リーマン・ショック後の人材需要の縮小を、IT・コンサルティングの人材紹介という専門分野に経営資源を集中させて危機を乗り越えた。さらに、企業のグローバル化によってニーズが拡大している中国でのビジネスに対し、日本と中国のビジネスレベルの橋渡しを目的として専門機関「日中管理学院」を2010年に設立。日本企業の本格的な中国進出をサポートする。
アクシスコンサルティング
山尾 幸弘 代表取締役社長
1962年東京生まれ。1986年立教大学経済学部卒業後、味の素ゼネラルフーヅ入社。人材紹介業界大手に転職後、同社取締役。2002年アクシスコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。2010年日中間ビジネスマッチングを行う日中管理学院を設立し、代表取締役社長に就任。
人材紹介の専門分野を教えてください。
コンサルティング・ファームとIT分野に特化した人材紹介を行っています。主な顧客は、戦略系コンサルティング・ファーム、会計系コンサルティング・ファーム、日系・外資の有力ハードウエア・ソフトウエアベンダーです。その中でも、上流のコンサルタント、プロジェクト・マネージャー、開発エンジニアなど専門性が高い人材をはじめ、システムエンジニア、ミドル層からハイスペックな人材、有資格者・スペシャリストにフォーカスしています。
昨年の人材紹介業界の各社業績は、前年対比で5~15%程度の増加となっていますが、今年度の業績見込みは?
2012年度は前年対比で25%増加の見込みです。リーマン・ショック直後の09年度決算こそ、設立以来、初めての赤字になりましたが、その後は順調に回復し、毎年25%前後の売り上げ増加となっています。
リーマン・ショック直後は、製造分野と金融分野からの撤退を行い、得意分野であるITとコンサルティング分野への選択と集中を進めました。さらにIT分野では、誰もが紹介できる若年層・ロースキルな人材よりも、ミドル層およびハイスペックな上流工程の人材や有資格者・スペシャリストに紹介分野を絞り込みました。
最も得意な分野をさらに掘り下げ、企業の人材ニーズをつかむことに、内部のパワーを集中させたのです。 一方、従業員に対しては「解雇しない」「賃下げをしない」と宣言し、結束力を高めました。その代わり、人材紹介以外でも仕事がある分野への配置転換を行いました。当時、営業の踏ん張りもあり、新たに人材紹介事業を起こしたいという人材派遣会社からコンサルティングを契約を受注し、ビジネスが軌道に乗るまでの1~2年間、一部の従業員を派遣しました。
リーマン・ショック直後は、会社経営も従業員も試練の時期となり、中には耐え切れずに辞める人もいましたが、当時の試練に耐えた従業員からは「今後のビジネスをする上で、いい経験になりました。感謝しています」と言ってもらっています。経営と従業員が一体となって経営危機を回避することができ、従業員には大変感謝をしています。
製造分野と金融分野からの撤退は人材紹介の分野を狭めることにもなり、重大な決断だったと思います。どのような理由で、ITとコンサルティング分野への集中を進めることになったのですか。
製造業では当時、トヨタ自動車が中途採用を全面的にストップしたのを始めとして、多くの企業が採用を中止しました。金融業界も全世界が同時金融危機といわれる状況となり、採用はほぼ全面的に停止しました。コンサルティング業界も同様に一時的に採用がストップしましたが、他の業界よりも比較的早く採用がスタートしていました。
コンサルティング業界で何が起きていたのかというと、08年に顕在化した世界同時金融危機以前から、業界各社では売り上げの伸びが鈍化していたため、コンサルティング領域だけでなく周辺分野や下流領域への事業拡大が始まっていました。戦略策定や事業再構築といったコンサルティングから、業務フローの見直しによって必要となるITソリューションの提供やシステム構築という下流領域までワンストップで請け負うという流れが顕著になり、システム部門の拡大やM&Aによるシステム会社の買収などが積極的に行われています。
そのため、ITベンダーが採用を停止してリストラを進める中にあっても、コンサルティング業界ではIT分野の人材採用を早々に再開し始め、システムエンジニアの大量採用による事業領域の拡大が進行していたのです。このようにコンサルティング会社がITソリューションを提供し始めたことから、今度は逆にIT会社が上流の領域を目指してコンサルティング分野に進出するようになってきたため、IT会社がコンサルタントを積極的に採用し、社内にコンサルティングチームを持つようになっています。
コンサルティング・ファームがITエンジニアやスペシャリストを抱え、一方でIT会社がコンサルタントを抱えるようになり、業界地図は激変しつつあります。リーマン・ショック後に進展した経済のグローバル化も、コンサルティング業界の早期の採用再開に大きく影響しました。国内市場の成長が見込めない中、企業は中国・アジアへと視線を向け始めました。
これまで企業のグローバル化といえば安い人件費を求めて製造拠点を海外に持つことが中心だったのですが、人口の多い中国・アジアを成長著しい消費市場としてみるようになったのです。そのため、企業はこれまでのビジネスモデルを見直し、グローバル化に対応するような戦略策定やグローバルなサプライチェーンを構築する必要に迫られたために、コンサルティング業界でも専門的な人材の補充が必要になっています。
特に、この分野では国内系のコンサルティング会社よりも、グローバルなネットワークを持つコンサルティング会社が強みを発揮しました。 一方、事業会社においても事業再構築や事業再生のために、社内に戦略系コンサルタント出身者を採用し、経営企画部門などに配置するケースが増加しました。
日本と中国の企業のビジネスマッチングを図るための日中管理学院を設立した目的は?
2006年ごろ、国内の準大手や中堅IT会社ではエンジニアが慢性的に不足し、日本国内だけでなくアジア全域から優秀な人材を確保しようということになりました。そこで、北京、上海、大連の現地パートナー会社と連携して、人材の採用を進めていました。
中国側パートナーとの結びつきが強くなる中で、リーマン・ショックが起き、国内のエンジニアニーズが縮小したことで中国の人材を日本企業へという構図から、日本の人材を中国企業へと逆転していったのです。このような変化の中で、日本の人材を単に中国企業へ紹介するだけでなく、日本企業も中国企業もWIN-WINとなるような事業を創出し、そこに人材需要が生まれてくるような仕掛けが必要だと考えました。そこで、日本企業と中国企業のブリッジとなる日中管理学院という組織を設立したのです。
いまや日本と中国の経済の結びつきは、日本の貿易輸出・輸入額ともに中国がトップであることからも分かりますが、もはや切り離して考えることはできません。 政治では、これからも様々な問題が起こるでしょうが、歴史的にも地政学的にも中国は最大の隣国であり、経済では互恵的な発展を考えざるを得ないでしょう。中国は“世界の工場”から“世界の市場”に変わりつつあり、国内市場の成長が見込めない日本の企業にとっては大変魅力的です。
一方、中国も「第12次五カ年計画」(2011~15年)に明記されているように、産業面のアップグレードとサービス産業の育成を目指しており、高度な技術力と優れたサービス業を持つ日本との連携に非常に意欲的です。ところが、日本では中国とのビジネスの難しさやマイナス面ばかりがクローズアップされ、欧米各国と比べてもいまだに企業進出が進んでいません。
中国は広く、地域によって商習慣が異なりますし、政治の介入も受けやすいこともあり、当然日本と同じビジネスのやり方は通用しません。日本は中国を理解し、中国もまた日本を理解しなければならないでしょう。これまでの日本の企業の中国進出の失敗を分析すると、主に準備不足に起因しています。
日中管理学院では民間と民間の交流を通じて相互の理解を推進すると同時に、商取引のプラットフォームとして事業計画策定、市場調査、信頼のおけるパートナー探し、優秀な人材確保など、日本の企業のビジネスを成功に導くための様々なビジネスノウハウを提供することで、日本企業の中国進出を支援していきたいと考えています。