グローバル化の進展などによって日本企業を取り巻く環境が大きく変化している。経営幹部層の獲得や人材アセスメントの実態に詳しい日本コーン・フェリー・インターナショナル社長の妹尾輝男氏に、日本企業の人材戦略の課題や今後求められるリーダーの条件などについて聞いた。
日本コーン・フェリー・インターナショナル
妹尾 輝男 代表取締役社長
1990年に日本コーン・フェリー・インターナショナルに入社。現在、代表取締役社長。ライフサイエンス・マーケットの責任者、および、リーダーシップ・コンサルティングを兼務。大学卒業後、ロンドンにて多国籍石油製品トレーディング会社に入社。その後、他のトレーディング会社にて海外経験をさらに積んだ後、その日本子会社設立に参画し、代表取締役を務める。スタンフォード大学よりMBA取得後、ベイン・アンド・カンパニー社において経営戦略のコンサルティング業務に携わる。1975年横浜国立大学経営学部卒業。1975年会計士補資格取得。1988年スタンフォード大学経営学修士(MBA)取得。
日本企業が抱えている人材戦略の課題とは、どのようなところにあると考えていますか。
日本企業をとりまく環境は、以前とはすっかり変わってきています。大きなポイントとしては、まずグローバル化です。大企業の場合、売り上げの半分以上が海外というところも珍しくありません。
さらに将来のことを考えると、人口比率からいっても海外の重要性がますます高まっていくのではないでしょうか。その一環として、海外企業とのM&Aも盛んになってきています。また市場の動向としては、顧客のニーズの変化が早くなっていることが挙げられます。そういったビジネス環境の変化に対応するために、企業のトップが一番問題視しているのが人材です。開発にしても技術にしても営業にしても、それができる人材がいるのか。新しいビジネス環境を乗り越えていくためのニューリーダーが不足しているのです。
当社にも、今までのように「このポジションの人材を採用したい」というのではなく、「組織としてこんな問題を抱えているが、どうしたらいいだろうか」という形での相談が多くなりました。
新たなビジネス環境に対応できるニューリーダーには、具体的にどのような能力が求められますか。
大きく分けて4つの志向性が考えられます。1つ目は戦略推進志向性(Strategic Mindset)。今までも戦略志向性は求められてきましたが、戦略を立てるだけではなく戦略を推進し、完遂する行動力も同時に求められるようになりました。そのため、今までのリーダー像では足りない部分が出てきてしまうのです。
2つ目はグローバル志向性(Global-driven)。例えば米国や欧州で買収した企業をマネジメントするための能力です。英語は必ず必要になりますし、現地でのビジネスの方法論を熟知していなければマネジメントはできません。また、知識があったとしても、実際に活用できなければ意味がなくなってしまいます。そう考えると、かなりハードルが高くなります。
3つ目はスピード・変化志向性(Speed/change-driven) です。今までの成功例があるほど、新しい方法論に関しての対応が鈍くなります。人材不足のほとんどは、その変化に対応できる能力が足りないところにあると感じています。今までのやり方をゼロベースで考えられる柔軟性が問われているのです。
最後の1つは忘れられがちなのですが、人志向性(People-oriented)です。前に挙げた3つの志向性を持っていても、人がついてこなければうまくいかないし、組織がばらばらになってしまいます。人を上手に使う、人のことを考慮できる能力が欠かせません。もちろん、細かい要素を挙げていけばほかにもあるとは思いますが、この4つの志向性をもったニューリーダーが切実に求められています。
ニューリーダーを育成する上での問題はどのような点でしょうか。
時間的な問題です。例えばM&Aをした際に、すぐにでも現地企業の社長となる人材が必要になるわけですが、社内にそういう人材が潤沢にいるかというと、そうではない。すると、今いる人材を育成していくしかありません。リーダーの中から優秀な社員、4つの志向性のうち1つ程度が欠けている社員に対してその欠けた部分を集中的に育成していくという方法です。もう少し時間があれば、若手の中から選抜して育てていくことができますが、いずれにしろいざ人材が必要になってからでは間に合いません。
当社では、いざというときに必要になる人材から逆算して、今必要な育成法を提案しています。ただ日本企業では長い間、従業員を平等に扱うのが良しとされてきました。そのため、ニューリーダー育成のための研修をするといっても、同期の社員に共通の研修を受けさせたりします。もちろん底上げという意味では大切なことですが、ニューリーダーをなるべく早く育てるには向いていません。特別のコースを設けて、選抜された優秀な人材をいち早くエグゼクティブに育て上げていく必要があるのです。
ニューリーダー育成のための方法論があれば教えてください。
どんな企業にも事業戦略があります。事業を拡大したい、業績が落ちているのを食い止めたい、新しい事業に乗り出したいなど、企業によって若干の違いはありますが、そういった事業戦略に沿って、今後どのような人材が必要になるのかを割り出ます。
そこから逆算して、戦略に合わせたリーダーを育てたり、外からリクルーティングするのが当社の役割です。そのためにも、まずは必要なリーダー像を定義した「サクセス・プロファイル」を描くことが重要です。当社では科学的なプログラムと蓄積されたデータを用いてリーダー像を明確にし、それを要素に分けて、全員が共有できるサクセス・プロファイルを作成します。
そのリーダー像がはっきりしないまま、新たな評価システムやトレーニングシステムを導入しても、なかなか効果が上がりません。また、現在社内にいるリーダーについては、サクセス・プロファイルと比較してアセスメントを行います。これも当社のツールや方法論によって、現状のリーダーについてプロファイルをします。
サクセス・プロファイルという理想と、現実のプロファイルを比較することで、ギャップをどう埋めていくかという問題点の洗い出しができるのです。当社はリーダーシップ・コンサルティングとエグゼクティブ・リクルーティングの両面からサポートしていますので、企業の状況にあわせてどちらにするか、あるいは両方を組み合わて行うかの提案をしています。
ニューリーダーとなる人材を育成するに当たって、今後出てくるであろう課題は?
若手からニューリーダーを輩出するには、研修だけでは難しいと思います。人材としての成長を促すにはアサインメント、つまり実際にプロジェクトに携わることで学び取っていくものが大きいのです。人がどうやって学びを得たかのリサーチ結果を見ても、7割がアサインメント・プロジェクト、2割がメンターやコーチといった人から教わるもの、1割が研修といった結果が出ています。
ところが企業としてお金や時間をどう育成に使っているかというと、7割が研修、2割が人、1割がアサインメントという逆転現象が起きているのです。まずこの状態を反転していかなければなりません。外資系企業ではこれまで、まず外国人社長が日本法人のトップに立ち、人材が育ってくると日本人社長に置き換えることがよく見られました。変化の時期には、リーダーとしての志向性をもった外国人のほうがいいという考え方も一般的でした。
ところが最近は、本社のCEOになるにはカントリー・マネジャーの経験が重視される傾向があり、日本法人の社長の椅子も未来の本社CEOのためにとっておくという考え方が出てきました。日本は依然として北米の次に重要なマーケットなので、CEOになる前にはぜひ経験させておきたいということなのですが、それが逆に日本人が日本法人の社長になるためのハードルを高めています。
日本人が日本法人の社長になるためには、本社の人材と同等の能力と経験を要求をされるようになってきてしまったのです。これはグローバル企業になっていく日本企業においても同様で、日本の中での一番の実績というだけではトップに就けなくなります。やはり一度海外に出て、アジア地域などのカントリー・マネジャーを経験し結果を出す必要があるのです。現在のニューリーダー像もそうですが、今後はもっと求められる要素が変化していく可能性があります。それに対応できる人材を育成する必要があるのではないでしょうか。