が東大で人工知能を研究している学生を年収1800万円でスカウトしているという報道が話題になりました。いまだに人材を横並びで採用している日本の大手企業と価値観の差が歴然となった事例と言えるでしょう。

企業の人事の皆さんが強く感じていらっしゃるとおり、現代は、優秀な人材とそうでない人材の差がとても大きくなっています。20代でも経営者として活躍している人も珍しくありません。一方で、ストレス耐性等の問題から、社会人としてスタートをうまく切ることができない若手社員も問題になっています。

このような「人材の二極化時代」においては、従来とは異なる採用や組織マネジメントを行っていく必要があります。当然のことながら、優秀なリーダー人材は、自分の価値に見合った処遇をしてくれる会社を選びます。

そのような状況下で、横並びの採用を行っていると、人材市場で余った人材しか採用することができません。仮に優秀な人材を採用できたとしても、妥当な処遇を出来なければすぐに退職されてしまうでしょう。

リーダー人材はどのような志向を持っているのでしょうか。

リーダー人材は、自身の成長に対して貪欲です。厳しかったとしても、高いレベルの仕事を任されて成長できる場を求める傾向が強いです。そのため、リーダー人材を一般社員とは分けて採用し、幹部候補として抜擢して育てていくという方針を明確に打ち出している企業を好む傾向があります。

リーダー人材として注目されているポストコンサルが事業会社への転職を考える際に恐れるのは、年功序列の枠に入ってしまい、自分がこれまで頑張ってきたキャリアが無駄になるのではないかということです。

日本の大手企業で活躍しているリーダー人材が、外資コンサルや投資銀行などの実力主義の会社に転職している理由も、今の会社で横並びの扱いが嫌になってしまったということが多いのです。

具体的にはどのようなスキルの向上に関心を持っているのでしょうか。

リーダー人材は、経営スキルの獲得とリーダーシップの開発に高い関心を持っています。例えば、ポストコンサルは、経営スキルは学んでいても部下を率いるようなリーダーシップを発揮する経験が不足していますので、そのような経験を積める場を求めています。

一方、大手企業では若いうちは経営スキルを獲得する機会を得ることが難しいものです。そのため、大企業を飛び出そうとしているリーダー人材は、高い経営スキルを持つ上司のもとで、経営企画や事業開発にかかわりたいと考えています。

企業がリーダー人材をひきつけるために効果的な施策はありますか。

「リーダーシッププログラム」と呼ばれる幹部育成コースがリーダー人材から高い人気を集めています。2~3年の期間中に複数の部門をローテーションしながら主要な事業戦略を担当するものが一般的です。

同時に経営知識を整理するための研修やリーダーシップを学ばせるワークショップなどの機会が与えられます。そして、プログラム終了後は部長待遇などで重要なポジションに就きます。

ベンチャー企業などでリーダーシッププログラムを運用するリソースを持てない場合には、「社長直下のポジション」を用意するという手法があります。社長直下で社内改革プロジェクトや新規事業の立ち上げを任せ、社長自らが指導を行っていきます。

最近は、上場を目指す成長企業や上場を達成し次のステージを目指す企業がこのような採用を行いはじめました。起業家という優秀な生きた手本を間近で見ながら、リーダーシップの実践を経験できる点に大きな魅力があります。

「成長機会」を与える企業がリーダー人材に選ばれる

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リーダー人材から選ばれる企業になるためには人材戦略の見直しが必要ですね。

人材を横並びで扱わず、一人一人が生み出す価値を考えて採用していくというパラダイム転換が必要だと思います。こうした考え方に基づいたリーダー人材の採用、抜擢や育成が、特に日本の大企業では遅れています。

まずは、自社で必要な経営者人材がどのようなものなのかをしっかりと把握し、その人材をどのように採用し、育成するのかを考えていくことが大切です。

経営者人材はスタッフ人材の延長にはありません。経営者には、自社が何をすべきかを定義して、それを実現しうる組織や業務を設計する能力、あるいは部下を育成し、士気を高め続けるという能力が求められるでしょう。

与えられた業務をミス無くこなすことが求められるスタッフとしての能力とは異なります。良い大学を優秀な成績で卒業していたとしても、適切な経験を積まずに、このような力は身につかないことは容易に想像がつきます。

リーダー人材を横並びで扱って、スタッフとしての業務を与え続けていては、経営者人材を育成することはできないのです。

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