組織・人事

コロナ禍を経てリモートワークはどのように変化したか これからの働き方の最適解は?

コロナ禍でリモートワークを導入する企業は一気に増え、社員の働き方は大きく変化した。そしてアフターコロナとなった今、リモートワークはどのように捉えられているのか。(文・溝上憲文編集委員)


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リモートか出社か、若手社員と幹部の意見の相違

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行後、原則出社とする企業も増えている。

埼玉の郊外から東京・神田の本社に通勤する30代の男性社員は「5類に移行してから全員出社に変わった。それまではリモートワークと出社を使い分けながら仕事をしていたし、リモートでも可能な仕事があるのに部長と役員の号令で全員出社になった。私を含めて若手社員の大半がリモートワークを望んでおり、会社の方針に不満を抱えている人も多い」と憤る。

出社を巡り、同じように若手社員と幹部の意見の相違に頭を悩ました企業も少なくない。

上場企業の建設関連会社は従来のルールの「週3日」推奨のリモートワークを「週2日」に変更。加えて出社かリモートかは部門やグループ会社の裁量に任せる方針に変えた。

従来のルールを存続させるのかについては社内で賛否の議論があったと人事担当者は語る。

「各部門の責任者や役員クラスにヒアリングしたところ、営業部門や現場の作業部門は『お客さんも出社し始めているのに、リモートか出社かと悠長なことを言っている場合ではない。完全出社に切り替えるべきだ』という意見が圧倒的に多かった。一方、デザイン部門や企画部門の幹部はリモートで仕事ができることもあり『少し減らすぐらいはいいかもしれないが、完全になくすのは反対だ』と言い、意見が真っ二つに分かれた」

「結果的に出社派とリモート維持派の間をとって全社の方針は週2日推奨とし、運用は部門の判断に任せることに決めた」

顧客が出社しているのにオンラインで対応するのはおかしいというのが営業部門の理屈だが「実はコロナの最中でも課長以上の責任者クラスは出社している人が多かった。管理職の中には『ずっと出社している身からすると、週3日リモートというのはよく理解できない』と本音を漏らす人もいた」(人事担当者)と語る。

営業はオンライン商談も可能だが、オンラインでは伝え方、伝わり方が難しいという声、あるいはお客さんと直接対面するのが営業の仕事という価値観にこだわる管理職もいたという。

現在はハイブリッド勤務が主流

一方で、原則リモートワークを堅持している企業も少なくない。

日本生産性本部の「第13回働く人の意識に関する調査」(調査時期は7月10~11日)によると、テレワークの実施率は前回の1月調査の16.8%から15.5%に減少しているが、従業員規模別では1001人以上では、22.7%、101~1000人は15.5%、100人以下では12.8%も存在する。

また、1週間の出勤日数ゼロのフルリモート勤務者の割合が25.1%から14.1%に減少し、出勤日数週1~2日の割合が増えている。リモートと出社を組み合わせるハイブリッド勤務が主流になっている。

リモートワークの3つのメリット

原則リモートワークを実施している企業に取材すると、コロナ禍で浸透したリモートワークのメリットを挙げるところも多い。

1番目は、デジタル機器の活用によるDXの加速と推進だ。

従業員1000人以上のIT企業の人事担当者は「オンライン会議が頻繁に行われ、オンラインツールやチャット等のコミュニケーションツールの活用、インターネットを介した動画・音声データの配信で使われるストリーミング等の活用も浸透した。また紙書類からデジタル文書への変換、取引先との契約、見積り、請求、支払いなどの電子化、社内稟議資料の電子化など、今まで進まなかったデジタル化が一気に促進された」と語る。

また、従業員3000人以上の人材サービス業の人事担当者も「コロナ前からペーパーレス化も含めてDX化を推進していたが、一層のスピード感を持って対応し、加速された」と語る。

2番目は通勤費やオフィス賃料などコスト削減効果も大きい。

IT企業の人事担当者は「リモートワークへの転換を機に通勤定期代支給から出社時の実費精算に切り替え、同時に出社率を前提にオフィス面積を縮小した。その結果、交通費・旅費等で年間約1億3000万円、オフィス賃料で約1億円を削減することができた。そのほか電気代やコピー代等の経費も減少した」と語る。

3番目のメリットとして各社が強調するのが人材の定着と優秀人材の採用だ。

自分のライフスタイルや家庭環境に合わせて働き方を選べるようになったことで、育児中の社員は通勤時間がなくなり、リモートワークとフレックスタイムを使って柔軟に仕事できるようになった。

通信系企業の人事担当者は「フレックスタイム導入以前は、短時間勤務を選び、保育園に迎えに行っていたが、その分、給与がカットされていた。フレックスと組み合わせるとカットされることもない。メリットを感じている人にとっては出社に切り替わると嫌だという話になる。そういう意味では元に戻ることはない」と語る。

前述の人材サービス業の人事担当者も「子育てしている女性社員は保育園の送迎や家のことに対応する時間がつくりやすくなったと喜んでいる。また、子どもが風邪を引いたり、突発的な事態が発生すると、欠勤や早退を余儀なくされる。リモートだと仕事に穴を空けずに柔軟に対応できるという声も多い」と語る。採用の効果も大きい。

同社は「フルリモート可」の契約社員を募集。その結果、地方在住の優秀な女性を多く採用できたと言う。「都市部で事務系ホワイトカラーの仕事をしていた女性が退職し、配偶者の転勤などの事情で地方に移住した女性も多い。地方では前職と同じ仕事が見つからなかったが、フルリモートで同じような仕事ができるということで多数の応募があった」。

また、前出の通信系企業は地方大学の優秀な学生を対象に「リモートワーク正社員」として採用する活動も実施している。

出社に戻すと退職・転職の恐れも

人事担当者は「新卒採用の面接では自由な働き方に惹かれました、と学生自身が言っている。中途採用も含めてリクルーティング上のPR効果は非常に大きい」と語る。地元を離れたくない優秀な学生を採用する手法としてもリモートワークは有効だ。大正大学地域構想研究所が地方圏に住む学生を対象に実施した「リモートワークに関する調査」(2022年)によると、「リモートワーク正社員としての採用に関心」は「非常に関心がある」が23.4%、「少し関心がある」が49.1%と大多数を占めている。その理由として「現居住地に住み続けたいと思うから」(35.4%)、「出身地に住みたいと思うから」(33.1%)という回答が多かった。

リモートワークから出社に戻すのは簡単だ。しかし日本生産性本部の調査では、勤務先のリモートワークが廃止・制限されたとき、リモートワーカーの16.4%、管理職の9.6%が「退職・転職を検討する」と回答している。

人材獲得競争に不利になるだけではなく、離職の引き金になる可能性もある。リモートワークのメリット・デメリットを検証し、自社に合ったハイブリッド勤務を模索していくべきではないだろうか。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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