組織・人事

物価高、初任給引き上げ、男女の賃金格差など、賃金にまつわる2022年人事のできごと

溝上憲文 人事ジャーナリスト

溝上 憲文 人事ジャーナリスト
新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)など。

2022年は良い意味でも悪い意味でも「賃金」が注目された年だった。物価高や初任給引き上げ、男女の賃金格差など、今回は賃金にまつわる2022年人事関連の話題について解説する。(文・溝上憲文編集委員)

物価高により実質賃金はマイナス

今春以降、すでに円安や資源高、ウクライナ戦争の影響などで物価高の兆しはあった。

今年の春闘の平均賃上げ率は連合の最終集計結果では2.07%(6004円)(7月5日発表)。3年ぶりに2%台になったものの、それを上回る勢いで物価が上がり続けた。10月の消費者物価は前年同月比3.6%上昇し、1982年の2月以来、40年8カ月ぶりの高い伸びとなった。

一方、賃金は厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、9月の賃金は27万5787円(現金給与総額)と前年比2.1%上昇しているが、物価等を加味した実質賃金はマイナス1.3%。今年の4月以降、6カ月連続で減少し続けた。賃金が物価上昇に追いつかないと、可処分所得が減少し、家計は苦しくなる。

インフレ手当を支給する企業も

物価高に対応するため「インフレ手当」を支給する企業も出てきた。三菱自動車が最大10万円の「特別支援金」を支給。オリコンも月1万円の「インフレ特別手当」の支給を発表。家電量販店のノジマも、「物価上昇応援手当」として月1万円の支給を始めた。

帝国データバンクが11月中旬に実施したアンケートによると、インフレ手当を「支給した」企業は6.6%、「予定」「検討中」と答えた企業を含めると、26.4%に上っている。インフレ手当が登場するのは、終戦直後の物価高騰期に労働組合が「飢餓突破資金」「越冬一時金」を要求し、経営側が「物価手当」や「インフレ手当」で答えて以来ではないか。

新卒初任給アップも目立つ

面接

賃金でも新卒初任給の相次ぐ引き上げも話題になった。

2月末にバンダイが22万4000円の初任給を4月から30%増の29万円に引き上げると発表。「獺祭」で有名な旭酒造が大卒初任給を9万円増の30万円に引き上げた。

4月の春闘でも初任給アップが目立った。大手電機メーカーの東芝、日立製作所、NECの労働組合が大卒初任給の2000円の引上げを要求したところ、3社は1万円の大幅増と満額以上を回答した。そのほかの企業でも、ダイキン工業が1万円増の23万5000円、大手ゼネコンでは大成建設が1万円増の25万円にアップしている。

11月8日にNTTもグループの主要会社の大卒初任給を、2023年4月より現行の21万9000円から14%アップの25万円に引き上げると発表した。また、採用時点で専門性が高いと判断した人材は24%アップの27万2000円以上にする。NTTの島田明社長はその理由について「ICT(情報通信技術)の分野は非常に競争が激しい。デジタル人材をしっかり確保しなければビジネスにならず、魅力ある会社にする」(『朝日新聞』2022年11月9日付朝刊)と述べている。

日本の大卒入社1年目の基本給は平均262万円と世界的に低い

実は日本の大卒初任給は諸外国に比べても低い。

ウイリス・タワーズワトソンが諸外国の大卒入社1年目の2019年の基本給(年額)を調査している(『日本経済新聞』2020年4月21日)。最も高いのはスイスの800万円超、続いてアメリカの632万円、ドイツの534万円。ノルウェーが400万円超、フランス、スウェーデンが400万円となっている。日本は韓国、シンガポールよりも低い262万円。

2019年の為替レートは110円前後で今ほどの円安ではない。世界的に低い初任給が結果的に、優秀な新卒人材が外資系企業に奪われるなど、人材獲得競争力も失われつつある。初任給引き上げはまさにそうした危機感の表れだ。

女性の活躍を後押しする政策で賃金格差是正となるか

賃金に関しては諸外国に比べて大きい男女の賃金格差も焦点になった。賃金格差の是正は、女性の活躍を阻む働き方と、人的資本経営の文脈からも注目を集めた。

改正女性活躍推進法が4月から中小企業に施行され、101人以上の事業主は行動計画の策定と女性活躍に関する情報公表が義務化された。また、この10月から改正育児・介護休業法により、育休とは別に子どもの出生後8週間以内に最大4週間の利用が可能な「産後パパ休暇」制度が始まった。

いずれも女性の活躍を後押しする政策だ。一方、政府は6月7日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」の中で「人的資本等の非財務情報の株式市場への情報開示と指針整備」が盛り込まれた。

1つ目は「本年内に、金融商品取引法上の有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針、これらを表現する指標や目標の記載を求める等、非財務情報の開示強化を進める」。

2つ目が「企業側が、モニタリングすべき関連指標の選定と目標設定、企業価値向上との関連付け等について具体的にどのように開示を進めていったらよいのか、参考となる人的資本可視化指針」の策定だ。

それに基づいて金融庁は、2023年3月期の有価証券報告書から人的資本情報についての開示を義務付けるため、11月7日、「企業内容等の開示に関する内閣府令」に関わる「有価証券報告書等」の記載事項についての改正案を公表した。開示義務の中に女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差が入った。また、7月には女性活躍推進法の省令改正により、労働者301人以上の企業は男女間賃金格差が開示必須義務となった。

日本の賃金は30年近く停滞し続けている。初任給の引き上げや、女性活躍の後押しによる女性の賃金増など一連の施策が功を奏するのか。その結果は2023年に明らかになるだろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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