グローバル人材とは?企業にとって必要な理由や獲得する方法を解説

少子高齢化による労働力不足や国外企業との競争が激化する中で、海外市場開拓の中核となるグローバル人材の確保は喫緊の課題となっている。本記事では、グローバル人材の定義から採用・育成の方法について解説する。(文:日本人材ニュース編集部

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グローバル人材とは?

グローバル人材とは、高い語学力やコミュニケーション能力を持ち、異文化間での相乗効果の創出や問題解決を行えるなど、国際社会の中で活躍できる人材を指す。

総務省は「日本人としてのアイデンティティを持ちながら、主体性・積極性、異文化理解の精神を備えた人材」と定義しており、単なる語学力に留まらない資質を重視している。(出所:総務省「グローバル人材育成の推進に関する政策評価 <評価結果に基づく勧告>」

また、文部科学省は「第2期教育振興基本計画」において、「グローバル人材の育成」を目標の一つとして掲げており、「産学官によるグローバル人材の育成のための戦略」ではグローバル人材を次のように定義している。

世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と 協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間

(文部科学省「産学官によるグローバル人材育成のための戦略」)

グローバル人材が企業にとって必要な3つの理由

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日本企業がグローバル人材を確保・育成することは、単なる選択肢ではなく経営戦略上の必須要件となっている。以下では、グローバル人材が企業にとって必要な3つの理由を解説する。

労働力人口の減少と人材獲得競争の激化

総務省によると、少子高齢化の進行によって日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,716万人をピークに減少していて、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれている。

また、優秀な人材には複数企業からオファーが集中するため内定辞退も相次ぐなど人材獲得競争は激化している。ロバート・ウォルターズ・ジャパンの磯井麻由氏(Legal, Human Resources & Support Director)は、こうした優秀なグローバル人材を獲得するには「求人企業は受諾に向けて自社の魅力をアピールすることが欠かせません。上司をはじめとするチームメンバーとのフィット感やどのような点を評価してくれているのかを知りたい候補者が増えていますので、通常の面接だけでなくチームメンバーとのカジュアル面談を行ったり、面接後の丁寧なフィードバックをお勧めしています」と話す。

海外市場進出の加速

経済産業省の海外事業活動基本調査によると、2022年度末の海外現地法人を有する日本企業の製造業の海外生産比率(国内全法人ベース)は27.1%(前年度比1.3%ポイント増)だったことが分かった。こうした海外売上比率の拡大に伴うグローバル化が今後もさらに加速する傾向にあり、グローバル人材の確保は喫緊の課題であるといえる。

グローバル競争環境における革新力の強化

世界知的所有権機関(WIPO)が発表する「グローバル・イノベーション・インデックス」において、日本は2024年には13位にランクインしているが、2008年の9位からは後退している。

先進国間の競争激化と新興国の台頭などによって日本企業の優位性は失われつつあるなか、破壊的イノベーションや業界を越えた競合に対応するには、グローバルでの多用な視点と革新力の強化が求められる。

グローバル人材に必要な3つのスキル・能力

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要素①:高度な言語力と異文化コミュニケーション能力
要素②:主体性・適応力・レジリエンス
要素③:異文化理解

グローバル化が加速する現代のビジネス環境において、企業の国際競争力を高めるためには特定の資質を持つ人材の確保が不可欠である。ここでは、グローバル人材に求められる3つの能力について解説する。

高度な言語力と異文化コミュニケーション能力

国際的な交渉や多国籍チームの管理において高度な言語力と異文化コミュニケーション能力は成果を大きく左右する。

主体性・適応力・レジリエンス

曖昧な状況下でも自律的に判断し、多様な価値観や変化に適応する能力で、海外展開や危機管理において特に重要となる。

異文化理解

異なる文化的背景やアイデンティティを持つ人材に対して適切な理解をする能力は、持続的な国際関係構築において不可欠な要素である。

これらの能力は語学研修や異文化コミュニケーション研修などで育成することが可能であるが、優れた育成実績を持つ人事コンサルティング会社をパートナーとして選ぶことは必要不可欠である。

日本人材ニュースでは、人材育成・組織開発を支援するサービスを提供している会社を対象に、①健全なコンサルティング方針、②高いコンサルティング能力、③コンプライアンスの順守という基準で人事関係者から推薦を受けて選定し、インタビューによって、グローバル人材の育成に強い人事コンサルティング会社&サービスの強み、仕組み、方針などを紹介している。

グローバル人材の採用戦略設計

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グローバル人材を効率的に採用するには、一貫性のある戦略的なアプローチが不可欠である。戦略なき採用活動は、高コスト・低効果という結果を招きやすいため、採用担当者が実践すべきニーズ分析から採用チャネル選定、年間計画の策定までの体系的手法を解説する。

自社のグローバル人材ニーズ分析手法

自社のグローバル人材ニーズを正確に把握することが採用成功の第一歩である。この分析には、定量的・定性的双方のアプローチが必要で、具体的には次のような手法が効果的である。

①経営戦略からの要件抽出
②事業部門へのインタビュー
③競合他社のグローバル人材活用状況のベンチマーク
④現有人材の能力マッピング

コストの比較(外部から人材を採用、自社内での育成)

外部からグローバル人材を採用する場合と、自社内でグローバル人材を育成する場合とでは、それぞれコストが異なる。

外部からグローバル人材を採用する場合、エージェント手数料などの直接コストに加え、組織文化に適応する時間的コストも考慮すべきである。一方で、自社内でグローバル人材を育成する場合は、研修コストなどに加え、育成期間中の機会損失コストなどが発生する。

ROI(投資収益率)計算において、外部からの採用は即効性が、自社内での育成は定着率の高さで優位性があるが、採用難易度の高いポジションにおいては両方のアプローチを併用することが効果的である。

採用チャネル別の特性と活用法

グローバル人材獲得には複数の採用チャネルを戦略的に組み合わせることが重要である。

採用チャネル主な特性メリット
人材紹介会社質の高い候補者を短期間で紹介即戦力となる人材の迅速な獲得
海外大学との産学連携若手人材の早期確保に有効将来有望な人材のパイプライン構築
SNSリクルーティング(LinkedIn等)コストパフォーマンスに優れる広範囲の候補者にリーチ可能
国際カンファレンスでのリクルーティング専門性の高い人材と直接対話可能特定分野のエキスパートとの接点構築

グローバル人材採用の年間スケジュール設計

グローバル人材採用には、国内採用とは異なる時間軸での計画立案が必要である。

特に新卒からグローバル人材としての活躍が見込まれる日本人留学生の選考について、海外留学生のための就職イベント「キャリアフォーラム」などを運営する株式会社キャリタスの松本あゆみ キャリタスリサーチは「国内学生と同じルートで選考を進めるのは、時差や学業との両立など大きな負荷がかかります。留学生が就職活動をしやすい時期に専用の応募ルートを設けることは、企業にとっても優秀な人材を確保するために重要と言えるでしょう。」と指摘する。

グローバル人材を育成する手順

グローバル人材の育成には体系的なプロセスの構築が不可欠である。効果的な育成プログラムの実行には、経営戦略と連動した明確な目標設定から段階的な能力開発、適切な人材配置までを一貫して管理する必要がある。

以下では、6つのステップに沿った計画的なアプローチを紹介する。

求めるグローバル人材の内容を明確化する

自社が必要とするグローバル人材の定義を経営戦略と紐づけて明確化することが第一段階である。業種・事業領域・海外拠点の状況に応じて、必要とされる能力要件は大きく異なる。

具体的には、グローバルに求められる能力人材要素(高度な言語力と異文化コミュニケーション能力/主体性・適応力・レジリエンス/異文化理解)について、自社独自の優先順位と評価基準を設定する。

対象となる人材を戦略的に選定する

育成対象者の選定は、現状分析と将来予測に基づく定量的アプローチで行う。

まず、必要なグローバル人材の総数を中期経営計画から算出し、現有人材とのギャップを特定する。選定基準としては、①語学適性検査スコア、②異文化適応性評価、③キャリア志向性、④過去の業績評価を複合的に判断することが効果的である。

例えば、日立製作所は日立グループ内外の最適な人材を早期に選抜・育成するグループ・グローバル共通のプログラム「グローバル・リーダーシップ・ディベロップメント」を2013年から実施しており、国内外の日立グループの重要な約40ポジションに就く候補として外国人を含めた約500人を選抜する。

500人は日立の会長、社長やカンパニーの社長が出席する「人財委員会」が育成計画を議論を行い、500人のうち高いポテンシャルを持つ140人を「Future50」として抜擢し、各事業分野での経営職や社外派遣によって経営のプロとしての経験を積ませている。

育成課題を明確にする

選定した人材の現状能力と目標レベルのギャップ分析を行い、育成課題を明確化する。

例えば、①専門知識・スキル、②語学力、③異文化理解・適応力、④リーダーシップの4領域でスキルマップを作成し、個人別の重点課題を特定したり、360度評価やアセスメントを活用して、本人の自己認識と周囲の評価のギャップも分析する。

実効性のある育成計画を策定する

育成計画は、課題の性質に応じた多様な手法を組み合わせて設計する必要がある。

語学力向上には集中研修と日常業務での活用機会の確保、異文化理解には海外派遣や多国籍チームでの業務経験、リーダーシップにはグローバルプロジェクトへの参画など、能力領域ごとに効果的な手法を選択する。

計画をする際には、明確な達成指標(KPI)と評価タイミングの設定、3年程度の中期視点と年次ごとの短期目標を組み合わせた階層的な構造に設計することが重要である。

PDCAサイクルで育成プロセスを最適化する

育成計画の実行段階では、定期的な進捗確認と計画修正のサイクルを確立することが不可欠である。

四半期ごとの達成度評価、半期ごとの詳細レビュー、年次での総合評価などの多層的なモニタリング体制を構築し、評価は定量指標(語学テストスコア、業務成果)と定性指標(上司・同僚評価、自己評価)を組み合わせて行うことが望ましい。

戦略的配置で育成効果を最大化する

育成プログラム完了後は、獲得したグローバル能力を最大限に活かせるポジションへの戦略的な配置が重要である。

配置先の選定には、①本人の強みの活用可能性、②今後の成長機会、③組織全体への波及効果の3点を考慮し、海外拠点への赴任だけでなく、国内でのグローバルチーム統括や本社と海外をつなぐブリッジ人材など、多様な活躍の場を想定することが望ましい。

持続的成長を支えるグローバル人材戦略

グローバル人材の確保と育成は、国内市場縮小と国際競争激化の中で企業の生存と成長を左右する重要課題である。前述の通り、高度な言語・異文化コミュニケーション能力、主体性・適応力・レジリエンス、そして文化的知性と日本的価値観の体現能力を備えた人材が現代のビジネスにおいて不可欠である。

人材獲得競争が激化する中、一過性の採用ではなく、中長期的視点で人材パイプラインを構築することが、グローバル市場での持続的競争力の源泉となる。

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