クラウドワークの光と影

クラウドワークは時間と場所を選ばず働けるため、近年注目されており同時に急増している。一方で待遇はどうだろうか。クラウドワークの現状について解説する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

急成長を見せるクラウドワークとは

インターネットのプラットフォームを通じて仕事を請け負うクラウドワークと呼ぶ新しい働き方に注目が集まっている。クラウドワーカーとは、インターネット上のマッチングサイトを通じて仕事を受注・納品するフリーランスのこと。

そのマッチングサイトの管理・運営を行っているのがクラウドソーシング事業者であり、いわゆるプラット・フォーマーと呼ばれる。こうしたビジネスモデルをプラットフォーム・エコノミーと称するが、ライドシェアで有名なウーバーもその1つだ。

クラウドワーカーは仕事の仲介・受発注を行うプラットフォームを通じて単発の仕事を受注するが、実際の発注者とは請負・委託契約を結ぶ。日本では2012年頃からクラウドソーシング利用が急増し、日本の市場規模は2011年の44億円から17年度に1350億円に達し、20年には2950億円に増加すると推計されている(矢野経済研究所)。

クラウドワークには政府も注目

2017年3月経産省の「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会」が報告書を出している。その中でクラウドワークなど雇用によらない働き方を「時間と場所を選ばない企業・働き手双方にとって有用な選択肢となる可能性がある」と指摘し、この働き方を選択肢として確立することの意義を訴えている。

安倍政権がまとめた働き方改革実現会議がまとめた「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)でも、多様な働き方の一つとしてクラウドソーシングが拡大し、雇用契約によらない働き方による仕事の機会が増加している点を指摘している。

クラウドワークの落とし穴?

だが、クラウドワークという働き方はそれほどバラ色の働き方ではない。実はその人数についても把握されていない。いわゆるフリーランス(副業・兼業を含む)の数は1119万人(ランサーズ「フリーランス実態調査2018年版」)と言われる一方、請負契約や業務委託契約などで働く個人請負就業者は100万人超という数字もある。クラウドワーカーに関する政府の実態調査も本格的に行われていない。

約8割が年収200万円未満

連合総合生活開発研究所(連合総研)の「『曖昧な雇用関係』の実態と課題に関する調査研究委員会報告書」(2017年12月)によると、まず驚くのは収入の低さである。2016年1年間の収入総額は200万円未満が79.3%。専業クラウドワーカーが87.1%、兼業が75.2%であり、専業の平均は62.4万円にすぎない。請負就業者についても調査しているが平均年収328.3万円であり、クラウドワーカーははるかに低い。

クラウドソーシング事業者の利用は「1社」が59.3%、「2社」が30.4%で1社の依存度が高い。クラウドソーシング事業者の役割については「仕事の管理・評価」が54.8%と最も多く、次いで「取引先に代わって報酬を支払う役割」(37.3%)、「具体的な仕事の方法や進め方の指示」(31.8%)、「取引先への代金回収の代行」(21.8%)であり、事業者が深く関わっていることがわかる。

また、事業者が手数料をいくらとっているか知らされているかについて「知らされている」が55.1%だが、「知らされていない」(23.7%)、「わからない」(21.3%)。お金の動きを知らない人も少なくない。

4割強がトラブル経験あり

トラブルの経験がある人は43.9%。トラブルの内容は「報酬の支払いの遅延」(14.1%)、「仕事内容の一方的な変更」(12.3%)、「報酬の不払い・過小払い」(12.0%)、「不当に低い報酬額の決定」(10.5%)、「開始前の一方的な仕事の取り消し」(10.5%)と続く。クラウドワーキングというクラウドソーサー(発注者)の顔が見えない中での受・発注に伴うトラブルが決して少なくないことがわかる。

またクラウドソーシング事業者と交渉できる報酬の内容については「報酬の支払方法」が交渉できるが46.1%、「報酬の支払期日」(43.7%)、「経費の負担」(42.7%)、「報酬額、報酬決定方法」(42.5%)となっており、半数以下にとどまっている。とくに専業クラウドワーカーは兼業に比べて「報酬の支払期日」「経費の負担」「報酬額、報酬決定方法」の3項目は3割以下であり、交渉が難しい実態が浮かび上がる。

クラウドワーカーの社会保障は現状ゼロ

クラウドワークが新しい働き方といっても、すでに過去にも個人請負型就業者のような「雇用」と「自営」の中間的な働き方の増加が指摘され、保護のあり方が検討されてきた。労働基準法上の労働者であれば社会保険や雇用保険、労災保険などの労働保険などの権利が保障される。

また、労働組合法上の労働者であれば憲法で保障された団結権、団体交渉権、団体行動権が保障されるが、クラウドワーカーにはそんな保障は一つもない。

厚労省では有識者による「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催し、今年3月に報告書を出したが、クラウドワーカーの保護については、結論から言えば先送りされた。

クラウドワーカーの勝者と敗者をつくらないために

クラウドワークに詳しい専門家は何より実態調査を急ぐべきだと指摘する。

「雇用によらない働き方がトレンディな働き方だと言われることに非常に違和感がある。個人請負など自営的働き方は雇用ではないがゆえの弱さを持つ。そういう働き方で稼げる人がいる一方、稼げない人もいる。つまり格差があるという大事な事実が消えているのが一番の疑問だ。クラウドワーカーに関するこれまでの調査で最も欠けているのが所得だ。本人が主たる生計維持者なのか、クラウドワークが主な仕事あるいは従の仕事なのか、生活実態を含めて国がきっちりと実態調査をすべきだろう」

従来のように明確な実態調査や保護策がないままにクラウドワーカーがこのまま増えていけば、勝者と敗者の格差拡大はもちろん、“クラウド・ワーキングプア”が大量に発生する可能性もある。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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