人手不足が深刻な「情報通信」「医療・福祉」の中途採用の課題~能力評価の難しさと賃金決定の指標【ジョブ型雇用がもたらす職種別中途採用者の賃金変化】第2回

日本型雇用システムは、いわゆるメンバーシップ型雇用を導入していますが、メリットがありつつも中途採用の抑制や職能や成果と賃金の乖離などが問題となり見直しが叫ばれています。そこで近年では、職務内容と求めるスキルや条件を明確化して採用を行うジョブ型雇用への変革が注目されています。
本連載では、ジョブ型雇用が職種別中途採用者の賃金にどのような変化をもたらすかについて、日本生産性本部の東狐貴一主任経営コンサルタントに解説してもらいます。

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前回は、日本の労働市場において「高度専門能力活用型」人材ポートフォリオがいまだ明確に形成されていないのではないかということを指摘した。
今回は、そのことを特にホワイトカラー専門職種の「転職市場」状況と賃金動向を通して考えていきたい。

転職市場の動向-情報通信産業/医療・福祉従事者

転職者・転職率の状況

まず、日本における転職者数や転職率はどのように推移しているか、転職市場の状況を概括する。

総務省「労働力調査」では、転職者数および転職率を経年で調査している 。推計人口を新基準に切り替えた2012年からのデータを見ると、2012年では転職者数は286万人であったが、2022年には303万人と約17万人増加した(図表1)。

一方、これを転職者比率(※1)で見ると、2012年には4.6%だったが、2022年には4.5%とほとんど違いがない。

(※1)転職者比率(%)=転職者数÷就業者数×100

図表1 転職者数および転職率推移

総務省「労働力調査」より筆者作成

また、性別で転職率の推移を見ると、2012年に男性が3.9%、女性が5.4%であったが、徐々に増加傾向にあり2019年にはそれぞれ4.4%、6.4%と最も高くなっている(図表2)。

その後コロナ禍を経てやや下がるものの、2022年には男性が3.7%、女性が5.4%といずれも2012年時点とほぼ同水準にまでもどってきている。

年齢階級別では、男女とも若い世代(15~24歳、25~34歳)での転職率が高いことは共通しているが、35~44歳および45~54歳というミドル層では男性に比べて女性の転職率の方が上回っている。また、20~50歳代の転職率は2021年から2022年にかけてやや増加傾向に転じているように見える。

図表2 年齢階層別転職者比率推移

総務省「労働力調査」より筆者作成

一方で、企業側から見た求人の充足状況はどうだろうか。

厚生労働省「雇用動向調査」では未充足求人数をもとに欠員率(※2)を算出している。それによると、欠員率は2011年では0.9%だったが、2019年には2.7%と増加傾向にあり、新型コロナウイルスの影響があるものの2021年でも1.8%となっている。

(※2)常用労働者数に対する未充足求人数の割合をいい、次式により算出している。
欠員率=未充足求人数÷6月末日現在の常用労働者数×100(%)

経年で職業別未充足求人数の推移(パートタイム労働者を除く)を見ると、専門的・技術的職業従事者が他の職業従事者を圧倒的に引き離して高くなっており、2021年には約16万人となっている(図表3)。

図表3 職業別未充足求人数の推移

厚生労働省「雇用動向調査」より筆者作成

専門的・技術的職業従事者について産業別に未充足求人数を見ると、医療・福祉が約4万4000人と圧倒的に多くなっている(図表4)。

図表4 専門的・技術的職業従事者の未充足求人数

厚生労働省「雇用動向調査」より筆者作成

内訳は医療業が3万8000人、社会保険・社会福祉・介護事業が約6000人となっている。次いで、学術研究 専門・技術サービス(※3)が約2万3000人、情報通信業約1万7000人、卸・小売業が約1万5000人と続いている(いずれもパートタイム労働者を除く)。

(※3)総務省によると、本分類には次のようなサービスを提供する事業所が含まれる。
① 学術的研究,試験,開発研究などを行う事業所。 ② 法律,財務及び会計などに関する事務や相談,デザイン,文芸・芸術作品の創作,経 営戦略など専門的な知識サービスを提供する事業所。 ③ 依頼人のために,広告に係る総合的なサービスを提供する事業所。 ④ 獣医学的サービス,土木建築に関する設計や相談のサービス,商品検査,計量証明, 写真制作などの専門的な技術サービスを提供する事業所。

こうしてみると、日本の転職者数・転職率は2019年までは増加傾向にあったが、コロナ禍で一旦減少し、近年やや増加傾向に転じていること、職業別に見ると専門的・技術的職業で未充足数が多く、特に医療・福祉や学術研究、情報通信業といった分野で欠員が生じていることが分かる。

転職者採用の課題

以下では、未充足数が比較的多い情報通信業従事者について、同じく未充足数が多い医療・福祉従事者と比較しながら転職における課題を見てみたい。

厚生労働省「転職者実態調査(令和2年)」によると、転職者の採用にあたり重視した事項(複数回答)は、情報通信業では、「既存事業の拡大・強化」が73.8%と最も多くなっている(図表5)。

図表5 転職者の採用にあたり重視した事項

厚生労働省「転職者実態調査(令和2年)」より筆者作成

これに対して、医療・福祉では「人員構成の歪みの是正」が47.1%と最も多い。

この違いは、それぞれの産業の経営環境の変化の大きさ・速さの違いを反映した結果と見ることが出来る。情報通信業では経営環境の変化が速く、それに応じて事業拡大・開拓が求められ、医療・福祉では高齢化に伴う人員不足などの解消が転職者採用の目的となっているものと思われる。

次に、転職者採用時の問題(複数回答)を見ると、「必要な職種に応募してくる人が少ないこと」が情報通信業(60.4%)、医療・福祉(78.7%)といずれも最も多い(図表6)。次いで、「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」が情報通信業(45.6%)、医療・福祉(34.2%)といずれも高くなっている。

図表6 転職者採用時の問題

厚生労働省「転職者実態調査(令和2年)」より筆者作成

調査結果を見る限り未充足数が多い理由として、そもそも応募者が少ないことが要因と考えられるが、それに加えて能力評価の難しさが課題になっていることが分かる。

興味深いことに、転職者の処遇(賃金・役職等)を決定する時に何を考慮したか(複数回答)について見ると、医療・福祉では「免許・資格」が62.9%と高いのは当然のことながら、「これまでの経験・能力・知識」が情報通信業(81.0%)、医療・福祉(76.3%)といずれも最も多くなっていることである(図表7)。

図表7 転職者の処遇(賃金・役職等)決定時に考慮した要素

厚生労働省「転職者実態調査(令和2年)」より筆者作成

次いで、「年齢」、「前職の賃金」と続くが、この結果から伺われるのは、採用後にどんな役割が担えるか、あるいは担ってほしい役割を遂行できるかという判断ではなく、年齢や経験から類推される潜在的な保有能力を採用の判断材料としているものと考えられる。

情報通信業ならびに医療・福祉に従事している代表的な職種の年齢階級別賃金(推定年収※4)を厚生労働省「賃金構造基本統計調査」データをもとに算出すると図8のようになる。

(※4)賃金センサスで開示されている、“きまって支給する現金給与額(A)”と“年間賞与その他特別給与額(B)”を使用して、推定年収=A×12カ月+Bとして算出。

図表8 情報通信業、医療・福祉に従事している代表的な職種の年齢階級別賃金

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和4年)より作成

職種によって水準に差が見られるものの、いずれの職種も年齢とともにおおむね右肩上がりのカーブを形成していることが分かる。もし、職種別に賃金相場が形成されているのであれば、年齢に対して賃金カーブはフラットになるはずである。

特に、採用充足率が低い職種であれば、労働力需給関係では売り手市場になり、賃金と年齢には明確な相関が見られなくなるはずである。では、なぜこのような結果となるのだろうか。

考えられるのは、先ほどの転職採用時の課題にあるように、採用時には採用後どのくらい能力を発揮し貢献するかは不明であること、そのために前職での賃金や市場相場といった指標は考慮するものの、企業内部労働市場に適用される等級制度やそれに紐づく賃金体系に組み込むことがリスク回避と判断されているのではないかということである。

これにより、専門職として採用したが、採用後期待するほどの能力発揮や成果貢献がなくとも、他の正社員と同じ賃金体系や賃金水準であれば、退職勧奨や解雇ではなく企業内での職種転換や配置転換での対応が容易になるからである。

次回も、引き続き情報通信業を中心とした賃金の動向を見ていきたい。

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東狐貴一

日本生産性本部 主任経営コンサルタント/1987年、日本生産性本部入職。労使関係白書、生産性統計など担当後、雇用システム研究センターにて、企業・大学・自治体等への人事処遇制度の構築、導入支援、評価者訓練・目標設定研修講師を約20年従事。また、「日本的人事制度の変容に関する調査」を1997年から2019年まで16回担当。2022年4月より日本生産性本部コンサルティング部専属コンサルタント。

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