社労士による労務管理解説

副業・兼業導入に向けた制度設計のポイント【前編】~副業・兼業を原則禁止している場合は、まず「許可制」で申請してもらい認めるか否か判断を~

田代 英治 KKM法律事務所パートナー社会保険労務士 株式会社田代コンサルティング 代表取締役
人事労務分野に強く、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。
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副業・兼業導入に向けた制度設計のポイント【前編】
~副業・兼業を原則禁止している場合は、まず「許可制」で申請してもらい認めるか否か判断を~

近年、副業・兼業を認めている企業も増加傾向にありますが、制度設計で二の足を踏み、なかなか導入まで踏み切れていない企業も多いのではないでしょうか。
本件では副業・兼業制度の導入にあたってのポイントや留意点について、KKM法律事務所パートナーで田代コンサルティング代表取締役の田代英治社会保険労務士に前編・後編として解説してもらいます。

副業・兼業制度の導入にあたって

なぜ今、副業・兼業が推進されているのか

政府が推進する「働き方改革」の実現に向けた施策のひとつである「副業・兼業」。2018年の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)の公表を契機に、徐々に副業・兼業を解禁する企業が増えており、今後さらにこの流れは拡大していくものと予想されます。

ガイドラインでは、「副業・兼業」のあり方の枠組みを示し、会社員の副業・兼業は原則自由なこと、企業側は社員が「企業秘密の保持」などの要件を満たしていれば、禁止や制限はできないことなどを定めました。

さらに、2022年7月の改定ガイドラインでは、副業・兼業を許容しているかどうか、許容の場合はその条件などについて、ホームページなどを通じて公表することが望ましいとしています。 このように、政府が副業・兼業を推進する理由は、主に労働者が適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を図ることを促進するためであり、副業・兼業を通じて成長分野への人材移動を促す狙いがあります。

副業・兼業のメリット・デメリット

副業・兼業が進む理由としては、上記のような政府の後押しだけでなく、企業やそこで働く社員にとってメリットがあることが背景にあります。一般に、企業が副業・兼業を解禁し、社員が副業・兼業を選択する場合のメリット・デメリットとして、以下のようなことが考えられます。

(1)企業のメリットとして期待できること
①社員の成長⇒会社の成長、業績向上につながる
・社員が自分のキャリアを考える良い機会となり、自ら主体的に自身の成長のために動き始めれば、結果として企業へのリターンも大きくなる。
・他社で得られた経験やスキルがプラスとなり、仕事の質が上がり、人材育成につながる。
・副業・兼業で得た新たな知識・スキルや人脈を活かすことで、新規事業開発や既存事業拡大につながる。

②社員のモチベーションやエンゲージメントの向上⇒人材確保・定着に好影響
・離職せずにやりたいことにチャレンジできるので、人材の定着率が向上する。
・副業・兼業を積極的に支援することで社員のモチベーションが高まれば、優秀な人材の流出防止につながる。
・副業・兼業を支援している企業が好意的なイメージを持たれ、人材確保にもつながる。

(2)企業のデメリットとして懸念されること
①副業・兼業をすることにより疲労が蓄積し、本業の業務に支障をきたすおそれがある。
②秘密情報が漏洩するリスクがある。
③本業を退職し、副業先に転職してしまう可能性がある。
④規程を策定する手間、イレギュラーな労務管理が必要な場合がある。

副業・兼業を促進する制度導入のポイント・留意点

副業・兼業のパターンの整理

副業・兼業については、図表1のように、「誰が主体か」という視点と「雇用形態」によって、4つのパターンに整理・区分できます。

(本業が雇用の)働き手が雇用で(A)、または雇用以外で(B)、副業・兼業をすることを容認するパターンだけでなく、企業が雇用で(C)、または雇用以外で(D)、副業・兼業者を受け入れるパターンもあります。 一口に「副業・兼業の促進」といっても、様々なパターンがあることを頭に入れて、制度導入を検討するとよいでしょう。

【図表1】副業・兼業の分類

(出所)日本経団連「副業・兼業の促進」を改訂

括弧内の数字は企業事例として掲載されている15社のA~Dの各パターン別の実施企業数
(1)、(2)いずれの場合も非雇用で副業・兼業を容認したり、受け入れたりする企業が多い。

社員の副業・兼業を容認する制度導入のポイントと留意点

まず、(本業の雇用の)社員が副業・兼業をすることを容認する制度の導入の際の留意点を解説します。

(1)副業・兼業の容認の方針と目的の明確化

社員の副業・兼業は、企業にとって上記のようなメリットが期待できる一方で、健康被害や情報漏洩のリスクなどのデメリットが懸念されます。

そこで、自社にとっての副業・兼業のメリットとデメリットを比較し、どちらが大きいかを現在だけでなく将来も見据えて、容認するか否かを検討します。その結果、副業・兼業を容認する方針とし、制度化する場合は、その目的を明確にしたうえで、メリットを最大限生かし、懸念されるデメリットを克服すべく検討を進めることが求められます。

(2)副業・兼業ルールの策定

現状において副業・兼業を原則禁止としている企業では、まず「許可制」とし、希望する社員に、その内容等を申請させ、認めるか否かを判断することから始める例が多いと思われます。
許可制の下で、副業・兼業の諾否を判断するため、以下のような(ガイドラインに記載事項の)情報を収集する必要があります。

①副業・兼業先の事業内容
②副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
③労働時間通算の対象となる否かの確認

また、検討にあたり、副業・兼業先に制限を設けるかどうかという点も重要です。特に、雇用契約での副業は労働時間の管理の煩雑さや労務リスクを考慮すると、あらかじめ非雇用の場合(図表1「B」のみ)に制限する例も多く見られます。

副業・兼業の解禁の目的が社員の成長やモチベーションの向上である場合、使用者の指揮命令によらず自律した働き方が可能となる業務委託契約のほうがふさわしいと考えられることも非雇用の場合に制限する理由となります。

(3)就業規則の改定

副業・兼業に関する就業規則の規定が必要になるケースでは、厚生労働省のモデル就業規則が参考になります。
このモデル就業規則では、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とし、副業・兼業の届け出や、副業・兼業を禁止または制限できる場合についても規定しています。ただし、モデル就業規則のまま規定するのではなく、自社の実態に合ったものにしなければならないので、労使で十分に検討する必要があります。

モデル就業規則
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
   2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
 ① 労務提供上の支障がある場合
 ② 企業秘密が漏洩する場合
 ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
 ④ 競業により、企業の利益を害する場合

労働者の副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが示されていることから、第1項において、労働者が副業・兼業できることを明示しています。

労働者の副業・兼業を認める場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩がないか、長時間労働を招くものとなっていないか等を確認するため、第2項において、労働者からの事前の届出(図表2のような様式を用意)により労働者の副業・兼業を把握することを規定しています。

(4)社内周知
社内で承認が得られたら、図表2のような社内通知書を作成し、公表します。あわせて、申請書の様式(図表3)を用意することが必要です。

【図表2】許可制の場合で、就業規則を改定せずに許可申請の手続きと書類を整備した事例

【図表3】申請書の様式例

後編では副業・兼業における労働時間管理や労災の適用、雇用保険・社会保険などの取り扱いについて解説します。

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