企業のグローバル展開が進む中、外国人の採用に踏み切る企業が増加している。日本企業が実施しはじめた優秀な外国人の採用施策について、フォースバレー・コンシェルジュの柴崎洋平社長に聞いた。
フォースバレー・コンシェルジュ
柴崎 洋平 代表取締役社長 CEO
【PROFILE】1975年東京生まれ。ロンドンで幼少期を過ごす。94年上智大学外国語学部英語学科入学。在学時は体育会アメリカンフットボール部、海外からの留学生との交流サークルに所属。98年上智大学卒業後、ソニー入社。携帯電話向けカメラの商品企画、半導体の営業・マーケティング、PLAYSTATION 3フォーマット普及に従事。世界10数カ国で、サムスン、モトローラ、ノキアなどのグローバル企業とビジネスを行う。07年ソニー退社後、同年、フォースバレー・コンシェルジュ株式会社設立。
事業の中心となる採用支援サービスについて教えてください。
「世界中の才能を日本へ」をコンセプトに世界各国のトップ大学から優秀な高度外国人財を日本企業に紹介するサービスを提供しています。 当社のスタッフが世界各国を飛び回り、アジア、米国、EU、ロシア、中東、アフリカ、南米諸国などのトップ校700大学・大学院で日本企業を就職先と考える学生のための説明会を開催し、面接や適性検査で専門・専攻、英語・日本語やその他の言語能力、コミュニケーション能力などを評価してデータベースに登録しています。
登録者は5万人を超え、日本最大級の若手高度外国人材のデータベースとなっています。 採用担当者は登録者の中から、スカイプ面談を呼びかけることもできますし、当社のスタッフとともに世界各国のトップ大学に出向き、会社説明会や面接を実施することができます。このようなサービスを日本の企業約100社が利用しています。
新しい採用支援サービスを開始したということですが?
オンラインの合同企業説明会「TOP CAREER Online合説」を昨年12月1日にオープンしました。商社やメーカーなど有力企業16社が参画しています。従来の合同説明会は、場所や時間に制約があり、また、企業が採用したいと考える学生が説明会に来ているのか分かりませんでした。にもかかわらず、採用担当者はこの時期になると応募を呼びかけるために、全国を行脚して何度も同じ話をしなければならないのです。
オンラインであれば開設期間中は24時間いつでもどこでもブースと同じ説明をオンデマンドで聞いてもらえますし、チャットやメールで質問を受けることもできます。プレゼン資料や会社パンフレットのダウンロードも可能です。時間と場所の制約がなくなったことで、研究が忙しい理系学生や部活動で忙しい体育会学生、更には海外にいる日本人留学生などが参加することができます。
また、従来は有名企業のブースはすぐ満席になってしまい、一部の学生しか聞くことができず、採用担当者には「本当に聞いてもらいたい人に聞いてもらえているのか」という疑問が絶えずありましたが、Online合説では、どの学生が聞いてくれたのか、どの資料をダウンロードしてくれたのかまで、分析することができます。
世界からみて日本企業の新卒採用の課題は?
日本企業の新卒採用の課題は、インターンシップからの採用と職種別採用が進んでいないことです。世界のトップ校の学生と面接して気づくことですが、海外学生と日本の学生を比べると大人と子供の違いほどレベルが違います。 海外の学生は夏休みの2~3カ月間インターンとして働くのですが、日本では1DAYインターンシップが一般的で、長くても1週間です。短期間のインターンでは、社会に出て何が自分に向いているのか、何に興味や関心があるのかまったく分からず、日本の学生は企業の業務を経験するという本当の意味でのインターンを誰も経験していません。
一方、世界の学生は毎年3カ月間、就職活動までの3年間で約9カ月間のインターン経験があり、ビジネスに真剣に取り組んできています。キャリアビジョンを明確に持ち、社会人と話すことにも慣れており、面接はかなりハイレベルです。日本のようにサークルで何をやってきたのかということは話題にもなりません。
職種別採用は海外の企業では最も一般的な採用方法で、大学生であっても専門性や即戦力をかなり求められます。学生時代からアカデミックなことだけでなく、より実務に近いビジネストレーニングを世界中の学生が積んでいるのです。
ところが、日本の学生は学生時代にどれだけ専門性を身につけても、専門部署への配属はコミットされませんし、評価されません。これは学生に対して、間違ったメッセージの発信になっていると思います。このような間違ったメッセージが、日本の大学生の4年間の過ごし方に大きく影響し、大学入学時点ではいかに優秀であっても、その後、海外の学生に一気に差をつけられてしまうのです。
インターンシップと職種別採用の課題にどのように取り組みますか。
2011年からは日本企業に対して、世界トップ校学生を対象としたインターンシップサービスを開始しています。日本企業の風土に合い、本社で活躍できる人材を選抜して、夏季の1 ~ 2カ月間、インターンを経験させるものです。
日本企業は本格的なインターンを導入する体制がまだ不十分であるため、本格的なインターンの経験がある海外トップ校の学生をまず対象にしています。インターンとして働く中で、外国人学生は日本企業を理解し、日本企業は外国人学生の優秀さを知ることで、ミスマッチのない採用につなげていこうと考えています。
職種別採用については、採用数全体の2~3割でも少しずつ取り入れていく採用を提案しています。ビジネスモデルの変化や技術革新のスピードが早い昨今、新卒でも専門性の高い学生の確保はますます必要であるはずです。職種別採用が進めば、学生も一生懸命勉強して専門性を高めようとするので、日本の学生全体の質が高まっていくはずです。
日本企業が優秀な外国人を採用するには?
日本語で選考するとどうしても日本語学科の学生が高い評価になってしまいます。しかし、世界の標準的な採用は学科の専攻で評価される職種別採用ですので、日本語学科で学ぶ学生はビジネスをやろうという人の集団ではありません。そのため、日本語という条件をつけず英語で選考を行わないと、ビジネスで勝負ができる優秀なトップ層の学生を採用することはできないのです。
日本語ができない学生を採用したとしても、内定後集中的に日本語教育をすれば日常業務に支障がない程度に話せるようになります。当社のデータを分析すると、こうした学生の方が日本語学科の学生よりも日本企業に定着して長期間働く傾向にあります。
多くの日本企業では世界から人材を採用しても受け入れ体制が間に合っていない状態です。まずは日本語ができる日本にいる外国人留学生を採用し体制を整えながら、次は日本語能力に関係なく世界の優秀な学生を採用していくと、4~5年程度で外国人が活躍できる組織体制に変えることができると思っています。
今後の事業展開を教えてください。
当社は私と社員の2人から始まり、5年目となった昨年末時点で社員数50人になりました。ソニー出身の社員が多いことから経営理念には「グローバル」「イノベーション」「愉快」を掲げ、他社にはできない革新的なサービスを提供しています。
今後、日本は人口がますます減少し、既に日本企業はグローバル競争でも人材力で負け始めています。日本企業に対して、世界の最優秀人材の採用支援をすることで、日本の国力を高めるインパクトになればと考えています。外国人採用支援サービスをより多くの企業に利用してもらえるように、今年度中に海外拠点を10都市以上に増やし、日本企業の現地法人採用も支援していく計画です。
また、日本の大学生のレベルを高めるために、世界中のトップ大学・大学院への留学を紹介するサービスも1月に開始しました。世界中の優秀な学生に日本で学んでもらう一方で、日本の学生には世界で学んで欲しいと思っています。