企業が講じるべきハラスメント対策が、2026年中にも一層強化される。2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法及び男女雇用機会均等法には、顧客等からのハラスメント及び求職者等へのセクシュアルハラスメントに係る防止措置に取り組むことが事業主の義務として明記された。法改正のポイントを確認し、従業員への周知や社内体制の整備等、必要な対応等の準備について、丸山博美社会保険労務士に解説してもらう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)

カスハラ対策がいよいよ法制化! 事業主が講じるべき、雇用管理上必要な措置とは?
すでに自治体レベルのカスハラ防止条例が施行されているものの、違反時に罰則の適用はなく、いずれの都道府県においても現状はあくまで努力義務にとどまります。
この点、企業のカスハラ防止措置義務化を盛り込んだ改正労働施策総合推進法が、2026年中にも全国で施行となる予定です。「カスタマーハラスメント」の定義が法律において明確化されると共に、これを防止するための雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務とされます。
カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメントの定義として、改正法には以下の通り規定されています。
“職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(「顧客等」)の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(「顧客等言動」)により当該労働者の就業環境が害されること”
カスハラを考える上で特に問題となるのが、顧客等の言動が「社会通念上許容される範囲を超えたもの」に該当するかどうかです。このあたりの判断基準は、今後、指針等により具体的に示されることになっていますが(2025年9月18日現在)、現時点では、厚労省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルに準ずる内容となることが予想されています。
マニュアルに記載されている現場事例、具体的には拘束・居座り・長電話等の時間的拘束、暴言、脅迫、正当な理由のない過度な要求、つきまとい、従業員の氏名公開等のSNSへの投稿等について、カスハラ該当・非該当の判断基準が明らかにされる予定です。
参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
ところで、カスタマーハラスメントといえば、通常は「顧客」からの行為がイメージされます。しかしながら、改正条文には「顧客」と並んで「取引の相手方」「事業に関係を有する者」が記載されていることから、いわゆるBtoB(企業対企業)におけるハラスメントも想定されることが分かります。
2026年中にも義務化される、企業のカスタマーハラスメント対策の中身とは?
改正法施行によって事業主が講ずべき具体的な措置に関しても、カスハラの定義同様、今後、指針において示されることになっています。現段階では、労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメント防止措置と同様、以下のような取り組みが想定されています。
・基本方針の明確化と従業員への周知・啓発
・従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
・対応方法、手順の策定
・社内対応ルールについての従業員等への教育・研修
・事実関係の正確な確認と対応の方法
・従業員への配慮措置
・再発防止のための取り組み
前出の厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」で、これらの取り組みの具体的な内容を確認されておくと良いでしょう。
企業のセクシャルハラスメント対策、今後は「求職者等」も含めて幅広く対応を
男女雇用機会均等法は、セクシュアルハラスメント対策として、事業主が雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。
企業におけるセクシャルハラスメント対策の対象は、現状「労働者」とされていますが、2026年中にも「求職者等(就職活動中の学生やインターンシップ生等)」も広く対象とした対応が義務化されます。
3人に1人が「就活セクハラ」被害を受けている実態
厚生労働省の調査によると、2020年度からの3年間に大学などを卒業した人のうち、およそ3人に1人が就職活動中にセクハラ被害を受けたことが明らかになっています。以下、調査結果の概要を確認しましょう。
・2020~2022 年度卒業でインターンシップ中に就活等セクハラを一度以上受けたと回答した者の割合は 30.1%、インターンシップ以外の就職活動中に受けた者の割合は 31.9%であった。
・セクハラを受けた際の志望企業・団体の従業員規模については、インターンシップ中、インターンシップ以外の就職活動中ともに、「99 人以下」(それぞれ 37.7%、35.3%)の企業における割合が最も高く、業種としては、インターンシップ中、インターンシップ以外の就職活動中ともに、「製造業」(それぞれ 17.5%、17.0%)が最も多かった。
・2020~2022 年度卒業でインターンシップ中に就活等セクハラを一度以上受けたと回答した者について、男女別でみると、インターンシップ中にセクハラ経験したと回答した割合は男性の方が女性より高く(それぞれ 32.4%、27.5%)、インターンシップ以外の就職活動中のセクハラについても、男性の方が女性より経験した割合が高かった (それぞれ 34.3%、28.8%)。
・就活等セクハラの行為者としては、インターンシップ中のセクハラは、「インターンシップ先で知り合った従業員」(47.4%)が最も多く、また、インターンシップ以外の就職活動中のセクハラの行為者では、「大学の OB・OG訪問を通して知り合った従業員」(38.3%)が最も多かった。
出典:厚生労働省『 「職場のハラスメントに関する実態調査」の報告書を公表します_報告書概要 』
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001541313.pdf
企業に求められる就活ハラスメント、具体的な内容は?
就活ハラスメント防止のために事業主が講じるべき具体的な措置については、前述のカスタマーハラスメント防止措置同様、今後、指針において示されることになっています。
主な対応としては「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」として「面談等を行う際のルールをあらかじめ定めておくこと」等、「相談体制の整備・周知」「発生後の迅速かつ適切な対応」として「相談対応」「被害者への謝罪」等が想定されています。
就活ハラスメント防止措置義務化に際し、厚生労働省公開の企業事例集をぜひご一読ください。
参考:厚生労働省「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001065368.pdf
2026年中の改正法施行に向けて、社内体制の整備、就業規則改定への対応を始めましょう
今回解説した改正労働施策総合推進法及び改正男女雇用機会均等法は、企業規模を問わず全ての企業に適用されます。2026年以降のハラスメント対策強化を踏まえ、社内体制の整備や就業規則の改定を早期に進めていく必要があるでしょう。
カスハラや就活セクハラの防止に向けた具体的な取り組み等を示す指針の公表はまだ先となりますが、本文でもお伝えした通り、すでに厚生労働省や各自治体から参考になる資料が公表されています。
参考:厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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