産業構造の転換と人口動態の変化に伴い、企業を取り巻く環境がめまぐるしく変わる昨今、人事戦略の観点から、「従業員による学び直し」が重要なテーマとなっている。「学び直し」は単なる個人のスキルアップにとどまらず、企業成長を支える重要な取り組みで、従業員の能力開発はもとより、組織全体の生産性向上や競争力強化を図っていく必要がある。2025年10月新設の「教育訓練休暇給付金」の制度概要や就業規則整備のポイントについて、丸山博美社会保険労務士に解説してもらう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)

「教育訓練休暇給付金」とは?
教育訓練休暇給付金は、労働者が離職することなく教育訓練に専念するため、自発的に休暇を取得して仕事から離れる場合、失業給付(基本手当)に相当する給付として賃金の一定割合の支給を受けることができる制度です。訓練・休暇期間中の金銭面での不安を軽減することで、労働者が主体的かつ自発的な能力開発に専念しやすくなります。
教育訓練休暇給付金はいつまで、いくらもらえるのか
受給期間は失業給付(基本手当)と同様、教育訓練休暇を開始した日から起算して1年であり、この期間内の教育訓練休暇を取得している日について受けられます。ただし、給付日数には制限があり、こちらも失業給付(基本手当)同様、雇用保険被保険者期間に応じて90日(5年以上10年未満)、120日(10年以上20年未満)、150日(20年以上)のいずれかとなります。
1年間の受給期間と被保険者期間に応じた給付日数の範囲内であれば、教育訓練休暇を分割取得して支給を受けることが可能です。
給付日額は、原則として、休暇開始日前6ヶ月の賃金日額に応じて、失業給付(基本給付)同様の算定方法で算定されます。なお、給付日額には年齢に応じた上限額・下限額の設定があります。
参考:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59748.html
教育訓練休暇給付金の対象者
対象となるのは、以下①②に該当する雇用保険一般被保険者のうち、
①休暇開始前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間がある
※算定対象は、原則、11日以上の賃金支払基礎日数がある月
②休暇開始前に5年以上、雇用保険に加入していた期間がある
※ただし、過去に基本手当(失業給付)や育児休業給付金、出生時育児休業給付金、及び教育訓練休暇給付金を受けたことがある場合、通算できない期間が生じる場合あり
以下の要件すべてを満たす教育訓練休暇を取得した者です。
●就業規則や労働協約等に規定された休暇制度に基づく休暇であること
●労働者本人が教育訓練を受講するため自発的に取得することを希望し、事業主の承認を得て取得する30日以上の無給の休暇であること
●以下に定める教育訓練等を受けるための休暇であること
・学校教育法に基づく大学、大学院、短大、高専、専修学校又は各種学校が提供する教育訓練等
・教育訓練給付金の指定講座を有する法人等が提供する教育訓練等
・職業に関する教育訓練として職業安定局長が定めるもの(司法修習、語学留学、海外大学院での修士号の取得等)
本給付金の申請にあたって、企業は、従業員が教育訓練のために取得できる休暇制度を就業規則等にあらかじめ規定しておく必要があります。その際、休暇は「従業員の自発性」に基づく申請制としなければならず、「業務命令」による受講には教育訓練休暇給付金を活用できないことに留意しましょう。
また、「30日以上連続する無給の休暇」の要件に関しては、1日でも出社を求めると訓練への専念の趣旨から逸脱し、支給対象外となるため注意が必要です。
教育訓練休暇給付金の申請に際し、必要となる企業対応
教育訓練休暇給付金は、企業における事前準備、さらに申請に必要な取り組みへの対応があって初めて支給を受けられるものです。従業員に教育訓練休暇を取得してもらう意義を十分に理解した上で、必要な準備を進めていきましょう。以下は、本給付金申請の流れです。

まずは「教育訓練休暇の制度設計」から 給付金の対象となる休暇制度のポイントをおさえましょう
事前準備として企業がまず取り組むべきは、「就業規則や労働協約等における教育訓練休暇制度を規定」です。ひと口に「教育訓練休暇制度」といっても様々想定されますが、形骸化することなく各現場にしっかりと根付くような制度を検討する必要があります。
一方で、給付金を申請する上では、所定の要件を満たす制度設計が不可欠です。就業規則に規定すべき項目、及び教育訓練休暇給付金の対象となる休暇制度のポイントを確認しておきましょう。
●目的・対象
業務命令によらず、自発的に取得する教育訓練休暇であることの明示が必要です
●対象者
教育訓練休暇給付金の対象者は「雇用保険加入期間5年以上の一般被保険者」であるため、雇用保険被保険者を含めた対象者の明示が必要です。
●休暇の期間
教育訓練休暇給付金の対象は、「連続した30日以上の休暇を取得する場合」です。少なくとも30日以上連続した取得が可能な休暇であることの明示が必要です。
●休暇期間中の給与の取扱い
教育訓練休暇給付金は、「無給の休暇取得」が要件となるため、その旨の明示が必要です。
就業規則には上記のポイントに加え、「休暇取得時の手続き」を具体的に定められると良いでしょう。
教育訓練休暇給付金申請のための就業規則規定例
就業規則への規定例は、厚生労働省パンフレット「教育訓練休暇給付金のご案内」に掲載されています。制度導入の際に参考にされてみてください。

なお、給付金申請上、休暇名称は、必ずしも「教育訓練休暇制度」である必要はありません。教育訓練を受けるための休暇であって、前述のポイントを満たすものであれば、申請の対象となります。
例えば、「サバティカル休暇」(一定期間勤続した従業員に対して数カ月から1年の長期休暇を与える制度)のように、リフレッシュや自己研鑽等にも充てられる比較的自由度の高い休暇制度を教育訓練休暇として活用することも可能です。現場のニーズに合わせた休暇制度の導入を検討いただけます。

日本企業の人事戦略に「人的資本投資」の視点を
厚生労働省が実施した令和6年度「能力開発基本調査」によると、調査対象企業のうち「教育訓練休暇制度を導入している」割合は7.5%と、前回より0.5ポイント低下したとのことです。また、「導入していないが、導入を予定している」とする企業は9.1%となり、「導入していないし、導入する予定はない」とする企業が83.4%で最多となりました。

(出所)厚生労働省「令和6年度「能力開発基本調査」の結果を公表します_(参考)調査結果の概要」
日本企業における低調な「人への投資」の背景には、戦後から続いてきた年功賃金制があるとされています。「勤務年数や年齢が高くなるほど経験やスキルやノウハウが蓄積される」という考え方の元、企業は人に十分な投資を行わず、一方では労働者側もまた十分な自己啓発を行うことなく職業人生を終えるケースは珍しいものではありませんでした。
時代の変化と共に日本人の雇用慣行も変化していますが、それでもなお、実態として多くの企業においては人的資本投資の視点を欠き、なおかつ労働者側も受け身の姿勢で現状に安住しがちであると言わざるを得えません。
2023年5月16日開催の第18回新しい資本主義実現会議に示された「三位一体の労働改革の指針」においては、「企業が人への十分な投資を行っていない間に諸外国との賃金格差は拡大し、先進諸国間のみならず、アジアにおける人材獲得競争でも劣後している可能性」が指摘されています。人的資本投資の重要性に着目し、経営戦略の一環としての人材戦略を講じられることこそが、これからの時代を生き抜く企業にとって価値向上の要となっていくはずです。
今回で解説した「教育訓練休暇給付金」の申請にあたっては、会社が教育訓練休暇制度を設けていることが大前提です。もっとも、従業員のスキルアップのための休暇制度を導入すること自体は義務ではありませんが、企業として一考の余地があるのではないでしょうか。
<参考>
厚生労働省「教育訓練休暇給付金パンフレット「教育訓練休暇給付金のご案内」」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/kyukakyufukin.html
厚生労働省「令和6年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00202.html
内閣官房「三位一体の労働市場改革の指針」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/roudousijou.pdf

丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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