多様性を受け入れて人材獲得競争を勝ち抜く【外資系企業の採用最新事情】

外資系企業の採用

外資系企業を取り巻く採用環境が厳しさを増している。語学力と専門スキルを備える人材を必要とする日系企業と候補者が重なることが増え、さらにコロナ禍からの経済再開でインバウンドの回復に伴う人材需要が急拡大している。(文:日本人材ニュース編集部

インバウンドの回復に伴う人材需要が急拡大

外資系企業のコロナ禍からの業績の回復傾向が鮮明となっている。日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した「2022年度外資系企業ビジネス実態アンケート」によると、半数弱の外資系企業で日本市場での売上高が前年度比で増加した。

日本での将来的な事業について「強化・拡大」意向は56.1%(前回調査比3.5ポイント増) となり、新規拠点の設置や既存拠点の強化意向も前回調査から上昇し、拡大志向がみられる。

日本のビジネス環境の魅力は「市場の規模」がトップ。製造業は「顧客産業・関連産業の集積」、小売業は「洗練された消費者の存在」が特に多い。政府は2030年に対日直接投資残高80兆円、GDP比12%を目標に掲げており、外資系企業の受け入れ態勢を強化する方針だ。

日本への新規進出や事業拡大を目指す外資系企業からは経営幹部層の採用ニーズが出ている。人材紹介会社ボンド・アソシエイツの三村朋成社長は「日本に新たに進出するアジア大手企業(カントリーマネジャー、人事・財務責任者)、日本で30年以上活動する合弁企業(日本・アジア地域営業責任者)、欧州企業(PRマネジャー)、コンサルティング会社などの求人が継続的に入っています」と話す。

DX関連の求人が引き続き堅調なことに加え、訪日外国人数がコロナ禍前の8割程度の水準まで戻り、さらに中国が日本への団体旅行規制を解除したことによってインバウンドの回復に伴う人材需要も急拡大している。

人材サービス大手パーソルキャリアの中途採用調査によると、6月の求人数は前月比で104.0%に増加し、2019年1月以降で最高値となった。求人増加率が大きいのは「レジャー・外食」で、インバウンドを含めたさらなる外食需要の復活を見込み、事業拡大を行う企業が増えた影響と見られる。

バイリンガルの採用を支援する人材紹介会社エンワールド・ジャパンで営業を統括するクリス・コバヤシ氏は「人材紹介の手数料を引き上げてでも採用していたITやコンサルティング業界の動きは落ち着いていますが、コロナ後の経済再開を受けて店舗拡大を計画しているリテール企業やヘルスケア企業の求人が増えています」と説明する。

バイリンガルを必要とする日系企業と採用で競合

コロナ禍でのさまざまな規制が撤廃されて経済活動が再開したことで、企業の人材獲得競争は一層激化している。そうした中で外資系企業が特に求める語学力と専門スキルを備えた候補者は限られている上、グローバルビジネスを重要な成長戦略と位置付ける日系企業もバイリンガルの採用を強化しており、重要なポジションの採用では外資系企業に負けない給与水準を提示する企業と競合している。

「コロナ禍で撤退・縮小した外資系企業出身者、日本企業で海外駐在していた方が日本に戻る際に外資系企業を転職先として検討するなど、外資系企業にとって魅力的な候補者に出会える時期だと思いますが、ベンチャーキャピタルの投資先企業の経営幹部求人と候補者が重なりオファーが複数出るケースが増えているため、魅力的な条件の提示が欠かせなくなっています」(ボンド・アソシエイツ三村氏)

前出のジェトロの調査においても7割弱の外資系企業が採用活動を行っているが、人材を確保できているのは4割にとどまる。「ビジネスレベルで外国語が使える人材の確保が困難」「技術系で英語能力をもった人材が非常に少ない」「地方都市での人材確保が厳しい(特に若年層)」「外資系企業だからというわけでなく、国内企業と同じように若手人材確保がかつてより困難になっている」など、採用に苦しむ企業のコメントが見られる。

「語学力」と「専門スキル」を求める外資系企業の人材確保は困難

●「国内事業における人材雇用の状況」と「人材確保が困難な理由(複数回答)」

ジェトログラフ2022
(出所)日本貿易振興機構「2022年度外資系企業ビジネス実態アンケート調査結果概要」

国内の採用活動だけでは出会うことが難しい学生にアプローチ

多くの外資系企業は中途採用で人材を確保しているが、バイリンガルの学生に積極的にアプローチして人材獲得を目指す動きも出ている。

人材サービス会社ディスコが30年以上にわたって海外留学生のために開催している「キャリアフォーラム」は、コロナ禍でオンラインのみとなっていたが、対面型のイベントを昨年から再開している。オンラインや国内の採用活動だけでは出会うことが難しい学生との接点を求める企業が増え、11月に開催予定の「ボストンキャリアフォーラム」には昨年を上回る180社程度の参加が予定されている。

同社グローバル事業企画部の山﨑真司副部長は「当社のグローバル人材採用サービスを利用する外資系企業は、英語力が高い学生が必要なことはもちろんですが、自ら行動できるアクティブな人材を求めています。こうした人材を狙う日系企業も増え、採用競争は激しくなっています。コロナ禍でオンライン面談のみとなった結果、ミスマッチが生じていたり、学生に認知してもらえないという課題を持つ企業が増えています。そのため、対面で相互理解を深めたい、アピールしたいというニーズが戻り、11月のボストンキャリアフォーラムは昨年の146社を上回る参加が見込まれています。キャリアフォーラムで来年のインターン募集、バイリンガル人材のデータベースを活用したオンラインセミナーやスカウトなどで、早期から学生に接触を図る動きも活発です」と話す。

同社には企業、学生の双方からオンラインだけでは選択肢を広げたり、相互理解を深めたりすることが難しいという声が多く寄せられており、対面型のイベントに対する期待は高く、今年春にロンドンやロサンゼルスで開催されたキャリアフォーラムには、多くの海外留学生が来場している。

対面型の採用イベントに多くの海外留学生が来場

ボストンキャリアフォーラム
海外留学生のための採用イベント「ボストンキャリアフォーラム」の様子

人材獲得競争で優位性を発揮できている企業の特徴

バイリンガルを採用ターゲットとする日系企業も増える中、人材獲得競争において優位性を発揮できている外資系企業の特徴はどのようなところにあるのだろうか。

外資系人材紹介会社のロバート・ウォルターズ・ジャパンには、ED&I(Equity, Diversity, and Inclusion)に取り組む外資系企業から女性採用の相談が増えており、同社の磯井麻由Directorは、次のように解説する。

「柔軟な働き方ができるかが転職先を選ぶ際の重要なポイントで、転職を考えるきっかけも在宅勤務に制限があるからという声が圧倒的に多くなっています。職種や上司によって差はありますが、外資系企業は日系企業に比べて柔軟な働き方が進んでいる職場が多く、候補者との面接の際にも、働き方を具体的に紹介したり、候補者に合わせて面接スタイルや面接の担当者を変えるなどの工夫を積極的かつ戦略的に行っています」

また、仕事の成果によって評価してくれる企業に対して、若手や女性候補者は魅力を感じている。

「日系企業も欲しがる20~30代が外資系企業へ転職する理由の一つは、外資系企業では年齢に関係なくプロモーションできることです。また女性の候補者からは『日本企業だと女性だから優先的にマネジャーになったと周りから見られてしまう』という声を聞くこともあります。外資系企業は『マネジャーになるにはこれだけの結果を出してください』という点を明確にして、プロモーションが年齢や性別に左右されないようになっています」

そして、多様な人材を受け入れるサポートが充実している企業は採用が難しい職種の人材確保に成功している。

「生成AI関連サービスを日本で開発するニーズも加わり、ITエンジニアの採用が活発です。国内だけではエンジニアが全く足りませんので、外資系企業は海外からも積極的に採用しています。こうした企業は来日する外国人社員のビザ取得や生活サポートにも慣れており、日本語ができることを採用条件としている日本企業とは採用のスピード感が大きく異なります。多様性を受け入れ、誰でも働きやすい企業であることが、獲得競争が激しいITエンジニアの採用においても強みとなっています」

人材紹介会社への積極的な情報提供が必要

採用担当者の不足を課題とする企業は少なくないものの、採用の専門スキルを備えた人材を確保するのは簡単ではない。本国から採用コストの高さを指摘されてダイレクトソーシングに取り組む企業もあるが、コストを低減したい動機だけで取り組むと成果は上がらず採用担当者の負担が増えるだけだ。

エンワールド・ジャパンのコバヤシ氏は「日本では採用に利用できるソーシャルメディアが限られ利用者も少ないため、ダイレクトソーシングが難しい状況は今でも変わりません。特にアクティブに転職活動をしていない人に求人企業がスカウトメールを送っても無視されるケースが大半です。転職の際に自ら条件交渉することに抵抗を感じる人が多いことも人材紹介会社が利用される理由の一つです」と説明する。

そして、苦労して採用した人材が早期退職したり思うような成果を上げられないということを防ぐためには、人材紹介会社に対して、求人の背景、社風やキャリアパスなどを正確に伝えることに加えて、上司になる人のバックグラウンドなども積極的に情報提供することでミスマッチを避けることができる。

さらにコバヤシ氏は「リファレンスチェックで出てきた懸念や不明点を最終面接で確認し、入社後に活躍できる人材なのかを慎重に検証することは必須です」と強調する。

マネジメントの改善で優秀な人材の離職を防止

人材争奪戦が続いており、人材マーケットにおける候補者は枯渇している。また、優秀な人材には複数企業からオファーが集中するため内定辞退も相次いでいる。

ロバート・ウォルターズ・ジャパンの磯井氏は、「当社には多くのグローバル人材に登録いただいていますが、優秀な候補者にはオファーがたくさん出ますので、求人企業は受諾に向けて自社の魅力をアピールすることが欠かせません。上司をはじめとするチームメンバーとのフィット感やどのような点を評価してくれているのかを知りたい候補者が増えていますので、通常の面接だけでなくチームメンバーとのカジュアル面談を行ったり、面接後の丁寧なフィードバックをお勧めしています」と話す。

そして、持続的な事業成長に向けて人材を確保していくためには、採用を見直すだけでなく、職場環境、人事評価や能力開発の仕組みを整え、優秀な社員のエンゲージメントを高める必要がある。

「当社には『Two Stars and A Wish』という人事評価制度があります。上司と部下が面談の際に、2つの良い点と1つの改善してほしい点を互いに伝えるというものです。特に上司にとっては自身が部下からどう見られているのかを知る機会となり、マネジメントの改善に役立ちます。優秀な人材の離職防止に効果を上げており、顧客にも紹介し導入されている企業もあります」(磯井氏)

人材不足が慢性化している日本においては、もはやその場限りの取り組みだけでは自社が必要とする人材を確保できないことを理解している外資系企業が人材採用戦略の見直しに着手している。

専門家に聞く「外資系企業の採用課題と取り組み」

三村朋成 ボンド・アソシエイツ 代表取締役社長

ボンド・アソシエイツ 
三村朋成 代表取締役社長

IPO準備企業の経営幹部求人と候補者が重なることが増加

日本に新たに進出するアジア大手企業(カントリーマネジャー、人事·財務責任者)、日本で30年以上活動する合弁企業(日本·アジア地域営業責任者)、欧州企業(PRマネジャー)、コンサルティング会社などの求人が継続的に入っており、当社のような転職潜在層にもアプローチできる人材紹介会社への期待が高まっていると感じています。
コロナ禍で撤退·縮小した外資系企業出身者、日本企業の海外駐在赴任後の帰任者が外資系企業を転職先として検討するなど、外資系企業にとって魅力的な候補者に出会える時期だと思いますが、IPO準備企業の経営幹部求人と候補者が重なりオファーが複数出るケースが増えているため、魅力的な条件の提示が欠かせなくなっています。

クリス・コバヤシ エンワールド・ジャパン ジャパンセールス ヴァイスプレジデント

エンワールド・ジャパン 
クリス・コバヤシ ジャパンセールス ヴァイスプレジデント

人材育成やチェンジマネジメントができるマネジャーが求められる

マネジメントポジションのリプレイス案件で、「人材育成力」を採用条件とする外資系企業が見られます。即戦力の採用が難しいため、部下を育てながら仕事を進めていくことがマネジャーに求められているからです。また変革の推進が期待されており、面接ではチェンジマネジメントの経験が必ず確認されるようになっています。
バイリンガルの求職者はそれほど増えていないため、求人への応募が少ない場合は採用条件を柔軟に考える必要があります。当社が最近支援した営業職20人の採用では、異業種出身者にも対象を広げることでスピーディーに採用できました。必要なスキルを明確にすることで、異業種で挑戦したいと考えるようなモチベーションの高い人材の応募も喚起できます。

磯井麻由 ロバート・ウォルターズ・ジャパン Legal, Human Resources & Support Director

ロバート・ウォルターズ・ジャパン 
磯井麻由 Legal, Human Resources & Support Director

グローバルでED&Iに取り組む外資系企業が女性採用を強化

グローバルでED&Iに取り組んでいる外資系企業では、日本オフィスの女性比率が低いと本社からの評価に直結するため、女性採用の課題は切実です。ED&Iの制度は導入されているものの活躍している女性のロールモデルが少ない企業は少なくありません。そのため、人事部のヘッドアカウントを増やし、ED&Iを推進できる人材の採用を目指す大手外資系企業も見られます。従業員有志が行っているED&Iの活動をプロジェクトにまとめたり、関連制度を提案・実行できる人材が必要とされているためです。
当社はED&Iにいち早く取り組み、マネジメントポジションで活躍する女性も多くいます。そうした経験を、顧客企業の人材採用はもちろんのこと、マネジャーのトレーニングやフォロー施策の支援にも提供しています。

山﨑真司 ディスコ グローバル事業企画部 副部長

ディスコ 
山﨑真司 グローバル事業企画部 副部長

アクティブな人材を求める企業間の新卒採用競争は激しい

当社のグローバル採用サービスを利用する外資系企業は、英語力が高い学生が必要なことはもちろんですが、自ら行動できるアクティブな人材を求めています。こうした人材を狙う日系企業も増え、採用競争は激しくなっています。コロナ禍でオンライン面談のみとなった結果、ミスマッチが生じていたり、学生に認知してもらえないという課題を持つ企業が増えています。
そのため、対面で相互理解を深めたい、アピールしたいというニーズが戻り、11月の「ボストンキャリアフォーラム」は昨年の146社を上回る参加が見込まれています。キャリアフォーラムで来年のインターン募集、バイリンガル人材のデータベースを活用したオンラインセミナーやスカウトなどで、早期から学生に接触を図る動きも活発です。

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