組織・人事

転職者の増加が中途採用者の賃金構造に変化をもたらすか(前編)【ジョブ型雇用がもたらす職種別中途採用者の賃金変化】第3回

日本型雇用システムは、いわゆるメンバーシップ型雇用を導入していますが、メリットがありつつも中途採用の抑制や職能や成果と賃金の乖離などが問題となり見直しが叫ばれています。そこで近年では、職務内容と求めるスキルや条件を明確化して採用を行うジョブ型雇用への変革が注目されています。
本連載では、ジョブ型雇用が職種別中途採用者の賃金にどのような変化をもたらすかについて、日本生産性本部の東狐貴一主任経営コンサルタントに解説してもらいます。

前回の記事はこちら▼

専門的・技術的職業の年齢別・経験別賃金

人材が不足する情報通信や医療・福祉でさえも年功的な賃金体系

前回は、企業の未充足求人数が多い専門的・技術的職業の中で、特に未充足数が多い情報通信業と医療・福祉産業を取り上げた。

未充足数が多いということは、転職市場において売り手市場といえる。その結果として、賃金が個々人のスキルや即戦力に応じて決められていくことで、賃金カーブは年齢に相関しない形へと変容していくことが想定される。

しかし前回紹介したように、賃金センサスの職種別年齢階層別賃金の結果を見る限り、年齢に相関のある右肩上がりカーブとなっていることが分かった。

年齢階層別に転職前と転職後の賃金にどのくらい変動があったかを同じく医療・福祉産業と情報通信業について厚生労働省「令和4年雇用動向調査」データで見ると、図表1のようになる。

データは、各産業で、前職も現職も期間定めなしの常用雇用者として雇用されたケースである。前回の転職率で見たようにもっとも転職率の高い25~34歳で見てみることにする。

図表1 年齢階層別の賃金変動

(出典)厚生労働省「令和4年雇用動向調査」より筆者作成

医療・福祉では転職しても「賃金は変わらない」が多数を占める

図表1をみると分かるように、情報通信産業では、25~29歳と30~34歳いずれにおいても「1割以上3割未満増加」が約4割と最も多くなっている。一方、医療・福祉では25~29歳と30~34歳いずれにおいても「変わらない」が2割から3割程度占めており最も多くなっている。

情報通信業では25~29歳で、「3割以上減少」が9.7%と1割近くを占めていたが、30~34歳では0.0%となっている。逆に、医療・福祉では、「3割以上減少」が25~29歳では7.4%だったが、30~34歳では13.6%と2倍近く増えている。

注目すべきは、情報通信業と医療・福祉との賃金上昇の割合の差である。

情報通信業では25~29歳では60.0%、30~34歳では66.7%が入職前に比べて入職後賃金が上昇したと回答している。

それに比べて、医療・福祉では25~29歳、30~34歳いずれも「変わらない」が多数を占めており、入職前に比べて入職後に賃金が上昇したとの回答(「3割以上増加」、「1割以上3割未満増加」「1割未満増加」の合計)は、25~29歳で34.1%、30~34歳で31.4%とおおよそ3割強で情報通信業の約半分にとどまっている。

情報通信、医療・福祉共に経験年数と賃金に明確な相関関係

ここまで年齢と賃金の関係を見てきたが、「令和4年賃金構造基本統計調査」では経験年数と賃金についてもデータが開示されているので見ておきたい。

図表2は情報通信産業および医療・福祉の経験年数階層別の賃金である。

図表から分かるように、情報通信業ではシステムコンサル担当・設計者とソフトウエア作成者、その他の情報処理・通信技術者間で所定内給与差はあるものの、いずれもほぼ経験年数の長さと所定内給与の水準には相関が見られる。また、推定年収で見るとシステムコンサル担当・設計者とソフトウエア作成者、その他の情報処理・通信技術者間での所定内給与水準の差がかなり解消されて、むしろ経験年数との相関が明確になっていることが分かる。

医療・福祉ではこの傾向がさらに顕著で、看護師・診察放射線技師・臨床検査技師間で所定内給与も推定年収も、経験年数ごとの水準にはほぼ差がなく、経験年数と水準との間には明確な相関が見られる。

図表2 経験年数階層別賃金

(出典)厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より筆者作成

このように、専門的・技術的職業の未充足者数が多い業種においては、労働者の転職、労働移動に伴い、個々人のスキルや即戦力に応じた賃金相場が形成されると考えられる。しかし、政府統計データを見る限り所定内給与および推定年収がいずれも年齢・経験年数に伴い右肩上がりのカーブを形成しており、すなわちこうした産業における賃金制度が年功的色彩の強いものであることが伺われる。

情報通信業における給与制度・人事制度

企業が思うより、働いている個人の方が年功的な給与決定を感じている

実際に情報通信業では、どのくらい年功的賃金がとりいれられているのだろうか。こうしたテーマは関心やニーズが高いものの、なかなか調査はなされていないのが実態である。

そうした中で、経済産業省がIT関連産業の給与制度・人事制度について大規模に行った調査結果を以下紹介したい。

その調査は、経済産業省が平成29年8月21日に発表した「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」である(※1)。この報告書の冒頭に書かれているように「我が国におけるIT人材(※2)の給与水準のほか、給与水準を決定するうえで重要なIT関連企業の給与制度や人事評価制度等に関する実態及び課題を明らかにするため」にIT企業向けの調査のほか、IT人材5000人を対象とする大規模な個人向け調査を行ったものである。

(※1)調査は企業向け調査および個人向け調査の2種類を行っている。企業向け調査は2017年2月下旬~3月上旬にかけて実施。調査対象は、IT関連企業(情報サービス・ソフトウエア企業またはインターネット関連企業)1550社。回収率は368件(回収率23.7%)。個人向け調査は同じく2017年2月下旬実施。対象はIT関連企業に勤務する個人5000名となっている。

(※2)本調査でいうIT人材の定義は、「IT関連企業(情報サービス・ソフトウエア企業またはインターネット関連企業)に勤務し、日常の業務において、ITスキル・専門知識を用いている者をIT人材と定義」している。

本報告書にも記載されているように、「IT人材の具体的な給与水準に関する大規模な公的調査はあまり前例がなく、今回の調査では、IT人材の給与水準に関する実態が初めて明らかに」されている。

本調査では、IT関連企業においてIT人材の給与決定における年功の影響度を企業側と個人側に尋ねている。その結果は、図表3の通りである。左側の横棒グラフが企業向け調査結果、右側が個人向け調査結果となる。

左図と右図でそれぞれ横に対応するようになっており、例えば企業側がシステム関連コンサルティング業であれば、右側がシステム関連コンサルティングを行っている個人となっている。

給与決定における年功の影響度が高いほど、グラフで言えば左側の濃い青(企業側=「年功の影響度が非常に大きい」、個人側「年功序列である」)、および紫(企業側=「年功の影響度が大きい」、個人側=「年功序列がベースだが、能力は成果によってある程度違いがある」)の数値が高くなる。

図表3 自社の給与水準における年功の度合い

グラフを比較すると、企業側に比べて個人側の方が濃い青、紫の占める回答率が高くなっている。企業側で最も多い回答率となっているのは、グラフでは薄緑色に該当する「年功の影響度は小さい」で、ほとんどが過半数を占めている。

一方、個人側をみると企業側に該当する薄緑色の部分(「年功序列がベースだが、能力や成果による違いが大きい」)は約2割~3割近くを占めるにとどまっている。こうしてみると、企業が思っているよりも働いている個人の方が年功的な給与決定を感じていることがわかる。

IT産業での年功的賃金体系は人材獲得競争において競争力が劣る

情報IT関連産業は今後ますます第四次産業革命の中核として、成長を牽引する産業として世界的に期待されている。同時に、今後この分野では人材供給不足が大きな課題となってきて、世界的な人材獲得競争の厳しさが増すものと予想される。

そうした状況下において我が国のIT産業の賃金において年功的色彩が強いことは、人材獲得競争において競争力が劣ることを意味する。

次回最終回では、これからの専門職、特にIT人材の評価・処遇制度の在り方について考えていくことにする。

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東狐貴一

日本生産性本部 主任経営コンサルタント/1987年、日本生産性本部入職。労使関係白書、生産性統計など担当後、雇用システム研究センターにて、企業・大学・自治体等への人事処遇制度の構築、導入支援、評価者訓練・目標設定研修講師を約20年従事。また、「日本的人事制度の変容に関する調査」を1997年から2019年まで16回担当。2022年4月より日本生産性本部コンサルティング部専属コンサルタント。

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