組織・人事

転職者の増加が中途採用者の賃金構造に変化をもたらすか(後編)【ジョブ型雇用がもたらす職種別中途採用者の賃金変化】第4回(最終回)

日本型雇用システムは、いわゆるメンバーシップ型雇用を導入していますが、メリットがありつつも中途採用の抑制や職能や成果と賃金の乖離などが問題となり見直しが叫ばれています。そこで近年では、職務内容と求めるスキルや条件を明確化して採用を行うジョブ型雇用への変革が注目されています。
本連載では、ジョブ型雇用が職種別中途採用者の賃金にどのような変化をもたらすかについて、日本生産性本部の東狐貴一主任経営コンサルタントに解説してもらいます。

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IT人材の給与決定に何が影響するか

給与決定において年功の影響度が高い

前回まで、専門的職業、特に未充足者数が多い情報通信業と医療・福祉の従事者の賃金が年功的であることを各種データや調査結果から概括してきた。

労働市場における需給関係を考えると、売り手市場ならば労働者有利に働き賃金水準は年齢や経験年数に関わらず個別に決まっていくため、年齢や経験年数に相関のある右肩上がりの賃金カーブのピッチは弱まり、むしろフラットに近づくと思われる。

しかし、賃金センサスの職種別賃金や経産省調査の結果を見ると、給与決定において年功の影響度が高いことが分かった。 今回も引き続き、IT人材の給与決定において何が重視されているかを見ていきたい。

給与水準への年功の影響は、企業側と個人側で認識に大きな差

前回紹介した、経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査(平成27年2-3月実施)」(以下、経産省調査)を見ていきたい。

経産省調査では、IT人材の給与水準が決められる際にどのような要素がどの程度重要かを企業側と個人側に尋ねている。その結果は図表1の通りである。

【図表1】給与水準に影響を与える項目と影響度

経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査(平成27年2-3月実施)」

図表の左側は企業側、右側は個人側の回答結果となっている。縦軸に、給与水準に影響を与えると思われる項目が並べられている。回答は4択となっており、該当する影響度(個人調査では重視度)を選ぶという聞き方である。

濃い青が企業側=「(影響度が)非常に大きい」、個人側=「非常に重視されている」で、紫が企業側=「(影響度が)大きい」、個人側=「重視されている」、薄緑色が企業側=「(影響度)が小さい」、個人側=「あまり重視されていない」、灰色が企業側=「(影響度が)まったくない」、個人側=「まったく重視されていない」となっている。

図表を一見すると分かるように、企業側の回答では、年功(在籍年数・年齢等)と新製品・新事業等の企画力・発想力が薄緑色の占める割合が高いが、それ以外は濃い青或いは紫が占める割合が高い。

特に、年功(在籍年数・年齢等)では57.1%が「(影響度は)小さい」、12%が「まったくない」と回答しており、併せると回答企業の約7割は、給与水準への年功の影響は小さいか。あるいは全くないと回答している。

一方で、個人側の結果を見ると、これも図表から分かるように薄緑色或いは灰色の部分が企業側に比べるとかなり多く過半数或いは半数近くを占めている。 IT企業で働く個人から見ると、ほとんどの項目は「あまり重視されていない」か「まったく重視されていない」と感じられていることが分かる。

4択を加重平均して各項目を点数化(※1)し、横軸に企業側、縦軸に個人側の数値をプロットすると図表2のようになる。企業側の回答は右にプロットされるほど影響度が大きいことになり、個人側の回答は上にプロットされるほど重視されていると感じていることになる。

(※1)「非常に大きい」=4点、「大きい」=3点、「小さい」=2点、「まったくない」=1点として、回答率を乗じて各項目の点数を算出。個人側についても同様。

【図表2】

結果を見ると、企業側の回答は影響度にメリハリがついており、最も影響度が大きい項目から順に、
①コミュニケーション(マネジメント)能力
②成果
③ITスキルレベル
④これまでの経験
⑤先端分野の知識・スキル
⑥新製品・新事業等の企画力・発想力
⑦年功となっている。

一方、個人側の回答はあまりメリハリがついていない。最も重視されていると感じている項目は、企業側と同じくコミュニケーション(マネジメント)能力と成果となっているものの、それ以外の項目はほぼ同じスコアとなっている。

日本のIT人材の年収は、米国に比べ低水準かつ能力・成果を反映したメリハリ感の薄い設定

企業側と個人側の結果のギャップはどうして生まれるのであろうか。

経産省調査では、図表1で見た自社の賃金への年功の影響度の回答を用いて、「非常に大きい」・「大きい」と回答した企業を年功型、「小さい」と回答した企業を中間型、「まったくない」と回答した企業を能力・成果重視型として分類し、それぞれの企業群の年齢別給与水準を比較している。その結果は図表3のようになる。

【図表3】年功の影響度×年齢別の年収水準の推移

経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査(平成27年2-3月実施)」

3つの企業群ごとに、標準・最高・最低水準を出しているが、図表から分かるように、55歳時点で年功型は最低水準に対して最高水準の差が約1.4倍であるのに対して能力・成果型は約1.6倍とやや広くなっている。

能力・成果型は25・35歳時点では年功型や中間型に比べて高いものの、55歳での到達水準はそれほど差がない。また、標準モデルを見る限り、年功型も中間型、能力・成果重視型もほぼ同水準となっている。

経済産業省が行った経済産業省「IT人材に関する各国比較調査(平成28年6月)」では、日米のIT人材の年代別年収分布比較が行われている(図表4)。

【図表4】日米のIT人材の年代別年収分布比較

経済産業省「IT人材に関する各国比較調査(平成28年6月)」

この結果から分かるように、日米で各年代の平均値を見ると、米国がほとんど1000万円以上となっているのに対して日本は最高で754万円となっている。また、賃金分散(25%値~75%値)をみると、米国では20代を除くと、75%値は25%値のほぼ2倍強となっているのに対して、日本では50代を除くと2倍未満となっている。

つまり、日本のIT人材の年収は、米国に比べて水準が低く、なおかつ能力・成果を反映したメリハリ感が薄い設定になっていることが分かる。

能力・成果をどう評価するか

専門能力をいかに評価し処遇につなげるかが問題

日本のIT企業における年代別賃金格差が小さいことが、転職活動を通しても賃金があがらないことの大きな要因と考えられる。

経産省調査では、優秀な中途採用者に対して、同年齢の新卒入社人材との間で給与面での差をつけるかどうか(新卒入社人材の最高年収水準を超えて処遇することがあるか)尋ねている。 その結果は、図表5のようになる。

【図表5】優秀な中途採用人材の給与面での優遇の有無

経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査(平成27年2-3月実施)」

約6割の企業では、優秀な中途採用人材に対しては、同年齢の新卒入社人材の最高給与水準を超えて処遇することがあると回答しているものの、約35%の企業では同年齢の新卒入社人材の最高給与水準の範囲内に中途採用人材の処遇を抑えていることが分かる。

経産省調査で能力・成果を評価するうえでの課題を自由記入形式で尋ねたところ、能力や成果を評価するうえで、定量的・客観的な評価基準がつくれないことや成果そのものが定量的に測れない、必ずしも同じ条件の下での成果ではないので公平性・透明性や納得感のある評価が難しく不平等感が生まれる、あるいは、そもそも年功序列の文化から脱却できない、等の意見が寄せられている。

日本では多くの企業で専門職制度が導入されている。

いわゆる複線型管理ともいわれるが、管理職コースとは別に専門職コースを別途設定し、プレイヤーとしてスキルを発揮し成果実現に貢献することが求められるコースである。しかし、専門職制度を導入している多くの企業で、うまく機能していないといわれる。その要因の一つが、誰が専門職になるか、また、その人の専門能力をいかに評価して、処遇につなげるかという問題である。

結果として、多くの専門職制度では、管理職に相応しくない人材(マネジメント能力が低い人材)が専門職として処遇されることになっているケースが多い。この問題の、高度専門職の転職者の処遇の問題とは密接に関係している。 企業内での専門性を評価できないのに、外部人材の専門性を評価できるわけがないのである。

外部市場にも開かれた評価・処遇の仕組みを構築していくことが重要

では、どのようにすれば転職者も含めて高度専門職の能力・成果を評価・処遇できるだろうか。

図表6は旭化成エレクトロニクスの高度専門職制度の概要である。

【図表6】旭化成エレクトロニクスの高度専門職制度

同社では、高度専門職を「突出した専門性と実績を持ち、その分野で社内外のトップクラスの評価を得られる人材」と定義し、資格審査要件をライン系統とは別に厳しい条件で設定をしている。

それにより、外部人材もその要件に照らして採用され、部長・課長格の処遇が可能となる設計となっている。

また、NECでも保有資格に基づき社内審査(面接)と第三者評価(社外専門家評価)による資格審査を導入しており、認定有効期間3年を終了後、再認定が必要となるなど厳しい制度となっている。

旭化成やNECの事例から得られるヒントは、高度専門職の能力評価や資格認定を外部の視点も入れて整備していることや一旦認定しても認定有効期間を設けて期間終了後は再度認定を受けなくてはならないようにしているといった年功制が入りにくい仕組みを入れている点である。

前回も述べたように、世界的に高度専門職の人材獲得競争の厳しさは増してきている。

低水準賃金でメリハリもない処遇では、求める人材の採用や定着は難しくなり、どんどんと企業競争力は差がついてくるであろう。 旭化成やNEC事例のように、外部市場にも開かれた評価・処遇の仕組みを構築していくことで、転職者も含めた高度専門職の評価・処遇の在り方を変えていくことが求められているのである。

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東狐貴一

日本生産性本部 主任経営コンサルタント/1987年、日本生産性本部入職。労使関係白書、生産性統計など担当後、雇用システム研究センターにて、企業・大学・自治体等への人事処遇制度の構築、導入支援、評価者訓練・目標設定研修講師を約20年従事。また、「日本的人事制度の変容に関する調査」を1997年から2019年まで16回担当。2022年4月より日本生産性本部コンサルティング部専属コンサルタント。

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