「生成AIの登場により、人の仕事は奪われる」そのような言葉が聞かれるようになりました。
しかし、使い方によっては仕事を進める上での強い味方になります。
では実際どのように活用できるのか、また使用の際にどのような点に注意しなければならないのでしょうか。
本連載では、生成AIの中でも主にChatGPTが人事や採用業務にどのような革新をもたらすのかについて、生成AI家庭教師として企業にコンサルティングを行う佐野創太氏に数回にわたって解説してもらいます。(文:佐野創太)(編集:日本人材ニュース編集部)
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【第1回】ChatGPTはプロ人事になり得るか〜生成AIが得意な仕事、苦手な仕事とは?〜
時間が足りない・・・「緊急度は低いけれど重要な課題」にChatGPTが使える
ソフトウェア企業の採用責任者のAさんは、「時間が足りない」と次のように悩んでいました。
「もっと求職者との時間を増やしたいんです。でも面接の日程調整などの管理業務も多いし、インターンの企画や求人票の編集もしなきゃいけない。現場や経営層との調整だってあります。違う種類の頭をひとりで動かすのは無理ですよ…」
Aさんの会社は社内の管理システムを開発、販売しています。従業員数は500人ほどで、新卒採用で営業社員を10人ほど採用する他、中途でエンジニアを採用しています。近年はシステムの質が顧客から認められており、「営業に力を入れよう」という方針です。
Aさんは「ひとり採用担当」であり、新卒と中途のどちらも対応しています。今年の春からは副業活用も進めるそうで、もうパンク寸前です。
「壁打ち相手がほしい。いや、本音を言えば指示出したらつくってくれるか、そこまでいかなくても質問してほしいです。そうしたら進みますから」
そんな言ってしまえば“身勝手な願い”を叶えるのが生成AIであり、ChatGPTです。生成AIは「決まりきった答えはなく、多数のアイディアを並べて選べるようにしたい」業務と相性がいいツールです。
例えばここに一般的な新卒採用フローを記載します。
この中でChatGPTを使うと作業効率が上がるだけでなく、採用レベルを上げられる業務を赤線で囲みました。
少し想像してみてください。この中で「ここは誰かに手伝って欲しいな」「ひとりでゼロから考えるのは大変だ」「本当はもっと考えた方がいいんだけど時間がない」という業務はないでしょうか?
例えばAさんは「面接のヒアリングシートはたくさん出してから、現場と経営陣の意見も合わせてブラッシュアップしたい」という悩みがありました。
これは、「採用は現場が何を聞いているか知らない」といったことが起きていて、求職者が「聞いていた話と違った」という辞退が増えていたためです。こういった採用業務を進めるにあたって感じる「緊急度は低いけれど重要な課題」は、どの会社にもあるはずです。
Aさんと一緒にChatGPTを使って、この課題に時間を振り分けることにしました。
ChatGPTで面接のヒアリングシートはどこまでつくれるか〜実際のプロンプトと生成結果を公開〜
ここから実際に使ったプロンプトと出力結果を<GPT-3.5(無料版)>と<GPT-4(有料版)>にわけてお伝えします。<GPT-3.5(無料版)>でも試してみる価値がありそうか、お確かめください。
AさんはChatGPTに以下のプロンプトを入力しました。
<プロンプト>
私は社内の管理ツールを開発、販売している社員数500人程度のIT企業で新卒採用と中途採用を兼ねている者です。新卒採用としてIT営業をする新人を10人採りたいのですが、就職活動生の面接のヒアリングシートをつくる時間がありません。
どんな観点からつくると良いでしょうか?まずポイントを列挙してください。
あなたは採用の実務経験があり、コンサルタントであり面接のヒアリングシートのプロとして私の壁打ち相手になってください。
プロンプトのポイントは課題設定と、成果物の設定、ChatGPTの立場、そして「一度に答えを出させない」です。
分解すると以下のようになります。
<課題設定>
私は社内の管理ツールを開発、販売している社員数500人程度のIT企業で新卒採用と中途採用を兼ねている者です。新卒採用としてIT営業をする新人を10人採りたいのですが、就職活動生の面接のヒアリングシートをつくる時間がありません。
<成果物の設定>
どんな観点からつくると良いでしょうか?
<ChatGPTの立場です>
あなたは採用の実務経験があり、コンサルタントであり面接のヒアリングシートのプロとして私の壁打ち相手になってください。
<一度に答えを出させない>
まずポイントを列挙してください。
無料版の回答はこちらです。
<GPT-3.5(無料版)>
有料版も大差ありません。
<GPT-4(有料版)>
では、7つあるシートごとに、それぞれ具体的に学生にどう聞けばいいのでしょうか?具体的に3つずつ考えてもらいましょう。
プロンプトはこちらです。
<プロンプト>
ではポイントごとに「学生への質問」を3つずつ出してください。就職活動生でもわかりやすい表現を心がけてください。ビジネス用語ではなく、学校生活を送る中で使われる言葉で作ってください。
ChatGPTは回答が長くなりそうだと、回答が分割されることがあります。回答が「途中で終わっているな」と思ったら、<続けてください>とプロンプトを出せばOKです。今回は2回必要でした。
<GPT-3.5(無料版)>
有料版は一回で生成されました。
<GPT-4(有料版)>
ここまで使った時間は10分とかかりません。かつ、上記のプロンプトをテンプレートのように使えばさらに時間が短縮でき、採用のコア業務に使う時間が捻出できる可能性が高いです。ここまでの内容を表にしてもらいましょう。
<プロンプト>
ありがとうございます。ここまで7つのポイントで21個の質問シートをつくってくれました。これを見やすいように表形式でまとめてくれますか?No,をつけて見やすくしてください。
<GPT-3.5(無料版)>
(有料版も同じように出力されましたので、割愛します)
内容としてはもちろん「そのまま使えるレベル」ではありません。ChatGPTの役割は「完成品をつくる」ではなく、「たたき台をつくる」です。「答え」ではなく「選択肢」を出すものです。
Aさんは次のように感想を教えてくれました。
「ChatGPTが出した回答に持つ『違和感』が私たちの会社の特徴であるし、採用のシーンで候補者に特に伝えたいことなのだろうということがわかりました。これまでは自分の視点だけで面接シートなどをつくっていましたが、ChatGPTが良い壁打ち相手になっていることを実感しています」
ChatGPTは「採用・現場・経営層」の溝を埋める潤滑油にもなる
コツを掴んだAさんは、さらにChatGPTと「現場の営業部長」、「社長」の視点から面接シートをつくりました。これまでは「時間がないから部長と社長に任せていた」ことでしたが、すぐにたたき台をつくれることがわかったため、今回初めてつくることにしました。
Aさんは変化を感じています。
「AIがつくったものであるから、部長と社長の指摘を素直に受け入れられるんです。以前は正直、『採用のことあまりわかってくれてないよな』と思ってしまったのですが、いまでは指摘を『現場ではそう考えるのか』『社長が言いたいことはこうだったのか』と学びに変えられています」
「ChatGPTはたかがひとつのツールですが、使い手によって『採用・現場・経営層』の溝を埋める潤滑油にもできるんですね」
2024年3月現在では「ChatGPTの性能を上回る」と言われる「Claude」も話題です。また、イーロン・マスクが立ち上げたAI会社xAIが開発した生成AI「Grok」も発表されました。
今ではAさんは情報の波に溺れる側から、波を心待ちにする側になっています。
「前は”情報に追いつけないからそろそろ決定版がほしい”と弱気だったのですが、AIのニュースが楽しみになってきました。社内で部署を超えた勉強会を発足させようと思います。情報の波を泳げるくらいになりたいですね」
今回はどの会社の採用担当も作成する「面接シート」をChatGPTでつくってみました。この例をたたき台にして「あの業務もやれるんじゃないか?」と、社内で業務効率や採用レベルを上げる議論ができます。
ChatGPTはたたき台を高速で作ってくれるパートナーです。「時間があればやりたい大事な仕事」ができないか、点検してみてください。
佐野創太
1988年生。慶應義塾大学法学部政治学科卒。大手転職エージェント会社で求人サービスの新規事業の責任者として事業を推進し、業界3位の規模に育てる。 介護離職を機に2017年に「退職学®︎」の研究家として独立。 1200人以上のキャリア相談を実施すると同時に、”選手層の厚い組織になる”リザイン・マネジメント(Resign Management)”を50社以上に提供。 経営者・リーダー向けの”生成AI家庭教師”として、全社員と進める「ChatGPT活用・定着コンテスト」の開催をサポートしている。 また、”情報発信顧問”としてこだわりある企業の商品・サービスの「全国1位の強み」を言語化し、疲弊しない発信体制をつくっている。 著書に『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』(サンマーク出版)、『ゼロストレス転職』(PHP研究所)がある。
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