労働力不足が深刻化する中で、従業員の生産性向上が喫緊の課題となっている。こうした環境下で人材サービス業の果たす役割は重要だ。昨年、インテリジェンスの新社長に就任した峯尾太郎氏に事業方針や課題などを聞いた。
インテリジェンス(現パーソルキャリア)
峯尾 太郎 代表取締役社長
1970年新潟県生まれ。中央大学理工学部卒。94年インテリジェンス入社。執行役員、常務執行役員を経て、2016年4月代表取締役社長、テンプホールディングス執行役員に就任。同年6月全国求人情報協会理事に就任。
インテリジェンスの今後の事業の方向性を教えてください。
インテリジェンスが属するテンプグループは、2016年7月に“パーソルグループ”として新たにスタートを切りました。同時に「人と組織の成長創造インフラへ」という新たなビジョンを掲げました。
今、個人の働くことに対する価値観が大きく変化しています。また企業においては競争環境がますます激化しています。そのような環境を踏まえて、当社は本質的に人と組織の成長が支援できる事業体に進化していきたいと考えています。
それを自他ともに認識できるようになるまでは10年、20年を要するかもしれませんが、実現に向けて努力し続けていくことは健全なことですし、とても取り組み甲斐あるビジョンです。
ビジョンを実現して行くために、どう事業を拡大していきますか。
事業拡大には、「既存事業の強化」と、「既存事業に“人と組織の成長創造”を練り込む」の2つの種類があります。労働力不足が拡大する中で「働き方改革」が注目されています。経営者の方からも「労働時間の縮減と生産性のバランスをどうとっていけば良いだろうか」という声が多く聞かれるようになってきました。
これまで以上により多くの人たちが活躍できる場を拡大するために私たちは、無期社員採用の支援だけではなく、「an」「LINEバイト」サービスのような有期社員採用、時短勤務などの制限前提での採用、シニア社員の活性化、リモートワークの導入支援などを提案しています。そのような提案をすることが、顧客の生産性向上に貢献できると考えています。
また、求職者の転職スタイルや求めるニーズは非常に多様化していますので、求められる種類・水準に適応した価値を提供していくことが重要になっています。例えば人材紹介に関して例を挙げましょう。求職者の視点に立つと、「しっかりキャリアカウンセリングしてほしい」というお客様もいらっしゃれば、「とにかく希望する求人だけ紹介してほしい」というお客様、「転職のプロセスで相談に乗り続けてほしい」というお客様もいらっしゃいます。
これまでのような職種別・業界別に専任担当を分けるだけといったような一元的なサービス提供のスタイルですと、求職者それぞれの多様化するニーズにフィットしないサービスになってしまう場合が出てきます。そこでサービスラインを多様化したり、プロセスの途中でサービスラインを変更したりすることによって、求職者ごとに最適な「関与度」を提供しています。
法人顧客、求職者が何を求めているかを一段、二段深く考えてフィット感あるサービス開発努力をし続けることが我々の価値だと自負しており、これをさらに進化させていきます。
今期も業績の拡大が見込まれる
2017年3月期セグメント別業績予想 売上高(億円)
「既存事業に“人と組織の成長創造”を練り込む」とはどのようなことですか。
例えば、昨年から企業の採用力強化を支援するために「DODA Recruiters(デューダ リクルーターズ)」 というダイレクト・ソーシングサービスを開始していますが、ただ単に求職者のデータベースを提供するだけでなく、法人顧客の採用力を強化いただくために、採用成功につながる講座(リクルーター・アカデミー)を年100回以上開催し、無料で参加いただける勉強会を実施しています。
実際にDODA Recruitersを活用して、母集団の選定や集め方、反応の高いスカウトアプローチの仕方など、使い方に慣れるまでは当社の社員が出向いてレクチャーするなど、サポートもしています。これは当社が持つ既存事業の強みに新しい付加価値を練り込むサービスの一例です。
また、企業のニーズとしては採用力を高めることと同時に、人材の維持力を高めるということが非常に大きくなっています。これまで離職率が低かった業態でも、退職者が増えてきて危機感が高まっている企業も増えています。 人材の維持力を高めるためには、社員が成長する場や健全な刺激を経験する場を与え続け、社員の働きがいを高めることが重要になります。
この領域においては、「エンプロイーエンゲージメントサービス」という、従業員の仕事・キャリアの悩みを経験豊富なキャリアカウンセラーがサポートし、またその傾向を組織強化に活かす離職防止サービスも開始しました。 その他では、当社がこれまで蓄積したマッチングの情報を生かした新たなサービス開発に取り組んでいます。例えば、求職者が「どのような求人情報にどう反応した」「どのような企業に応募し、結果はどうだった」といった情報を全て蓄積し、データ処理のエキスパート部門が分析しています。
そのアウトプットの一つとして、例えば15年7月に転職サービス「DODA」のWebサイト上にAIを搭載したレコメンデーション機能を盛り込みました。さらに、これらの膨大な情報を活用して求職者のキャリア向上につながる、具体的なサービスに発展させていきたいと考えています。
またこれとは別に、新たに“人と組織の成長を創造”というビジョンにダイレクトに貢献する新規サービスの開発も積極的にやっていきたいと思っています。長期的視点に立って、投資をしっかり実行していきます。
パーソルグループの中でインテリジェンスはどのような役割を果たしていきますか。
領域で言えば、派遣事業の中核企業はテンプスタッフ、リクルーティング事業はインテリジェンスが担っていきます。事業の整理統合も順調に進めており、昨年2月には事務派遣事業が統合し、17年1月にはエンジニア派遣事業が統合されてパーソルテクノロジースタッフが誕生しました。事業の統合によって、それぞれの事業体の強みが明確になり、より幅広いニーズへの対応が可能になっています。
ベネッセとの合弁会社ベネッセi-キャリアや、「LINEバイト」を手掛けるLINEとの合弁会社AUBEなど、外部との事業提携も進んでいます。これまで当社はいわゆる自前主義で、外部と提携しながら事業を進めていくことは多くありませんでした。経営として広範な知見やリソースを取り込ませていただくことで、お互いの成長や価値を高めていけるよう、企業規模や国内外企業問わず、連携に積極的に動いていこうと考えるようになっています。
オープンな姿勢を示していくことによって、面白い提案や企画も外部からもたくさん来るようになりました。
峯尾社長は人材業界で長いキャリアを持っていますが、今後、人材業界はどのような方向に進んでいくと考えていますか。
人材業界自体も変化していなかければなりません。過去数十年積み重ねてきたビジネスモデルが、これからも正解だとは限りません。もちろん、これまでの実績は評価に値するものだと思います。しかし、場面や状況によっては業界経験が少ない企業の方が、顧客ニーズをくみ取ったサービスを提供してくるケースが出てきていると感じます。
業界常識や過去の成功体験にとらわれずに、想像力を高めて顧客が求めているものをしっかりと追求し、それぞれ企業が何を強みとしていくのかを真剣に考え続けていかなければ顧客から選ばれなくなってしまうでしょう。
最後に、社内の組織づくりで取り組んでいることを教えてください。
私も今の役員陣も実行・完遂することに強いこだわりを持っていて、そのことが組織全体の強いエネルギーにもなっています。一方で、それが強すぎれば、社員からすると「組織で決められたことを推進する」という状況になってしまい、組織全体の活力を落としてしまいます。
人材サービス業は、ザ・ピープルビジネスであり、社員一人一人の主体性や成長意欲が沸き立つ場づくりが重要です。例えば、会議のやり方も情報伝達の場ではなく議論する場に変えるようにし始めました。 経営陣が方針を全て決めるのではなく、意志やテーマを現場に提示した上で、現場から具体的な方策まで考えてもらって提言してもらい、それを承認していくというプロセスに変更しているところです。
事業の肝である顧客接点を創出している社員一人一人が、事業全体を我が事と捉え変化・進化に影響を与えるようになるには時間がかかると思っていますが、長期視点で継続進化できる手応えを感じています。私自身、社長に就いて組織俯瞰力が上がったのか、改めて当社の社員の優秀さに気づかされましたし、同時に社員の能力を十分に生かしきれていなかったことを痛感しました。社員に成長の場を与え続けるために、常に進化していかなければならないと考えています。