組織・人事

フリーランス新法で多様な働き方に対応 新制度の導入と運用時の留意点を解説

弁護士・社労士が労働法や人事実務の話題をやさしく解説

労働力不足による社員の雇用難や社会を取り巻く就業環境の変化により、近年フリーランスとしての新しい働き方が急速に拡大している。

今回はフリーランスの働き方について、KKM法律事務所パートナーで田代コンサルティング代表取締役の田代英治社会保険労務士に解説してもらいます。(文:田代英治社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

フリーランス等新しい働き方の実態と広がる背景

フリーランス人口は、内閣官房「フリーランス実態調査」(2020年2月~3月調査実施/2020年5月発表)によると462万人(本業214万人/副業248万人)となっています。

この調査でフリーランスとは以下の者が対象になります。
①自身で事業等を営んでいる
②従業員を雇用していない
③実店舗を持たない
④農林漁業従事者ではない
*法人の経営者を含む

民間統計では、「ランサーズ『新フリーランス実態調査2021~22年版』」を取り上げます。同調査によると、2021年10月調査時のフリーランス人口は約1577万人となり、調査を開始した2015年より640万人増加したと発表しています。

この調査では、フリーランスを以下の4つのタイプに分けて、実施しています。ランサーズ2020年2月調査との比較では、自由業系・自営業系の人口が特に増加しています。

【ランサーズ】新フリーランス実態調査2021‐2022年版

ランサーズ「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」

このようなフリーランスとしての新しい働き方が広がる背景として、以下のようなことが考えられます。

労働力不足による社員の雇用難

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」によると正社員の人手不足割合は51.4%となっています。業種別では、エンジニア人材の不足が目立つ「情報サービス」が74.0%で最も高く、「旅館・ホテル」(72.6%)が続いています(【図表①】参照)。

非正社員では30.5%が人手不足を感じており、業種別では「飲食店」が83.5%で最も高く、「旅館・ホテル」(68.1%)は正社員と同様に業種別で2番目に高い結果となっています。

このような状況下、人材不足には雇用契約だけを考えていては対応できず、業務委託契約によるフリーランスも含めた人材の活用が求められています。

【図表①】正社員の人手不足割合(上位10業種)(%)

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」

企業社会を取り巻く就業環境の変化

多様化する働き方や副業解禁

昨今、人々の働き方が多様化しています。自分のペースで(自律的に)仕事をしたいと考える人が増加し、時間や場所にとらわれずに働くことが珍しくなくなりました。また、副業の解禁が進んで、副業先で業務委託契約によりフリーランスとして働く人が増えています。

テレワークの普及

政府の働き方改革、コロナ禍の影響等により、テレワーク導入企業が増加し、オフィス以外でも働ける環境が整ってきたことで、正社員として雇用される以外の働き方を選択する人が増えています。

SNSやクラウドソーシング(「仕事を依頼したい企業」と「仕事を受けたい個人」をオンライン上でマッチングするWebサービス)の普及

副業支援サービスやツールの進化により、SNSやクラウドソーシングなどのインターネット経由でビジネスがしやすくなり、副業やフリーランスへのハードルが下がり、積極的にチャレンジしようとする人が増えています。

個人の意識や志向の変化

企業に勤務する「安定」よりも、自分らしく自由度の高い働き方を求める傾向がみられます。

内閣官房「フリーランス実態調査」によると、「フリーランスという働き方を選択した理由(複数回答)として、次の2つが上位にあがっています。

  • 自分の仕事のスタイルで働きたいため:6割
  • 働く時間や場所を自由とするため:4割

その他「収入を増やすため」「より自分の能力や資格を生かすため」が3割程度となっています。

パソコンとインターネット環境さえあれば、様々な仕事ができる今の時代、個人がフリーランスとして働くことへのハードルは年々下がりつつあるようです。

さらに、コロナ禍により、テレワークが一気に普及し、自宅で働く時間が増えたことを機に、自分の働き方について見直すようになったこともフリーランスの増加に影響していると考えられます。

フリーランス新法の制定

フリーランス新法制定の背景

日本では企業による雇用を前提に労働や雇用、社会保障に関する政策が発展してきました。そのため個人で働くフリーランスは、法人同士よりも取引上の不公平や不利益を被る機会が多いとされてきました。フリーランスに対する不当な契約や低い対価等の問題が議論され始めたのは2018年頃からです。

内閣官房による「フリーランス実態調査」(2020年5月)では、取引先とのトラブルの有無について、「トラブルを経験したことがある」との回答が37.7%を占めています。

トラブル経験者のうち、取引先からの書面の交付状況は、「受け取っていない」との回答が29.8%、「受け取っているが取引条件の明示が不十分である」との回答が33.3%となっており、取引先とのトラブル経験者のうち、6割以上が十分に取引条件を明示されていない状況であったことなどが明らかとなっています。

上記のとおり、フリーランス人口はコロナ禍を経て増加し、今後も増加が見込まれています。取引の適正化を実現するため、フリーランス新法により、フリーランスが安心して働くことができる就業環境の整備が急がれていました。

フリーランス新法の内容

フリーランス新法とは

フリーランスの取引を適正化し、安定した労働環境を整備するため、発注者に業務委託の遵守事項などを定める法律です。

2023年2月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」として閣議決定され、4月28日の参議院本会議で可決されました。この新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と定義し、保護対象の条件を明確化しました。

フリーランス新法は、2023年5月12日公布されました。施行日は公布から1年6か月以内とされています。フリーランスに発注する事業者は、施行日までに同法を遵守できるよう準備することが求められています。

フリーランス新法の目的

フリーランス新法の制定には、取引上、法人に対する立場の弱いフリーランスの労働環境を改善するとともに、多様な働き方に対応する目的があります。

そのためフリーランス新法では、フリーランスが受託した業務で安心して働けるための制約や、事業者が業務委託を行う際、フリーランスが不当に扱われないための遵守事項などが定められています。

フリーランス新法の対象者

フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と定義しています。特定受託事業者とは、物品の製造や、情報成果物の作成または役務の提供を指す「業務委託」をされる相手方であり、従業員を雇わない事業者をいいます。

一方、フリーランスに業務委託を行う側を「特定業務委託事業者」といいます。常時従業員を雇用している点で、フリーランスとの立場の違いが明確です。

法人でも個人事業主でも、継続的な雇用を行っている場合は、「特定業務委託事業者」とみなされます。ただ、人を雇っている場合でも、短期間の一時的な雇用であれば「特定受託事業者」にあたるとされています。

契約条件明示義務

事業者(フリーランスを含む)がフリーランスに業務委託をする際、契約の条件を書面またはメールで明示しなければなりません。

なお、明示すべき契約条件については、業務内容、報酬額、支払期日、受託委託者の名称、業務委託日、給付提供場所、給付の期日等が考えられますが、今後指針が整備され、明らかになる予定となっています。

中途解除・不更新の事前予告義務

事業者が、フリーランスに対して継続して業務委託をしている場合(継続的業務委託の場合)、その契約を解除・不更新する場合、原則として30日前までに予告しなければなりません。

ただし、あらかじめ即日契約解除となる条件を定めておくことは可能です。不法行為や契約違反などの禁止行為が事前に明示されており、合意がとれている場合はそれに従う必要があります。

また、予告日から「契約満了日」までの間にフリーランスから請求があった場合、原則として、遅滞なく契約解除・不更新の理由を開示しなければなりません。

報酬支払期限

事業者は、フリーランスに対し、役務等提供日から60日以内に報酬を支払わなければなりません。

たとえば、「月末締め/翌月末払い」とする場合は最大60日以内となるため問題ありませんが、「月末締め/翌々月15日払い」では最大75日の期間が開くため、フリーランス新法の遵守事項に抵触することになります。

募集の際の的確表示義務

事業者がクラウドソーシングサイトやSNS、広告などで不特定多数の者に業務委託先を募集する場合、正確かつ最新の募集情報としなければなりません。虚偽の内容や誤解を招く表示は禁止されています。

継続的業務委託をする場合の禁止行為

  • フリーランスの帰責理由なく給付の受領を拒否すること
  • フリーランスの帰責理由なく報酬を減額すること
  • フリーランスの帰責理由なく返品を行うこと
  • 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由なく自己の指定する物の購入または役務の利用を強制すること
  • フリーランスに経済上の利益を提供させ、その利益を不当に害すること
  • フリーランスの帰責理由なく給付内容を変更しまたはやり直させ、その利益を不に害すること

禁止事項の対象となる取引は「継続的業務委託」に限られますが、継続的業務委託の定義については現時点では明示されておらず、今後検討される予定です。

フリーランスの労働環境整備

フリーランスには組織との雇用関係がないため、現状、労働基準法などの法令が通常は適用されません。そこでフリーランスの労働環境整備もフリーランス新法の方向性のひとつとなっています。

たとえば、フリーランス側からの申し出に応じて出産や育児、介護と業務との両立に配慮すること、ハラスメント行為に対する相談対応など必要な体制の整備をすることなどです。

ただし、対象となるのは「継続的業務委託」のため、一度限りの契約などの場合は対象とはなりません。

フリーランス新法における罰則

フリーランスに業務を委託する事業者がフリーランス新法に違反すると、公正取引委員会ならびに中小企業庁長官または厚生労働大臣により、助言や指導、報告徴収・立入検査などが行われます(履行確保措置)。

また、命令違反および検査拒否などがあれば、50万円以下の罰金に処せられる可能性もあります。違反行為を行った行為者と法人の両方を罰する両罰規定も設けられています。

フリーランスとしての新しい働き方の導入と留意点

今後、特に「副業・兼業」「高齢者就業」において、フリーランスとしての働き方が広まっていくことが期待できます。企業がこれらの新制度を導入し、運用する際の留意点等を下記します。

副業・兼業

大手企業を中心に、兼業・副業を解禁する事例が増えてきていますが、雇用契約では労務管理上の課題が大きいため、実際の兼業・副業を解禁した事例では、業務委託契約のみ許可しているケースも少なくなく、今後、副業先で業務委託契約によりフリーランスとして働くケースは増えていくと考えられます。

自社の社員に副業・兼業を解禁する制度を導入する際には、図表②のようなステップで進めていきます。

【図表②】副業・兼業制度導入に向けた検討のステップ

①方針と目的の明確化

社員の副業・兼業は【図表③】のようなメリットが期待できる一方、長時間労働による健康被害や情報漏えいのリスクなどのデメリットが懸念されます。

自社が副業・兼業を容認する場合のメリットとデメリットを、現在だけでなく将来も見据えて比較し、制度導入の検討を行います。副業・兼業を容認する方針と打ち出し、制度化する場合は、目的を明確にしたうえで、メリットを最大限活かし、懸念されるデメリットを克服すべく検討を進めていきます。

【図表③】副業容認のメリット・デメリット

【メリット】
(ア)社員の成長→会社の成長、業績向上につながる

・社員が自分のキャリアを考える良い機会となり、自ら主体に自身の成長のために動き始めれば、結果として企業へのリターンも大きくなる。
・他社で得られた知識や経験により、仕事の質が上がり、人材育成につながり、中長期的にみて有益なものとなる。
・新たな知識・スキルや人脈を活かすことで、新規事業開発や既存事業拡大につながる。
(イ)社員のモチベーションやエンゲージメントの向上により人材確保・定着に好影響
・離職せずにやりたいことにチャレンジできるので、人材の定着率が向上する。
・副業を積極的に支援することで社員のモチベーションが高まれば、優秀な人材の流出防止につながる。
・副業を支援している企業は好意的なイメージをもたれ、人材確保につながる。
【デメリット】
・副業・兼業をすることによる疲労の蓄積で、本業の業務に支障を来たすおそれ
・機密情報の漏洩や競業による自社の利益への影響の懸念
・本業を退職し、副業先に転職してしまう可能性
・規定を策定する手間、イレギュラーな労務管理

②副業・兼業のルールの策定

副業・兼業を原則禁止としている企業では、希望する社員にその内容等を申請させ、認めるか否かを判断する「許可制」を採るのが現実的です。その際、許可するか否かを判断するために、以下のような情報を収集することが必要です。

(ア)副業・兼業先の事業内容
(イ)副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
(ウ)労働時間通算の対象となるか否かの確認

検討にあたり、副業・兼業先に制限を設けるかどうかという点も重要です。雇用契約での副業は、労働時間管理の煩雑さや労務リスクを考慮すると、あらかじめ非雇用の形態に制限して認める例も少なくありません。

また、副業・兼業の目的が、社員の成長やモチベーションの向上である場合、使用者の指示によらず自律した働き方が可能となる業務委託契約のほうがふさわしいと考えて、非雇用に制限する例も見受けられます。

③就業規則の改定

副業・兼業に関する就業規則の改定が必要になるケースでは、厚生労働省のモデル就業規則が参考になります。

モデル就業規則では、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とし、副業・兼業の届出や、副業・兼業を禁止または制限できる場合についても規定しています。

(副業・兼業)
第68 条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
 ① 労務提供上の支障がある場合
 ② 企業秘密が漏洩する場合
 ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
 ④ 競業により、企業の利益を害する場合
 ※ 労働者の副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であると示されていることから、モデル就業規則第68条1項において、労働者が副業・兼業できることを明示しています。労働者の副業・兼業を認める場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏えいがないか、長時間労働を招いていないか等を確認するため、同条2項において、労働者からの事前の届出により労働者の副業・兼業を把握することを規定している。

④社内周知

社内で承認が得られたら、社内通知書を作成し、公表します。あわせて、申請書の様式を用意することが必要です。

高齢者就業

改正高年齢者雇用安定法(令和3年4月1日施行)により、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳~70歳までの就業機会を確保するため、「高年齢者就業確保措置」を講ずる努力義務が新設されました。

この高年齢者就業確保措置には、雇用によらない「創業支援等措置」として、「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度」の導入も認められることになりました。65歳以上の高年齢者に業務委託契約による就業確保措置が努力義務化されたことで、高齢者就業でのフリーランスとしての働き方が増えることが見込まれています。

改正高年齢者雇用安定法に従い、創業等支援等措置として65歳から70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度」を導入する場合、【図表④】のステップで進めていくことになります。

【図表④】「65歳から70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度」導入のステップ

「計画」記載事項
⑴ 高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
⑵ 高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
⑶ 高年齢者に支払う金銭に関する事項
⑷ 契約を締結する頻度に関する事項
⑸ 契約に係る納品に関する事項
⑹ 契約の変更に関する事項
⑺ 契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)
⑻ 諸経費の取り扱いに関する事項
⑼ 安全および衛生に関する事項
⑽ 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
⑾ 社会貢献事業を実施する団体に関する事項
⑿ ⑴~⑾のほか、創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される事項

上記のステップで制度を導入しても、高齢者社員が有効に制度を活用できなければ画餅に終わってしまいます。そのようなことにならないように次のような対策が必要です。

高齢者社員の気づきの醸成

高齢者社員がフリーランスとしてやっていけるだけの能力や専門性だけでなく、自律・自立マインドをもっていなければ、業務委託契約により働くことは難しいと思われます。

定年間近になってから、このようなマインド・スキルの重要性に気づいて、準備不足を嘆くのではなく、早い段階(遅くとも50代前半)から準備が重要です。

会社として、本人に気づきを与える有効な手段としては、多面評価やキャリア教育・研修の導入などが考えられます。

キャリア自律の促進

キャリア自律とは、自らのキャリアビジョンを主体的に描き、変化の行動を自ら起こせるようになることをいいます。能力開発の方法を自ら考え、組織での役割を再構築するなどの主体性が求められています。

キャリア自律には、個人の主体的な取組みに加えて、会社の支援も必要です。例えば、全社員に対し、自らのライフキャリアについて早い段階(30代前半あたり)から考える機会を提供し、さらに40代、50代と定期的にセミナーを実施するなどして、社員の自律を支援することが考えられます。

副業・兼業者や高齢者等をフリーランスとして受け入れる場合の留意点

上記の制度を導入する大前提として業務委託契約に伴う法的な問題点をクリアしておく必要があります。

業務委託契約で働くことは,法人に雇われている従業員ではなく独立した個人事業主(フリーランス)として扱われるため、企業側は労働保険料や社会保険料の負担がなくなり、労働基準法等労働関連法規の規制から外れますので、金銭的にも法的にも負担が軽減することになります。

そのため、実は雇用しているのに、形式上は業務委託契約をしていると偽る「偽装請負」が問題となり、労使トラブルになることもあります。偽装請負は、法的義務を免れるために法を潜脱するものであり、形式ではなく実態で判断されるので、偽装と判断されれば違法と判断されます。

適法に委託するためのチェックすべきポイントとしては,相手が労働者ではなく、個人事業主として独立して業務執行していることが必要であり、契約書にも、指揮命令をしないこと,(時間ではなく)結果に対して報酬を支払うことなどを明記しておくことが必要です。

労働者と判断されるかどうか(労働者性の判断)は、当該個別事案における諸要素の総合考慮によって行われるものであるため、同じ職業であっても結論が分かれることがありえます。裁判例も当該個別事案における判断を示したものにすぎません。前提とする事実関係が異なれば,異なる結論になることもありえますので、「労働基準法研究会報告」の示す諸要素に関して、具体的な事情を十分に考慮して検討する必要があります。

【参考】労働者性の判断基準「労働基準法研究会報告(昭和60年12月)」
次の1・2を総合的に勘案することで,個別具体的に判断する。
1.使用従属性
⑴ 指揮監督下の労働であるかどうか
イ 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
具体的な仕事の依頼,業務従事の指示等に諾否の自由がある場合,指揮監督関係を否定する重要な要素になり,諾否の自由がない場合は,指揮監督関係を推認させる重要な要素になります。
ただし,一定の包括的な仕事を受託したという場合,その仕事の一部である個別具体的な仕事の依頼については,拒否する自由が制限される場合がありえます。このような場合,直ちに指揮監督関係が肯定されるわけではなく,契約内容等も勘案する必要があるとされています。
ロ 業務遂行上の指揮監督の有無
業務の内容及び遂行方法について具体的な指揮命令を受けていることは,指揮命令関係の基本的かつ重要な要素になります。しかし,指揮命令の程度が問題であり,通常注文者が行う程度の指示等にとどまる場合には,指揮監督を受けているとは言えないとされています。
業務委託や請負であっても,委託者や注文主から全く指示を受けないということはほぼないと思われますので,個々の事案ごとに,指示の内容・範囲や頻度などをよく検討する必要があります。
ハ 拘束性の有無
勤務場所および勤務時間が指定・管理されていることは,一般的には,指揮監督関係の基本的な要素となります。しかし,業務の性質上や安全確保の必要上等から必然的に勤務場所および勤務時間が指定される場合もあるため,業務の性質等によるものなのか,業務の遂行を指揮命令する必要によるものなのかを見極める必要があるとされています。
二 代替性の有無
本人に代わって,他の労働者が労務提供することが認められていたり,本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められていることは,指揮監督関係そのものに関する基本的な判断基準ではないが,指揮監督関係を否定する要素の一つとされています。
⑵ 報酬の労務対償性
報酬が時間給を基礎として計算される等労働の結果による較差が少ない,欠勤した場合には応分の報酬が控除され,いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給される等,報酬の性格が,使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合,「使用従属性」を補強するとされています。
2.労働者性の判断を補強する要素があるかどうか
⑴ 事業者性の有無
事業者性の有無に関する事情としては,機械,器具の負担関係(本人所有の者が著しく高価な場合は事業者性が強くなる),報酬の額(当該企業で同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合は,事業者への代金支払と評価しやすくなる),業務遂行上の損害に対する責任を負っているか,独自の商号の使用が認められているか等が考慮されます。
⑵ 専属性の程度
他社の業務に従事することが制度上制約され,また,時間的余裕がなく事実上困難である場合には,専属性が高く,経済的に当該企業に従属していると考えられ,労働者性を補強する要素の1つとなります。
また,固定給部分がある,業務の配分等により事実上固定給となっている,その額も生計費を維持しうる程度のものである等,報酬に生活保障的な要素が強いと認められる場合も,労働者性を補強する要素となります。
⑶ その他
以下のような点も労働者性を補強する要素となります。
①採用,委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること
②報酬について給与所得として源泉徴収を行っていること
③労働保険の適用対象としていること
④服務規律を適用していること
⑤退職金制度,福利厚生を適用していること

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田代英治(社労士)

田代コンサルティング代表/KKM法律事務所 社会保険労務士/人事労務分野に強く、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。(主な著書)『ホテルの労務管理&人材マネジメント実務資料集』(総合ユニコム、2018年7月)

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