【2024年11月1日施行】フリーランス新法で契約条件明示やハラスメント対応が義務化

フリーランスの保護を目的とした「フリーランス新法」が11月1日に施行された。フリーランスの活用が企業で広がる中、仕事を頼む担当者がトラブルに巻き込まれないために、新法の概要や発注者として守るべき義務などを解説する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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フリーランスからのトラブル相談は「報酬」が最多

フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、以下、新法)は、事業主にとって下請け法やハラスメントなどの労働法と同様の措置義務を課しており注意が必要だ。

新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と表現し、発注事業者を「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」と表現している。特定受託事業者とは、個人の場合は業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの、法人であれば1人の代表者以外に役員がおらず、かつ従業員を使用しないものと定義している。

フリーランス人口は462万人とされている(内閣官房日本経済再生総合事務局調査、2020年)。ただし、コロナ禍でのテレワークの浸透で増加したといわれており、さらに企業の副業解禁が広がり、発注事業者と業務委託契約を結ぶ副業フリーランスも増えているようだ。

新法制定の背景にはフリーランスの苦情・相談の増加もある。厚労省の委託事業として2020年11月に開始された弁護士が無料相談を行う「フリーランス・トラブル110番」を開設している。

実際の相談件数は2023年度8986件、24年4月から8月までに4593件と毎月平均900件で推移している。相談内容で最も多いのは「報酬の支払い」(30.8%)、続いて「契約条件の明示」(14.7%)、「受注者からの中途解除」(9.9%)、「発注者からの損害賠償」(8.8%)、「発注者からの中途解除・不更新」(8.3%亜)。こうした苦情や相談内容に対処しようというのが新法の目的でもある。

業務内容や報酬を明示し、買いたたきを禁止

新法の規定は大きく契約関係など取引の適正化に関する下請法と同様の規制による保護と、ハラスメントなど就業関係の整備に関する労働者の類似の保護の2つに分かれる。所管官庁は前者が公正取引委員会・中小企業庁、後者が厚労省・都道府県労働局となる。

取引適正化に関する最大のポイントは、①契約条件の明示義務(法3条)、②支払期日の設定と支払義務(4条)、③報酬減額等、買いたたきの禁止(5条)――の3つだ。発注者はフリーランスに業務委託した場合は直ちに契約条件を書面や電磁的方法で明示する義務を負う。これは下請法3条と同じ規制であるが、この義務は発注者がフリーランスであっても適用される。

明示義務には、フリーランスの給付の内容(業務・成果物の内容等)、報酬の額及び報酬の支払期日のほか、業務委託した日、フリーランスの給付・役務を受領する期日、給付を受領する場所、報酬をデジタル払い(報酬の資金移動業者の口座への支払)をする場合に必要な事項などが含まれる。明示事項は電磁的方法でも可能としており、書面以外のメールやチャット、SNSでもよいことになっている。

②支払期日の設定と支払義務については、フリーランスに業務委託した場合は、給付受領日・役務提供日から起算して60日以内に報酬を支払う義務がある。また、下請法にない規定として、フリーランスに再委託する場合、再委託であること、元委託支払期日などの一定の情報をフリーランスに明示したときは、元委託支払期日から起算して30日以内にフリーランスに報酬を支払う義務がある。

③報酬減額等、買いたたきの禁止については、下請法とほぼ同じ行為が禁止されている。具体的には①フリーランスの帰責事由のない給付受領拒絶(役務提供以外)、②フリーランスの帰責事由のない報酬減額、③フリーランスの帰責事由のない返品(役務提供以外)、④通常支払われる対価に比し、著しく低い報酬の額を不当に定めること(買いたたき)など7つの禁止事項がある。ただし、1カ月以上継続する業務委託に限り適用される(業務委託した日から業務委託に係る給付受領日・役務提供日まで1カ月以上)。

ハラスメント対応は従業員と同様の内容が求められる

2つ目の「労働者類似の保護」に関する規定では、①募集情報の的確な表示(12条)、②妊娠、出産、育児・介護に対する配慮(13条)、③ハラスメント行為に関する措置義務(14条)――などが盛り込まれている。これは通常の雇用労働者に適用される労働者保護規定を準用したものだ。

妊娠、出産、育児・介護については、フリーランスから申し出があれば、両立して業務に従事できるように配慮が求められる。例えば妊婦健診の受診のための時間を確保したり、就業時間を短縮したりすることや、育児・介護等の時間の確保のため、育児・介護等と両立可能な就業日、時間とするといったことが求められる。ただし、6カ月以上の継続的業務委託の場合は義務であるが、単発の取引や6カ月未満の業務委託は努力義務とされている。

ハラスメント行為に関しては、例えば「性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(法人の代表の場合は当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害することがないよう、その者からの相談に応じて適切に対応するための体制整備等の必要な措置を講じなければならない」とされている。こうした取るべき措置は現行のセクハラ・パワハラ・マタハラ指針が求める措置が適用される。

これらは単発・短期の一時的な業務委託に限らずすべての業務委託に適用される。また、発注者は申し出を理由に取引停止などの不利益な取り扱いをしてはいけない。

違反企業には刑事罰の可能性もある

フリーランスは新法の違反事実がある場合、行政機関に申告を行うことができる。取引適正化に関しては公正取引委員会と中小企業庁に申告する。雇用類似の保護の関しては厚労省本省と都道府県労働局に申告する。

行政機関は、発注者に助言指導、勧告を経て、勧告に従う命令を下すことができる。この命令に違反したときや虚偽報告・検査報告などがあったときは、50万円以下の罰金に処する刑事罰を科すことができる。刑事罰には両罰規定と呼ばれる規定があり、行為者の企業の現場責任者や人事担当役員、法人自体も責任を負う可能性もある。

事業者にとってはフリーランスとの契約関係が法に則って適切なのか、ハラスメントなどの相談体制が整備されているのか確認する必要がある。


溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。
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人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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