人材採用

不足するグローバル人材、新卒採用では需給に矛盾も

2011年度入社の大卒の採用環境は今年に比べて極めて厳しい状況に直面している。リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査(2011年卒)」によると、全国の民間企業の求人総数(計画)は昨年の72万5000人より14万3000人少ない58万2000人。これを学生の民間企業就職希望者数で除した求人倍率は1.28倍となった。それでも1倍を超えており、憂えるほどではないが、厳しかった前年の1.62倍よりも0.34ポイント低下している。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

大手企業の新卒採用は業績回復でも横ばい

すでに大手企業の大半は採用活動を終えているが、毎日コミュニケーションズ(マイコミ)が調査した7月末時点の大学・大学院生の内々定率は54.5%となっている。

昨年の同時期の調査では76.0%であったが、それよりも低くなっている。内定が出ていない学生は秋以降の採用に期待をつなげるしかないが、急速な円高と景気後退の懸念から門戸を閉じる企業も出てくる。

実際に大手企業の採用活動を取材していると、採用数は業界を問わず昨年に比べて横ばいないしは抑制している企業が多い。

たとえば昨年後半から景気回復基調にある化学業界大手でも、数百人規模を採用した09年度をピークに総じて減少し、11年度は100人を切る企業も少なくない。業績好調の携帯電話業界でも採用数は横ばいというところが多い。

新卒採用は抑制、新規ビジネスはキャリア採用で

今までは景気の浮き沈みで採用予定数の増減を繰り返してきたが、企業の近年の採用状況を踏まえると、たとえ景気が好転しても採用数が増える可能性は少ない。内需から外需へのシフトを鮮明にした大手製造業の人材調達先はすでに、国内を縮小し、海外での人材調達が進んでいる。国内で必要な新卒はそれこそグローバル本社にふさわしい人材に限られてくるだろう。

すでに新卒を抑制し、新規ビジネスに必要な人材は海外を含めたキャリア採用で補うという企業も出ている。日本の伝統的な“新卒一括大量採用”システムが実質的に綻び始めている。

一方では、少なくなる新卒採用に対して膨れあがる大学生という需給ギャップの問題が顕在化している。文部科学省の学校基本調査速報(8月5日)によると、今春卒業した大卒者の就職率は60.8%であり、前年度に比べて7.6ポイントも減少し、下げ幅は過去最大となった。

就職や大学院などへの進学もしなかった人は前年度比1万9000人増(28.3%)の約8万7000人もおり、卒業者の16.1%を占めている。

文科省と厚労省の共同調査による今年3月の就職内定率は91.8%であるが、これは就職内定者数を就職希望者数で除した数字にすぎない。しかし実際は就職したくても諦めている人、就職できずにしかたなく大学院に進学する人やフリーターになる人、あるいは就職のために留年する人も相当数存在する。

企業はグローバル人材の獲得を目指している

加えて、もう1つのギャップは選考する側が求める人材像と就職希望の学生との認識の違いの大きさである。大手企業の多くは大卒を総合職として採用し、将来の幹部候補と位置づけているが、正直言って企業が期待する総合職人材は限られている。

とくに最近ではグローバル人材要員として「海外で活躍できる素養を持った人材」の獲得を目指している企業も増えている。

大手化学メーカーの採用担当者も「当然新興国に赴任する機会が増える。環境変化が著しい海外でのビジネスへのストレス耐性や柔軟性などグローバルにやっていける素養を持っている人は望ましい」と指摘する。

しかし、こうした要件を満たす学生は少ない。というより求めるレベル観が大きく異なる学生が多いと嘆く採用担当者も少なくない。

大手電機メーカーの採用担当者は「漢字が書けない、文章が書けない、何を伝えたいのかわからないという漢字能力や表現能力がかなり低下している。一定レベル以上の大学の学生もそうであり、大学の違いに関係ない。とくに筆記試験では新聞を読んでいないことが歴然としている」と嘆く。

就職意識が欠如していると語るのはゲームメーカーの採用担当者。

「今の学生は就職活動に関する情報過多の中で、本当の意味での就職を考えているのか疑問だ。テクニックが先行し過ぎる嫌いがあり、本当にこの会社に入り、世の中の役に立ちたいのかという本音が面接でも見えてこない。我々も反省しなければならないが、大学でもテクニック的なキャリア教育ではなく、もっと職業意識の醸成に注力してほしい」と注文する。

需要を満たせない大学教育、「大卒」は必要か

大学生は毎年大量に輩出されるが、企業が求める総合職人材は逆に少なくなっているという需給構造の矛盾が起きている。求める側のハードルが高すぎるのに対し、その需要を満たせない大学および大学教育の問題は極めて深刻である。

従来の日本企業の採用スタイルは、いわゆる偏差値上位校や採用実績校を中心に一定の枠を設けた選考方式が主流だった。しかし、今日のように市場環境が変化し、ビジネスモデルの転換を迫られる環境においては、求められる人材要件も高度化・多様化してきている。

機械メーカーの採用担当者は「学生と接していると、チームワークで何かをやった経験が乏しく、皆で協力して何かを成し遂げたという達成感がない。中学、高校、大学と受験対策を含めてマニュアルに則ったやり方しかできない学生が多い。自由なフィールドが与えられている大学時代に本人がやりたいことをやり遂げられる環境を作ってほしい」と大学に苦言を呈する。

大学生の就職難に対して新卒の求人倍率は1を超えており、中小企業などを含めて選り好みをしなければミスマッチを解消できるという楽観論もある。しかし、中小企業は本当に「大卒」を求めているのだろうか。

本来は優秀な高校生でもいいのだが、仕方なく大卒を求めているのではないか。大学進学率が高まり、学力の質はともかく、結果的に卒業すれば大企業に入りたいと親と子は志向する。このミスマッチ現象は極めて根深く、構造的な問題だ。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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