日本オラクルは、米国オラクル・コーポレーションの日本法人として1985年に設立された。2000年4月に東証一部に上場し、07年には、ソフトウエア専業の上場企業としてはじめて売上高1000億円を達成している。 国内のソフトウエア分野ではトップの実績を誇る同社の新卒採用と求める人物像について、人事本部採用企画部の鈴木宏彦ディレクターに聞いた。
日本オラクル
鈴木 宏彦 人事本部 採用企画部 ディレクター
ITを総合的に提案するグローバルカンパニー
日本オラクルは、もともとミドルウエア(データベース管理ソフト)に強い会社と言われてきた。近年の米国本社による買収戦略も功を奏し、今ではITを総合的に提案する企業へ変貌を遂げてきている。
カバーしている産業分野は通信、製造、金融、流通、医療と幅広く、あらゆる企業を対象に情報システム構築のためのソフトウエア製品、ソリューション、コンサルティング、サポートサービス、教育などの事業を展開している。
特徴的なのは、外資系企業でありながら、東京証券取引所に上場していることだろう。同社の創業期の経営陣が「外資系であっても、日本に根づいたグローバルカンパニーをめざしたい」と考えたからだ。
世界中のIT 技術を日本に集約して活用できるよう、日本から世界を相手にビジネスを展開する顧客企業のために役立ちたいという思いがあったという。
新卒採用で求める3つの条件
トータルソリューションカンパニーに変貌を遂げた同社では、新卒市場で、どのような人材を求めているのだろうか。
採用企画部ディレクターの鈴木宏彦氏は「ひと言でいえば、世界中からITに関する情報を掴み、それを日本で発信することをサポートできる、そして、日本企業のグローバリゼーションに貢献できる人材」という。
「まず、プロアクティブに動く人。日本の従来型の企業では上からの指示を待って下が動くという傾向がありますが、自分が置かれた状況を考慮し、自らの判断で動ける人であってほしい」
「例えば、大学のサークルなどの活動で、自分の役割がなにかを理解し、自分が何をすべきか自ら行動してきた人です。上からの指示がなければ動けないような人は必要としません」(鈴木氏)。
第二の条件として掲げているのが、チームワークを考えられるコミュニケーション能力を備えた人材だ。
プロアクティブに動ける人は時として、自信過剰でプライドが高く、周りが見えなくなることがある。このとき大切になるのは、チームの中で「1×2=4」となるようにメンバーと協力し小さなコミュニティーを作れるかどうかだという。つまり、相手の思考を理解し、自分がどう動けばチームがスムーズに展開するかケアできる人ということになる。
第三の条件は、フレキシブルな対応ができるかどうか。経済環境が激変し、昨日は右を向いて動いていたプロジェクトが、今日は左に行かなければならない事態も起こりうる。
“小さな木を見て動くのでなく、森全体を見て状況を判断し、臨機応変に意思決定できる人”が望ましいと鈴木氏は指摘する。
「このような3つのコンピテンシーを発揮できるかどうかに加えて、大学で学んだことがIT分野でどのように活かせるか、また、マーケティングや会計などのビジネス分野の学問が、ITの領域でどのように役立てられているのかを認識している人を求めています」(鈴木氏)
「同期という同じ価値観や意識」を大事にしたい
外資系企業の採用というと、即戦力のキャリア層のみとするイメージが強いが、同社は中途採用に加え、新卒者を毎年約50人採用している。その理由を、「企業文化を形成し、継承していくため」と鈴木氏は言う。
同社の新卒採用は職種別採用を行っている。新卒社員を社内の様々な部門に同期生数人とともに配置するのは、外資系でありながら「同期という同じ価値観や意識のメリット」を評価しているからだという。
同期という目に見えないチームワークの良さが、日本のグローバルカンパニーの中に根づき、顧客からの信頼を得ながら様々な商品を提供するという目的が達成できると考えているからだ。
さらに、「もう一つはチェンジ・エージェント(変化の担い手)としての役割があります。つまり、組織は硬直化しやすいものなので、新しい血を入れてリフレッシュするということです」
職種別採用で高い定着率
「採用に携わる社内のリクルーターは、応募者が自分の部下になる可能性もあるわけですから、自分の部署にふさわしい資質を持った人材であるかを見抜けないといけない」
「採用では人事担当者ばかりでなく、エントリー段階では入社5年目の社員が、第一次面接では課長クラスが、最終面接では本部長クラスがそれぞれ対応するようにしています」
「リクルーターはトータルで60~80人。彼らが採用を通じて新卒者と話をすることが、社内のモチベーションを高めることにつながってくるといった効果も期待しています」と鈴木氏は話す。
新卒者の採用職種は、プリセールスと呼ばれるセールスエンジニア、パートナー企業がシステムを導入する際に支援を行うITコンサルタントがある。
最初から職種別に採用しているので、入社後に志望と違ったところに配属されるといったケースはほとんど起こらない。定着率も高く、採用者が1年未満で辞めることはほとんどないという。
公募は11月から始まり、1月~2月にオープンセミナーが開かれる。ここでは、会社説明や業界動向、質議応答が行われる。その後、「Webテスト」を経て一次面接となる。
二次面接の前には、職種に合わせてオープンセミナーよりも突っ込んだ質疑応答の場も設けられている。
一方で、留学生の採用も積極的に行っている。「学生時代に、グローバルでの経験をした新卒人材も、当社にとって重要な人材」(鈴木氏)だという。
採用コンセプトは「もっと世界を自由に」
同社では、一昨年から、新卒者に向けて「もっと世界を自由に」という小冊子を発刊している。
ITがなければどんな会社もグローバル化は難しい。もし新卒者がITの会社=日本オラクルに入社すれば、もっと世界を自由に、様々な産業分野で活躍することができる──というメッセージを伝えるために、マーケット(IT業界)、職場(日本オラクル)、学生(応募者)の視点から同社を分析・紹介したものだという。 といっても肩ひじ張った硬いものではない。例えば1頁に数行ずつ、次のようなコピーが散りばめられている。「日本の学生のみなさんの就職にも、そろそろ本当の、グローバルな拡張性を望みます。だって、たのしいし、つよくなってほしいし」
日本オラクルとはどういう会社で、世の中からどう見られているか、日本のマーケットの中でどう売り込みできるのか、どのように活躍できるのかといったことをシンプルかつおしゃれな言葉で問いかけている。
採用ホームページやオープンセミナー、学生と直接対話する面接試験でも「もっと世界を自由に」という言葉の意味をアピールするようにしているという。
「もっと世界を自由に」は新卒者を採用するときの重要なコンセプトです。全社員があらゆる場面でこのような共通メッセージを発信し、ビジネス全体のイメージを分かりやすく説明する。これが応募者のモチベーションを高め、入社動機を明確にさせるポイントだと思っています」(鈴木氏)