三井情報は、ジェンダーダイバーシティ推進を経営課題と捉え、2025年4月からは担当役員を配置している。経営層の意識改革から始めることによって全社的な変革につなげていくことを目指す同社の取り組みについて、取締役 副社長執行役員の曽我部和彦氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

曽我部 和彦氏
三井情報
取締役 副社長執行役員 CSO・CHRO CSO 統括本部 本部長
会社の成り立ちと事業概要を教えてください
当社のルーツは1967年にさかのぼります。三井物産の情報システム部門から独立して発足したのが三井情報開発で、その後2007年に三井情報開発と、同じく三井物産の子会社でITベンダーでもあったネクストコムが合併し、現在の三井情報が誕生しました。なお、1991年設立の旧ネクストコムを存続会社としているため、創業年は1991年となっています。
三井物産の子会社ではありますが、これまで多くの企業との統合を重ねてきた結果、顧客は非常に多様です。業務構成としては、三井物産グループ関連が約2割、グループ外のお客様が約8割を占めています。
事業は大きく分けて2つあり、1つは企業の基幹システムや、営業・経理などの業務システムを開発し、導入から保守まで一貫して提供するソフトウエア事業です。もう1つはネットワークやサーバーなどのITインフラを設計・構築・運用するインフラ事業で、企業の業務基盤を支えています。
「ジェンダーダイバーシティ推進担当役員」に就任された経緯を教えてください
私は1998年に三井物産に入社し、一貫して情報通信分野に携わってきました。2022年に三井情報に出向し、現在に至ります。
2025年4月からジェンダーダイバーシティ推進担当役員に就任し、全社横断プロジェクトの責任者を務めています。これは三井情報としても初めて設けられた役職で、背景には、当時の社長とCHROの問題意識がありました。
ジェンダーダイバーシティ推進といえば、通常社員からは「人事部門が推進している施策」と捉えられがちですが、それでは全社的な変革にはつながりません。経営課題として捉え、人事部門の管掌外にいる取締役が責任を持って牽引すべきだ、という考えのもと、当時人事領域に直接関わっていなかった私が担当することになりました。
ジェンダーダイバーシティ推進に舵を切った背景を教えてください
当社の社員数のうち、総合職群の26%を女性が占めています。若手層では、女性で営業やエンジニアを志望する人も多く、女性比率は比較的高い一方で、年代が上がるにつれて、女性社員はコーポレート部門に偏る傾向があります。
2024年、私が役員に就任する前の経営企画本部長として、役員が泊まり込みで経営課題を議論する「経営集中討議」をコーディネートしていた際のことです。人事部門から提示されたのが、女性管理職の現状に関する問題提起でした。20代では男女比がほぼ同じであるにもかかわらず、管理職層になると女性比率が1割を下回る、というデータです。
人事部門からは要因分析も丁寧に示され、役員も理解はしていました。しかし、具体的な打ち手の議論になると、「時間がたてば自然に改善するのではないか」「女性施策が男性社員のモチベーションに影響するのではないか」といった声もあり、議論は深まりきりませんでした。
ジェンダーダイバーシティ推進担当役員に就任した際、当時の停滞感を思い出し、このテーマに経営として本気で向き合う必要があると改めて感じました。
正直に言えば、私自身、人事領域を管掌するのは初めてで、身近に明確な女性のロールモデルが多かったわけでもありません。家庭でも育児は妻に頼る部分が大きく、ジェンダーダイバーシティに対する実体験が十分とは言えない状況でした。その中で、人事のメンバーがこのテーマに強い問題意識と知見を持っていたことは大きな支えでした。先進企業へのヒアリング、女性社員へのインタビュー、関連書籍の読書などを重ねることで、徐々に課題の本質を自分自身の言葉で捉えられるようになっていきました。
三井情報の目指す姿

その後、具体的に何に取り組んだのでしょうか
人事メンバーと議論する中で、新しい制度を設けるだけでは「人事部門の一施策」にとどまり、現場にはなかなか浸透しないのではないか、という認識で一致しました。まずは、経営メンバー自身の意識が変わらなければならないと考えたのです。
そこで、社長以下、全役員(全員男性)に参加してもらい、グループに分かれて、ジェンダーダイバーシティがなかなか進まない現状について率直に議論するワークショップを実施しました。「技術部門で女性が管理職として働くのは負荷が高いのではないか」「子どもが小さい時期の仕事と育児の両立は難しいのではないか」など、皆、立場もあるので普段はなかなか表にできない意見や懸念を、少人数で出しあえたことはとても良い効果があったのではと思っています。
1日あたり2時間半のワークショップを3回重ねることで、課題の複雑さや奥深さへの理解が深まると同時に、同じ課題に向き合う”仲間”としての意識も醸成されていきました。年に1回、あるいは半年に1回と間隔を空けず、連続して議論した点も効果的だったと感じています。
あわせて、実践的な取り組みも行いました。経営メンバーが自らの管掌外の部門に所属する女性管理職3~4人と1on1で面談するプログラムを設けたところ、これが非常に好評でした。特に印象的だったのは、「想像以上に有意義だった。ぜひもう一度実施してほしい」と申し出てくれた役員がいたことです。現在では、その役員はジェンダーダイバーシティ推進に最も前向きなメンバーの一人となっています。
育児休暇や産後休暇、介護休暇など、ジェンダーダイバーシティ推進のための制度は申し分ないくらい整っていると思いますが
女性社員への支援というと、育児や家事、介護との両立に目が向きがちですが、それだけでは不十分だと感じています。先ほどの1on1の場で、ある女性管理職から次のような話がありました。
「女性といっても状況はさまざまで、一括りにはできない。未婚で子どもがいない人もいれば、既婚でも子どもがいない人、共働きで子育てをしている人もいる。『休みやすさ』だけでなく、『働きやすさ』に目を向けた制度も必要ではないか」
多様な立場を前提とした支援の必要性を、改めて強く認識しました。
また、役員向けの勉強会として、他社の女性役員をゲストに招き、キャリアの中で直面してきた課題や転機についてお話しいただく機会も設けました。質疑応答は時間が足りなくなるほど活発で、経営層の関心の高さを実感しました。
さらに、取締役会でも議論の場を設け、当社の社外取締役である女性2人から、ご自身の経験を踏まえた考え方を共有いただきました。こちらも非常に好評で、役員一人ひとりに多くの気づきをもたらしました。
一連のプロジェクトを通じ、役員の反応はどうだったのでしょうか
「ジェンダーダイバーシティに対する見方が大きく変わった」「自分がこれまで無意識のうちに優位な立場にあったことを実感した」「男性が”下駄を履いてきた構造”を理解することが重要だと感じた」など、ワークショップ前後で役員の意識には明確な変化が見られました。
同時に、この1年間を通じて最も多くの学びを得たのは、実は私自身だったと感じています。ジェンダーダイバーシティ推進について、自分の言葉で整理し、社内外に向けて語れるようになりました。このテーマは、単なる人事施策ではなく、経営課題であり、競争戦略でもあります。
入社時点では女性が半数を占めているにもかかわらず、管理職層での女性比率が1割未満にとどまっている現状は看過できるものではありません。性別に関わらず活躍できる環境を整えなければ、優秀な人材に選ばれ続けることは難しくなります。この課題は現場任せにするものではなく、経営が主体的に関与すべきものだと考えています。
今後の取り組みとして、どのようなことを考えているのでしょうか
今後はワーキンググループ活動を継続するとともに、上位管理職の女性社員に役員が伴走するスポンサーシップ・メンタープログラムの導入を検討しています。役員が直接関わることで、日常業務では得にくい視点や助言を提供し、キャリア形成を後押しすることが狙いです。
男性社員に対する啓発で重要なのは、自分が無意識のうちに特権的な立場にあったことに気づいてもらうことだと考えています。誤解してほしくないのは、この取り組みが「女性を特別扱いするもの」ではないという点です。
能力が十分にあるにもかかわらず、家庭の事情やライフイベント、あるいは上司の無意識の配慮や思い込みによって、結果としてキャリアアップの機会を逃してきた人を、正当に評価し、適切に引き上げていく。そのための取り組みです。
当社の女性部長の一人が、「男性は部長になった時点で、その先のキャリアパスの”ドアノブ”が見えているが、女性にはその存在自体が見えにくい」と表現していました。背景には、業務外のネットワーキングや、上司と一対一で本音を語る機会そのものが女性にとって得にくい構造にあると感じています。さまざまな要因が重なり、キャリア形成に必要な情報や機会にアクセスしづらくなっているのです。
スポンサーシップ・メンタープログラムは、こうした機会の不足を補い、キャリアの見通しや選択肢をより明確に描けるよう支援する役割を担うものです。短期間で劇的に変わるとは考えていませんが、ハーバード大学の社会学者ロザベス・モス・カンター氏が提唱する「黄金の3割」論――マイノリティが3割に達すると組織文化が変わる――を一つの指針とし、着実に取り組みを進めていきたいと考えています。
(2026年4月3日インタビュー)
三井情報株式会社
代表者/代表取締役 真野雄司
設立/1991年6月20日
資本金/41億1300万円(2025年3月末現在)
従業員数/2682人(2025年3月末現在 連結)
本社/東京都港区南青山三丁目8番35号 表参道Grid Tower
売上高/1180億2400万円(2025年3月期実績 連結)
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