事業の海外展開、海外企業のM&A(合併・買収)、インバウンド需要であらゆる産業・規模の企業でグローバル人材のニーズが高まり、人材確保で苦戦するようになっている。社内人材の育成も間に合わず、中途採用でも必要な人材を採用できない状態が続いている。グローバル人材を確保するためにどのような手を打つべきか、企業の人材戦略を支援する専門家に聞いた。
- 海外売上比率は拡大し、急速なグローバル化を予想
- 急速に進むグローバル化で多くの企業が人材採用・育成の課題に直面
- M&A後の統合の成功は、人材マネジメントが果たす役割にかかっている
- インバウンド需要の拡大でビジネス環境が大きく変化、人材確保が追いつかず
- 短期的には採用力を強化し、中長期的には育成による質と量の両面の人材確保が急務
- 専門家に聞く「グローバル人材のニーズ、活躍への取り組み」
- インテリジェンス・グローバル・サーチ(現BRS)ナイーム・イクバル マネージング・ディレクター
- インフォテクノスコンサルティング大島 由起子 セールス・マーケティング事業部長
- リクルートエグゼクティブエージェント波戸内 啓介 代表取締役社長
- ウィルソン・ラーニング ワールドワイド為定 明雄 代表取締役社長
- ディスコ大掛 勲 グローバル事業推進部 課長
- グローバルナレッジ マネジメントセンター加藤 洋平 コーポレイト ラーニング ソリューション マネジャー
- JIN-G三城 雄児 代表取締役
- エーオンヒューイットジャパン楠見 スティブン 代表取締役社長
- ヒューマンアカデミー新井 孝高 法人・ 国際教育事業部 取締役 バイスプレジデント
- アルバイトタイムス平山 雄一 外国人採用支援室長
- ヒト・コミュニケーションズ花堂 哲 セールスプロモーション営業部 部長
- チェンジ福留 大士 代表取締役COO
- パソナテック吉永 隆一 代表取締役社長
- フェニックス コンサルティングピーター・オワンス 代表取締役社長
海外売上比率は拡大し、急速なグローバル化を予想
日本企業のグローバル化が加速したことで、多くの企業がグローバル人材の採用に苦戦する姿が浮かび上がる。 東京に本社を置く中堅のプラントメーカー。これまで国内を中心に事業を展開してきたが、ここ数年、中国、東南アジアへと海外展開を強化していた。
努力の成果が表われアジア圏における売り上げは急拡大。受注の急増でグローバル事業に必要なエンジニアの育成が間に合わなくなり、必要な人材を中途採用で確保してきた。
ところが、昨年中頃辺りから希望するエンジニアが思うように採用できなくなり、受注残が増えて売り上げの伸びにストップがかかっている。「アジアには環境問題を始めとしたテーマが多く、人材さえいれば売り上げは大きく上向く。いまがチャンスなのに残念だ」とプラントメーカーの社長は嘆く。
人材の採用が売り上げに直結する。こうした状況を打開するため、社長自ら人材紹介会社のコンサルタントに会って必要な人材を伝えるなど直接採用にかかわるようにしている。さらに、採用基準も見直した。
その甲斐あって、経験者採用はようやく計画の半数を確保するところまできたという。2015年4月入社の新卒採用も苦戦したが採用担当者が地道に地方大学などをめぐり、ほぼ計画数を達成した。16年卒からは、外国人留学生のエンジニアの採用を新たに始める方針だ。 当初は外国語によるコミュニケーション能力を重視していたが、「もはやそんなことを言っていたらエンジニアは採用できない。語学は入社してから習得してもらえばいい」。
今後さらに日本企業のグローバル化は進向する。すでに海外売上高比率が50%以上を占める企業の比率(JETRO調べ)は、情報通信機械・電子部品で27.9 %、輸送機器で25.2%、商社・卸売りで20.9%、一般機械で20.0%と2割を超えるようになっている。
さらに、今後3年程度で海外売上比率が拡大すると見込む企業の比率は製造業で54.7%、非製造業で39.3%と高まっている。特に化学(68.8%)、輸送機器(65.0%)、一般機械(61.2%)の業界では6割超の企業で海外売上比率が拡大するとしており、数年以内の急速なグローバル化が予想される。
多くの産業で海外売上高比率拡大見通しの企業が多数
●海外売上高比率(現状と見通し)
急速に進むグローバル化で多くの企業が人材採用・育成の課題に直面
3月に発表した経団連の調査によれば、グローバル化で企業が直面している課題は「本社でのグローバル人材育成が海外事業展開のスピードに追いついていない」がトップ。
次いで、「経営幹部層におけるグローバルに活躍できる人材不足」「海外拠点の幹部層の確保・定着」「世界中の拠点から人材の選抜・配置・異動によるグローバル最適の人材配置」などで、そのほとんどが人材の採用と育成に関連する悩みだ。
こうした課題は、企業の海外展開のフェーズや進出国・地域によって異なってくる。海外での販売を強化する大手企業では、海外拠点の幹部を日本人から現地のマーケット事情に詳しい現地人材に置き換えるなどローカライズして組織作りを強化している。
一方、これから海外進出するような準大手・中堅企業では、まずは進出国で事業を構築できる日本人を採用して拠点作りを進めている。
グローバル事業で活躍する人材像も変化し始めている。グローバル人材の資質や能力として最も多かったのが「海外との社会・文化、価値観の差に興味・関心を持ち、柔軟に対応する姿勢」(前回3位)。
次いで「既成観念にとらわれず、チャレンジ精神を持ち続ける」(同1位)で、多様性への理解が重視されるようになっている。「英語をはじめ外国語によるコミュニケーション能力を有する」(同2位)は3位に順位を落とした。 「海外事業の拡大で必要な人材は常に不足している。現地や国内でグローバルな幹部人材を採用したいという相談が増え、グローバル人材のニーズの高まりで採用は一層難しくなっている」と、グローバルな幹部人材の採用を支援するリクルートエグゼクティブエージェントの波戸内啓介社長は話す。
人材育成が海外事業展開のスピードに追いつかず
●グローバル経営を進める上での課題(複数回答)
M&A後の統合の成功は、人材マネジメントが果たす役割にかかっている
さらに日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)もグローバル化を加速させている。
昨年からの大型M&Aは、日本郵政グループによるオーストラリア物流大手の完全子会社化、伊藤忠商事の中国最大の国有企業の参加企業への出資、キヤノンによるスウェーデンの世界最大手ネットワークカメラメーカーの買収、日立製作所によるイタリア防衛・航空大手の鉄道車両・信号事業の買収、近鉄エクスプレスによるシンガポールの物流会社買収など、いずれも1000億円を超える大型買収となった。
M&A情報を提供するレフコによれば日本企業による海外企業のM&Aは2014年度の1年間で前年比7%増の7兆4517億円に上り、過去最高となっている。M&Aの多くは海外事業の拡大を狙ったものだが、M&A後に優秀な人材が競合他社に引き抜かれてしまうことで統合が失敗に帰するリスクもある。
M&A後の人材マネジメントの相談が増えていると話すのは、組織・人事コンサルティング会社エーオンヒューイットジャパンの楠見スティブン社長だ。
「統合における人事面での最大の課題は買収先の人材の定着をどう図り、エンゲージメントを高めていくかだ。最初にすべきは新会社の事業戦略と一貫性のある人事ポリシーや人事戦略の構築、新会社に求められる人物像の社員へのコミュニケーションだ」と指摘する。 統合の成功は、まさに人材マネジメントが果たす役割にかかっているといっても過言ではない。
●最近発表された海外M&A
インバウンド需要の拡大でビジネス環境が大きく変化、人材確保が追いつかず
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに訪日外国人観光客2000万人を掲げる政府の方針もグローバル化を加速させている。
今年の春節に訪れた中国人観光客がいたる所で日本製品を買いまくる“爆買い”は日本人を驚かせた。免税小売店の新規出店や売り場面積の拡張などが相次ぎ、こうした店舗では様々な国の言語に対応するため国内の外国人留学生を採用して需要に対応する。
「消費税免税制度をはじめ、訪日外国人を増やすための政府の政策によって、多言語対応が可能な販売員や商品説明のためのコールセンターなどのニーズが伸びている」と販売分野のアウトソーシング会社ヒト・コミュニケーションズの花堂哲セールスプロモーション営業部部長は話す。
インバウンドの需要が拡大して国内のビジネス環境も大きく変化し始めているが、急速なグローバル化で人材確保が追いつかない状態だ。
外国人観光客が日本に降り立った途端に様々な対応が必要になっているが、人手が不足しているため様々な分野でネットインフラやシステムを変更し、対応していかざるを得ない。
しかし、「国内のIT人材も不足しているため下流工程は今まで以上にオフショアに頼ることになる」と指摘するのは理工系人材の採用支援を手掛けるパソナテックの吉永隆一社長だ。
こうした日本国内の人材不足によって育成を前提とした外国人留学生の採用も活発になっている。優秀な外国人留学生を採用する企業では、日本国内で育成して、将来的には海外事業の幹部候補として位置づけている。
バイリンガル採用では、日本人の海外留学生に対するニーズも高まる一方だ。人材サービス会社のディスコが日本人海外留学生のために米国で毎年開催している「ボストンキャリアフォーラム」に出展する企業数は年々増加し、2013年には200社を超えた。 出展企業の業種や規模も、これまで中心だった大手企業やメーカー、外資系企業からサービス・販売、中堅企業、ベンチャー企業へと拡大している。
日本人海外留学生対象の採用イベントに出展する企業が増加している(写真提供:ディスコ)
短期的には採用力を強化し、中長期的には育成による質と量の両面の人材確保が急務
今後、海外、国内、そしてあらゆる産業分野でグローバル化が加速し、グローバルな人材の不足は一層深刻化することは明白だ。
こうした状況に備えて短期的には採用力の強化で、中長期的には育成によって質と量の両面で人材を確保することが急務になっている。しかし、グローバルな人材育成を計画的に実施している企業はまだ少数だ。
グローバル人材の育成のポイントについて、教育研修会社ウィルソン・ラーニングワールドワイドの為定明雄社長は「現地法人のリーダーを日本に集めて英語で研修する企業が出てきているように、外国人を幹部に登用したり、国境を越えて配置するケースがさらに多くなるが、そのためにも『共通のモノサシ』を持つことが重要だ」と強調する。
人材育成支援会社フェニックスコンサルティングのピーター・オワンス社長は、「すでに多くの大手企業がグローバル人材の育成に取り組んでいるが、海外戦略と人材戦略が上手く連動しておらず、失敗している例が多い。真にグローバルを目指す場合、人事部トップは役員レベルで企業の対外的戦略全般の作成に関わるべきだ」と訴える。
グローバル化が加速する事業環境にあって、今まさに経営視点に立った人材マネジメントの役割が問われている。
世界目線で人材育成、評価・登用に取り組んでいる
●各社の取り組み状況
専門家に聞く「グローバル人材のニーズ、活躍への取り組み」
日本への投資が拡大し、外資系企業による採用は引き続き活発
インテリジェンス・グローバル・サーチ(現BRS)
ナイーム・イクバル マネージング・ディレクター
アベノミクスによって海外から日本への投資が拡大し、外資系企業による採用は引き続き活発だ。
一方、日本企業がバイリンガルを優先的に採用するケースはそれほど多くないが、金融・不動産分野で海外投資家に商品を販売するために語学力を必要とする求人がある。また、新興国ビジネスのために中国語やスペイン語ができる人材を求める企業が出てきており、資金を調達した日本企業が海外投資を増やす中で人材需要も伸びてくるのではないか。
最近は海外で働いていた日本人が日本に戻ってきたり、転職のチャンスと考えるバイリンガルが増え、当社に登録している求職者は1年前に比べ倍増している。日本企業がバイリンガル採用を成功させるためには、競争力のある報酬と多様な人材を受け入れるカルチャーが必要だろう。
国内外の人材データを集め、経営陣に情報を迅速に提供する
インフォテクノスコンサルティング
大島 由起子 セールス・マーケティング事業部長
グローバル人材の定義を明確にして、人材マネジメントの運用を具体的に確立している企業はまだ多くない。そこにベストプラクティスの集合体であるパッケージシステムを活用することは有効だが、海外展開のために世界中から人材を獲得していきたいという一方で、国内の雇用課題にも対応していく必要があり、自社にふさわしいシステムの選択が重要だ。
グローバル人材のマネジメントでまず取り組むべきは、国内外の人材についてデータを集め、意思決定を行う経営陣が必要とする情報を迅速に提供することだろう。
現地法人やグループ企業ごとにデータ管理の違いはまだ大きく、収集は大変な作業だが、経営陣が将来どうなるのかを予測し、次の一歩を踏み出すための適切な判断を行うためには、人材に関する現状把握が欠かせない。
市場が大きく安定的な北米事業で幹部人材を探す企業も多い
リクルートエグゼクティブエージェント
波戸内 啓介 代表取締役社長
企業の成長フェーズや進出国・地域によって幹部人材のニーズは異なってきている。日系企業では、進出先でのビジネスや海外事業の経験者で語学ができる人材を求める傾向がある。すでに進出し海外事業を強化しようとする企業では国内でグローバル事業を統括できる人材のニーズが高く、これから海外に拠点を築こうとする企業では進出国で事業を統括できる人材が必要とされている。
拠点の見直しとともに人材ニーズが中国から東南アジアに移っていたが、最近は再び中国市場の獲得を目指して中国人トップや幹部の採用ニーズが増加している。市場規模が大きく安定的な北米事業で人材を探す企業も多い。
一方、国内では、社外取締役、女性幹部、地方創生がテーマになっており、地方企業でもグローバル人材の確保は課題だ。
海外戦略の本気度や語学力が活かせるキャリアを示すことが必要
経理・財務、法務、人事などの管理部門の職種で語学力を必要とする求人が増加している。大手企業の海外事業比率の高まりに伴う増員に加え、中堅企業や成長ベンチャーも海外展開のための採用を行っているためだ。
30代後半から40代の即戦力を求める企業が多く、海外M&Aや訴訟対応のために語学力の高い弁護士を採用するケースも出てきている。採用条件として高度な会話力まで求める場合は候補者が限定されるが、専門分野で問題を的確に理解しレポートできるレベルであれば当社に登録している求職者の半数程度はクリアしている。
入社後に語学力を活かせる機会が少ないとミスマッチになるため、採用活動では求める人材像を定めて、海外戦略の本気度や語学力が活かせるキャリアを十分に示すことが必要だ。
グローバル人材育成で大切なのは「共通のモノサシ」を持つこと
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド
為定 明雄 代表取締役社長
グローバル人材を育成する上で大切なのは「共通のモノサシ」を持つことだ。教育研修でいえば、国や言語の違いを超えて共通の教育プログラムを整えることであり、当社は米国で開発したプログラムを約50カ国30言語でグローバル企業に提供している。
また日本企業においては企業理念などを現地スタッフに理解してもらうことがグローバル人材の育成に効果的なため、社員に向けた経営トップのビジョンや企業が求める人材像、教育プログラムなどを多言語対応で掲載できる専用の社内ポータルサイトを構築するニーズが増加している。
現地法人のリーダーを日本に集めて英語で研修する企業が出てきているように、外国人を幹部に登用したり、国を越えて配置するケースがさらに多くなるが、そのためにも共通のモノサシが重要だ。
国内・海外の採用活動の進め方に様々なケースが出てきている
ディスコ
大掛 勲 グローバル事業推進部 課長
大手企業だけでなく中堅企業においてもビジネスのグローバル化が一層進み、グローバルマインドを持った人材が必要になっている。
課題として、大手企業では現地のローカライズが進み国内のグローバル人材の活用が挙げられる。また、これから海外に進出する中堅・中小企業では現地で事業を拡大できる人材が求められている。日本人の海外留学生は、留学した行動力、バイタリティーが高く評価されており採用ニーズも依然として底堅い。
また、16年新卒からスケジュールが変更になり、選考は8月からスタートするため、海外留学生の夏休み期間を見据えて、海外で優秀層を採ってから国内採用に入る企業、国内の採用を先行してから海外の採用を実施する企業、国内と海外を同時に進める企業など様々なケースが出てきている。
商品開発、販売プロセスの構築や実行する人材の現地化が課題
グローバルナレッジ マネジメントセンター
加藤 洋平 コーポレイト ラーニング ソリューション マネジャー
海外拠点の主な役割が製造から販売に移行する中で、現地の市場に対するより深い理解が必要となっている。そのため、商品開発、販売プロセスの構築やそれを実行する人材の現地化が多くの企業で課題である。
現地スタッフを経営人材に育てることに加え、本社と海外拠点を取りまとめられる日本人リーダーの育成が急がれている。グローバルリーダーを育成する企業では、一定の期間のアクションラーニングを通して“自社ウェイ”の浸透、多国籍の人材が協働して課題に取り組む機会、グローバルスタンダードを学ぶ機会を設けるところが多い。
効果的な研修を実施している企業は、研修企画者自身がグローバル人材となり、海外拠点を含めて社内に豊富なネットワークを持ち「根回し」的コミュニケーションができていると感じる。
自らの言葉で語り、価値観を尊重して行動できる人材が必要
JIN-G
三城 雄児 代表取締役
事業ニーズに応じた具体的課題を設定し、グローバル人材育成に取り組む企業が増えた。最優先課題は、海外現法のトップマネジメント育成だ。
目先の業務をやらせて、ルールを守らせるだけの課長レベルのマネジメントでは、現地社員を魅了できない。自社の経営理念や仕事の意義を自らの言葉で語り、互いの価値観を尊重して行動できる「エンパシー(客観的共感)」ができる人材が必要だ。また、背景の違いを理解し、マネジメントスタイルを使い分けることも欠かせない。
さらに、本社の内なる国際化も急務だ。社員が国境・国籍の違いを「壁」ではなく「機会」と捉えられるように、当社では、若いうちに海外で困難なビジネスに取り組ませる研修を提供しているが、こうした体験型のプログラムを本格導入する企業が増えている。
買収先の人材の定着をどう図り、「エンゲージメント」を高めるか
エーオンヒューイットジャパン
楠見 スティブン 代表取締役社長
海外M&A後の統合に関する相談が増えている。標準的な考え方は書籍などを通じて知られるようになったが、泥臭く突破しなければならない部分について自社にフィットする方法が模索されている。
統合における人事面での最大の課題は、買収先の人材の定着をどう図り、「エンゲージメント」を高めていくかだ。最初にすべきは新会社の事業戦略と一貫性のある人事ポリシーや人事戦略の構築、新会社に求められる人物像の社員へのコミュニケーションである。
そのうえで、買収後の新組織における適切な処遇やキャリアステップを明確に示すことが重要である。その際、透明性をもち次のステップに進む姿勢を示すことが大切だ。統合プロセスに第三者を入れることも一法である。異文化の統合では日本流の「あうんの呼吸」は通用しない。
実務で使えるコミュニケーション力を高める研修が求められている
ヒューマンアカデミー
新井 孝高 法人・ 国際教育事業部 取締役 バイスプレジデント
社員の語学力向上を目指す企業からは、プレゼンテーションやネゴシエーションなど実務で使えるコミュニケーション力を高めるための研修が求められている。そのため当社では、異文化を理解しながら学べることを重視し、受講者のレベルや課題に応じたテーラーメード型のプログラムを提案している。
近年はサービス業の企業からの依頼が多くなっている。海外進出を強化する企業に加え、訪日外国人の増加や東京五輪を見越して、より多く社員に英語を身につけさせてサービスの差別化を図ろうとする企業が出てきているためだ。
また、企業規模を問わず、世界で通用する特徴的なサービスを持つ企業の中には社内の英語公用語化を目指す動きが見られる。一方、外国籍社員が増えてきた企業からは日本語研修のニーズがある。
成長が期待されるミャンマー関連の採用ニーズが出始めている
アルバイトタイムス
平山 雄一 外国人採用支援室長
当社は3月、成長が期待されるミャンマーで現地人材会社と合弁企業を設立し、求人メディアの発行・人材紹介のコンサルティングを開始した。同時に日本国内では日本語ができるミャンマー人の人材紹介を開始した。
採用において企業は一面的な情報による先入観を持たず、ミャンマー人と共に成長するために、根気強く相互の考えをすり合わせて行くこと、すなわち「対話」していくことが大事だと考える。
日本企業の本格的な進出はこれからだが、本社と現地を繋ぐブリッジ人材、現地社員の管理職等の採用ニーズは出始めている。ある調査では「ミャンマー人は給与よりも人間関係を重視する」という結果がありますが、就業するミャンマー人に直接話を聞くと「給与は能力・経験に対する報酬」という価値観も根強い。
多言語対応可能な販売員やコールセンターのニーズに伸び
ヒト・コミュニケーションズ
花堂 哲 セールスプロモーション営業部 部長
消費税免税制度をはじめ、訪日外国人を増やすための政府の政策によって、多言語対応が可能な販売員や商品説明のためのコールセンターなどのニーズが伸びている。求められるのは、語学ができるだけでなく、販売を増やすことができる人材だ。
販売店舗の運営などを受託するアウトソーシング企業である当社では、外国人留学生を中心に採用し、商品知識などの教育を行って対応している。飲食業などで「労働力」として働いているような外国人留学生にとっても、語学力が活かせる販売の仕事は、日本の「おもてなし」のビジネスが経験できるというメリットがある。
人事管理の負担などから、外国人の直接雇用には難しさを感じている企業もあり、中長期的な販売戦略を見据えて人材活用を考えることが大事だろう。
言語や文化が異なるメンバーと働く体験を社員にどう与えるか
チェンジ
福留 大士 代表取締役COO
グローバル人材の育成では、海外ビジネスで結果を出すための準備として、言語や文化が異なるメンバーと働く体験を社員にどう与えるかが重要になっている。以前は現地派遣後の業績に関して長期的な視点で捉えられていたが、現在は派遣後すぐに新規事業の立ち上げやM&Aなどを推進する、高度なマネジメントスキルを伴った実践力が求められる。
さらに、将来的な海外ビジネス拡大を見据えてグローバル人材のプールを作っておきたいという企業が増えているため、選抜された一部の社員だけでなく幅広い階層や職種の社員を対象とし、必要とされる研修が多様化している。
今後の成長に海外展開は避けられないという経営者の意識は強く、海外と関わる仕事が当たり前になりつつある中で、人材育成も差し迫った課題となっている。
M&A支援のためのグローバル人材需要は継続的に拡大
国際競争激化、海外市場獲得の活発化を背景に日本企業の海外M&Aは増加傾向にあり、プロフェッショナルサービスや金融分野におけるM&A支援のためのグローバル人材需要は継続的に拡大を見せている。
それに伴い、合併後の統合効果を実現できるプロジェクトマネジメント力、語学力という「スキル」や経験はもちろんながら、海外のステークホルダーと対等に渡り合えるコミュニケーション力、グローバルな価値観を理解しながら自発的に発信のできる「ウィル」を備えた人材が求められている。
こうした人材を獲得するためには、社内で活躍しているグローバルリーダーを採用に積極的に関与させて候補者をひきつける必要があるため、採用力やチームビルディングに対する貢献についても人事評価に加えるように提案している。
様々な国の理工系の高度人材をコア人材と位置づけて採用
パソナテック
吉永 隆一 代表取締役社長
リーマン・ショックや円安の影響で日本企業の海外シフトが進み、さらに東京五輪開催や訪日観光客2000万人を目指す政府の政策もあって国内事業を中心とした企業でもグローバル化がより加速している。
これまでもITや機電系の人材は不足していたが、グローバル化によって新しいビジネスモデルやシステムの変更が必要になり、様々な国の理工系の高度人材をコア人材と位置づけて採用するようになっている。
また、将来的に幹部として活躍できるように戦略的な育成が始まっている。昨今はネットインフラが整備されたことを受け、国内の業務を切り出し、BPOで外部リソースを活用することに企業も慣れてきている。日本企業は上流工程へと軸足を移しつつあり、下流工程は海外へシフトする傾向にある。
人事トップは対外的戦略全般の作成に関わるべき
フェニックス コンサルティング
ピーター・オワンス 代表取締役社長
すでに多くの大手企業がグローバル人材の育成に取り組んでいるが、海外戦略と人材戦略が上手く連動しておらず、失敗している例が多い。真にグローバル化を目指す場合、人事部トップは、例えば役員レベルで企業の対外的戦略全般の作成に関わるべきだ。また、個々の育成目標が明確でないまま、同じプログラムを多数の人に実施しても効果は出ない。
当社は、顧客の人事部と協働することで、事前に、育成対象者のニーズ、海外関連業務の経験、コンピテンシーギャップなどを理解・分析・評価の上、プロファイリングし、一人一人に最適なプログラムをデザインし、実施している。
特に近年は、ICTの活用により、海外拠点間のオンラインディスカッションなど、多様でダイナミックな学びの可能性が広がっている。