2025年の春闘は昨年を上回る賃上げとなっているが、大手企業でも企業間格差は拡大している。人材不足が続く流通業界では最大手のイオングループがパートの時給の7%超のアップを他社に先駆けて回答するなど非正規労働者への賃上げも広がっている。今後、賃上げ余力のない企業の人材確保はますます難しくなる。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部)

連合2次集計で賃上げ率5.40%、昨年上回る
今年の春闘は昨年に続き、大幅な賃上げで幕開けした。大手企業の集中回答日となった3月12日。労働組合の中央組織の連合の第1回回答集計(3月14日)では賃上げ率5.46%(加重平均)と、33年ぶりの賃上げとなった昨年を0.18ポイント上回った。
続く第2回集計(3月19日、1388組合)でも、昨年同時期を0.15ポイント上回る5.40%と高い賃上げ率を維持している。連合の芳野友子会長も「企業規模にかかわらず引き続き高水準を維持しており、新たなステージの定着に向けて着実に前進している」と評価している。
満額回答相次ぐも業界内でばらつき
昨年と同様に満額回答も相次いだ。自動車、電機、鉄鋼など製造業の5つの産業別労働組合で構成する金属労協の3月12日昼までに回答を引き出した50組合の定期昇給を含まないベースアップの平均は1万4566円だった。そのうち5割の組合が要求額以上の回答を得ている。
電機産業の産業別労働組合の電機連合は、主要12組合が「賃金改善分1万7000円以上」の統一要求を掲げていた。満額回答は12の企業のうち、日立製作所、NEC、富士通の3組合。三菱電機、安川電機1万5000円、東芝1万4000円、パナソニックホールディングスが1万3000円となり、昨年の11組合の満額回答に比べてばらついた。また鉄鋼大手では、日本製鉄が昨年は労組の要求額を5000円も超える3万5000円のベースアップを回答したが、今年は1万5000円の要求に1万2000円と回答した。
自動車メーカーでは、トヨタ自動車は平均引き上げ額を明らかにしていないが、労組の要求に5年連続の満額回答に応じたほか、マツダ、スズキなど5組合が満額回答。一方、日産自動車、ホンダ、三菱自動車などは要求を下回るなど明暗が分かれた。
<人材確保のために処遇や初任給を見直す企業が増加>
中小労組は6%以上を要求、連合2次集計は5%割れ
大手企業は要求を下回ったとはいっても物価を上回る賃上げを確保している。3年連続でマイナスが続く実質賃金をプラスに転じるには労働者の7割が働く中小企業の賃上げだ。
連合は大手と中小の賃上げ格差を是正するために今春闘では全体の5%以上に1%上乗せして「6%以上」の目標を掲げていた。実際に3月6日の発表した要求の平均は中小の労働組合は定期昇給を含めて6.57%と30年ぶりの高水準となった。
そして連合の第1回回答集計では300人未満の中小組合(351組合)の過重平均は1万4320円、賃上げ率は5.09%。昨年同時期の4.42%を0.67ポイント上回った。
続く第2回回答集計(724組合)の賃上げ率は4.92%と5%を割ったが、昨年同時期の4.50%を0.42ポイント上回っている。内訳は100人未満の中小組合が4.45%、100~300人未満が5.05%となっており、いずれも昨年同時期を上回っている。
中小企業の賃上げ交渉は4月から5月にかけて続くが、昨年の最終集計(7月)の4.45%を上回るかどうかが注目される。
一方、気になるのが全労連や中立組合など中小企業の労組などでつくる国民春闘共闘委員会が3月14日に発表した3月13日時点の第1回賃上げ集計結果(227組合)だ。賃上げ率は2.70%(加重平均)、金額にして7028円だった。昨年の同時期の2.52%を上回っているが、連合の4.92%とは大きな開きがある。もっとも国民春闘共闘委員会の昨年の最終集計は3.49%であり、今後どれだけ引き上げられるかが焦点になる。
<賃上げ格差は広がっている>
イオングループ、パート時給3年連続で7%超アップ
雇用労働者の約37%を占める非正規労働者の賃上げも昨年を上回る勢いだ。
流通最大手のイオンは同グループ労働組合連合会のうち、加盟するUAゼンセンの2月25日の発表によると、イオンリテールワーカーズユニオンほか4社が満額回答で妥結した。
リテールワーカーズユニオンは正社員総額1万7319円(5.34%)、パート時給総額81円(7.07%)の満額回答だった。まいばすけっと労働組合もパート時給88.1円(7.0%)、イオンディライト労働組合はパート時給95.4円(7%)、イオンディライトアカデミー労働組合のパート時給95円(7.06%)と満額回答となった。パートの時給は、3年連続で7%超えとなり、4社で約8万人が対象となる。
<非正規雇用の賃上げはどこまで進むか>
大幅賃上げで人材確保・定着につなげる
イオングループは同業他社に先駆けて回答することで、人材の確保・定着につなげたいとの意図があるようだ。イオングループで働くパートは全国で40万人に上る。UAゼンセンが3月19日に発表した短時間(パート)組合員の妥結状況によると、加重平均で73.8円、率にして6.37%の引き上げとなっている(115組合、約57万人)。前年同時期の70.3円(6.41%)を上回っている。
ただし、パート労働者の労働組合の組織率は8.4%にとどまる。非正規労働者の多くは労組のない企業に勤務し、労組があっても正社員組合から外れている人も多い。しかしイオンのような大手企業のパートの大幅な賃上げは、人材確保と定着の観点から労組のない企業にも影響を与えることになる。さらには今年の地域別最低賃金の引上げにも影響することになるだろう。
<人材を確保できず、倒産する企業が増加>
中小企業の3社に1社は5%以上の賃上げ予定
では今後本格化する中小企業の賃上げはどうなるのか。東京商工リサーチの「賃上げに関するアンケート調査」(2025年2月20日)によると、2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%と、調査を開始した2016年以降で最高を更新した。
賃上げを実施すると回答した2403社の企業に昨年度と比較してどの程度上げるのかを聞いている。引き上げ率を各パーセンテージ別に集計しているが、最も多かったのは「3%以上4%未満」の28.7%(692社)、「5%以上6%未満」が27.4%(659社)、「2%以上3%未満」が15.8%(381社)の順となっている。
中小企業2251社に限定しても、連合の目標である「5%以上」と回答した企業は36.16%を占めている。3社に1社が5%以上を予定している。「4%以上」は全体の47.66%と半数近くを占める。さらに「3%以上」のベースアップを実施予定の企業は42.9%を占めている。
この数字を見る限り、中小企業は少なくとも3%以上の賃上げ率を期待できそうだ。