2024年4月1日から、民間企業における障がい者法定雇用率が現行の2.3%から、2.5%へと引き上げられる予定です。障がい者法定雇用率制度の対象となる事業主の範囲が広がり、これまで以上に多くの現場で障がい者雇用を進めていくことになります。
今回は、障がい者法定雇用制度の対象企業の要件や、障がい者雇用率の算定方法について解説していきます。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)
「常用雇用労働者数40人以上」の企業が、障がい者法定雇用率制度の対象に
障がい者法定雇用率の引き上げが企業実務上与える影響といえば、やはり「対象企業の範囲拡大」でしょう。2.3%や2.5%の法定雇用率を示してもいまいちピンとこないかもしれませんが、対象企業の範囲の変化を従業員規模で具体的に考えてみれば、その影響の大きさが実感できると思います。
2023年度 常用雇用労働者数43.5人以上の企業(2.3%)
2024年度 常用雇用労働者数40人以上の企業(2.5%)
2026年度 常用雇用労働者数37.5人以上の企業(2.7%)
2026年度にも再び、障がい者法定雇用率引き上げが予定されていることを踏まえた対応を心がける必要があります。
対象企業の基準となる「常用雇用労働者」の考え方を正しく理解する
障がい者法定雇用率制度の対象企業に該当するか否かは、「常用雇用労働者」が基準となります。なお、ここでいう「常用雇用労働者」とは、雇用契約の形式如何を問わず、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者であって、以下①~④に該当する1年を超えて雇用される者(見込みを含む)を指します。
① 雇用期間の定めのない労働者
② 1年を超える雇用期間を定めて雇用されている者
③ 一定期間(1カ月、6カ月等)を定めて雇用される者であり、かつ、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者、または雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者(1年以下の期間を定めて雇用される場合であっても、更新の可能性がある限り該当する。)
④ 日々雇用される者であって、雇用契約が日々更新されている者であり、かつ、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者または雇入れの時から1年を越えて引き続き雇用されると見込まれる者
ただし、週所定労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働者に関しては、常用雇用労働者数の算定上、1人あたり「0.5人」カウントとなります。週所定労働時間20時間未満の労働者は、常用雇用労働者に算入しません。
「常用雇用労働者」算定の具体事例
文字だけでは分かりづらいため、全労働者数40人の会社の具体事例で考えてみましょう。労働者数だけみれば、「40人以上だから障がい者法定雇用率の対象となるのでは?」と思われるかもしれません。ところが、労働者各人の週所定労働時間に注目すると、「常用労働者」に該当する方はどの程度いるでしょうか。
全労働者数 40人
うち、週所定労働時間30時間以上 30人 → 30人カウント
週所定労働時間20時間以上30時間未満 6人 → 3人カウント(6 ×0.5)
週所定労働時間20時間未満 4人 → 0人カウント(算入せず)
全労働者数が40人であっても、障がい者雇用促進法上の常用雇用労働者数は「33人」です。よって、2024年度から障がい者法定雇用率制度の対象となる「40人以上」に該当しないことになります。
「出向中」「休業中」等の特殊なケースにおける労働者の考え方
なお、現在出向中である者や休業をしている者等、労働者数を算定する上で判断に迷われるケースも多々あるでしょう。このような場合の取扱いが愛知労働局のホームページで解説されていますので、ご一読ください。以下は、「出向中」「休業中」の労働者に関わる記述の引用です。
●「出向中」の労働者は、原則として、その者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける事業主の労働者として取り扱います。なお、当該必要な主たる賃金を受ける事業主についての判断が困難な場合は、雇用保険の取扱いを行っている事業主の労働者として取り扱って差し支えありません。
●「休業中」の労働者(育児休業等含む。)は、現実かつ具体的な労務の提供がなく、そのため給与の支払いを受けていない場合もありますが、事業主との労働契約関係は維持されているので、常用雇用労働者数に含まれます。
障がい者法定雇用率制度上の「障がい者」の定義とは?
障がい者法定雇用率制度への対応では、障がい者の雇入数だけでなく、どのような障がい者を雇い入れるかにも留意する必要があり、制度上の「障がい者」の定義を満たす労働者を雇用しなければなりません。
ひと口に「障がい者」といっても、状態や程度は様々です。また、障がい者を雇い入れたとしても、その労働者が所定の要件を満たす働き方をしなければ、法定雇用率制度上、雇入数に含まれない点に留意しましょう。
算定の基礎となるのは、障がい者手帳を所有する障がい者
障がい者雇用率制度では、身体障がい者手帳、療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています。
・身体障がい者:身体障がい者福祉法による「身体障がい者手帳」を所持している方
障がいの程度によって1~7級の等級に区分される
・知的障がい者:都道府県知事が発行する「療育手帳」を所持している方
障がいの程度によって「A最重度、重度」「B中度」、「C軽度」の3区分に分けられる
・精神障がい者:精神保健福祉法による「精神障がい者保険福祉手帳」を所持している方
障がいの程度によって1~3級の等級に区分される
「障がい者」の算定ルールを確認
障がい者法定雇用制度における「障がい者」の算定では、「労働時間数」や「障害の程度」が加味されます。
2023年度までは、図の通り、週30時間以上勤務の常時雇用労働者は1人、週20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5人としてカウントされます。ただし、身体障がい者と知的障がい者は重度の場合に、精神障がい者については所定の要件(上図の※印①②)を満たす場合に、本来「0.5人」とする短時間労働者であっても特例的に「1人」として算定します。
また、2024年度からは、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者及び重度知的障害者について、雇用率上、0.5カウントとして算定できるようになります。
参考:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
法定雇用率への対応と併せて、障がいのある労働者を迎え入れる体制の整備を
2024年度から引き上げとなる障がい者法定雇用率について、新たに障がい者雇用が義務付けられる企業範囲や、制度上の「障がい者」の定義について解説しました。
障がい者雇用に目を向ける上では、法定雇用率と併せて、職場における障がい者対応を正しく理解しておくことが不可欠です。とりわけ「雇用分野における障がい者への合理的配慮の提供」は、改正障がい者雇用促進法の施行により、すでに2016年4月より事業者の義務として定められています。
障がいのある労働者に対する差別禁止や合理的配慮については、以下の参考URLより確認いただけます。
参考:厚生労働省「改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」を策定しました」
丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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