組織・人事

給与は上がらず負担増、中間管理職の苦悩

「いつかは課長や部長になりたい」と、誰もが一度は考えたことがあるのではないか。しかし最近出世を望んでいない人が増えてきているという。この背景にある中間管理職の現状と管理職が抱えている苦悩とは。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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管理職の賃金は頭打ち?

今年の春闘の賃上げ率は2.13%(4月6日、連合集計)。昨年同時期よりも若干のプラスとはいえ、2014年以降は2%程度のアップに留まっている。一方で新卒初任給は毎年増加傾向にあるが、管理職層の給与が伸び悩んでいる。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2017年)から試算した課長級の年収(大学・大学院卒、男性)は2005年以降で見ると、07年の約932万円をピークに減少を続け、10年には約867万円までダウン。その後に増加に転じて16年にはようやく約936万円に戻すが、17年は932万円にとどまっている。

管理職を含む中高年世代の賃金の減少はいくつかのシンクタンクも指摘している。みずほ総合研究所は賃金の抑制は世代間の人件費シフトだとし、こう述べている。

「改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用延長が義務化されたことも影響しているとみられる。すなわち、高齢者の人件費を捻出するため、企業がほかの世代の労働者の賃金ベースを緩やかにすることにより、全体の人件費増大を抑制したと考えられる」(みずほリポート賃金はなぜ上がらないのか)(2017年10月6日)

給与は上がらないのに、負担増

給与が上がらない上に管理職の業務量は年々増大している。産業能率大学の「第4回上場企業の課長に関する実態調査」(2018年1月)によると、3年前と比べて「業務量が増加している」と答えた人は58.9%と、2010年の調査以降徐々に増えている。

また、程度の差はあれ、職場のマネジメント以外にプレーヤーとしての役割が求められるプレイングマネジャーである人が99.2%もいる。しかもプレーヤーとしての業務がマネジメント業務に何らかの支障があると答えた人が約6割に上っている。

その他では「メンタル不調を訴える社員が増加している」「労働時間・場所に制約がある社員が増加している」「外国人社員が増加している」など7項目で過去の調査以来、最高になっている。

さらに課長の悩みでは「部下がなかなか育たない」が39.9%と最も多く、次いで「部下の人事評価が難しい」(31.9%)、「職場の業務量が多すぎる」(26.6%)となっている(複数回答)。その他では「求められる成果が出せていない」「部下が指示どおりに動かない」「目標のハードルが高すぎる」と答えた人が過去最高になっている。

出世を望まない管理職が増加傾向

グローバル競争の激化やビジネスモデル変革、加えて働き方改革の取り組みなど最前線の要である課長職に対する責任が増大している。調査結果を見る限り、会社の期待が大きすぎる一方、今の課長職が相当の負荷を抱えていることが分かる。

重圧に耐えきれなくなっている課長も多いだろう。それをうかがわせる調査結果も出ている。同調査では今以上の出世を望むかどうかも聞いている。それによると、「出世を望んでいない」課長が49.5%と約半数に上っている。その内訳は「プレーヤーの立場に戻る」が14.5%、「現在のポジション(課長)を維持する」が35.0%である。ちなみに部長クラスのポジションに就きたい人が36.0%、役員が10.2%、経営者(社長)が4.3%となっている。

しかも出世を望まない課長が2010年9月の第1回調査以降増えている。プレーヤーの立場に戻りたい人は第1回調査では9.6%であるが、2012年12月(第2回調査)は13.5%、2015年11月(第3回調査)は14.9%に上昇している。また、現在のポジション(課長)を維持したい人も2010年以降徐々に増えている。

仕事をこなすのにせいいっぱいの状況では、今以上の出世を望まない人が多いのも理解できるような気がする。

働き方改革のしわ寄せが管理職に

調査では「業務量が増加している」「労働時間・場所に制約がある社員が増加している」との回答が以前より増えているが、近年の働き方改革のしわ寄せも影響している。大手通信会社の人事課長は管理職の働き方についてこう語る。

「非管理職は労働時間把握が法的に義務化されており、労働基準監督署からも違法残業がないかをチェックされますが、管理職に関してはまともに労働時間の把握すらされていません。ぶっちゃけて言うと、部下を残業させないようにして早く帰らせ、管理職がその分を背負って遅くまでやっている部署もあります。管理職がちゃんと休息がとれているのかどうかわからないし、無理して働いている人が多いと思います」

また、近年労働組合の要求でインターバル規制を導入したサービス業の人事担当者から、組合員である一般社員の休息時間を守るために管理職の残業が以前より増えているという話を聞いたことがある。

リクルートワークス研究所の「Works人材マネジメント調査2017基本報告書」(2018年1月29日)によると、非管理職の月平均残業時間は21.38時間であるのに対し、管理職は23.19時間。管理職がわずかに上回るが、驚いたのは管理職の残業時間を測定していない企業が40.1%も存在することだ。

管理職はいうまでもなく経営方針に基づく業績向上を促す現場の中核的リーダーである。その管理職の処遇が後退し、さらに働き方改革などの負荷の増大で心身が疲弊していっているとすれば、現場がうまく回っていくとは思えない。管理職が痛んでいる現状をこのまま放置すれば、チームワークなど職場運営に支障をきたし、いずれ経営にも悪影響を与えることになるだろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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