早期選考の加速で内定辞退・早期離職が増加、厳しくなる新卒採用に人事担当者はどう対処するか

新卒採用において、人手不足を背景とした早期選考の加速が続いている。この傾向は内定辞退や早期離職の増加をもたらし、企業の人事担当者に新たな課題を突きつけている。本記事では、2025年卒の採用状況、「オヤカク」と呼ばれる内定承諾への取り組み、そして入社後の早期離職問題に焦点を当て、変化する新卒採用における企業の対応策について解説していく。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

人手不足からくる早期選考が加速

10月1日、多くの企業で内定式が行われた。

リクルート就職みらい研究所の調査によると、10月1日に内定式を予定している大学生・大学院生は62.9%、2日以降は17.8%と、10月1日に集中することが分かる。

2025年卒は売り手市場の中での就活となり、例年になく早期選考、早期内定が続いた。9月1日現在の内定率は94.2%(リクルート調査)。昨年の同時点の24年卒の91.5%から2.7ポイント増、23年卒の90.8%から3.4ポイントも増えている。

政府の指針による6月1日の採用選考解禁日の内定率も82.4%と、23年卒より10ポイント近くも上回っていた。政府指針を無視した早期選考の背景には人手不足による焦りからくる早期の囲い込みある。

リクルートワークス研究所の「2025年新卒の採用見通し調査」(4306社)によると、採用数が「増える」から「減る」を引いた「採用DI」は10.8ポイント。昨年より若干縮小しているが、昨年が2011年以降の最高値で、今年はそれに次ぐ水準となっている。

増える「オヤカク」

採用増の背景には今年の採用充足率(内定数を採用予定数で割った数値)の低さと関係がある。昨年10月1日現在の充足率は74.7%と、2014年以降で最低となった。

こうした事情が早期選考、早期内定に拍車をかけたといえる。しかし、早期内定を出しても、複数の内定を持つ学生の内定辞退も当然、発生する。何とか防止しようと企業側も内定フォローに血道を上げた。

その一つが「オヤカク」の強化だ。6月1日の選考開始日に内定を出した学生全員を集めて“内々定式”を実施し、経営陣との懇親会を催す企業もある。目的は改めて入社の意思を確認するためだが、同時に「オヤカク」を行う企業もある。

オヤカクとは、保護者に対して子どもの内定を承諾してもらう行為だが、大きく①内定書承諾書に親のサインをもらう、②10月に内定式に親を招待する、③4月の入社式に親を招待する――の3つがある。内定辞退や入社後の早期離職を回避したいという企業の思いがある。

内々定の段階で親の承諾書の用紙を渡している建設業の人事担当者は「両親や親戚の人に言われて内定を辞退します、という学生が毎年一定数いる。中には最終の役員面接で『御社にぜひ入社したい』と宣言した学生が数日後、『母親に別の会社の内定先に入るよう泣かれました』と、言って内定を辞退してきた学生もいる。そのため内々定の段階でオヤカクをするように促しているが、会社側から親に確認することはしていない」と語る。

また、オヤカクを内定辞退や早期離職防止の有効な手段と考える小売業の人事担当者は「親族が参列する結婚式と同じような効果がある。簡単に離婚しにくくなるのと同様に退職もしにくくなる効果もある」と語る。

消費財メーカーの人事担当者も「学生によっては仕事の悩みを身近な親に相談することもあるだろう。内定時の確認や式典への参加を通じて親に会社のことを知ってもらうことも内定辞退や早期離職を避けるための一つの方法だと思っている」と語る。

内定式後も入社までは内定者フォロー必須

一方でオヤカクに冷めた見方もある。化学メーカーの人事担当者は「オヤカクをすること自体が新社会人としての自立を阻害してしまう可能性がある。複数の内定をもらうのが当たり前の時代であるが、内定を取得したら第一志望の企業に入社するのは昔も変わらない。どうすれば自社を選んでもらえるかを考えるのが人事部の役割ではないか。オヤカクという姑息な手段で内定辞退を避けようとするのは本質とずれているのではないか」と語る。

はたしてオヤカクの成果はあったのだろうか。

前出のリクルート就職みらい研究所の調査によると、9月1日時点の学生の内定保有企業数は1.05社、内定辞退企業数は1.59社だった。同調査では「内定を取得した学生の多くが1社に絞り、他企業の内定を辞退していると考えられる」としている。

内定辞退を受けた企業にとっては採用予定数を満たせず、追加募集に踏み切るところも出るだろう。内定式を実施しても、決して安心できる状況ではなく、追加募集に加えて、4月入社までの内定者フォローに頭を悩ます日々が続く。

内定辞退の次は早期離職

もう1つの難題は入社後の早期離職だ。

厚生労働省の調査によると、2020年入社の大卒の3年以内の離職率は32.3%。2021年入社組では2年目ですでに24.5%に達している。

早期離職の背景には近年の若者の仕事や働き方に対する価値観の変化もある。

たとえば産労総合研究所が発表した2024年度の新入社員は「セレクト上手な新NISAタイプ」と命名し、その特徴として「デジタルに慣れ親しんでいる一方で、対面コミュニケーションの経験に乏しく、『仲間』以外の世代との距離感に戸惑う面もある。また、タイパを重視し、唯一の正解を求める傾向が年々増している」と分析している。

タイパ重視で早くに転職も視野に

タイムパフォーマンス(時間対効果)に敏感な一方で、正解探しの傾向が強いというのはやっかいでもある。

文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の平野恵子所長は「人の言うことはよく聞く謙虚さや素直さを持ち、指示されることに慣れている世代」と語る。

その背景として大学時代をコロナ禍で過ごし、キャンパスに入れず、サークル活動やアルバイト経験も少なく、講義に出席しても席を空けて座るなど大学の厳しい管理下で過ごし、自由な大学生活を謳歌できなかったことを挙げる。平野氏は「指示されるのは当然と考えており、逆に指示してくれないと困るし、動けないのは当然という感覚を持っている」とも言う。

また、平野氏は転職することはアグレッシブな行為であり、そこまでアグレッシブな人たちは多くないと語るが「ただし、嫌なこと、自分には無理と思ったらファーストキャリアだし、辞めてもいいやという感覚はほぼ全員が持っているのではないか」と語る。

例えばデジタルに慣れており、在宅でのオンライン生活が長かったため「惰性的に対面で何かをやらせると、『これってわざわざ出社して対面でやる必要なくない』とか、『タイパ悪くない』と思ってしまう。最近の学生は『それって生産性低くない』とか言葉だけは社会人並みの言葉を使う。仕事の進め方や働き方のスタイルにギャップを感じたら転職を考えはじめる可能性はある」と指摘する。

その傾向は25年卒でも変わらないだろう。採用難に悩んでいる企業は中途採用を増やしているが、それでも新卒採用にこだわる企業も多い。現状の早期選考、早期内定が続く限り、人事担当者の悩みは尽きない。


溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。
溝上憲文 記事一覧


【関連記事】

▼人事専門誌「日本人材ニュース」はこちらでお読みいただけます

  • 執筆者
  • 記事一覧
溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

  1. 採用難と離職リスク上昇で処遇・転勤の見直し加速【人材獲得策の最新事情】 

  2. 【2024年11月1日施行】フリーランス新法で契約条件明示やハラスメント対応が義務化

  3. 早期選考の加速で内定辞退・早期離職が増加、厳しくなる新卒採用に人事担当者はどう対処するか

  4. 2024年度最低賃金が歴史的引き上げ、人材流出で人手不足倒産が増える可能性も

  5. 再雇用後の処遇と賃金問題、定年延長し働き続けるシニア世代の課題と取り組み

  6. 情報開示で明らかになった男女間賃金格差の理由【人的資本経営の実践と課題】

  7. 2024年春闘、大幅賃上げの裏に潜む格差~中小企業と中高年層の苦悩

  8. 新入社員の新育成法とは?上司に求められるのは「対話力」と「言語化力」

  9. “離職予備軍”も急増、転換迫られる採用戦略【内定辞退続出の新卒採用】

  10. 黒字企業がリストラを進める理由は? 雇用の流動化により政府お墨付きのリストラ増加か

PAGE TOP